表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国のレギオン  作者: 高井高雄
99/113

完結篇 前篇 第10章 降伏勧告

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 暖かくなったり、寒くなったりしていますが、みなさんも体調管理は気をつけて、毎日お元気にお過ごしください。

 第2任務群所属の99式155ミリ自走榴弾砲が火を噴いてから、進撃が開始された。

 90式戦車と89式装甲戦闘車(FV)を先導に、前進した。

 その後ろに96式装輪装甲車(WAPC)、87式自走高射機関砲等が続く。

 上空にはAH-1SやAV-8Jが近接航空支援のため、飛行している。

 敵は正面決戦では、歯が立たない事を理解しているため、敵は塹壕の中にうずくまり、矢を浴びせていた。

 しかし、戦車や車輛の装甲を貫く事ができる訳がない。弓隊が放った矢は戦車等の車輛の装甲を傷つけるぐらいだった。

「いいか、まだだぞ、まだだぞ」

 槍や剣を装備した歩兵たちはレギオン・クーパーの魔道兵器が近づくのを待つ。

「今だ!突撃!」

 指揮官の号令で穴の中に潜んでいた歩兵が一斉に飛び出し、レギオン・クーパーの魔道兵器に向かって突撃した。

 90式戦車の12.7ミリ重機関銃が火を噴き、突撃して来る歩兵たちを血祭りに上げていく。

「後方に、騎馬集団を確認!」

 どうやら、上空から発見されるのを避けるため森林地帯を抜けてきたのであろう騎士団が、後方から襲撃をかけてきた。

「撃てぇぇぇ!!」

 90式戦車の120ミリ滑空砲が旋回し、騎士団に向けて榴弾が撃ち込まれる。

 すかさずAH-1Sが旋回し、対戦車ロケット弾を撃ち込み、20ミリ機関砲が吼える。

 たちまち、人と馬だったものが、積み上がる。

 それでも、騎士団は味方の遺体を乗り越えて向かって来る。

 89式装甲戦闘車も同軸機関銃の74式車載機関銃が火を噴く。

「こいつら、死を覚悟で?・・・死ぬのが怖くないのか?」

 89式装甲戦闘車の砲手が同軸機関銃を発射しながら、つぶやく。

「相手も俺たちと同じく人間だ。死ぬ事が怖くない訳がない。しかし、戦わなければならない、そういう事だ」

 車長がテレスコープを覗きながら、答えた。

「敵ながら称賛に値する兵士たちです」

 砲手が真剣な表情で彼らを評価した。

「・・・・・・」

 車長はミレニアム帝国兵が恐ろしく感じた。

 本で読んだ事があるが、こういう敵は追い込まれると何をしでかすか、わからない。これまでの戦闘の報告で自爆攻撃が何度か報告されている。

 事実、第2統合任務隊は自爆船の特攻で[きくづき]を撃沈されている。

 しかし、水島はそれに萎縮する事なくクーリッタン島近海に居座り、陸上支援のための空爆と、艦砲射撃を続行している。

(敵も馬鹿ではない。もう自殺攻撃が通用しないのはわかっているはずだ)

 車長は願うように心中でつぶやいた。

「中隊長より、達する。普通科隊員を下車させろ」

 ヘッドセットから中隊長の指示が出る。

 普通科隊員たちを乗せた装甲車輛が停車し、隊員たちが素早く展開する。

 ここから先は歩兵対歩兵の戦闘である。しかし、普通科隊員たちには戦車や対戦車ヘリの支援がある。

 車輛は歩兵の速度に合わせて、ゆっくりと前進する。

「いいか、よく目を光らせろ!敵は思いもよらないところから、現れる。注意しろ!」

 厳つい小隊陸曹が隊員たちに告げた。

 第1任務団の緒戦と違い、第2任務群の隊員たちの表情には油断はない。

 第2任務群も第2統合任務隊と同様に猛訓練を行った。

 実戦経験のある第1任務団の隊員たちから特別講義をしてもらい、実戦時の事を詳しく研究した。

 自衛隊は第2次大戦以降の戦闘データはもっているが、やはり、身内が経験した事なら、その聞く気はまるで違う。

 普通科隊員は冷静な対応で、突撃して来るミレニアム帝国兵を排除していくが、やはり、第1任務団の初戦と同様に極度の緊張で必要以上に乱射する隊員もいた。

 中には血を噴き出す兵や肉片が飛び散る兵を見て、嘔吐する隊員たちも多数いた。

 頭でわかっていても、実際に経験するのは訳が違うという事だ。

 塹壕内に潜んでいる弓兵には、手榴弾を投擲する。

 手榴弾が炸裂し、塹壕内でもあったから、その凶悪差は増す。

 ここまでの戦闘でようやく、ミレニアム帝国兵も投降する兵士が出た。

 投降するフリをした兵士がいる可能性もあり、普通科隊員たちは慎重に対処した。



 第2任務群の戦闘が終結してから、翌日。

 第2任務群司令部では、昨日の戦闘報告がされていた。

「ううむ」

 (ささ)木野(きの)()(ずま)1等陸佐は報告書を読みながら、唸った。

 戦闘による戦死者はいなかったが、精神的ダメージのほうが大きかった。

「こんな事でしたら、第2次ラペルリ防衛戦で、予備兵力としてではなく、第1任務団と共に戦うべきでしたね・・・」

「・・・・・・」

 笹木野は不快そうな表情になった。

 彼にして見れば、第2次ラペルリ防衛戦で戦いたかったのだ。しかし、万一の際に敵の側面を奇襲する部隊が必要という事で、却下されたのだ。

 今回の攻略作戦も米海兵隊にとの意見が多かったが、笹木野が自分の部隊にも活躍の場を与えて欲しいと強く主張した。

「この状態では、しばらく大規模な戦闘は避けるべきではないでしょうか」

 幕僚の1人がつぶやく。

「第1任務団の隊員たちのシェルショックを診察した第1支援群所属の医官たちの報告では、ひどいものではないと言っています」

 第2任務群の首席医官が報告した。

「我々だけでは荷が重かったか」

 笹木野は腕を組んだ。

「我々の部隊は第1任務団と異なり、寄せ集めですから」

 幕僚の言葉に、他の幕僚たちは、それを言うなよ、と心中でつぶやいた。

「群長。敵に降伏の機会を与えてはいかがではないですか?」

 幕僚の言葉に笹木野は腕を解いた。

「板垣司令官も水島司令も同じことを言っていた。しかし・・・」

「しかし?」

 笹木野は幕僚たち見回した。

「少し考えてみろ、我々の力がどれほどのものか、身に染みてわかっているはずだ。たとえ情報統制をしていたとしても、噂は流れる。上陸開始から今にいたるまで、投降する兵はいない。戦闘後に出ただけだ。敵の統率力はかなりのものだ」

 笹木野の言葉に、幕僚たちは水を打ったように静まり返った。

 捕虜の状況から、降伏したミレニアム帝国兵士は奴隷出身の者がほとんどであり、平民以上の兵士は頑固に抵抗していた。

 別にこれはミレニアム帝国に限った話ではない。日本でも同じ事があった。

 硫黄島、沖縄戦では日本軍は強固に抵抗し、米軍に一泡、二泡も吹かせた。

 防衛戦というものは固有の領土になればなるほど、抵抗は強固になる。これは、もし、敵の支配下になれば、本土が危ないと末端の兵にいたるまで理解するからだ。

「群長。やはり、降伏勧告はすべきだと思います」

 笹木野が具申した幕僚に視線を向ける。

「すでに、群島諸国連合軍7000が、クーリッタン島に上陸しています。我々の勝利は揺るぎません。ここで、降伏勧告を出すのもいいのではないでしょうか?」

「効果があると思うか?」

 笹木野が問うと、幕僚は少し考えた。

「いえ。これはこの世界の者たちに対する行いです」

 幕僚の言葉に全員の視線が彼に集中した。

「我々がここで、敵を徹底的に叩けば、彼らは我々を非難するでしょう。敗者に手を差し出さなかったと叩かれます。ですが、ここで、手を差し出せば彼らの矛先はミレニアム帝国に向くでしょう」

「つまり、降伏勧告は敵を投降させるためではなく、この世界の者たちにもミレニアム帝国が悪である事を残すためにするのか?」

「はい、そうです」

 幕僚たちは顔を見合わせた。

 たしかに、これからの事も考えれば心理的効果は高い。しかし、敵対しているとはいえそこまで敵を貶めるのは正直、気が咎める。

 しかし、結局、この案が採用された。



[ながと]の艦橋で、水島は笹木野からの通信文を受け取っていた。

「どう思う?」

 水島は三枝に通信文を渡した。

 三枝はすばやく通信文に目を走らせた。

「司令が望んでいた事ではないですか?」

「そうなのだが、いったい、どういう風の吹き回しだと聞いている。笹木野1佐は前にこう述べていた。ミレニアム帝国軍を降伏させるのは非常に困難である、と」

 水島の言葉に三枝は彼女の顔を見て、言った。

「恐らく、第2任務群の精神的ダメージが予想以上に大きかったのでしょう。だから、味方部隊の損害を可能な限り、減らすために降伏勧告を出す事に決めたのです」

 水島は海士が持ってきた緑茶をすすった。

「万が一、降伏勧告に応じない場合についての要請もあったが、これをどうする?」

 三枝は再び通信文を見た。

「降伏に応じない場合は第2統合任務隊の艦砲射撃ないし、AV-8Jの対地ミサイルによる攻撃を要請する」

 三枝が通信文を読み上げた。

「そうだ。ナチスが降伏しなかった場合、彼らが立てこもっている城を破壊し、殲滅するものだ」

「笹木野1佐らしい、案ですね」

 水島はうなずいた。

「SSM-2Bは対艦攻撃用の誘導弾ですが、データを書き換えれば対地攻撃も可能です。さらにAV-8Jの対地装備もまだまだありますから、ここで使っても問題はありません」

 三枝の言葉に水島は腕を組んだ。

「首席幕僚。敵は降伏勧告を受諾すると思うか?」

「司令の言葉と思えません。最初にミレニアム帝国軍に降伏の機会を与えてあげれば、と言い出したのは司令ではありませんか?板垣司令官に具申したではありませんか」

「それはそうだが、よく考えてみると、敵が降伏する可能性はかなり低いと思ってな。自爆攻撃や最後の一兵にいたるまで抵抗している。これだけの統率力の高い軍隊に降伏を持ちかけるのは難しい。それもミレニアム帝国固有の領土ともなればなおさらだ」

 水島の言葉に三枝は艦橋からクーリッタン島を見た。

「今までの敵は攻撃側でしたから、自分たちが危ないと思えば、降伏してくれましたが、今度は防衛側ですからね」

「そうだ・・・」

 水島は目を伏せた。

 硫黄島、沖縄・・・第2次大戦末期、上陸した米軍は地獄を見ただろう。

 今、クーリッタン島に上陸している第2任務群は、その時の彼らと同じ気持ちではないかと思う。

 戦死者は出ていないとはいえ、これ程の強固な抵抗を受ければ、精神的なダメージは相当なのは容易に想像できる。

 強硬なタカ派と見られがちな笹木野だが、実際は部下に対する細やかな配慮ができる男だ。

 だからこそ、自説を曲げて自分に降伏勧告の要請をしてきたのだろう。

 これまでの、戦闘報告から敵の降伏勧告の受諾は無理なのではないかと、水島でさえ思い始めていたが、可能性があるのならそれに賭けてみるべきだ。

(彼らにも、家族がいるだろう。生きてさえいれば再び会うこともできる・・・手を差し伸べてみるべきだ)

 水島は心中でつぶやきながら、目を開けた。

「首席幕僚。クーリッタン島にいるナチス・ドイツ軍、ミレニアム帝国軍に降伏勧告を出す。準備をしてくれ」

「それでは、V-22Jによるビラ配りにいたしましょう。内容はいかがいたしましょうか?」

 三枝の問いに水島は少し考えた。

「ミレニアム帝国軍及びナチス・ドイツ軍の残存兵力に告ぐ、これ以上の戦闘は無駄な死を招くだけである。旗を降ろして降伏せよ。捕虜の安全は保障する、だ」

 水島の言葉に三枝は復唱し、メモする。

「では、ただちに準備にかかります」

「三枝」

 艦橋を出て行こうとする三枝を呼び止めた。

「私は、甘いか?」

「・・・甘いですね。ですが、それが悪いとは思いません」

 三枝は艦橋から降り、準備にとりかかった。

 水島は彼女を見送ると、司令席に腰掛けた。

(ちっ、緑茶がまずくなった・・・)

 マグカップに入った緑茶はすでに冷めていた。

(多くは望まないが、頼むから降伏してくれ。じゃないと、私はお前たちの頭上にミサイルと砲弾の雨を降らさなければならない)

 艦橋から、クーリッタン島を見つめながら、水島は敵の指揮官が人道的な武人である事を願った。



 早朝。

[ながと]からV-22Jと護衛としてAV-8Jが2機発艦した。

 V-22Jには大量のビラが積まれていた。

 ミレニアム帝国軍とナチス・ドイツ軍が立てこもる城の上空に行き、ビラを投下する手はずになっている。

 対空兵器を警戒して、高度を高くとり、接近した。

 幸運な事に城の上空に接近しても、竜騎士による攻撃や対空砲等の攻撃は受けなかった。

 V-22JとAV-8Jは城の上空を一回りして、ビラを撒く事にした。

 後部ランプが開き、機内に乗り込んだ隊員たちが次々とビラを外に投げる。

「配達は完了した。これより、帰投する」

 V-22Jの機長がそう言うと、機首をもと来たルートに向けた。

「いい決断を」

 機長は城を見下ろしながら、つぶやいた。



 ヴェールターは旅団長、騎士団長、兵団長たちを集め、早朝に自衛隊機が投下したビラの内容を確認していた。

「ずいぶんとなめた事をしてくれますね」

「レギオン・クーパーとの戦闘で損害は出ましたが、まだまだ、兵力は十分にあります。降伏等ありえません!」

「そうだとも!籠城戦なら、まだ我々の方が有利です」

 ミレニアム帝国軍の騎士団長や兵団長たちは口々にそう叫んだ。

「しかし、敵は我々だけではなく、兵たちにも降伏のチャンスを与えました」

 ヴェールターが出席者たちを見回しながら、告げた。

「旅団や騎士団はともかく、兵団の兵士たちは3等臣民や4等臣民出身者が占めています。私たちが彼らにしてきた仕打ちを考えれば、反乱になる可能性も考えられます」

 ヴェールターの言葉に騎士団長の1人が葡萄酒を飲みながら、言った。

「その時は、反逆者として処刑すればよろしいではありませんか?それに奴らの家族は帝国本土にいます。裏切れば家族も命はない、と言えばいいのではないのですか?」

 副将軍は頭を左右に振りながら、指摘した。

「そう簡単には運ばんぞ。兵団に所属している3等臣民と4等臣民が一斉に蜂起したら、こちら側にもかなりの被害がでる」

「では、どうするのだ!まさか、我々が下等どもに頭を下げるのか!」

「そんな事は言っておらん!」

 副将軍が机を叩いた。

「そんな事は問題ではありません」

 ヴェールターが静かに言った。

「3等臣民以下の兵たちには、このビラは嘘八百だ。信じてはなりません、と伝えてください」

 ヴェールターはもう一度出席者たちを見回した。

「私は降伏勧告を受諾しません。徹底交戦します」

 彼の言葉に、出席者たちは、おお、と声を上げた。

「所詮、女の率いる軍なぞ腰抜け揃いというわけですな。こんな、勧告などで我らが降伏なぞすると思うとは・・・」

 団長の1人が、小馬鹿にするような口調で感想を述べた。

「彼らの国の言葉に[武士の情け]というのがあるそうです。詳しい意味はわかりませんが、敵として相対したとしても必要以上に苦しみを与えてはならない・・・だったでしょうか・・・この指揮官は、それを理解しているのでしょうね」

「彼ら?敵の指揮官は女では?」

「ああ、そうでしたね・・・ですが、武士・・・武人であることには変わりません」

 この勧告を受諾しなければ、彼女は躊躇う事無く総攻撃を実行するだろう。

「恐らくは敵は、陸上部隊による攻撃を避け、ロケットや航空攻撃・・・つまり、魔道兵器を使ってここを破壊するでしょう。私はそれが狙いです。魔道兵器は無限にはありません。限りがあります。可能な限りここで消耗させれば、我が軍の勝算はあがります」

 ヴェールターは非道ともとれる命令を出した。

 玉砕。かつての日本軍が採った手段。

 カミカゼ攻撃、そして玉砕。今の日本軍の指揮官たちは自分たちの先達が使ったこの行為を逆の立場から目の当たりにする事になる。

(しかし、少し残念ですね。この降伏勧告を出した指揮官に会えないまま死ぬのは・・・)

 先だって、自爆船攻撃で軽空母の盾になった駆逐艦を撃沈する事に成功したが、その際、その軽空母と駆逐艦の通信を傍受できた。

 正直、笑った。よもや、あんな馬鹿みたいな説得をする指揮官がいるとは思わなかった。

 だが、同時にその指揮官の人となりにひどく興味を持ったのも事実だ。

「・・・しかし、時代も変わりましたね。海軍とはいえ、女性が将として前線で指揮をとるとは・・・」

 もっとも水島の場合、かなり特異なケースなのだが、彼が知る由もない。

 彼女は敵である自分たちに、こう言っている。「生きろ」と。

 優勢の軍の将の驕りでは無く、本心から自分たちが生きる選択をするように、願っているのだろう。

 もし、あのような人物が、自分たちの陣営に1人でもいれば、もっと違った形でこの世界に関わる事ができたかも知れない。

(ミズシマでしたか。できることなら1度直接会って、話をしてみたかったですね・・・)

 ヴェールターは、心の中でつぶやいた。

水島とヴェールター、どちらも双方の軍で最年少の将官で、穏健派という所は似通っていた。

 2人が直接会うことができれば、この戦いの結末は変わっていたかもしれない。



[ながと]のCICでは水島と三枝がデジタル時計を見ていた。

「2400(ふたよんまるまる)。司令、時間です」

 三枝が静かに言った。

(馬鹿野郎どもが、そこまでして死ぬ事を選ぶのか!)

 水島は奥歯を噛んだ。

 だが、敵は降伏勧告を受諾しなかった。ならば、彼女も作戦を遂行しなければならない。

 水島はゆっくりと口を開いた。

「攻撃始め」

「[はつせ]に指令、SSM-2B発射、上空待機中のAV-8J隊に爆撃開始命令を」

 三枝の指示で、通信士が攻撃開始を連絡する。

 攻撃命令発信から数秒後、[はつせ]からSSM-2Bが2発発射された。

 AV-8J隊も突撃を開始した。

 


 城は激しい爆音と爆風と炎に包まれていた。

 多くの兵たちの悲鳴と断末魔の叫び声が響く。

 ビリビリという振動が響く会議室で、ヴェールターと彼の幕僚たちは、無言でその光景を眺めていた。

 ヴェールターは、自分の幕僚たちに退去の指示を出したが、誰も退去しなかった。

 彼自身は、自分たちの手駒となった帝国兵たちを見捨てる事ができなかったのだ。

 そんな彼に、幕僚たちは同調したのだった。

 彼らの手には、ワイングラスがあった。

「総統閣下とゲルリッツ元帥閣下に栄光を」

「「「栄光を」」」

 ヴェールターの声に全員が唱和した。

 彼の前には1つのグラスが置かれていた。

(ミズシマ、貴女は貴女の望む道を行くといい・・・私は私の信じる道に殉じよう)

 グラスとグラスの合わさる涼やかな音が響く。

 撃ち込まれた空対地ミサイルによって、周囲は眩い光と激しい炎に包まれた。



 朝日が昇った頃、クーリッタン島の陥落が全部隊に通達された。


 完結篇前篇第10章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は3月5日までを予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ