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クリスタルレイクの淑女たち

 クリスタルレイクから『約束の村』を経由し『旅立ちの街』に至る街道がいつの間にかできていた。

 たった一晩の出来事である。

 もちろん犯人は建築大好きな蜘蛛たちである。

 エルフたちは大騒ぎしていたがアイリーンたちは黙っていた。

 示威行為や交渉を有利に進めるためではない。

 ただ悪魔の存在を説明するのが面倒だったのだ。

 アイリーンたちが黙っていればエルフたちが勝手に判断するだろう。

 と判断を投げるくらいアイリーンたちはいいかげんだったのである。

 明らかにタヌキの影響である。

 そんな街道から荷物を積んだ荷馬車がやってくる。

 荷馬車に乗っていたエルフはクリスタルレイクの発展ぶりに驚いていた。

 蜘蛛たちが好き放題に建築を繰り返した結果である。

 エルフは言われたとおりに村長であるガウェインの家に行く。

 すっかり村長らしくなったガウェインは荷物を受け取るとアイザックの家に行く。

 アイザックが不在の間、屋敷はクリスやセシルのたまり場になっていたのだ。

 ガウェインがクリスの家に行くとクリスが出てきた。


「どうしたガウェインのオッサン」


 クリスは舞台衣装の着せ替えごっこをしていたらしく、やたらかわいいドレスで出てきた。

 だがクリスはドレスに似合わないぞんざいな態度でガウェインに接していた。

 だからガウェインもぞんざいな態度で返す。


「このガキ。騎士団長の奥方になったんだからそれらしい態度を身につけやがれ。ほれ荷物が着たぞ」


「ったく、どうすればいいかわかねえよ。あーあ……アッシュの旦那みたいにはいかねえなあ。あーはいはい荷物ね」


 この場合、正常なのはクリスの方である。

 ちょっと習っただけでものになってしまうその学習能力は異常なのだ。


「おー、そんでセシル様いるか?」


「奥にいるぞ。呼んでくる?」


「いんや俺じゃ恐れ多くていけねえ。ほれ手紙。この荷物をちらっと見てくれってさ」


「おー、わかったー。……中には入れてくれるよな?」


「あーはいはい。騎士団長の奥方様の命令とあれば。玄関には運んでやるよ」


「悪いな。あ、焼き菓子作ったけど食べる?」


「いらね。甘いものはそんなに得意じゃないし、アッシュの旦那の手作り食べたら他のは食べられんよ」


 普通だったら「無理にでも食えー!」と押しつけるところだが、相手がアッシュでは張り合う気も起こらない。

 クリスは素直に荷物を運んでもらった。


「んじゃ、荷物見たら後で感想を教えてくれ。向こうさんは積み込みなんかで三日はいるらしいからな」


「はいよー」


 クリスはガウェインを送り出すと、一番最初に目についた植木鉢と苗を持っていく。

 中ではセシルがファッションショーをしていた。

 さすが大人の女。

 なにを着ても似合う。

 クリスは自分の胸を見る。

 色気が足りない。

 少し悲しくなった。


「あー……セシル。村長のハゲが新大陸の品物を見て欲しいってさ」


 すでにクリスとセシルは呼び捨てする仲である。

 セシルはクリスを見るとニコニコとする。


「うん! 面白そうだな。見よう見よう!」


 さすが生粋の遊び人である。

 楽しそうなものには食いつきがいい。


「まずはこれだ。変な色の花」


 自分で扱ってない植物にはこのように雑である。


「……ちょっとクリス。それ貸して」


 セシルは鉢と苗ををまじまじと見る。


「これ……金になるぞ」


「へ? 果樹でもないのに?」


 クリスは「またまた冗談を!」という顔だったが、セシルは真剣な顔だった。


「花きだ」


「食えない木の市場のこと?」


「ああ、花きは魔の趣味なんだ。色が違う、葉の形が違う、大きさが違う。それだけでとんでもない額になるんだよ。特にこういった新種は奪い合いになるね」


「マジかよ!」


 クリスは片手で雑に持ってきたことを後悔した。

 まさかそんなものとは思ってなかったのだ。


「これはクルーガーだけじゃなくてノーマンにも輸出できるぞ。ただ、花きは時期とか相場とか売り時が難しいんだ。知り合いの商人に手紙を書くよ」


「どういうこと?」


「うん。栽培難易度が低かったら、あっと言う間に植木職人が増やして市場にあふれちゃうんだ。安売りになったら他から輸入してる私たちの方が負けちゃうんだよね」


「すげえ世界だな……」


「でも街路樹や街の美観なんかを整えるのにも使われるから上手く立ち回れば一攫千金だよ」


「セシルって詳しいんだね」


 えっへんとセシルが胸を張る。


「なにせ金のかかる趣味は一通り手を出したからね!」


 生粋の親不孝者である。


「へえ……でももっと金のかかる趣味もあるんだろ?」


「そうだな。私はやらないけど骨董品に釣りに……女や馬も金がかかるらしいな」


 結構俗な趣味である。


「ふーん。植木や演劇の方がまだマシってことか」


「そういうこと。それで他は?」


 二人は玄関に行く。

 玄関ではガウェインが運び込んだ荷物が積まれている。

 その一つ、壺をセシルは取り、蓋を開ける。

 あたりにぷーんと酒のにおいがした。


「こりゃだめだね」


「飲まないのにわかるの?」


「うん。香りは悪いからね」


「古酒じゃないの?」


「それにしちゃ色が良くないねえ」


「向こうは酒が不味いのかあ」


 クリスは甘党なので酒は飲まない。

 だから酒じゃ商売にならないのかなあと思った。


「だからこちらの酒を持ち込もうと考えてるはずだよ。ここの代官は優秀だからねえ」


「アイリーンは抜け目ないからなあ」


「そういうこと」


 次にセシルは布袋を開ける。

 中には種が入っている。


「果物の種かなあ?」


「だろうね。一晩水につけてから果樹園に植えてみよう」


「そっちは?」


 セシルはクリスが指をさした箱を開ける。

 中には乾燥した果実や日持ちする焼き菓子が入っていた。


「ふーん。これはアッシュ殿の送ってきたものだね。ほいクリスはこっち、私はこれ食べる」


「えー! 大丈夫かよ?」


「大丈夫、大丈夫。あのアッシュ殿が食べられないものを送って来るはずないだろう?」


 セシルは盲目的にアッシュを信頼している。

 なにせ、セシルは俳優アッシュのパトロンである。

 ファンクラブ第一号とも言える存在なのだ。

 セシルは千切った赤い果実を口に入れる。


「こりゃサボテンだ。前に食べたことがある。この色は珍しいな。クリスも食べるか?」


「うん」


 噛むとショリショリとした食感に小さな種を潰す快感が加わる。

 甘く香りもいい上品な味だ。


「おいしいね」


 甘党のクリスは小動物のように一心不乱に食べる。


「そちらはどうだろう?」


 小さな白い果実である。

 どことなくブラックベリーに似ている。


「あー、これ知ってる。桑の実だ」


「桑の実?」


「うん。蛾の幼虫ががたかるからめったに食べられないんだ。日持ちしないし」


「ふーんそのドライフルーツか。面白いな」


 セシルは「くくく」と笑う。


「どうしたセシル?」


「いやこれは笑うしかない。知ってるものにしかわからない価値だよ。なあクリス、一緒に儲けないか?」


 セシルは悪い顔をしていた。

 さっさと売って小金持ち。

 そうたくらんでいたカルロスの思惑をすでにセシルは超えていた。

 カルロスは自分の恋人の本気を過小評価していたのである。

 それもかなり。

CTの検査は大丈夫でした。

とりあえず漢方での治療に切り替えました。

と、思ったら奥歯が欠けました。

一日経ってから超はれてます……だんだん痛くなってきました……

年末で歯医者の予約が取れずに土曜日に……ぎゃー!!!

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