世界の真実 第9章 新・聯合艦隊
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
ノインバス王国王都バラーに向けてV-22が飛行していた。
その機内で、笠谷は佐藤に尋ねる。
「なぜ、水島海将補は随員として加わらなかったんです?」
「司令官の決断の下、次の作戦行動への準備が必要ですからね。水島司令には、司令官の代理として、米軍、海保と協力して準備を進めてもらう必要があります」
と、言ってから佐藤は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「と、言うのが表の理由・・・実は、水島司令が付いて来たら目立ちまくって板垣司令官より司令官ぽく見えるから・・・なんてね、あの人の存在感、ハンパじゃありませんから」
「まあ、確かに・・・なら、代理で首席幕僚の三枝1等海佐が加われば・・・」
第2統合任務隊の代表として随員に加わった幕僚を見ながら笠谷はつぶやく。
「・・・もっと、存在感が強烈ですよ」
「・・・もしかして、笹木野1佐が加わらなかったのも・・・同じ理由でとか・・・」
2人は、同時に板垣と神谷を見る。
制服を着用していなければ、どちらも温厚な大学教授といった感じだ。
しかし、彼らの集団の中ではこの2人がNO、1とNO、2の指揮官なのである。
2日前、空母[やまと]の司令官室。
静かな夜だった。
板垣はパソコンに向かい合っていた。
彼は保存したファイルを開き、そのファイルを見ていた。
そのファイルには、ある人物についての生涯が記録されていた。
その人物の名は、大日本帝國海軍元帥山本五十六大将、だ。
山本五十六が生きた人生が、そのまま大日本帝國の歩んだ道である。日本が経験したすべての対外戦争を経験し、その生涯を、日本のより良い未来のために費やした。
日独伊三国同盟を最後まで反対し、陸軍、世論からの対米戦主張に屈する事なく、対米戦を反対した人物。
しかし、結局は世論に負け、対米戦を行わなければならなかった。
板垣が彼の生涯を見ているのは、これから自分たちがすべき事を、その答えを見つけるためだ。
餓島攻防戦で、ガダルカナル島から撤退する時、すべての日本軍将兵を救えなかった無念、米軍の北上を阻止できないと判断し、マリアナまで後退し、グアム、サイパン島を不沈空母にすると決めた時、最前線の部隊を捨て石にすると決断した時の苦悩。
板垣はそんな事を思い浮かべていると、ふと、米海軍の友人の言葉が頭の中を過ぎった。
「軍の指揮官というのは常に残酷な選択をしなければならない。ゲンブ、君は自分の部下に死ねと命令できるか?恐らく君はそれを躊躇うだろう。だが、武器を持つ組織の指揮官にそれは許されない」
板垣は目を閉じた
(俺は、部下たちに死ねと命令できるのだろうか)
板垣は自問した。
「いや、悩む必要はない。というか、俺にはその資格はない」
彼の脳裏に、戦死した自衛隊員たちの名前が過ぎる。
国連軍として、この世界で武力行使をした。それによって数多くの敵、味方が犠牲になった。彼ら、彼女たちの死を意味あるものにするには、1つしかない。
「平行世界のバランスの回復・・・そして、日本の防衛」
板垣は決断した。
「首席幕僚、第2部長。参りました」
「入れ」
板垣はパソコンのファイルを閉じた。
司令官室に佐藤と笠谷が入って来た。
「2人共、掛けたまえ」
板垣は応接用のソファーに腰掛けさせると、自分も彼らの向かいの席に腰掛けた。
「佐藤、笠谷。俺は決断した。現有装備のすべてを使って、ナチス・・・過去の亡霊と全面戦争をする」
板垣の決断に2人の幕僚は迷わず、告げた。
「司令官のご決断に異存ありません」
佐藤だった。
「司令官のご決断を支持します」
笠谷だった。
板垣は2人に頭を下げた。
「そして、全てが終わった後、全艦艇、車輛、武器を破壊、海中投棄する」
「我々が異世界人であるという証拠も消えてしまいますね」
佐藤がつぶやく。
「我々がこの世界で生きていく以上は、これしかありません」
笠谷も同意する。
板垣は立ち上がり、司令官室の奥にある保管庫のところへ向かった。
防秘レベルが高い文書を保管している保管庫だ。
厳重なセキュリティを解除する。
保管庫を開け、中に保管されている封書を取り出した。
「そ、それは!?」
佐藤が絶叫する。
笠谷も目を丸くしている。
板垣が持っているものは、将補以上の自衛官しか目にしないものだ。自衛隊内部でも都市伝説の指示書だ。
桜花号計画指示書。
大日本帝國の時代は海軍では大海令、陸軍では大陸令と呼ばれる命令書があった。
佐藤や笠谷も、法の改正により自衛隊の行動の幅が広がったため、かつてのそれに匹敵するような、命令書ができたという噂を聞いた事があるくらいだった。
それは自衛隊に、派兵、が発令された時に開封される、極秘文書だ。この計画書に書かれた指示に従い、派兵する部隊は、あらゆる軍事行動が許可され、交戦国に侵攻する。自衛隊法に明記されている、災害出動、内閣総理大臣の命令または各知事からの要請による治安出動、日本防衛のための内閣総理大臣の命令による防衛出動よりも、さらに重大な決断である派兵にのみに適用される指示書。
日本が世界の平和のために、平和の敵を武力で排除する事を決めた時にのみ、この指示書は保管庫から出される。
本来であればバルカン半島近海で開封されるはずだった。
海外派遣とは、まったく異なる。海外派遣では武器の使用は制限されるが、派兵には存在しない、それどころか、第3国に対し先制攻撃も許可される。
「まさか、これを使う事になるとはな・・・」
板垣はそうつぶやいた後、小声でつぶやいた。
「この罪は、俺が背負う・・・他の誰にも類は及ぼさない」
板垣は、いつもと変わらない表情で、自分の両腕ともいうべき2人に振り返った。
「幕僚たちを幕僚室に召集してくれ・・・それと、この世界の代表としてフレア殿下、アルシア殿下、クリスカ殿下、3王女殿下にも立ち会っていただく。第2部長・・・」
「はい」
「正式な書類は後になるが、君の妹さんを含めて従軍記者は[ながと]から[やまと]に移動してもらう・・・これからの我々の行動を彼ら自身で記録してもらうために」
1時間後、[やまと]の幕僚室には第1統合任務艦隊の幕僚全員と3人の王女、従軍記者を代表して笠谷の妹の真琴と1名の男性記者が、集っていた。
「法務官、文官。誓いの立ち会いを」
純白の制服を着た男と背広の男が板垣の前に立った。
立会人を確認した後、板垣は誓いの言葉を告げた。
「私、板垣玄武海将は、桜花号計画指示書を発動するのにあたり、日本国憲法と国際法を維持し、それを保護し、守り抜く事を誓う」
2人の立会人はうなずくと、元の位置に戻った。
板垣は、一呼吸置き、桜花号計画指示書の封を切り内容を確認した後、宣言した。
「私はここに、最高司令官内閣総理大臣及び国連決議の命令受理が不可能という非常事態において、これからの自衛隊、米軍、海上保安庁がとるすべての作戦行動に全責任を負う事を宣言する。我々は元の世界と平行世界の平和と安全のために、侵略行為を繰り返すナチス・ドイツ軍に対する武力行使と必要と思われるあらゆる措置を行う事とする」
板垣は、これが民主共和主義の軍隊として重大な罪である事を承知で、それを選択した。
彼は決してこれが正しい判断ではないと思いながらも、覚悟を決めた。
どこの国を問わず、法を超えた問題は必ず起きる。その時に、どうするかを判断するのは指揮官の勤めだ。
板垣は死刑を覚悟で、平和の敵を排除する事を決意したのだ。
「板垣司令官」
男性記者が、手を上げる。
「1つ質問をしてもよろしいですか?」
「何でしょう?」
「ミレニアム帝国との間に、和平ないし講和の交渉は持てないのでしょうか?」
「我々に、その選択もあります。しかし、現時点では難しいでしょう」
板垣の解答を佐藤が引き継ぐ。
「ミレニアム帝国、いえナチスはこの世界で自分たちの国を造るために、近隣諸国に侵略戦争を仕掛け、領土に組み込んでいます。我々と共存の道を歩むためには、彼らも保有する兵器を全て破棄しなければなりません。しかし、それを実行すれば彼らは自分たちを守る武力を失い国を維持する事が出来なくなります。それを、よしとするでしょうか?」
記者の言う可能性を考えなくもなかった。
彼らも、世界と共に滅びたくはないだろう。
しかし、彼らは第2次世界大戦の続きをこの世界で始めてしまった。今の彼らは自らの持つ軍事力で、自分たちの安全を確保しているようなものだ。
もし、その軍事力を失えば征服した国々によって滅ぼされるだろう。
つまりは恐怖だ。彼らが最初にこの世界に降り立った時、何があったかはわからない。
自分たちに当てはめて考えれば、たまたまであったとはいえ1国の王女の危機を救うというファンタジー小説のお約束をやらかしてしまった。
だから、ある程度この世界の人々と友好関係を構築できたのかもしれない。
自分たちは、運が良かっただけだろう。最悪、敵意と憎悪から我が身を守るための武力行使に踏み切るという可能性もあったのだから。
皮肉な話だ、レギオン・クーパー同士、しかもかつての同盟国同士が異世界で全面戦争を行う事になろうとは・・・それも、この世界の人々を巻き込んでだ。
「フレア殿下、アルシア殿下、クリスカ殿下・・・私は貴女がたに、謝罪をせねばなりません」
板垣の言葉で、佐藤は想像を打ち切った。
「本来交わる事のないはずの、この世界に災いの火種を持ち込み、さらに滅びの危機を招いてしまいました。この罪は許される事ではありません・・・必ず我々が決着をつけるとお約束いたします」
3王女に頭を下げる。
「イタガキ提督、頭を上げて下さい」
フレアの声に、板垣は頭を上げた。
「私は、ずっと貴方がたを見てきました。だから私は、自分の気持ちを信じます。貴方がたは、私たちにとって良き友人です」
「私もそうですわ。皆様がなさってきた事を胸を張って伝える事ができますもの」
「私は、殺されかかっていた時に助けて頂いた事を、忘れる事はありません。それはラペルリのみんなも同じです」
「・・・ありがとうございます」
「イタガキ提督、王都バラーへお越し下さい。父が伝えたい事があるそうです」
ノインバス王国の王城では、反ミレニアム帝国を旗印に、ノインバス王国、マレーニア女王国が中心となり群島諸国連合軍を結成していた。
早くからミレニアム帝国の脅威に警鐘を鳴らしていたノインバス・マレーニア両王国と異なり、我関せずであった他の国々も、ここにきて進んで参加を表明した。
ラペルリ連合王国が、侵攻を受けた事で対岸の火事で済まないと誰もが理解した事が一番の理由だが、それを撃退した強力な味方を得たという事が大きい。
レギオン・クーパー。
その戦いぶりは、各国の観戦武官によって母国に伝えられている。
キルリック教国は、彼らに対し支援と聖騎士団の派遣を表明しているし、どの国家にも属さなかった[オルティス団]が進んで彼らに同盟を申し込んだ。
この事実がこの王城の謁見の間に集った一同に、義は自分たちに有り。と感じさせた。
これを知れば、板垣たちは困惑するだろう。
そして・・・彼らは来た。
板垣を筆頭に、神谷、第1統合任務艦隊と第2統合任務隊の幕僚代表数名と米軍の代表としてジャンとブライス、海保からは松野幸太郎2等海上保安監だ。
「よく来てくれた、イタガキ提督。今日貴公らが参じたという事は、我々と共にミレニアム帝国と共闘してくれると理解してよろしいか」
「リオ国王陛下」
「なんだ、イタガキ提督」
「これより、我々はミレニアム帝国に宣戦を布告し全面戦争をする態勢に入ります」
おお、と謁見の間がざわついた。
レギオン・クーパーが本格的に戦争に参加すると明言したのである。
板垣の言葉には続きがあった。
「我々はノインバス王国、マレーニア女王国を含む群島諸国連合軍に対し、国連軍として支援や協力は惜しみません、ですが、貴方がたの指揮下には入りません。我が自衛隊の指揮権を持つのは内閣総理大臣と日本国民です。これは、断じて譲れないのです」
「アメリカ軍もだ」
「海上保安庁もです」
リオは静かにうなずいた。彼は、板垣たちがそう言うであろうと知っていた。
「今ここに、我らは頼もしき友軍と共に、ミレニアム帝国を破り、群島諸国等に平和をもたらすと誓う!!」
リオの宣言に、各国の代表者からの異議はなかった。
全員がおおっ!!と声を上げる。
「レギオン・クーパーは反ミレニアム帝国連合軍に協力してくれる事を約束してくれた。そこで、俺は重大な発表とイタガキ提督に要請がある!」
リオは一呼吸置く。
「群島諸国連合軍の全兵力、全指揮権をイタガキ提督に預ける」
「なっ!?」
板垣は驚愕した。
自衛官、米軍、海保たちも目を丸くしている。
フレアとアルシアは表情を変えず、普通である。どうやら事前に知っていたようだ。
リオは板垣に向いた。
「イタガキ提督。群島諸国の命運を貴公に預けたい」
板垣は面食らった。
まさか、逆パターンで来るとは思わなかった。
群島諸国連合軍の指揮下に入れではなく、その指揮権を譲るとは、完全に盲点であった。
しかし、彼らは自分たちを友軍として受け入れてくれたのだ、この程度のことぐらいは受け入れてもいいだろう。
「承知しました。群島諸国聯合艦隊、預からせていただきます」
謁見の間の自衛隊員たちの背後で女性用の黒いスーツを着た従軍記者の真琴が手帳にこれまでの話を記入していた。
彼女の手帳には、板垣司令官、新・聯合艦隊司令官に就任と書かれていた。
これからの、戦いの意義はこの世界の後世の人々によって判断される。
自分たちの役目は、その判断材料になる記録を後世に残す事だ。
異なる世界で、時代の異なるかつての同盟国同士の戦争。
それが、この世界に何をもたらすかは今は誰もわからない。
決して正義とは言えない戦い。
それを、最後まで公正に記録する・・・真琴は、そう考えていた。
世界の真実第9章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は今月の12日までを予定しています。




