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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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ラペルリ奪還 第6章 会談

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

「やまと」の通用甲板で海自の夏服に着替えた板垣たちは、マレーニア女王国軍の来訪者を受け入れるため、整列していた。

[あさひ]からの連絡でマリーニア女王国軍の将軍が面会を求めている事を知らされると、板垣は2つ返事で了承した。

 板垣以外に、島村、岩澤、立吉、佐藤、そして[やまと]に帰還したばかりの笠谷、アンネリもいた。

 ラッタルを上がる音が響くと、掌帆長が出迎えのサイドパイプを吹奏する口の端に咥える笛の音色は海鳥がさえずるような響きだ。

 ピィーフィィ・・・

 ラッタルを上り、甲板に姿を現したのは、銀髪に褐色の肌に長身の男・・・いや、人ではない。

(エルフ・・・いや、たしかダークエルフだったな)

 板垣は異世界の事を知るため、乗組員たちからファンタジー系統の書物を借り、読んでる中で、ダークエルフという種族がたびたび登場しているのを思い出した。

 板垣がダークエルフの男と目が合ったと同時に挙手の敬礼をした。

 ダークエルフの男も板垣の前に立つと、右拳を左胸にあて、答礼した。

「マレーニア女王国陸軍ラペルリ連合王国援軍総大将ガルド・ド・アリング」

「日本国海上自衛隊第1統合任務艦隊司令官板垣玄武海将です」

 2人の上級指揮官が名乗り終えると、甲冑を着込んだ騎士たちが姿を現した。おそらく、参謀と護衛、従兵たちであろう。そして、最後にエルフの青年が上ってくる。

「アハト」

「母上」

 アハトと呼ばれた20代前半の青年は、(おそらく20代ではなかろうが)喜びに満ちた表情で母と再会した。

 だが、2人はそれ以上の再会の喜びの言葉は口にしなかった。2人共長く生きているだけあってそれ以上の言葉は必要ないようだ。

「こちらへ」

 板垣はガルドたちを艦内へ案内する。

 艦内の通路に入った途端に外との気温ががらりと変わり、ガルドたちは驚く。

「驚かれるのも無理はありません。これはエアコンというものです」

 佐藤が短く説明する。

「ふむ。風か水系統の魔法の一種か?」

 顎を撫でながらガルドがつぶやく。しかし、その表情は自分の答えに納得していないように見える。



 一方、食堂ではコーヒーカップをトレイに乗せている松野がいた。

 彼女の服装はデジタル迷彩服ではなく、女性自衛官用の純白の制服だ。

 彼女はこれからコーヒーを幕僚室に持っていくのだ。

「松野ちゃん!」

 大声で松野を呼びながら、1人の女性自衛官がものすごい勢いで食堂に突入してきた。

東上(とうじょう)3曹。ど、どうしたのですか?」

 東上は松野に体当たりをするかのように駆け寄り、両肩に両手を叩きつけ、激しく揺さぶりながら叫んだ。

「幕僚室にコーヒーを持っていく役、私にやらせて!」

「え、でも・・・」

「大丈夫、首席幕僚、艦長、副長、当直士官にも許可はとってあるから。お願い!」

 ものすごい熱意のこもった眼差しに松野は圧倒されていた。

 食堂で映画鑑賞していた隊員たちが何事かかねという表情で振り返り、その光景を見守っていた。

 彼女は松野以上にライトノベル系のオタクで、自衛官になった理由も、ライトノベル系の書物、DVD、フィギュアを購入するための資金を得るためである。

 趣味が一緒だから、松野とはすぐに意気投合し、それ系統の話を8時間語り合った程だ。

 東上は特にダークエルフが好きで、ダークエルフのフィギュアは500以上あるらしい。さらに、その話になると誰かが止めるまで延々と語る。

「松野ちゃん!一生のお願い!」

 東上の何度目かわからない一生のお願いが来た。

 松野は頭痛を感じた。

 彼女が松野に、一生のお願い、と頭を下げたのは[やまと]に着任した時から始まった。最近では、艦隊が出港する1月前ぐらいに、新作のフィギュアが発売したから、それを買おうとしたのだが、お金が足らず、松野から3万円借りたのである。

 海曹が海士から金を借りる等、言語道断である。

「一生のお願い!」

 今度は手を合わせた。

 これも何度目かわからない。

「・・・・・・」

「・・・そう、松野ちゃんがそういう態度なら」

 東上は悪魔のような笑みを浮かべると、対松野をうんと言わせる術を口にする。

「今度、貴女の想い人をデートに誘おうかな」

「なっ!駄目です!わ、わかりました。コーヒーを持っていく役、3曹に替わります」

 東上は心中でガッツポーズした。

 ちなみにこの手も今回が初めてではない。もう1つ、言うならば東上は結構な美人であり、男性隊員のアイドル的な存在だ。

 彼女と付き合った事のある自衛官たちは、勿体ない、と口を揃えた。



「こちらです」

 板垣は幕僚室に案内し、ガルドたちを幕僚室の隅にある来客等の応接用のソファーへ案内した。

 ソファーにはすでにフレアが座っていたが、板垣たちの姿を確認すると、立ち上がり、挨拶した。

「ノインバス王国第1王女フレア・クレ・ノインバスと申します。遠路はるばるご苦労でした」

 ガルドたちは片膝をつき、頭を垂れた。

 自衛官たちは馴れない動作であったが、もう慣れたのか、ある者は苦笑し、ある者は頭を掻く。

 ガルドは先ほど板垣たちに名乗った事をそのまま言った。

「ガルド将軍。ここは二ホンという国の軍艦です。王族に対する作法はそのくらいにして、立っていただけますか」

 ガルドたちは驚いた表情で顔を上げたが、将軍は一瞬だけ驚いただけで、すぐに普通の表情に戻り、立ち上がった。

 彼の部下たちもそれにならう。

「かけてください」

 板垣はガルドにソファーをすすめた。

 ガルドがソファーに座ると、板垣、佐藤、笠谷、フレアも腰掛ける。

 それ以外の者たちも幕僚室にある椅子に腰掛けた。

 その時、幕僚室のドアからノック音がした。

「幕僚室係、入ります」

 そう言って、1人の女性自衛官が入室した。コーヒーを配り、退室した。

 ガルドは訝しげな表情でコーヒーを眺めていたが、板垣たちが普通に飲んでいるのを見て、恐る恐るコーヒーカップを持ち、口に運ぶ。

 しかし、やはりと言うべき、コーヒーを一口飲んだ途端、渋い顔をした。

 ちなみにフレアはすでにコーヒーの味になれ、普通に飲める。

「貴公等は見たところレギオン・クーパーとお見受けするが、間違いありませんか?」

 ガルドの言葉に、板垣たちは目を丸くした。

「確かにそうですが、なぜ、そう思われるのです?」

 板垣の言葉にガルドは無表情で答える。

「ここに来るまで私が何もしなかった訳ではない。斥候を出して情報収集を行っていました。2個竜騎士団を壊滅させた。その報告を聞いた時は半信半疑ながらもレギオン・クーパーだと考えました。確信に変わったのはこの船を見た時です」

 ガルドは幕僚室を見回してから続けた。

「貴公等の船は我々の造船技術では作れないものばかりです。となれば答えは1つです」

「将軍の言う通りです。我々は別の世界から何者かの意図によってここに来たのです」

「その表情から察しますと、貴公はこの世界に召喚された事を信じていないようですな」

 彼の言葉に板垣は驚いた。これまでフレアたちにも部下たちにも悟られないようにしていた。しかし、このダークエルフの男は簡単に見抜いた。20代前半の男に、だ。

(いや待てよ。この男もエルフの一種、という事は・・・)

 彼もまた100歳はとうに過ぎているのだろう。100年、いや、200年以上も生きていたら、それぐらい朝飯前か。

「はい。若い部下たちはともかく、私はいまだに平行世界に飛ばされた等信じられないのです。」

「なるほど」

 ガルドがうなずくと、板垣はコーヒーをすすった。

 コーヒーを初めて口にしたガルドたちは、どうして飲める、と言いたげな表情で見る。

「貴公等がレギオン・クーパーである事はわかりました。が、1つ疑問に思う事がある。それを伺ってもよろしいですかな?」

 ガルドの問いに板垣は、どうぞ、と言ってうなずく。

「貴軍は異界の地よりはるばるこの地に現れた。これが神の意思か悪魔の企てかはわからぬが、貴公等はここに来た。そして、まったく無関係な戦争に介入した。いったい貴公等は何が望みで自分たちと関係ない戦争に介入したのですかな?エルフたちが作る秘薬等が望みですか、エルフが作る秘薬の中には不老不死になれる薬があるとされている。もしや、それが望みで彼らを救いに来たのですか?」

 ガルドの質問に板垣たちは苦笑した。

 板垣たちの表情にガルドたち異世界人たちは訝しげな表情になった。

 板垣たちが苦笑するのが理解できなかったからである。

「司令官。不老不死の薬があるそうですよ」

 佐藤が苦笑しながら、からかうように上官に言った。

「・・・絶対にいらないね、その薬は」

 板垣は苦笑しながら言った。

「は?」

 ガルドは珍しく、本当に珍しく驚愕した。いや、自衛隊の存在を知ってから彼は部下たちの前で、普段は見せない表情を見せた。そのたびに彼の参謀たちは尋常じゃないくらい目を丸くした。

 今も彼の部下たちが目を丸くし、呆然としているのも、自分たちの上官が珍しく驚愕しているからだ。

 エルフの作る不老不死の秘薬は、伝説では世界を統一した覇王でさえ渇望した代物。同じく不老不死になれるとされる人魚の肉もその一欠けらだけで世界がひっくり返るものである。それだけ不老不死というのは、世界の支配者たちが喉から手を出す程貴重な物。

 なのに彼らはそれを要らないと言う。それを理解できない異世界人は疑問の視線をぶつける。

 板垣はそんな視線に大きくため息をつき、ここにいる自衛官たちを代表して答えた。

「人魚の肉を食って800年生きたって言う尼さんじゃあるまいし、不老不死になったら、いつまで経っても第2の人生を歩めんじゃないですか。定年して楽しい老後生活を楽しみにしているのに、それができなくなる薬等お断りだ」

「確か、竹取物語のラストでも出てきましたね、でも献上された帝も要らないと言って富士山の山頂で焼かせましたっけ・・・月の世界に帰った姫と供にいられないなら意味がないって言って・・・。ホントにあるんですね~そんなアイテム」

「・・・・・・」

 ガルドは何とも言えない表情をした。

 彼らの常識からあまりに外れてしまっているため、どう答えてよいのかわからない。



 会談は一時休憩となった。

 ガルドたちが受け入れる許容量を超えてしまい会談どころではなくなったからだ。

 頭を整理したいという事で潮風にあたるためガルドたちは通用甲板に出ていた。案内役と監視役として広報係士官と警務官(MP)の高沢(たかざわ)(なお)()3等海尉が同行した。

 幕僚室に取り残された形になった板垣たちも、この空き時間を利用して、笠谷から陸の状況について直接話を聞くことにした。

 幕僚室ではなく、司令官室で話を聞く事にした。

「戦争はどうだった?」

 板垣の問いに笠谷はすべてを話した。陸の戦闘の事も、ラペルリ連合王国民の心情等、そして松野の1件について、陸自隊員たちの心情まですべて隠さず報告した。

「・・・覚悟はしていたが、そこまでとはな」

 板垣は目を閉じてつぶやいた。

「申し訳ありません。私の考えは甘すぎました」

 笠谷は頭を下げた。

「なあに、お前が気にする事ではない」

 板垣は小さく苦笑した。

「人間というのは厄介な生き物だな」

 笠谷は上官の目を見る。

 板垣は小さく苦笑したまま、続けた。

「ひたすら現状に逆らうか、ただ現状にながされるか・・・」

「今の我々ですか」

「異世界という理解し難い現状に放りこまれて、陸海空の隊員たちはその2通りに別れているのではないか、最初は空想の世界に来たという事で浮かれ気分だったが、実際今までは訓練でしか経験した事のなかった戦闘を行った」

「・・・・・・」

 笠谷は何も言えなかった。だが、確かに、そうだ、と思った。

 板垣は時計を見る。

「そろそろ時間だ」

 そう言って板垣は制帽を被り、司令官室を出る。

 笠谷も慌てて板垣の後を追う。

 再びガルドとの会談が行われる。



 日が沈み、闇が支配する時間帯になった。

 今日は土砂降りの雨が降り出した。

(嫌な雨だな・・・)

 山の中腹で暗視スコープを装着したM82[バレット]対物狙撃銃のスコープを覗きながら心中でぼやいた。

 彼は雨の中を駆け回るミレニアム帝国軍兵士の姿を捕らえる。

(まだ、子供じゃないか)

 暗視スコープを覗きながら2等陸曹は子供を戦地に投入する者たちに怒りを覚えていたが、すぐに、怒りを静めた。

(いかん、いかん。感情に流されては)

 狙撃手の2曹は自分に言い聞かせた。

「ずっと監視されているのを知ったら敵さんさぞかし怒るでしょうな」

 相棒である観測手の2曹が軽口を叩く。

 狙撃手の2曹は苦笑する。

 どんな状況でも観測手の2曹は冗談等が言える。

 それは悪い事ではない。特に2曹たちのように特殊作戦を行う部隊ではこういう事が言える者が1人は必要なのだ。

 観測手の2曹も、戦闘能力は陸自の精鋭集団である第1空挺団の隊員よりも高い。なぜなら、彼らは精鋭中精鋭部隊である特戦群(特殊作戦群)所属であるからだ。

 彼らは長距離偵察として、敵中深部に潜伏していた。

 彼らは顔面覆を被っているから、表情を伺う事はできない。

 基本的に特戦群の隊員は公の場合でも、上級指揮官以外は顔を見せない。これは日本の特殊部隊に共通している事だ。

 特殊部隊になれば、名前すらも国家機密になる程だ。

 艦隊に配置されていた時も決して他の一般隊員とは接触せず、食事は持ってきてもらい、風呂も貸切状態で使用する徹底ぶりだ。まさに幽霊に徹したのだ。

「様子はどうだ?」

 低い姿勢で傍らに来た特戦群の隊員に狙撃手の2曹はスコープから目を離さず、答えた。

「昨日と変わりません」

「そうか」

 3尉の特戦群隊員は特殊作戦群の主装備であるM4A1を肩に掲げ、雑嚢から暗視装置付の双眼鏡を取り出した。

 鉄帽に装着したJGVS―V8を外し、双眼鏡を覗く。

「確かに昨日と同じだな」

 3尉が低い声で言った。

「発砲許可があれば敵に眠れない夜を味あわせてやれるのにな」

 観測手の2曹がつぶやく。

「俺たちの任務は敵の動向を探ることだ。暗殺ではない」

「しかし、敵の士気を低下させれば無益な血が流れずに済むんですよ」

「目を放すな」

 狙撃手の2曹が相棒を叱る。

「・・・・・・」

 相棒は黙り、双眼鏡を再び覗く。

 3尉は敵野営地の様子を見ると、後は2人に任せて、隠れ家に移動し、小隊本部に報告した。


 ラペルリ奪還第6章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は今月26日を予定しています

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