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番外編 カラスさんは趣味が欲しい

 蜘蛛は多趣味である。

 蜘蛛の長である瑠衣は人間の研究を推奨している。

 少しでもこの不思議な生き物を理解する。

 それが蜘蛛たちの使命である。

 タヌキたちもまた同じだ。

 タヌキの長であるクローディア・リーガンこと花子は『一緒に演劇で遊ぼうよ!』という立場である。

 ゆえにタヌキたちは歌や踊りに長けている。


 だが彼ら楽しそうな悪魔たちに比べてカラスたちは無趣味だった。

 せいぜい本能に刻まれた光り物を集める性質がある程度である。

 長の伽奈が無趣味なのが影響しているのかもしれない。

 そんな無趣味で生産性の低いカラスたち。

 それが今までのカラスたちだった。


 だがそんな彼らに一大ムーブメントがやってこようとしていた。

 それは村人が作った竹カゴが発端だった。

 一匹のカラスが村人に竹カゴを貰った。

 カラスはそれを仲間に見せびらかす。

 するとどうしてもカゴが欲しいカラスの一匹がそれを再現した。

 彼らは一からなにかを作るのは苦手なので別の方法で技術を再現した。

 分解してからのリバースエンジニアリングである。

 元のカゴがどうなったかはあえて語らないでおこう。


 そして有り余る時間で同じものを量産した。

 竹カゴが全員に行き渡るころにはカラスたちは技術の全てを忘れようとしていた。

 カラスは飽きっぽいのである。

 だがカラスの作ったカゴを見た、住民……クリスはカゴを見て言った。


「へえーすっげーな! これでバッグ作って飾りをつけたら高級品になるんじゃね?」


 カラスたちは顔を見合わせた。


(その発想はなかった!!!)


 ここまでの技術力を持ちながら新しいものを発明できない。

 それが悪魔なのである。

 そして悪魔は進歩の方向性を与えられた途端……暴走するのである。

 カラスたちの中でバッグ作りが花開いた瞬間である。

 悪魔は凝り性である。

 病的と言えるほど凝り性である。

 美しさという方向性を与えられたカラスたちは宝石を集めた。

 金属や宝石を加工しエンブレムやワンポイントをつけてみた。

 それをクリスに持っていく。


「かわいいじゃん! もっとすげえの作ろうぜ!!!」


 クリスは小躍りした。

 やはり女の子である。

 こういうのが好きなのだ。

 カラスたちからすれば人間をあっと驚かすものが作れれば満足である。

 こうしてクリスをアドバイザーとしてカラスたちのバッグ作りが始まった。

 まずは高級感をつけることが急務だった。

 ただの竹カゴに宝石をつけても洗練されていない。

 だからカゴに色をつけたり、渋めの暗い色の裏地をつけたりして高級感を演出する。

 このころになるとカラスたちも職人と言えるほどに仕事が洗練されてくる。

 クリスの方もベルの私物のバッグのデザインを研究し、自分たちの目指す方向性を見定めた。

 さらにそこに面白半分でクリスの夫のアイザックがやって来る。

 アイザックはバッグを見て一言。


「黒系の渋いのは年配くらいの層を狙ったらどうだ?」


「それだ!!!」


 最初はお年寄り層をターゲットに売ってみる。

 売り込みには蜘蛛たちのコネクションを使わせて貰う。

 さる貴族がパトロンをしている芸術家の作品という触れ込みである。

(だいたい間違ってない)


 貴族に見せる品はクルーガー帝国的に正しいゴテゴテ宝石をつけたバッグ、それと渋く落ち着いたバッグを用意する。

 ほとんどの貴族は宝石だからけの方を選ぶが、目の肥えた貴族たちは渋い方のバッグを選んだ。

 この結果で総合プロデューサーのクリスは自信をつけた。


「よし、全力で増産するぞ!!!」


 すさまじい勢いでバッグが大量生産されていく。

 ちなみに蜘蛛(・・)の糸まで使われている。

 人間では誰にも手に入れることもできない品である。

 こうして作ったバッグをカラスや蜘蛛たちが売りさばいていく。

 そして気がついたらかなりの額のお金が貯まっていた。

 カラスたちはそれをクリスにあげようと思った。


「いいよいいよ。なに言ってんだよ! 俺よりもみんなで分けてくんな♪」


 気前のいいクリスはお金を受け取ろうとしなかった。

 ただ単に金額を見てなかっただけかもしれない。

 だからカラスは思った。

 んじゃこのお金で帝都に店出しちゃえと。

 早速、カラスは蜘蛛たちの伝手を使って帝都にお店をオープン。

 書類上の店主はクリスである。

 そしてそのバッグはクローディア・リーガンが愛用していることが知れ渡り、予約は二年先まで埋まるほどの一大ブランドに成長中である。


 カラスたちはようやく見つけた趣味に邁進するだろう。

 その証拠に新製品の開発は順調に進んでいるのだ。

 だがクリスは、帝都にある自分の資産がふくれあがっていることをまだ知らない。

 クリスはちょっとした資産家になっていたのである。

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