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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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救出 第10.5章 生きる意味 生者の苦悩・死者の呪歌

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 今回は脇役の者たちがメインです。

 状況は終了した、[やまと]と合流した艦隊は、ノインバス王国への帰路に就いていた。

「顔を洗ってくる、しばらく後を頼む」

 そう言って、CICを退室した来島の表情は、今まで誰も見た事が無いほど酷いものだった。



 洗面所で手を洗い、顔を洗う。しかし、それでも心の内に巣食った闇は消えなかった。

 後悔、とも自責の念とも言ったものに、散々に叩きのめされた。

「私のせいで5人死んだ・・・」

 中央突破・・・あのままいたずらに、時間を費やせば状況はさらに悪化しただろう。

 だから、リスクを承知で具申した。

[しれとこ]の後部銃座で敵の魔道砲に至近からの直撃を受け戦闘要員5名が戦死した報告を聞いた時、足元が崩れるような錯覚を覚えた。

 結果からいえば、来島の具申を受け入れたのは稲垣であり、秋笠であるのだから、来島1人の責任とは言えないし、誰の責任でもない。

 戦場では生死の境界など判らないのだ。

 だが死んだ者から見れば、ただの言い訳だ。

 彼らは言うだろう。「なぜ、お前は生きている?なぜ、自分たちは死んだのだ?」と。

 鏡に映った顔は酷く、疲れていた。

「佐藤、君ならあの時どうした・・・?姉さん、アンタならどうする・・・?」

 自分が目標とする2人の戦術家に問いかける・・・答えはない。

「・・・・・・!!」

 鈍い音とともに、鏡に映った自分の顔にヒビが入った。

 それで我に返った。

「・・・また始末書・・・」

 ポツリとつぶやいた。



[しれとこ]の喫煙室で高井はまずい煙草を吸っていた。

「・・・・・・」

 高井は煙草の煙を天井に向けて吐いた。

「・・・6人が戦死したか・・・」

 高井は煙草を始末しながら、ポツリとつぶやいた。

「お前たち、まだ俺に仲間の死を見続けろというのか・・・」

 彼は胸ポケットから写真を取り出し、つぶやく。

「だが、それがお前たちの意志なら俺はそれに従おう」

 そう言いながら煙草の箱からもう1本を取り出し、口に咥える。

「珍しいわね」

 突然かけられた女声に高井は、わずかに驚き、振り返った。

 喫煙室のドア付近に不思議そうにこちらを見ている南場の姿があった。

「1尉か、なんで喫煙室に、あんたは煙草を吸わないだろう?」

 と、言いながら高井は煙草に火をつける。

「高井君がここにいると思って」

 南場は疲れた表情と何か思い悩んでいる様子で言った。

「でも、いつも戦闘後の煙草は1本だけじゃないの?」

 彼女の質問に高井は煙草の煙を吐きながら、答えた。

「どうも、心の中の妙な感じが消えないだけだ」

「そう」

 南場は短く答えた。

「コーヒーでも飲むか?」

 高井は彼女が思い悩んでいるのを察し、コーヒーをすすめた。

「うん」

 南場がうなずくと、高井は喫煙室に置いてある紙コップを2つ取り、インスタントコーヒーの粉をコップに入れる。ポットからお湯を入れて、1つを彼女に渡す。

「チビなのに、気がきくわね」

「どいつもこいつも・・・そんなに殺されたいか」

 そう言いながら高井は長椅子に腰掛けた。

 南場も隣に座る。

「・・・・・・」

 南場は黙ってコーヒーをすする。

「あんたのせいじゃない」

「え?」

 南場は高井に振り向く、彼は煙草を始末しながら、告げた。

「戦車砲で死ぬ奴、弓兵で死ぬ奴、全部あんたのせいじゃない。戦争なんだ。犠牲のない戦い等ない」

「いえ、私のせいよ。きちんと火力支援体制を万全にしていたら、こんな事にはならなかった。だから・・・」

「あ~だったり、こう~だったり、そう~だったら、いいよな。あんたはよくやったよ。戦死者を6人に止めた。後悔からは何も生まれない。後悔するより、次の戦闘でどうするか、それを考えろ」

「・・・・・・・」

 高井の言葉に南場は沈黙した。

「1つ聞いていい?」

「まだ泣き言か?」

「違うわ」

 高井の言葉に首を振った。

「高井君には戦う理由があるの?」

「・・・・・・」

 南場の問いに高井は黙り、立ち上がった。

 数秒の沈黙の後、彼は答えた。

「戦争は人間を人間で無くす、平和な世界では忌み嫌われる殺人が合法的になる。そしてそれにどっぷりと浸かった人間に、人の声など届かない」

「それは、どういう事?」

 南場は高井の言った事がわからないらしく首を傾げた。

「1言で言うなら俺は狼になれなかった負け犬・・・」

 そう言って、煙草を灰皿の中に捨てた。

「後はじっくり考えて、俺の言った意味の答えを出すんだな」

 高井は喫煙室から退室した。



 生き残った彼らは呆然と暗い海を眺めていた。

 あれからどれくらい時間がたったのか分からない。

 霧が闇を白く染めていく。あれは夢だったのかと思うほど、海は静かだった。

 パトリシアをはじめ、今ここには10人を超える数しかいない。

 皆、あの海に消えてしまった。

「皆さん、ご無事ですか?」

 温かく、優しい声。あの銀白色の髪と目の黒服の男だった。

「「「!!」」」

 全員が慌てて片膝をついた。

「怪我をした方はいらっしゃいますか?」

「いいえ・・・私たちは・・・不様に・・・生き残って・・・」

 涙が溢れ、声が途切れた。

「生きていてくれているだけよいのです、亡くなった方々のためにも、生きなくてはなりません。きっと陛下も同じ事を仰られるでしょう、あのお方はご自身の臣民を愛していらっしゃいますから」

「教えてください。我々は何と戦ったのですか?あの艦隊は・・・神か悪魔でなければあのような・・・」

 誰かが声を上げた。

「そうですね、はっきり言えるのは、あれは敵です。悪魔の力を持った人間たちとでも言うべきでしょうか・・・」

「悪魔・・・」

 パトリシアは振り返って海を見た。あの霧の彼方に奴らは去って行った。

 友を、上官をこの暗い海に沈めて。

「殺してやる・・・」

 心の奥底から黒い炎がゆっくりと燃え上がる。それが全身を包んでいった。

「殺す、コロス、必ず殺してやる!!」



「次は、本気を出さねばなりませんね」

 今回は挨拶のようなものだ。2等臣民が何人死のうがどうという事はない。

 彼らがここに来たのはキスカを占領するのが目的ではない。

 この島にある資源が目的だ。

 地質学者の話で、可能性が高いと言われて調査に来ただけだった。

 邪魔な島民どもを、連れ去ってくれてむしろ感謝するくらいだ。

 少々の小細工の演出のために、軍を動かしたが、なかなか楽しませくれた。

 しかし、あの日本艦隊の戦い振りは美しかった、敵ながら賞賛に値する。

 特に、中央突破の先頭を切った巡洋艦は、さながら[海のワルキューレ]と形容しても良い。

「ぜひ、この手で沈めたいものですね」

 だが、その前に自分にはやるべき事がある。

「さて、仕事にかかりましょうか」



 後日、ネオベルリンに電文が届く

・・・ウランノ、コウミャクヲハッケンセリ・・・

 救出第10.5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は8月24日までを予定しています。

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