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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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ラペルリ奪還 第4章 惨劇

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 3輛のMLRS(多連装ロケットシステム自走発射機)から撃ちだされたM31精密誘導ロケット弾改は、一切のくるいもなく目標へ飛翔した。

 野戦特科部隊最大の兵器であるMLRSは、かつてM26多弾頭ロケット弾、つまりクラスター弾があった時は、絶大な威力を発揮していたが、2007年に締結されたクラスター爆弾禁止条約(オスロ・プロセス)により、MLRSの圧倒的制圧力は骨抜きにされた。

 そこで陸自はM31精密ロケット弾を導入し、誘導装置を改良してGPS誘導だけでなく観測ヘリか無人航空機等からの誘導を可能にした。

 今発射されたM31精密誘導ロケット改を誘導しているのは、陸自の無人偵察機である遠隔操縦偵察システム改(FOOSM)である。

 FOOSMは一目だけでは、前型のFOOSとは変わらないが、対電波ジャック対策や空自が導入している無人機のように攻撃能力の追加等がある。

 FOOSMから送られてくる情報はリアルタイムで第1任務団司令部と[やまと]等の近海にいる艦艇にも届く。

 M31精密誘導ロケット改が目標に着弾すると、着弾地点周辺を巻き込み激しく爆発し、ものすごい爆煙が舞い上がった。

 ミレニアム帝国軍の将兵たちはいったい何が起こったのか、わからなかった程である。

 MLRSは3輛合わせて計6発のM31精密誘導ロケット改を撃ち込んだ。

 この後、MLSRは後退し、99式自走155ミリ榴弾砲と203ミリ自走榴弾砲が後を引き継いだ。

 155ミリ榴弾はともかく203ミリ榴弾の威力は並ではない。わかりやすく言えば巡洋艦の艦砲射撃を受けているのに等しいのだ。

 砲撃を受けている帝国将兵にとってはさっぱりわからないであろうが・・・

 自走砲群の砲撃開始をもって、南進が開始された。戦車と装甲戦闘車(FV)を先導に前進する。後続は装甲車、トラック群に分乗した普通科連隊である。

 さらに各地に身を潜めた狙撃小隊の隊員たちが行動を開始し、帝国軍指揮官等を射殺していく。

 先導を走る戦車は、第4世代戦車である10式戦車だ。

 デジタルの塊である10式戦車は90式戦車をはるかに上回る戦車だ。北海道に重視した90式戦車とは異なり、日本各地に配備できるよう開発された。国産の44口径120ミリ滑腔砲を装備し、ステルス性を高めた本車はまさに最強クラスだ。

 それを見た帝国兵士は恐怖した。見た事もない巨大で平べったく、全体的に角張った構造の化け物。

「て、鉄の化け物だ!!!」

「ひっ!!悪魔だ!」

 帝国兵士たちは我先に逃げ出そうとした。

 だが・・・

「怯むな!兵士ども剣をとれ、弓を持て!」

 顔に傷の痕がある壮年の騎士が片手剣を高く掲げ、騎乗のまま叫んだ。

 その力強い言葉に、兵たちの恐怖が掻き消され、それぞれの得物を持ち、鉄の怪物に戦いを挑んだ。

 鉄の化け物から突き出た鼻が一斉に吼えた。

 10式戦車の120ミリ滑腔砲から撃ちだされた榴弾は、戦車に戦いを挑んだ勇敢と呼ぶべき兵たちの肉体をばらばらに引き裂き、吹き飛ばした。

 幸運にも戦車に近づいていたおかげで生き残れた兵士たちは、砲塔上部に装備されている12.7ミリ重機関銃(ブローニングM2)の掃射によって、その身体をズタズタに引き裂かれながら、バタバタと倒れていった。

 恐怖に震えていた兵たちを勇気づけさせた壮年の騎士もこれには恐怖を感じた。

 手綱を引き、馬を反転させ、全速力で逃走した。

 その光景を見ていた10式戦車の車長(2曹)は頭に血が上った。

(兵を見捨てて逃げるのか!)

 この車長にとって、あの騎士の行いは味方に対する裏切りに映った。たとえ、敵であっても、こんな指揮官の許で戦わねばならなかった兵士たちに憐みを感じた。

「部下をけし掛けて、自分だけ逃げるか!!」

 思わず吐き捨てた。

 こんな奴に戦車砲はもったいない。しかし、生かして帰す気にはなれない。だが、弾薬はできれば節約して欲しいという司令部の命令があるから、12.7ミリ重機関銃は使いづらい。

 ならば方法は1つしかない。

「操縦士!最大速度まで加速しろ。あの馬にぶつけろ!馬ごと轢き倒せ!!」

 車長の殺気に満ちた口調に気圧されたのか、操縦士は迷いを見せず、速度を増速させた。

 たちまち間合い詰めた重量44トンの鉄の塊は時速70キロのスピードで、そのまま軍馬に激突した。馬は転倒し、そこに殺意のこもった、鉄の塊が襲う。

 おそらく苦痛は一瞬の事であろう。いや、もしかしたら苦痛を感じる事もなく、死んだかもしれない。

 車長は戦闘室の液晶モニターで後方の倒れた馬と騎士を見た。

 1人と1頭は微動だにしない。戦車は馬を突き飛ばした後、壮年の騎士を轢殺してしまった。

 胸元に刻まれているキャタピラの跡。かろうじて人としての形状は確認できるものの、もはやそれは、人と呼べるものではなかった。

 我に返って自らの命令で下した結果に、震えを感じる車長であった。

(俺の命令で、こうなったのか!?)

 車長は今さらながらそれを理解した。

 現実を見て、自分の感情が引き起こした結果に、恐怖と嫌悪を感じた。



 第1任務団司令部では、FOOSMからの情報で、容易に戦況を把握していた。

 やはりと言うべきか、司令部の情報収集、分析、指揮、伝達に目を丸くしていた者たちがいる。

 観戦武官の騎士2人とラペルリ連合王国軍の将軍、参謀たちである。

 観戦武官2人は免疫ができているが、免疫のない将軍、参謀たちはFOOSMから送られる映像に舌を巻いた。

「こ、これがレギオン・クーパーの技術か!いやはや驚嘆の極み。相手方の陣形の一部始終が手に取るも同じではないか」

 若い・・・と言っても100歳はとうに越しているが、将軍の中では最年少のエルフが述べた。

「カサヤ参謀。この絵図面を送って来ている、その、ムジンキ、という魔道兵器はジエイタイはあまり持っていないと聞きます。弓の名手なら飛んでいる鳥でも狙い撃てます。撃ち落とされる心配はないですか?」

 クラッススが笠谷に尋ねる。

「それは問題ありません。高度が高すぎるのでこの世界の飛び道具では届きません」

「遠距離の戦局をこれほど正確なもので、容易に理解する事ができるとは、これが我が軍にあれば、将軍や参謀たちは正確な戦況を掴み、適切な指示を出せるだろう」

 クラッススがつい本音を口にした。

 彼だけではないだろう。この世界の軍人であれば同じ事を思うだろう。

 部外者たちが自衛隊の装備に目を丸くしている頃、神谷以下幕僚たちは限られた情報の中で指揮を行っていた。

 ハイテク兵器で武装した自衛隊にとってこの世界はなにかと動きにくい。

 この世界には、GPS衛星はおろか偵察衛星もないのだ。

 ハイテク兵器の最大の長所は敵の探知圏外からミサイルを撃ち込む。

 さらに、今収集できた正確な情報を現場に与える事だ。

 これらをすべて衛星経由で行われる。それがないという事は当然ながら行動は制限される。

 皮肉なものだ。

 現代兵器は中世の時代では、その力を存分にふるう事ができない。

 だが、クラッススを含め、ここにいる部外者たちには自衛隊員の苦労等知るよしがない。

「団長。敵の後続部隊が接近中です」

 第2部長(情報担当)が報告する。

「99式自走155ミリ榴弾砲を後続部隊に向けて撃退せよ」

 神谷の指示に第3部長岩谷が、了解、と返事をし、指示を出した。

「団長。99式だけでは、後続部隊には対処できません。待機中のアパッチ(AH-64D)隊を出動させ、後続部隊に対処させます。さらに、前衛部隊への支援砲撃がなくなります。穴埋めとして、自走迫撃砲中隊とガンシップ(武装ヘリ)隊を投入させるべきです」

 岩谷の具申に、神谷は大きくうなずいた。



 司令部からの指示で、待機していた自走迫撃砲中隊は前進した。

 96式自走120ミリ迫撃砲は各小隊に別れて展開し、支援砲撃を開始した。

 203ミリ、155ミリの榴弾と比べれば120ミリ迫撃砲弾は貧弱だが、この世界においてはこれだけでも過剰だ。



 迷彩柄に塗装された汎用ヘリUH-1YJ[ヴェノム]が3機、敵前衛部隊の上空に入ろうとしていた。

 UH-1Jの後継機として調達された本機は日本仕様ではあるが、米海兵隊UH-1Yとほとんど変わらない。

 コール・サイン・エコー2(ツー)のUH-1YJのガンナー(3曹)はM134連装機関銃の安全装置を解除した。

「目標地域に接近した。射撃開始」

 機長からの指示でガンナーはM134連装機関銃のトリガーを絞った。連装銃身が回転し、火を噴いた。

 ミニガンの通称で知られる、人力で使用できるガトリングガンは米軍でその威力を発揮し、数々の実績を残した。発射速度3000発を誇り、生身の人間が受ければ苦痛を感じる事もなく絶命するため、無痛ガン、と呼ばれる。

 弾種は曳光弾であるため、弾丸が激しく発光し、ミレニアム帝国兵士たちに襲い掛かる。

 帝国兵士たちにはどうする事もできない。次々に兵士たちは絶命していく。

 3機のUH-1YJで6挺のミニガンの掃射の前にはひとたまりもない。



 10式戦車と装甲戦闘車(FV)の活躍と迫撃砲の支援砲撃、ガンシップの機銃掃射で、戦闘は最終段階に入っていた。

 歩兵による掃討戦である。

 空気は硝煙、血の臭い、人間が焼け焦げた臭いが混ざり合い、とんでもない悪臭が漂っている。

 まさしく地獄という言葉が正しいだろう。

 そんな地獄を、死体をひかないように慎重に進んでいる82式指揮通信車がいた。

 指揮・通信室の上部にあるハッチから中隊長(3佐)が上半身を出していた。隣には12.7ミリ重機関銃を握り、周囲を警戒している陸曹がいる。

 その陸曹の表情も悪臭によりしかめている。おそらく嘔吐感に堪えているだろう。

 中隊本部班の護衛として1個小銃小隊がいるが、彼らはその悪臭に堪えられず、ゲーゲー、と吐いている声がする。

 中隊長も例外ではない。しかし、中隊指揮官であり佐官である以上、部下たちの前で嘔吐するわけにはいかない。彼は必死に嘔吐感に堪えていた。

「中隊長。司令部より、連絡です。敵勢力の排除を確認。伏兵等を警戒せよ、との事です」

 ヘッドセットから女性の声がした。

「了解。副中隊長」

 彼女はこの普通科中隊副中隊長の南場紫苑(なんばしおん)1等陸尉である。

 20代後半という若さで1尉に昇進した女性自衛官。



「これが戦争、か」

 榴弾砲や戦車砲、機関砲等の砲弾によって倒れた帝国兵を見て、久松正吾(くまつしょうご)2等陸尉はそうつぶやいた。

 すでに敵の抵抗もなく、銃声はほとんど聞こえない。

 遠くから榴弾砲の着弾音がたびたび聞こえてくるぐらいだが、その爆音の数も少なくなっている。

「こんな場所にはいたくないですなぁ」

 大賀(おおが)2等陸曹はMINIMI(ミニミ)をばらばらになった死体を1つ1つ銃口を向けながら軽口を叩いた。

 だが、すぐに真剣な表情になって、WAPC等から下車した隊員たちに振り返った。

「いいか!油断するなよ、死んだふりをしていきなり襲いかかるってのは、こういう戦場ではよくある事だ。気を抜くな!」

「はい!」

 隊員たちは力強く返事をした。

 直後、一瞬の油断で、危機的な状況になってしまった青年がいた。

 久松である。

 女性のうめき声がした、久松ははっとした。

(生存者!?)

 久松は声がした方に足を向けた。

 うめき声がした方には、1人の少女が倒れていた。声の主は間違いなく彼女だろう。

 久松は少女の横で身を屈めた。

 土で汚れているが銀色の短髪、顔からして16歳ぐらいだろう。

 外傷は見あたらない。おそらく、爆風で吹き飛ばされて気を失ったのであろう。だが、内部の傷は見た目からは判断できない。

 そんな事に気を取られていたため、背後から忍び寄る黒い影に気付く事ができなかった。

「た、隊長!」

 大賀の悲鳴に近い叫び声が響く。

 久松が振り返ると、そこには漆黒の甲冑を着込んだ若い銀髪の女性が両手剣を振り上げていた。



 双眼鏡を覗いていた、観測手が悲鳴に近い声を上げた。

「久松2尉の背後に敵兵!!」

「うるさい、わかってる」

 高井直哉たかいなおや3等陸尉はすでに照準を、合わせていた。

「待ってください!!女性です!!!」

「だから・・・?」

 観測手の制止の声に高井は冷たく応じた。



(し、しまった!)

 久松は地面に置いた89式5.56ミリ小銃に手をかけようとしたが間に合わないと判断し、レッグホルスターに収めている9ミリ拳銃を抜き、銀髪の漆黒の女性騎士に向ける。後は引き金を引くだけだ。だが・・・

 撃てない、彼女の顔を見て、引き金を引く事ができない。

 久松の状態は、別に珍しい事ではない。実際にイラク戦争やアフガニスタン紛争でも多くの米軍将兵がそうなった。至近距離で人を殺傷するのは、精神異常者か人殺しに慣れた者でなければ無理だ。

 久松は、殺られる、と思った。

 銀髪の女性騎士は、まるで肉食獣のごとく殺気立った眼光を向けた。

 だが、彼女の額を何かが貫いた。

 遅れて1発の銃声が届いた。

「躊躇いは死を招くぞ。久松2尉」

 無線から狙撃手の高井の鋭い声が響いた。



 リースヒェンは何が起きたかわからなかった。



 久松の目前で、彼女は額を撃ち抜かれ、ゆっくりと仰向けに倒れた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 隊員全員は、呆然とその光景を見つめていた。

「・・・しょ・・・将軍・・・」

「「「!!!」」」

 とっさに、声のする方に89式5.56ミリ小銃の銃口を向けると、そこには16.7歳くらいの少年兵が、呆然と立っていた。

 自走砲の爆風をうけたのか、少年の右腕はなくなっていた。

「衛生員を呼べ!!重傷者だ!!」

 久松の叫びに無線員が、無線機に叫ぶ。

「・・・将軍を討たれ・・・むざむざ生き恥を晒すなど・・・」

「もう、戦闘は終わった。降伏してくれ・・・」

 これ以上の犠牲は、敵であっても出したくない。

 久松は心からそう思った。

「・・・貴様等が何者かは知らん・・・しかし、いずれこの報いは受けるだろう・・・」

 少年の左手に短剣が握られていた。

「ミレニアム帝国に栄光あれ!!!」

「よせぇぇぇぇ!!!」

 少年の意図を察した久松は止めようとした。

 しかし、間に合わず目前で少年は自らの喉を掻き切ったのだった。

「どうして・・・」

 返り血を顔面に浴び、ただつぶやくしかできなかった。

「・・・正吾、これが戦争だ」

 どこまでも冷静な、高井の声が無線機から聞こえた。

 久松は無言で立ち上がると、無線で鋭く言った。

「な、なぜ、撃った?」

「・・・・・・」

 高井は答えない。

「相手は若い女だぞ。どうして殺す必要があった?」

「それが、どうした」

「なに」

 高井から非道ともとれる解答が返って来た。

「ここは戦場だ。殺さなければ自分か仲間が命を落とす。相手が女だから子供だからという理由で殺さない、なんて綺麗事は通用しない。そういう事だ」



 長く感じられた戦闘もようやく終わった。



 陸の戦闘は空とは違う。いやという程の戦争の現実を見せ付けられて、自身の甘さを思い知った笠谷であった。

 腐敗はすでに始まっていた。どこから集まって来たのか、おびただしい蠅が群がる。

 笠谷は2人の女性自衛官を盗み見る。

 2人とも、蒼白し、ひどい顔をしている。

「少しは我々の苦悩を理解できたか、笠谷2佐?」

 笠谷たちは驚き、慌てて振り返った。

 傍らに立っていたのは岩谷明穂2佐だった。

(いつの間に・・・足音なんてしなかったぞ)

 笠谷はそう思いつつ、挙手の敬礼をする。2人の女性自衛官も続く。

 国連軍のブルーベレー帽を被った岩谷は面倒臭そうに雑な敬礼をした。

 岩谷は、砲撃や機銃の餌食となった敵兵たちを見ながら低い声で言った。

「これが我々の戦争だよ」

 笠谷は再び惨劇と呼ぶべき惨状を見た。

「しかし、この惨たらしさにもやがて慣れる。心理学には詳しくないが、無意識の自己防衛の本能のようなものなのだろう」

 陸の戦闘は具体的だ。敵の顔が見える距離で戦うからだ。空ではそんな事はない。撃墜された機は搭乗員もろともばらばらになっていくのだ。パイロットが人を殺した実感等なかなか湧いてこないだろう。海の戦いはなおさらだ。

 なぜなら、ミサイルの発射ボタンを押す海自隊員は艦の奥深くにある窓もいっさいない薄暗い室内に閉じこもっているのだから。

 岩谷は笠谷に顔を向け、尋ねた。

「もう1度聞く。少しは我々の苦悩を理解してもらえるか、第2部長」



 狙撃小隊第1班長の高井は帝国兵の死体を眺めながら、胸ポケットから煙草を1本取り出し、口に咥えて火をつけた。

 肩には彼の愛銃であるM110SASSがかけられていた。

 狙撃銃として陸自に採用されているのは(一般に配備されているのに限られる)M24対人狙撃銃であるが、狙撃小隊は非公式にM24以外に隊員が扱いやすい銃を1人1人に提供している。

 高井は不味い煙草の煙を吐き出し、空を見た。

「高井3尉。貴方は煙草は吸わないんじゃないの?」

 傍らからの女声に高井は振り返った。

 そこには長身の女性自衛官、南場が立っていた。

「普段は吸わないが、戦闘後だけは吸うようにしている」

「そう」

「22人・・・」

 高井は煙を吐きながら、つぶやいた。

 南場は首を傾げた。

「今日、俺が殺した人数だ」

「たくさん殺したのね」

 高井は指揮官クラス22人を殺した。その最後が女で将軍だった。彼は前哨狙撃手としての責務を果たしたのだ。

「3尉!」

「階級で呼ぶな!馬鹿!」

 高井は相棒であり、観測手の来島(くるしま)多聞(たもん)3等陸曹を叱る。

 彼は戦場において階級や敬語を使う事を禁じている。

「すみません。サイダー持ってきました」

「すまんな。だが、こちらの女性にそれをあげてくれ」

「え、は、はい」

 来島は南場にサイダーの入った瓶を渡した。

「ありがとう」

 来島はサイダーを受け取った。

「チビなのに気は利くのね」

「23人目になりたいか・・・殺すぞ」

 南場がからかうように言うと、高井は表情をピクッとさせて言った。


 ラペルリ奪還の第4章を読んでいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回は今月の24日までに投稿します。

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