完結篇 前篇 第5章 サブマリン対Uボート
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
私が住んでいるところでは、例年に比べて暖かいです。これでは2月という気がしません。急に寒くなるのは勘弁してほしいです。
第1統合任務艦隊の護衛艦[うらづき]と輸送艦[くにさき]は闇に紛れて、ミレニアム帝国領海に侵入していた。
[うらづき]艦長の大早幹男2等海佐は艦橋で闇に支配された海上を睨んでいた。
「見張り員を増員し、周囲の警戒を怠るな」
「了解」
大早の指示で見張り員の数が増員され、周辺海域の監視が強化される。
「CIC。対空、対潜、対水上レーダーに反応はないか?」
「何も反応はありません」
CICからの報告に大早は安心したようにうなずいた。
艦長席から立ち上がり、副長を連れ、ウイングに出た。
「誰にも見つかる心配はなさそうだな」
「はい。帝国軍もこの海域まで、手が届かない様子です」
「我々にとっては好都合だな。このまま、敵に見つからず、贈り物を届ければ言う事はない」
大早の言葉に副長はうなずいた。
[うらづき]と[くにさき]がミレニアム帝国の裏庭に侵入したのは、攻撃をするためではない。ミレニアム帝国内にいる反ミレニアム帝国勢力にフリーダム産の武器、弾薬を供与するためだ。
ミレニアム帝国の首脳部に気付かれてはならない、という事で見つからないように迂回路を通り、哨戒網を潜り抜けた。
当初、この任務は米軍の原潜に任せるべきだ、という意見が幕僚たちの中で出たが、原潜では運べる武器、弾薬が少なく、何度も往復させる必要があったため、却下された。それで輸送艦を使う事になったのだ。
当然ながら、輸送艦1隻だけで、行かせる訳がなく、護衛艦が護衛する事になった。
「艦長。反帝国勢力に武器を渡したとして、彼らは勝てるのでしょうか?銃の使い方もわからないそうですが・・・」
「そのために、現地に特殊部隊が潜入している」
「現地レジスタンスの教育、ですか」
「そうだ」
大早は副長に振り返った。
「君も知っていると思うが、戦争は軍人だけでは勝利はできない」
「いつも戦争で勝利の鍵を握るのは民衆、ですか」
副長の言葉に大早はうなずいた。
「その通り、いくら軍備を整えようとも国民に戦う意思がなければ戦争をしても敗北するだけだ」
「その点ではミレニアム帝国の国民はどう思っているのでしょうかね・・・」
副長が闇に支配された海上に視線を向けながら、つぶやく。
大早は目を伏せて、副長の言葉に答える。
「かつてのナチス・ドイツもヒトラーの言葉を信じ、道を誤った。多くの国民が支配という名の夢を見てしまった。恐らくミレニアム帝国の国民もそうだろう」
そう言いながら、大早の脳裏に1番考えたくない事が過ぎった。
ナチス・ドイツは連合軍の侵攻を受け、全国民に徹底交戦を命じた。ミレニアム帝国でも同じ事が起きるかもしれない。これまでは、ドイツ軍とミレニアム帝国軍に対して武力を行使していたが、今度はミレニアム帝国の国民にも武力を行使しなければならないかもしれない。
「・・・長、艦長?」
副長が自分を呼ぶ声に大早は我に返った。
「あ、ああ。すまない。考え事をしていた」
「お疲れのようでしたら、後は私に任せて休んではいかがですか?ミレニアム帝国の領海に入ったといっても、本土までまだまだ時間はあります」
大早は副長の提案を断ろうとしたが、副長の目を見て、従う事にした。
「わかった。私は少し休む。艦の指揮は任せるぞ」
「はっ。お任せください」
ミレニアム帝国南部のある砂浜は深夜になろうとしていた。
夜空を見上げれば、満天の星が輝いている。この世界の人間ではないハリーには見知らぬ星座である。
広大な大陸であるため、南部は中部と異なり、気温が高い。
ここには、転移魔法を使って来たのだ。
ハリーにとっては驚くべき事であった。転移魔法等、最初に話を聞いた時は何かの冗談かと思ったが、相棒のディラや異世界人が大真面目に言っているのと、実際に経験すると信じるしかない。
それどころか・・・
(この能力が我々の世界にあれば、使い方しだいではかなりの武器になるだろう)
と、ハリーは評価した。
「同志ハリー、本当に来てくれるの?」
アルトゥールが心配そうに囁いた。
「来る。合流地点はここで間違いないし、蜘蛛の巣からも作戦変更の連絡はない。何事も心配する必要はない」
ハリーは確信を持って、少年に答えた。
「それより、到着する武器、弾薬は本当に、その転移魔法というもので運べるのか?」
よく映画等で、そういうものは生きた生物しか運べない、というオチがある。ハリーはそれが心配だった。
もっとも、この知識は某SF映画の設定だったが。
今度はアルトゥールが確信を持った口調で言った。
「それなら心配ないよ。今、書いている魔方陣は物資を運ぶための転移魔法だから、大商会なら普通にしている事だから、実績のあるものだよ」
アルトゥールはちらっと魔方陣を書いている魔導師たちを見る。
ハリーも彼らを見る。
映画等でよく見るローブを被り、大きな杖を持っている。
ただ、彼の知識とは違うのは、魔導師は老人や老婆ではなく、普通に若い人もいる。
「でも、アルトゥール様の言う通り、本当に来るの?ここは帝国領なのよ」
ディラも心配した口調でハリーに尋ねた。
「大丈夫だ。我々、レギオン・クーパーを信頼してくれ」
ハリーがそう言い終えると同時に海上を見回していた若い男が叫び声を上げた。
「アルトゥール様。巨大な船が見えます!」
若い男の声にハリーは双眼鏡を取り出し、覗いた。
彼の指差す方に双眼鏡を向けると、2隻の艦を確認した。
「間違いない。[ウラヅキ]と[クニサキ]だ」
「同志ハリー。あれが、そうなのか?」
アルトゥールも望遠鏡を覗きながら、尋ねた。
「そうだ」
ハリーはうなずき、持ってきた通信機を作動させた。
「オッド・アイからブラックキャットへ」
「こちら、ブラックキャット。オッド・アイ、どうぞ」
[くにさき]の通信士から応答が返った。
「待っていた。届け物を頼む」
「了解。上陸地点への誘導を頼む」
「スモークを焚く」
ハリーは懐からスモーク・グレネード取り出し、それを投げた。
「上陸地点を確認。これより、LCACでプレゼントを届ける」
スモーク・グレネードから煙が出てから、すぐに応答があった。
しばらくしてから、ガスタービンエンジン音が聞こえてきた。
2隻のLCACが海上を滑るように砂浜に接近してきた。
砂浜に2隻のLCACが上陸し、レジスタンスに供与する武器、弾薬が陸揚げされた。
ハリーは陸揚げされた木箱の1つを開けて、アルトゥールたちに見せた。
木箱の中身はM1903A3[スピリングフィールド]、M3A1[グリースガン]、パンツァーファースト等が入っていた。
それを見たアルトゥールの部下たちは歓声の声を上げた。
「これであいつらと同等に戦える!」
「同志たちの無念を晴らせる!」
等と叫んだ。
「同志ハリー、ありがとう。これで僕たちはレギオン・クーパーと戦える。本当にありがとう」
「いえいえ、まだ、礼には及びません。これは支援のほんの一部です。我々は貴方がたに必要な物を供与する」
ハリーとアルトゥールは固く握手した。
「そうだね。まだ、始まってもいない。これからなんだね、同志ハリー」
「そうだ。戦いはこれからだ」
LCACは[くにさき]と砂浜を忙しく往復し、武器、弾薬を次々に陸揚げした。
陸揚げされた武器、弾薬は魔導師たちが転移魔法を使い、彼らのアジトに送る。
供与された武器は現地に到着している日米の特殊部隊の教育により、ゲリラ部隊が育成される。
[ノースダコタ]は深度80メートルを潜航し、速力6ノットで、海中を進んでいた。
ソナーが海中の異変を察知したのは、深夜を過ぎた時間帯だ。
「ソナーより、艦長。不明な音紋を探知しました」
ソナーからの報告にユウリは艦内マイクを取った。
「鯨か?」
「ネガティブ(いいえ)」
ソナー員はベテランのコリー兵曹長だ。
「潜水艦?」
「その可能性は十分にあります」
コリーの言葉にユウリとサムは顔を見合わせた。
「どう思う?」
「ありえない話ではないでしょう。第2次ラペルリ攻防戦でも、第2次大戦中の潜水艦(Uボート)を発見しております。まだ、いたとしてもおかしくはありません。問題は・・・」
サムが言おうとした事をユウリが言った。
「現代の潜水艦(Uボート)なのか、第2次大戦中の潜水艦(Uボート)なのか、か」
サムがうなずく。
「ソナー、気づかれている様子は?」
「不明ですが、その可能性は低いかと、思います」
潜水艦が潜水艦を探す方法はデストロイヤー(護衛艦)と同じである。パシィブ・ソナーとアクティブ・ソナーの2つである。
基本的にはパシィブ・ソナーしか使わないから、敵潜水艦の音を探知するしかない。
ユウリはスクリューを止め、パシィブ・ソナーで海中を探る事を思いつくが、すぐに却下した。
通常動力型潜水艦とは異なり、原子力潜水艦は音の塊である。たとえスクリューを止めたとしても、原子炉を稼働させているから、かなりの音が漏れる。
もちろん、防音設備は整っているが、やはり音は漏れる。
もし、敵が探知していたら、スクリューを止めるのは自殺行為だ。
「艦長。注水音探知!」
ソナーからの報告に、発令所に緊張が走る。
そして・・・
「魚雷発射音探知!後方2000!速度45ノット!」
「機関全速!2番、4番発射管開け!」
「機関全速!2番、4番発射管開け!」
ユウリの指示をサムが復唱する。
[ノースダコタ]は水中速力34ノットも出る原潜だ。
「艦長。敵潜水艦が判明しました。[212A]型潜水艦です!」
ソナーが報告する。
「ソナー。魚雷との距離が1000になったら、すぐに報告しろ」
「了解。距離1500、1450!」
ソナーからの報告にユウリは首にかけたストップウオッチを握る。
「デコイ発射用意」
「デコイ発射用意」
「こちら、ソナー。魚雷との距離1000!速度50ノット!」
ソナーからの報告にユウリは叫んだ。
「デコイ発射!」
戦術先任士官がデコイの発射ボタンを叩く。
[ノースダコタ]のスクリュー音をインプットしたデコイが発射される。
デコイとは、囮の事である。
「右舵一杯」
「右舵一杯」
操舵員が操作する。
接近中の魚雷2本はデコイを目標と誤認し、デコイに命中する。
衝撃波が[ノースダコタ]を襲う。
艦が揺れた。
「3番、4番、魚雷緊急発射!」
「3番、4番、魚雷緊急発射!」
ユウリの命令を復唱し、戦術先任士官が発射ボタンを叩く。
[ノースダコタ]から2本の魚雷が撃ち出される。
2本の魚雷は敵潜水艦に50ノットの速度で突進していく。
「目標まで1500!」
ソナーから報告が入る。
魚雷の接近に気づいた[212A]型潜水艦は回避行動を始めた。
[212A]型潜水艦もデコイを発射したが、ごまかされたのは1本だけで、もう1本は命中した。
ドドーン!という激しい爆発音が水中に伝わってきた。
「敵潜水艦。撃沈を確認!」
ソナーからの報告に発令所にいる乗組員たちが歓声の声を上げた。
「やりましてね。艦長」
サムが言った。
「ああ」
ユウリはうなずく。
だが、まだ、終わっていなかった。
「艦長!魚雷音探知!!」
ソナーから悲鳴が上がる。
「何だと!?」
サムが絶叫する。
「まだいたのか?」
これが通常動力型の潜水艦の利点だ。機関を停止し海底に潜んでいれば、パッシブ・ソナーでは探知する事はできない。
爆発音に紛れての機関始動。魚雷発射だ。
完全に、裏をかかれた。
「緊急回避!デコイ発射!」
[ノースダコタ]は左に舵を切り、デコイを発射する。
魚雷がかなりに接近していたため、[ノースダコタ]の近距離でデコイに命中した。
激しい衝撃波が[ノースダコタ]に襲い掛かる。
ユウリ以下乗組員たちは手摺等を握り身体を支える。
「魔女に比べれば、かわいいものだ。奴はたった1隻の原潜を撃沈判定にするために、太平洋艦隊にとんでもないハッタリをかましたのだからな」
皮肉な笑いを浮かべつつユウリは、攻撃命令を出す。
「1番、2番、魚雷緊急発射!!」
間髪を入れずに発射された魚雷は、爆発音で目標を見失っていた[212A]型潜水艦に襲い掛かった。
爆発音と衝撃波が再び[ノースダコタ]を揺らす。
「各部の被害報告をしろ!」
衝撃波が収まると、ユウリは艦内マイクに叫んだ。
「こちら魚雷室浸水!ただし、浸水は微少」
「機関室。異常なし」
「ソナー異常なし」
「兵員室浸水!ただし微少!」
「・・・乗員数名が転倒しました」
次々と報告が入る。
[ノースダコタ]の被害は極めて微少だった。
ユウリは、安堵のため息をついた。
「深度100まで潜航。この海域を離脱する」
サムが復唱をしてから、思いついたようにユウリに聞いてきた。
「艦長、ルテナント・コマンダー・クルシマは、どんなハッタリを使ったのですか?」
「聞かなければ良かった。と思うだろうな」
「は?」
「1つヒントを出せば、原潜を撃沈判定にした護衛艦に乗艦していた魔女は1人ではなかった。でなければ、一介の砲雷長のとんでもない具申をまるまる採用する変人な艦長が、いるわけがない・・・そういうことだ」
[やまと]の幕僚室で板垣は幕僚たちと会議を開いていた。
「失礼します。コーヒーをお持ちしました」
幕僚係の海士たちが全員分のコーヒーカップをトレイに乗せ、幕僚室に入室した。
もちろん、松野の姿もある。
幕僚係の海士たちがコーヒーを配り終えると、幕僚室を出て行った。
海士たちが退室してから会議が開始された。
「言うまでもないが、ミレニアム帝国本土侵攻には戦略拠点確保が必要だ」
板垣が咳払いして、言った。
「バラカス諸島クーリッタン島攻略は第2統合任務隊と第2任務群が担当する。我々は同島に送れられる増援部隊、艦隊を叩くのが任務だ」
板垣の言葉に幕僚たちはうなずいた。
「では、君たちの意見が聞きたい?」
上官がそう言うと、佐藤が口を開いた。
「バラカス諸島クーリッタン島はミレニアム帝国にとっても重要な島です。今まで以上の激戦が予想されます」
「同島の守備隊の数は相当数に及びます。これまでの戦闘をはるかに上回る規模です」
情報幕僚が現地の情報を記載した書類のページを開きながら、つぶやいた。
「恐らく今度の敵はドイツ軍の艦隊も現れるでしょう」
年少の幕僚が言った。
[ノースダコタ]がドイツ連邦海軍の[212A]型潜水艦と戦闘をした事はすでに知らされており、幕僚たちの頭を悩める材料の1つでもあった。
「海軍力も侮れませんが、ナチスがV-2ロケットを持ち込んでいる可能性も視野に入れるべきでは?」
笠谷の言葉に幕僚たちは黙り込む。
「この場合、V-2ロケットの改良版があるという事を、想定するべきでしょう」
島村が、考え込みながら懸念を口にした。
「新BMDモードを使う時がくるかもしれない、か」
板垣が目を伏せて、言った。
完結篇前篇第5章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は今月の12日までを予定しています。