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海賊さん、アッシュを見ていろいろあきらめる

 海賊というのはなにも海でだけ器用なのではない。

 なぜなら探検や交易も海賊の仕事なのである。

 特にカルロスの実家は幅広く密輸を手がけている。

 その中身は主に酒や美術品、金や銀、宝石などの政府の管理下で取引すべき物品である。

 珍しい動物や種苗(しゅびょう)なども取り扱っている。

 よくイメージしがちな人間は取り扱っていない。

 彼らが優しいとか気高いわけではない。

 利益率が悪く、商品の死亡率も逃亡率も高く、さらに気分も悪く士気が下がるのでトータルで儲からないと判断しているのだ。

 海賊の仲間として迎える気もない。

 ただ働きさせた奴隷を信用してないからだ。

 従業員は正社員。

 テンションの下がる嫌な仕事はさせない。

 内部規則違反への制裁が厳しいことを除けば案外ホワイトな職場である。

 それにマルコ・メディナは商売において『小さくて動かしやすく、値段は安くともすぐに売れる品』を重視している。

 デッドストックを出さないように気をつけているのだ。

 一見すると脳筋のマルコだが、顔に似合わず商いは堅い。

 その商いは多岐にわたる。

 ちゃんと多角経営でリスクを分散しているのだ。

 地図の作成、海路においての略奪、国の作戦命令があれば海に隣接する都市への攻撃もする。

 商売に探索に戦闘。

 なんでもこなすのが彼らである。


 海賊たちはアッシュたちの後ろをついて行った。

 目指すは『約束の村』である。

 案内をするのはエルフのオデットである。

 そんな彼らは現在少し……いやかなり(・・・)へこんでいた。

 樹海の中を平然と荷車を引く男。もちろんアッシュである。

 その姿を見て荒々しい海の男たちはプライドを傷つけられていたのだ。

 なにせ荷物だけではなくアイリーンとベル、それにレベッカまで荷車に乗せていたのだ。


「いやアッシュさんと競っても意味ないからな」


 カルロスは一応フォローした。


「カルロスの兄貴ぃ! でもアレは! アレは反則でしょ!」


 カルロスはアッシュたちの方を見た。

 アッシュは荷車を引きながらアイリーンたちと談笑していた。

 牛馬よりも体力がある。


「レベッカ。珍しい花が咲いているぞ!」


「あー! すごーい! こんなの見たことない♪」


 よく見ると樹海の草木はクリスタルレイクの花と比べて全体的に色とりどりの派手な色をしていた。

 レベッカはそれを見て大喜びする。

 アッシュ、アイザック、カルロスの男三人だと気がつかない視点である。


「花びらの形はクリスタルレイクの森に生えているのと同じなんだけど、色はずいぶん違うんだな」


 アッシュによる農民視点の発言である。

 ちなみにこういったカラー違いの花は観賞用としてとてつもない収入源になるのだが、アッシュたちは経験が浅く、残念ながら()き市場の世界を知らなかった。

 花きは魔の趣味にして超絶コレクター市場。

 一山当てれば億万長者。

 それ以外は死屍累々。

 金貨乱れ飛ぶ究極の趣味の世界である。

 海賊たちもどこかで開発された種苗の横流ししかしてないため価値に気がつかなかった。

 もったいないことこの上なかったわけである。

 後にクリスとセシル、それにクローディアが一山当てるのだが、それはまた別の話である。

 花の話をしながら歩いていると、大きな木が進路を塞いでいるのが見えた。

 アイリーンもさすがに申し訳がなくなってくる。


「アッシュ! 木があるぞ。さすがに荷車が入るのは無理じゃないか? ちゃんと歩くからいいぞ」


「そうですアッシュ殿。ここからは歩きましょう」


 ベルの提案を聞いてアッシュは豪快に笑う。


「あははは。このくらいだったら問題ない。おりゃ!」


 アッシュは荷車を引いたまま素手で木を殴る。

 木の幹が粉々に粉砕され、ダルマ落としのごとく木の幹が落ちてくる。

 それをアッシュはむんずとつかむと放り投げる。

 辺りに地鳴りが響いた。


「木材はなんにでも使えるのであとで回収しよう」


「お、おう」


 アイリーンもさすがにツッコむ気にならない。

 海賊たちはアッシュを指さしカルロスへつめ寄った。


「ね、ね、おかしいでしょ! カルロスの兄貴! どう考えてもおかしいでしょ!」


 カルロスはあきらめた目をした。


「もう……あきらめちゃえよ。アッシュさんはそういう生き物なんだって……」


 クリスタルレイクにおいてはあきらめて受け入れてしまった方が楽なことが多い。

 ひたすら趣味に生きる悪魔たちとか、物事の9割を腕力で解決する地主とか、それとつきあってる変人代官とかである。

 考えたら負けなのだ。


「俺たちだって腕っ節に自信があったけど勝てる気がしねえよ!」


「俺だって勝てんわ!」


 悪魔に不覚を取ったと言えども海賊たちは腕に自信があった。

 それこそ正規軍相手でも勝てる自信があった。

 だがそのプライドは筋肉の前に粉々に打ち砕かれたのだ。


「あれで俳優もやってるんだろ? さぞかしモテるんでしょ!? 世の中不公平だー!!!」


 後からやって来た新参者からすればこの程度の認識である。


「その代わりに傭兵ギルドに奴隷として売られて、帝国を敵に回して、悪魔とも戦いまくりだけどな。普通なら何回も死んでる」


「壮絶っすね……」


 アッシュはほとんどの苦渋は舐めている。

 普通ならとっくに死んでいる人生なのだ。

 だからカルロスはぶっとい釘を刺す。


「お前ら気をつけろよ。俺とアイザックは悪魔と戦ってる。次はお前らの番だからな」


 海賊たちは目を丸くしている。


「え……?」


「だから高い確率で悪魔と戦うことになるから。戦闘員だろ?」


 ちなみにクルーガー帝国では悪魔との遭遇は死を意味する。

 貴族たちは悪魔を倒したと武勲を盛っているが、本来なら生き残っただけでも英雄扱いである。


「兄貴も戦ったんで?」


「俺は逃げ切ったけど真正面から戦ったアイザックは半殺し、人間じゃ勝てねえっての」


「……二人とも生き残ったんで?」


「俺らが幽霊に見えるか?」


 海賊はひそひそ話をする。

 思ったよりも突き抜けたエピソードだったのだ。


 審議中。


「……えっとアイザックの兄貴。一生ついていきます!」


 アイザックへの兄貴認定である。

 悪魔と戦うのは嫌だが一発当てればでかい。

 ワンチャンスを狙うつもりだ。


「まあいいけどさ。アッシュさんと同じことができるなんて思うなよ。俺たちには俺たちにしかできないことがあるからな」


「それってなんですか?」


「アッシュさんができないこと全部。わかりやすいのは船だ」


 カルロスは笑った。

 レベッカはそんなカルロスを見て「きゅっ?」っと首をかしげた。


「どうしたレベッカ?」


 カルロスはレベッカに聞く。


「あのね! あのね! カルロスくん! カルロスくんがいつもと違うの!」


 レベッカは尻尾をふりふりしながら一生懸命言った。


「そんなに違うかな?」


「うん! いつもより大人っぽいの!」


 レベッカはピコピコと手を振り回して説明した。


「ありがとな!」


 カルロスは笑顔で答える。


「あい♪」


 レベッカは元気よく返事した。

 その数時間後、雑談をしながら歩いていると街道に出た。

 近くに村も見える。

 もう半日ほど経っていたらしい。


「あそこか」


「ええ、うちの村です」


 オデットが答えるとアイリーンは荷車を降りる。


「皆の衆、まずは村と交渉をする。村との交渉が終わったら次の行動を決めようと思う。なにか質問は?」


「はい!」


 海賊が手をあげた。

 なんだからやたら元気である。


「自由恋愛の許可をください!」


「死んでもいいと思う恋愛なら許してやるぞ。遊びでエルフに迷惑をかけたらアッシュの本気パンチだ」


 即死クラスの攻撃である。


「大人しくします!!!」


 海賊たちは今のところは大人しくした。

次回、村!

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