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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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平行世界 第2章 もう一つの世界

 みなさん。おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 

 長い長い時が経ったような気がした。はたして気絶でもしていたのか、はたまた、職務中に居眠りをしてしまったのか。

 夢だったと言われれば信じるしかしないほど唐突に、空母[やまと]から発生した白い光が艦隊を包み込んだ途端に嘘のようにおさまった。

 太陽の位置から言って、まだ昼頃だ。そう長い時間が経ったわけではなさそうだ。時計をたしかめる。

 最後に見たときから1時間しか経っていないのに驚く。

 陸上自衛隊第1任務団普通科連隊所属の久松(くまつ)(しょう)()2等陸尉は、きょとんとしていた。

 久松は今年で26歳になる幹部自衛官である。

 彼はこれまでの自分の行動を思い返した。

 船酔いで医務室に行き、海自の医務官から酔い止めの薬を押し付けられて、門前払いされた。

 居住区に戻り、休もうとした時に上官に外に出て潮風にあたってくるといい、と言われ上官の言葉に甘え。気分の悪い部下たちと共に甲板に出て潮風にあたっていた。

 そんな時に空母[やまと]から謎の光が発生したのだ。

「あ、あれ、なんか、おかしいことが起きませんでした?」

 20歳にもなっていない陸士長が言った。

「ああ、俺も見た」

 大賀2等陸曹がつぶやく。

「小隊長。何がどうなっているんですか!?」

 陸士長がさらに声を上げる。

 それを聞きたいのはこっちだ、と久松は思った。

 しかし、指揮官がわからないと言うのは言語道断だ。

「情報を集積せずに結論を出すのは早い。まずは我々でできる範囲で情報を収集することだ」

 久松はそう言ってから、二人に体調を聞いた。

「2人共、どこか痛いところはないか?なんでもいい、異常があれば教えてくれ」

「頭にちょっとした靄がかかったようですか、他は何も・・・・船酔いは治りました」

「自分も同じです。船酔いはまだ治っていませんが」

 2人の体調を聞いて、これというものがないことを判断した久松は次に甲板に固定されている迷彩柄のヘリ群を見回した。

 陸自(陸上自衛隊)の整備員たちも何が起きたかわからず、キョロキョロしているが、それ以外は別になんともなっていない。

 異常が起きる前のままだ。

 次に艦隊を見るが、艦隊も何事なく航行している。

 海自じゃないからわからないが正常に航行していると思う。

「艦長より達する。甲板上で作業中の陸自隊員は指定された居住区に戻り、人員の点呼をせよ」

 突然、艦長から艦内放送が響いた。

「繰り返す。甲板上で作業中の陸自隊員は指定された居住区に戻り、人員の点呼をせよ」

「聞こえたな、戻るぞ」

 久松はそう言って艦内へと戻った。

 僚艦からも同じ艦内放送が流れた。

 久松はいやな予感を感じながら、歩くスピードを速めた。



 一方、イージス艦[あさひ]のCICでは騒然となっていた。

「水上レーダーに感あり!左舷前方距離3マイル不明艦5隻。速力12ノット」

 レーダー員が叫び声を上げる。

「3マイル!?なぜそこまで探知できなかった?」

 砲雷長が叫んだ。

 砲雷長は艦の戦闘を指揮する責任者。

 戦闘指揮所(CIC)は、戦闘艦の頭脳と言える場所で艦内奥深くにあり、窓はなく常に薄暗い。レーダーやソナー等の各種探知装置や兵器の火器管制まで、あらゆる情報が集まり、ここで一括管理、指令が行われる。

[あさひ]の艦橋では艦長の稲垣(いながき)海男(うみお)1等海佐は副長と顔を見合わせた。

「見張り員。確認できるか?」

 稲垣はウィングに出て、見張り員に問うた。

「左舷前方距離3マイル、ふ・・・・・」

 見張り員はそこまで言って息詰まった。

「どうした?」

「はっ!不明艦を確認!帆船です!」

 見張り員の報告に稲垣以下艦橋に詰めていた乗員たちが顔を見合わせた。

「映画の撮影か何か、か?」

 航海長が言った。

「か、海賊旗を掲げている」

 士官の誰かが言った。

 稲垣は双眼鏡を覗いた。

「どうやら、海賊船に襲撃されているようだな」

「そのようですね」

 副長が答える。



[やまと]のCICでも、艦外カメラが撮った海賊船と不明船の映像が映し出されていた。

 CICには、板垣以下幕僚たちの姿があった。

 幕僚室の出来事は何一つ解決していない。というより、気がついた時には、あの女性の姿はなかった。

(次から次へと)

 板垣は想像を超える出来事が続き、いらいらしていた。

 海賊船が砲撃を開始した。

「ほ、砲撃!」

 佐藤が叫んだ。

 不明船2隻のうち、しんがりの船に被弾した。

 海賊船3隻のうちの1隻がこちらに側面を向けて、砲撃した。

「こ、攻撃だと!?」

 幕僚の1人が悲鳴を上げた。

 海賊船の砲弾は[あさひ]のはるか前方の海上に命中した。

 水柱が上がる。

「海賊・・・・いや、砲撃した不明船は我々に対し敵対行為をしたと判断する。国際法に則り、危険を排除する」

 板垣は冷静に言った。

「待ってください!」

 板垣の決断に佐藤が待ったをかけた。

「状況もわからなず戦端を開くのは危険です。今、わかっていることを慎重に統合しますとあの帆船群は映画の撮影等ではありません。紛れも無く現実で、現在戦闘中・・・・・いや、逃走中と追跡中です」

「我が艦隊に対し攻撃してきたのは事実です。正当防衛に該当します」

 幕僚が言った。

「司令官!被弾した帆船が」

 幕僚の一人が画面を指しながら叫んだ。

 幕僚たちとCICの乗員たちが画面を凝視する。

 被弾した帆船が転覆しながら沈んでいった。

「首席幕僚。責任なら私がとる。砲撃した不明船に対し、正当防衛射撃を実施する」

 板垣がそう言うと、通信士に振り返った。

「[あさひ]に指令、砲撃船に対し、正当防衛射撃を行え、と」

「りょ、了解!」

「はぁ~」

 佐藤が大きくため息をついた。



[あさひ]のCICでは、艦長稲垣の指令が届き、艦内に水上戦闘を知らせる警報ブザーが鳴り響いた。

「対水上戦闘用意!これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない」

 アナウンスが流れる。

 CICの乗員たちは落ち着いた表情で自分の任務をこなしていた。

「目標2(ふた)。針路変更。本艦に接近中、距離2マイルをきります」

「砲術長。砲撃した艦は追尾中だな」

「もちろんです」

 砲雷長の問いに砲術長はうなずいた。その唇に冷笑を浮かべて彼女はうなずき返す。

「よろしい、誰にケンカを売ったのか教えてやれ」

「右、水上戦闘。CIC指示の目標、主砲、撃ちぃ方始めぇ」

 艦長の指示を受けて、砲雷長は復唱する。

「主砲、撃ちぃ方始めぇ」

 射撃員がピストル型の射撃装置を持って、「撃ちぃ方始めぇ!」と言いながら、そのトリガーを引いた。

 すると、艦首に搭載されている62口径5インチ速射砲の砲塔が素早く旋回し、自動装填された砲弾を目標に向けて発射した。

 30メートル未満の木造帆船等、直撃すればひとたまりもない。

 砲弾は帆船の船腹に直撃し、激しい爆発をおこした。船腹に空いた大きな穴に、そこから大量の海水が入り込んだ。

 帆船はあっという間に沈んでいった。

 残った2隻の海賊船は、唖然と見ていたがすぐに正気を取り戻し、反転して離脱した。

 2隻の逃走を見ていた稲垣は隊司令に追撃は必要か、と聞くとすぐに不要の返答が返ってきた。

「ここはいったい・・・・・どこなんだ?」

 稲垣は部下に聞かれない小声でつぶやいた。

 防衛大学と幹部候補生学校を首席で卒業し、40代前半でイージス艦の艦長になったエリートでも、この事態を説明することはできなかった。



 一方、海賊船に追跡されていた使節船では、突如として現れた謎の艦隊(?)に唖然としていた。

 使節船は王からの命を受けて、ある事態について隣国と交渉していたが、いい返事が貰えず、帰路についていた。しかし、その途中で海賊船3隻に襲われた。

 護衛船は撃沈され、白兵戦に備えていた時、突如として現れた艦隊は、魔道砲らしきもので一撃で海賊船を沈めた。

「あれは船なのか・・・・・?」

 水夫の1人がつぶやいた。

 海の上を航行しているのだから、それは船であることは間違いない・・・・・しかし、その船は恐ろしくでかい。

 この世界の常識で、一番でかい船は交易船だ。

 だが、あの艦隊は・・・・一番でかい船は6倍はある。

「・・・・・・まるで、動く島だな」

 年輩の水夫が漏らした。

 数は10隻、色は灰色、全体的に角張っていて、帆やそれに類する物は一切見えない。明らかに自力で航行している。

 しばらくして船員たちは、はっ、としたように剣や弓を持ち出した。

「その必要はないわ」

 騒然としていた甲板上で冷静な口調で女性の声がした。

 水夫たちは一斉に声がした方に振り返った。

 そこには使節団団長でありノインバス王国の第1王女フレア・クレ・ノインバスがいた。

 金髪をきりっと結い上げた20歳になったばかりの美女である。

 彼女は海の色と同じ色の目で灰色の物体を見た。

「あの艦隊が敵ならすでに私たちは砲撃を受けているわ。あの船の魔道砲の威力は貴方たちも見たでしょう?」

 フレアは水夫たちを見回した。

「・・・・ふ、不明艦隊から、謎の光!」

 見張りからの報告に水夫たちは灰色の物体を凝視した。

 確かに灰色の物体から光が見える。それも不自然に消えたり光ったりしている。

「ま、魔法攻撃か!?」

「ひっ!」

 水夫たちが騒ぎだした。

 フレアはそう思わなかった。

「違うわ。あれは信号よ」

 フレアは直感したことを告げた。

 だが、何を伝えようとしているのかはわからない。

「手旗信号を。彼らに通じるかどうかわからないけど、やってみて」

 フレアはとりあえずそう指示した。



「不明艦より手旗信号」

[やまと]の航海長がCICに報告した。

「に、日本語のようだぞ」

 艦橋から驚いた声でCICに届いた。

「解読しろ」

[やまと]艦長である(たて)(よし)一三男(いさお)1等海佐が指示した。

「はっ、本船はノインバス王国の使節船。こちらの信号はわかるか、わかれば手旗信号で応答せよ、です」

 航海長からの知らせに、幕僚たちは顔を見合わせた。

「間違いないんだな?」

 立吉は再度確認した。

「2回繰り返しました。間違いありません」

 航海長の言葉に立吉は腹心の部下である彼女、副長兼飛行長の城嶋(じょうしま)七海(ななみ)2等海佐と顔を見合わせた。

 板垣も笠谷、佐藤と顔を見合わせる。

「ノインバス王国?」

「そんな国あったか?」

「ある訳がない」

 幕僚とCICの乗員たちがどよめいた。

「司令官。私の知るかぎりノインバス王国という国は存在しません」

 笠谷が言った。

「うう~ん」

 板垣は腕を組み、唸り声を上げた。

「艦長」

 板垣は立吉に振り向いた。

「応答させろ」

「はっ」

 立吉はすぐに答えると、艦橋に通信した。

「返答内容は?」

 航海長が尋ねる。

「内容は、こちら日本国海上自衛隊空母[やまと]。必要であれば救助活動に協力する、だ」

 板垣は必要最低限のことを伝えることにした。



「不明船より手旗信号」

 見張りが報告する。

 むろん、内容も、

「カイジョウジエイタイ?」

「ニホン国?」

「そんな国、聞いたこともない」

「どこか遠い国の船か?」

 水夫たちがつぶやく。

 フレアも少し首を傾げたが、気を落ち着かせて、応答するように命じた。

 船長から応答の内容を聞かれると、フレアは少し考えてから、言った。

「救助活動の協力は不要。心遣いに感謝する。貴船への乗艦を許可されたし、と」



 板垣は水色と濃紺が細かく交じり合った海自のデジタル迷彩服から夏服の制服に着替えて、通用甲板にいた。

 隣には同じく夏服に着替えた佐藤と島村、空自の航空団幕僚長である岩澤(いわさわ)(しげる)1等空佐、笠谷がいた。

 2人の空自もグレーを基調としたデジタル作業服ではなく夏服の制服姿だ。

 不明艦からの突然の申し出に板垣たちは驚いたが、現在の状況を把握するため[やまと]への乗艦を許可したのだ。

 木製の小舟が[やまと]に横付けすると梯子を降ろした。

 その梯子に3人の男女がつかまり、通用甲板に昇った。

 1人の男は軽装ではあるが腰に剣を掲げている。2人の男女は武器になるような物はもっていない。

 3人が昇りきると、板垣たちは挙手の敬礼をした。

 3人は最初その行動に目を丸くしたが、すぐに拳を胸にあてた。

「日本国海上自衛隊第1統合任務艦隊司令官板垣玄武海将です」

「ノインバス王国第1王女フレア・クレ・ノインバス」

「クーモンズです」

「ノインバス王国王族騎士団副団長アーノル・フ・ランズリ」

 フレアたちが自己紹介すると笠谷たちも自己紹介した。

 双方の自己紹介を終えると、板垣は彼女たちを司令官室に案内した。

 武装した護衛がいるため、こちらも警務官(MP)を司令官室に入れて会談した。

 会談するのは司令官である板垣、艦長の立吉、艦隊幕僚長島村、航空団幕僚長岩澤、首席幕僚佐藤、第2部長笠谷、フレア、クーモンズである。

 護衛のアーノルはフレアの背後に立っている。

「・・・・・・先ほどは危ないところを救っていただき感謝しています」

 フレアが切り出した。

「いえ、我々は別に貴方がたを助けた訳ではありません。彼らが我々に敵対行為をしたため、危険を排除しただけなのです」

 板垣はきっぱりと言った。

 この言葉に、フレアたちは眉をひそめた。

「そうですか」

 フレアは落ち着いた口調で言った。

「では、お尋ねしますが、二ホン国はいったいどこにある国なのですか?見たところ海軍のようですが、カイジョウジエイタイとはなんなのですか?」

 フレアの問いに、板垣たちは顔を見合わせた。

 正直、なんて答えていいのか、わからないのだ。

 状況は何一つとしてわかっていないのだ。

「私たちもわからないのです。我々の母国である日本が消滅しているのです。詳しい事はこれから調査するので、解答はひかえさせてください。海軍がどうかの質問ですが、他国から見れば立派な海軍です」

 板垣は答えられる範囲で答えた。

「では敵ですか、それとも味方ですか?」

「そのどちらでもありません。それどころかどこに行けばいいのかもわからないのです」

 板垣の言葉にフレアたちは顔を見合わせた。

「わかりました。理由がどうあれ、私たちを助けてくれたのは事実です。どうでしょう我が王国に来てはいかがでしょう」

 フレアの提案に一同は驚いた。

「我が王国に来ていただければ何かしらの状況はわかるでしょう。詳しいことは王城で聞きます」

 確かにそうであろう。

「わかりました。部下たちと話し合った上で結論を出します」

 板垣は少し考えてから、告げた。


 みなさん。第2章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、その辺はご了承ください。

 次回もよろしくお願いします。

 次回の投稿は次の日曜日までに投稿いたします。

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