夜の街
街の責任者への挨拶はあっと言う間に終わった。
責任者は三人。
市長、漁師の網元、市場長である。
漁師の組合も市場も機能してないため実質的に権限のない名誉職である。
三人ともエルフである。
三人は好意的だった。
なにせ港が使えない時点で『旅立ちの村』では物資が不足している。
周囲から陸上ルートで物を売り買いしているが、海が使えなければ慢性的な品不足である。
断る理由はないのだ。
なにせ物はなくとも品物をただ右から左に動かすだけでも利益は生まれる。
それにあのイノシシを倒した兵なのだ。
警戒したところで相手がその気になれば街は滅ぼされるだろう。
『旅立ちの街』はアイリーンたちと仲良くするしかない。
いくつかの問題点、通貨が違うことなどは金や銀、宝石などの物々交換をすればいい。
要相談というだけである。
あとは港の使用権やらの交渉をすればいい。
大筋が合意していれば他の交渉は難しくない。
挨拶が終わると一行は『約束の村』の村長から街について説明を受ける。
『旅立ちの街』。
そこはかつて貿易で栄えていた都市だった。
立派な魚市場と貿易市場があり、その二つの上がりだけで莫大な富が発生していたのだろうと予測された。
今は市場も閉鎖されていて、あちこちに穴が空いている。
廃墟になった市場跡のあちこちに失業者がテントを張っていた。
完全なスラムである。
「アイリーン様、アッシュ様、決してお一人では出歩かないようになさってください」
村長がアイリーンに言った。
「ああ。わかった……素直に従おう」
さすがにアイリーンでもこの惨状で出歩くほど無謀ではない。
アッシュとデートしようと思っていたがそれも叶いそうにない。
逆にテンションを上げているのが海賊たちである。
健全ではない遊び場が彼らには必要だったのである。
「カルロスの兄貴! 遊びに行きましょう」
「そんな目で見るな。俺は絶対行かないからな」
一刀両断。
だがそんなカルロスにアイリーンが非情な命令を下す。
「アイザックとカルロスは監視のために一緒に遊んでこい。金は出してやる」
アイリーンは帝国通貨と交換した現地通貨が入った袋を取り出す。
アイザックは無表情のまま拳を握った。
アイザックはわりと遊び人である。
一方、カルロスは露骨に嫌な顔をしている。
そんなカルロスにアイザックは言う。
「お前、カード強いんだから一緒に行こうぜ」
「イヤだ!」
「兄貴がいれば勝利は約束されたようなものだー! 兄貴のいかさまは誰にも見破られねえ! ひゃっほー!!!」
「お前らあとで全員ぶん殴る」
アイリーンは新鮮な気持ちでカルロスを眺める。
カルロスは普段はお行儀がいい。
騎士でもやらないくらいに騎士であろうとしている。
アイザックもカルロスも不幸な事件がなければ地方に流れてはこない人材である。
そのカルロスの意外な一面が見られるのである。
なんだか楽しそうである。
「来たらダメですからね!」
カルロスに先に言われる。
だから今度はアッシュの方を見る。
「ダメ」
ダメらしい。
「とりあえず行ってこい。街の状況をしる必要がある。……それとみんなの息抜きもな。とにかく命令だ」
上の命令は絶対である。
カルロスは嫌そうな顔をしながらも命令には従う。
「承知しました」
カルロスは夜遊び組に決定したのである。
アッシュたちは用意してもらった宿に帰り、カルロスたちは夜遊びに向かう。
カルロスとアイザックは軍服から私服に着替えていた。
海賊たちと同じようなややガラの悪い服装である。
「野郎ども。わかってるな?」
カルロスは念を押す。
すると海賊たちは元気よく返事する。
「「初めて行く港では女遊びはしない!」」
様々なトラブルの防止のためである。
「破ったら」
「「縛り首!」」
「うわぁ……」
アイザックはドン引きである。
「だから嫌なんだよ」
カルロスも思うところがある。
「まあいいや。まずは飲もうぜ。なあみんな!」
「「おう!」」
一行は酒場を目指す。
ここで重要なのは目指すのは高級な料理店ではなく、安酒場である。
この街の真の姿を知らねばならないからだ。
一行は魚市場へ向かう。
市場の中には、かつて市場関係者相手に商売をしていただろう店が並んでいた。
そのうちの一件に入る。
中に入ると常連と思われる男たちにギロリと睨まれる。
条件に合う店である。
カルロスと海賊たちは空いている席に勝手に座った。
「おっちゃん、酒くれ!」
「どの酒だ?」
カウンターの中にいる無愛想なスキンヘッドの男が返事をする。
「悪い、俺たちよそ者でこの辺の酒はわからんのだわ。適当に頼むわ! あと料理も適当に頼むぜ!」
ぼったくられてもいいだけの資金はある。
幸い海賊たちも問題を起こす気はない。
トラブルは起きようもない。
一行はわきあいあいと酒を飲む。
アッシュの料理になれているカルロスからするとつまみも酒も不味い。
現役バーテンダーであるアイザックもあまり美味そうな顔はしてない。
「おいカルロス」
「言うな」
「いやいや、文句をつけるわけじゃねえ。酒をここに持ってくるだけで相当稼げるんじゃね?」
「だろうな」
こういった生の情報は足で稼ぐしかない。
アイザックたちはにっこりと笑う。
これだけでも酒代の何十倍も稼げる情報なのだ。
アイザックたちがニヤニヤしていると男が話しかけてくる。
「よう兄ちゃんたち、遊ばねえか?」
明らかに感じが悪い。
アイザックはニコニコとする。
手は護身用のナイフにかけていた。
海賊たちも男を睨む。
そんなアイザックをカルロスは手で制す。
下がってろと言うことだ。
「おっちゃん、遊びってのは金をかける方か? それとも痛い方か?」
「金の方だ」
「じゃあやるべ。お前らもいいな?」
「へ、へい」
海賊たちは首を縦に振った。
兄貴分の言うことは絶対である。
「それでなにして遊ぶ? 俺たちはよそ者だからな。簡単な遊びで頼むぜ」
男はとたんに悪い表情になる。
カルロスたちをカモだと思ったのだろう。
「おうよ。それならサイコロだな」
男はどんぶりと六面ダイスを取り出した。
アイザックは嫌な予感がしてくる。
ギャンブルとカルロスは相性が悪い。
強いとか弱いではない。
もっとダメな方向に相性が悪いのである。
ちょこーっと総合病院送りになりました……テヘペロ。
マイコプラズマではなさそうで、普通の肺炎の疑いががが……
水曜に行ってきます。
なにかあったら活動報告に書きます。




