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悪だくみ

 アイリーンは宿で寝ていた。

 レベッカも横で体をくっつけて寝ていた。

 リラックスしているせいか、ぺろんとお腹を出している。

 夢を見ているのか足がピコピコと動く。

 たまに「ふにゃあああああん♪」と鳴いている。

 わりと寝相の悪いアイリーンも疲れているのか「ふにゃあああああん♪」を聞くたびにピクピクと動いていた。

 そんな二人の部屋にゴロゴロと音が響いてくる。


「ヒャッハー! 兄貴ぃ。さっさとタバコ売ってさらに儲けましょうぜ!」


「ぶぁーか。まずはアイリーン様に報告だ。まあもう遅いから明日だな明日」


「ヒャッハー! 兄貴ぃ! 騎士みたいじゃねえですか!」


「騎士! 俺は騎士なの! 騎士団の副団長なの!」


 カルロスは騎士である。

 たとえチンピラぶっていても相棒アイザックの方は心まで騎士。

 カルロスの方は騎士ぶっているわりに中身が海賊のまがいもの。

 だとしてもそれがこだわりなのだ。


「とにかくタバコを運び込んでくれ。まずは葉の等級を調べるぞ」


「「へい」」


 このやりとりすらもお坊ちゃん育ちのアイザックにとっては別次元の出来事である。

 ほぼ盗品のタバコを鑑定するのだ。

 めちゃくちゃな話である。


「はいそこー。アイザック固まるなー。タバコがあるってことはお茶も高確率であるぞー。お茶と葉っぱ、それに香辛料は輸出入の基本だからなー」


 日持ちするものが中心である。

 足が速いものは船で消費してしまって市場に出ることはないのだ。

 アイザックたちはタバコの葉を運ぶ。

 その意味がわかってるものは満面の笑みをたずさえていた。

 その意味がわかっているものは……


「うるさーい! 静かにしろ!」


 アイリーンが鬼のような形相で部屋から出てくる。

 中途半端に寝たため頭痛がする。

 起こされたことより頭痛がアイリーンを苛立たせていた。


「あ、アイリーン様。ちょうどいいところに来た。明日じゃなくてもよさそうっすね」


 カルロスがへらっと笑う。


「カルロス。ちょっと来い」


 同じくへらっと笑ったアイリーンは手招きをする。

 へらへら笑うカルロスが来るとアイリーンはカルロスの頭目がけて手刀を落とす。

 ずびしゅ。


「へぐ!」


「夜遊びしてこいとは言ったが安眠を妨害しろとは言ってない」


 明らかに機嫌が悪い。

 アイリーンは血圧が低いようだ。

 とは言ってもポコポコという程度の攻撃である。


「はい……それは失礼しました。反省してます」


「わかればよろしい。それで、なにがあった?」


「ええ。この大陸は酒が不味くタバコを生産してます」


「酒……タバコ……?」


 アイリーンはどうにもピンときてないらしい。

 アイリーンは酒がそれほど得意ではない。

 嗜む程度であり、なくても別に困らないのだ。

 むしろ甘味の方が生命線である。

 だから、しばらく考える。


「あれか? タバコってあの高くて臭い薬」


 一般的にタバコは嗜好品と言うよりはのどの薬として売られている。

 それに高価なためタバコを常用しないアイリーンにとってはその程度の認識なのだ。


「薬ってのは建前で、実際は嗜好品ですよ」


「儲かるのか?」


「確実に儲かりますよ。ただ薬種問屋が絡んでくるんで選択を間違えたら相手が大貴族でも殺し屋がやって来ますけどね」


 カルロスはへらへらと笑う。

 どうやらガチガチに利権で固められた世界のようだ。

 それを見てアイリーンはため息をつく。

 その程度では恐れるに足りない。


「酒は……アイザックわかるか?」


 バーテンでもあるアイザックなら詳しいだろう。


「ええ。ここでは主に果実酒……水で薄めたような薄いのが出ました。アイリーン様の方はどうです?」


「食事には酒は出なかった。あまり酒を飲む文化がないようだな」


「こっちは薄くて酸っぱい……ありゃ原液を水で薄めて樽のにおいでごまかしてますね」


「なるほどな。酒を持ち込むのか」


「まあ最初の資金はそれでいいでしょうね」


「それで、タバコは殺し屋を向けられてもいいほど上物なのか?」


「そうですね。悪くはないはずです……というより善し悪しがわかるほど出回ってないってのが実情ですね」


 カルロスが言うと海賊たちも同意した。

 アイリーンは考える。

 新大陸は本当にお宝の山のようだ。


 そしてその新大陸に魅せられたものが一人……

 がちゃりとドアの開く音がするとレベッカが走る。


「ただいま~」


「にいたん♪」


 レベッカの抱きつき攻撃。

 スリスリ攻撃。

 尻尾ふりふり。


「お、出迎えありがとな」


 巨人がレベッカをなで回す。

 アッシュが帰ってきたのだ。

 アイリーンは両手を腰に当てる。


「アッシュ、こんな遅くにどこに行ってたんだ?」


 アイザックたちもアッシュのお出かけに疑問を持った。

 アッシュが好んで酒を飲んでいるところは見たことがない。

 あれば飲むという程度だ。

 それほどアッシュは甘党のはずだ。


「ふふふふ」


 アッシュは笑う。

 きゅぴーんと目が光る。


「これだ!」


 アッシュが大きな革袋を取り出す。

 そこには色とりどりの果物が入っていた。


「クリスタルレイクでは手に入らない果物だ。味見用も買ってきたぞ!」


 その台詞を聞いてアイリーンやアイザック、カルロスがアッシュを凝視した。

 アイリーンがアッシュの顔をのぞき込む。


「ちょっと待て、アッシュ。一人で買いものをしてきたのか? えーっと、今いないベルと一緒じゃなくて?」


 ベルもどこかに出かけているのだ。


「ベルさんとは途中までは一緒だったけど、果物は行商人の家を聞いて売ってもらったんだ。いやあ、この大陸は怖がられないから楽だな」


 「はっはっは!」とアッシュは豪快に笑う。

 それを聞いてアイリーンはニコニコと笑った。


「それは違うぞアッシュ」


「なにが?」


「この大陸の人間がアッシュを怖がらないんじゃなくて、アッシュが変わったんだ」


「そうかな?」


「ああそうだ。自信がついて姿勢もよくなった。気品というものが身についたようだな」


 なんだかほっこりとした空気が流れた。

 アッシュも「えへへ」と笑う。

 この会話について行けないのはアッシュがバージョンアップした後にやって来た海賊たちだけであった。


「それにしてもベルはどこに行った?」


 ベル、それにオデットが行方不明だった。

 アイリーンは嫌な予感がしていた。

 ベルは常識人だ。

 かわいいものが関わらなければ。

 オデットも、まあ、まともだ。

 筋肉が関わらなければ。

 一堂は急に不安になってくる。


「そ、村長は……?」


 アイリーンはアイザックに聞いた。


「飲みに行ってます」


「うわあ……」


 絶対になにか良からぬことをたくらんでいる。

 それを全員が確信した。

 だからこそアイリーンは言った。


「アッシュの買ってきた果物を食べながら考えようか……」


 全員は無言でうなずいた。

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