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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第四章 新大陸探索編

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オッサンと名誉オッサン

 セシルはマルコと会っていた。

 カルロスの紹介とかはまったくない。

 いきなりマルコが滞在している館に押しかけたのだ。

 もちろんセシルは白塗り化粧に男装で護衛を引き連れてものものしくやって来た。

 クリスタルレイクは帝都よりも安全であるのを知っていながら。

 わざわざ形を整えることにこそ意味があるのだ。

 マルコの方も突然の来訪に驚くこともなく淡々と受け入れた。

 楽しく海賊をやっていたところを捕まって以来、貴族や王族のわがままを聞くのには慣れているのだ。

 マルコは自分でもバカバカしいと思うほど勲章や宝石で過剰に装飾された海軍制服を着てセシルを出迎える。

 なにも好きでやっている格好ではない。

 こういった田舎者丸出しの『わかっていない』格好をすると貴族たちは安心する。

 それだけでマルコが自分たちより劣っているとマウンティングできるのだ。

 マルコはそれをわかっていてやっている。

 一種の芸である。

 だからこそセシルを一目見たマルコは思った。


 同類がいると。


 セシルもまた同じだった。

 『わかっていない』服装こそが彼女を守る武器だった。

 セシルはやたら整った顔ゆえ道化のような服装やメイクでも『伊達男』と認識されていた。

 だからこそ、変な服装の『兄たちより劣った存在』であることをアピールできたのだ。

 本来ならセシルは派手なドレスが好きな女である。

 マルコも動きを制限されないラフな格好が好きな男である。

 そんな二人が合ったら親近感を抱かないはずがない。

 マルコは無言でそっと秘蔵の酒を出す。

 ノーマンから密輸したとっておきである。

 セシルも「ふっ……」と笑うと帝都から取り寄せた酒の中でタヌキの手から逃れた葡萄酒をテーブルに置いた。


「ふ、セシル殿下」


「呼び捨てで構わないよ。そうそう、その話を最初にしておかなければならないね」


 セシルは正体を知っているメイドを残して人払いをする。

 マルコも全員を人払いしようとするがセシルに「家族は残して」と言われてチェスを残す。

 何事かとマルコもチェスもキョロキョロとしているとセシルが服を脱ぎ出す。


「ちょっと! 女の子もいるんだからって……ほげ!!!」


 チェスの間抜けな悲鳴が響く中、肩パット入りの派手な服を脱ぐと中からは上品なドレスを着た女性が現れる。

 そしてメイドが白塗り化粧を落としていくと色っぽい女性が現れた。


「……なるほどなあ。三男っていうポジションを守る以外にも思惑があったな」


 マルコは納得するがチェスは固まっている。


「も、もしかして、兄貴の結婚相手って」


「あははははは。この第三皇子セシルだよ」


 チェスは口を開けたままフリーズし、マルコはゲラゲラと笑う。


「ガハハハハは! チェスよ! やっぱカルロスの野郎が一番俺に似てるじゃねえか!!! 野郎国を盗む気だぜ!」


 笑い事ではない。

 チェスは固まっている。

 そして一気に動き出した。


「お、親父! あ、あ、あ、兄貴の野郎、なに考えてやがんだ! あのバカ! 昔から常識人ぶって一番危険なことやるんだよ!」


「ひーっひっひっひっひ! 面白え。さすが俺の息子だぜ!」


「なんで笑ってるんだよ! こ、こんな美人のお姉様ができると思ったらこれだよ!」


 チェスはセシルを結構気に入っているらしい。

 顔が真っ赤である。


「それで、嫁ちゃん。致命的な秘密をばらすってことはなにか頼みがあるんだよな?」


 マルコはずずずいっとセシルに近づく。

 いきなり馴れ馴れしくなった。


「いえねえ。ウサギちゃんはちゃんと結婚するって言ってくれてるんだけど、実際問題として無理だと思うんだよねえ。身分差とか、私の立場とか、ここの代官の立場とか、それとお義父様の立場とか。それで基本クリスタルレイクで同棲して、妊娠したら新大陸で失踪したことにして姿を隠そうと思ってさ。一、二年姿を隠したら子どもを連れて帝都に帰ればいいかなあ。それで提督、いやお義父さまに手を借りたくてね」


「がははははは! お前ら無軌道すぎて笑えるぜ!!! もしかすると俺の孫が皇帝になるかもしれねえのか!」


 マルコは楽しそうに手を叩く。

 第三皇子へのへりくだりとかは最早ない。

 完全にマルコの中ではセシルは「嫁ちゃん」だった。


「それはこれからの頑張り次第であるかもね。そういうのは面倒だから嫌なんだけどさ。……でも提督の商売や権勢の助けにはなるよ」


 マルコはにいっと笑いセシルもにいっと笑った。

 それは両名とも悪い顔であった。

 それを見てチェスはそれを見て思った。


(こいつら似てね?)


「あっはっはっはっは。ささ、お義父様。飲みましょう」


「がははははは! 嫁ちゃんも飲め飲め。オラ、チェスも飲め!」


 チェスは頭が痛かった。

 甘やかされて育ったチェスは本来ならばボケポジションのはずなのだ。

 なのにこのバカどもは容赦なくボケ倒している。

 ツッコミ所満載どころか、ツッコミ所しかない。

 なんとなくチェスは理解していた。

 家族でまともなのはカルロスだけなのだ。

 兄は船にさえ載せなければ安全な生き物なのだ。

 だがそんな兄ですらやらかす時はこの通りである。

 男(それと男っぽい思考の女も)はバカな生き物なのだ。

 基本的にバカしかいないのだ。


「がはははははは! おー、イカの干物食うか?」


 この世界ではイカは完全にゲテモノ扱いである。

 普通そんなものを皇族に出したら縛り首ではすまない。

 だがセシルは『嫁ちゃん』なので例外なのだ。

 それにセシルもこういった珍しい食べ物が大好きだ。

 かなり喜んでいる。


「ほほう、イカねえ。食べる地方があるとは聞いてたけど干物にするんだねえ」


 そう言いながらセシルはイカの干物を口に含む。


「スゴイ歯ごたえ……いやこれはなんとも言えない上質な味だ……スゴイよ! こりゃスゴイじゃないか! 歯に挟まるけど」


「おうよ。海の男たちの秘密の食いもんよ。どうだうまいだろ?」


 「ふふん」とマルコは笑った。

 セシルはこくこくと頷く。


「ほら、君も食べてごらん」


 メイドにもすすめる。

 メイドは一瞬だけ嫌な顔をしたが主の命令だと思いイカを口に含む。

 すると明らかに表情が変わる。


「な、美味しいだろ? こりゃ金になりそうだねえ」


「がはははは! だろ? でもこのチェスは売れねえって反対しやがるんだよ!」


「これは売れるんじゃないかなあ? なあチェスもそう思うだろ? あ、そうそう。近日中に私と付き合いのある商会の連中が来るから一緒に会ってくれないかな?」


「がはははは! いいぜ、娘ちゃんの頼みとあっちゃあ聞かねえわけにはいかねえなあ」


 オッサンと見た目は麗しい名誉オッサンが楽しそうに酒を飲む。

 チェスは確信した。

 こいつら似たものどうしだと。

 チェスはメイドの方を見る。

 するとメイドはぺこりと会釈した。

 チェスはメイドとなんとなくわかりあえた気がした。

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