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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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ラペルリ奪還 第3章 予兆

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 文章の不備を発見したため、改正しました。

 貴重なご指摘をいただいた方に心から感謝いたします。


[やまと]の科員食堂は賑わっていた。

 戦場にいるというのに、この余裕と言うか、なんと言うか、わからない穏やかな空気が科員食堂を包んでいた。

 ラペルリ連合王国では、陸自が展開し、いつ死ぬかわからない戦場で敵と睨み合いをしている状況下でこの賑やかさは不謹慎に思えるが、誰も口にしない。

 陸自隊員が知れば怒るかもしれないが、彼らも同じである。

 陸自は本格的な実戦はまだだが、海自、空自はすでに経験済みである。

 隊員たちが浮かれてしまうのも仕方ない事だ。

 それよりも、最近はすっかり食堂に馴染んで曹士たちと食事を共にするようになったノインバス王国の観戦武官たちと会話する事が多くなった。

 下級士官や下級幹部たちも、それ目当てで科員食堂に来ることもしばしば。

「二ホンはダイニジセカイタイセンという戦争で敗北し、勝利国から手を差し出されてジエイタイができたと・・・」

 クラッススの言葉に、若い3尉がうなずいた。

「そうです。まあ、いろいろありましたけど・・・」

「しかし、敵だった国を併合せず、武器を与えるとは・・・」

 アーノルは目を丸くしてつぶやいた。

「朝鮮戦争が勃発し、連合国が占領維持をする事ができなくなったのが、最大の原因ね」

 3尉の女性自衛官が簡単に説明する。

 アーノルたちにとっては日本の歴史は驚く事ばかりだろう。

 この世界の常識として、敗戦国は滅ぼされ、人々は奴隷になるか、殺されるか、である。

「今は、ジュネーブ協定ってのがあるしね」

「そのじゅねえぶ・・・なんとかと言うのは、よく貴殿たちが口にするが、なんなのだ?」

「ええと・・・」

 一瞬、全員が口ごもった、いざ説明となるとどう言えばいいのだろう。

「ま・・・まあ、国連って世界中の国が加盟している組織があって・・・そこが

決めた法で・・・だったか・・・?」

 1人の空士が、自信なさそうに周りを見回しながら言う。

「1864年に国連はないぞ、それにジュネーブは永世中立国のスイスの首都だ、国連本部はアメリカのニューヨークだろ。まあ簡単に言えば、戦争しても敵対国の人々に必要以上の危害を加えると犯罪だって事」

「「「本当に簡単にまとめたな」」」

 士官の答えに、全員が突っ込んだ。

「そういや[あさひ]の話を聞いたか?」

「?」

「来島3佐が、あの対空戦闘の後で、救助要員や警務隊(MP)に勝手に武装指示を出して、後で稲垣艦長から大目玉を喰らったって・・・その時に(ジュネーブ条約なんて関係ない)とか言って始末書書かされたとか・・・」

 ちなみにこの件は、叱責だけで終わったのだが、噂とはある事ない事を含めて大きくなるものだ、もっとも、本人の普段の言動がその下敷きになるのだから、自業自得というものだろう。

「確かあの人だっけ、海自の始末書提出率NO1って・・・」

「何年か前に陸自のレンジャー徽章持ちと口論になって、挙句殴り合いになって、相手をボコボコにしたとか・・・それで、今だに陸自じゃ恐れられてるとかいないとか・・・」

「「「コエエ~!」」」

「・・・なんだなんだ、噂通りの賑やかさだな」

「あ、司令官」

 科員食堂に現れた板垣は苦笑した。

「全員、起立!」

 先任海曹が号令をかける。

「そのままでいい」

 起立しようとした隊員たちに板垣は穏やかに言った。

 板垣は腰掛けている向かいの席に腰を下ろした。

「陸自からの連絡があり、これから攻勢に出るそうだ」

 板垣の知らせに乗組員たちから、おおぅ、と声が上がった。

 板垣は気にせず、そのまま続けた。

「そこでなんですが、現在連絡将校として現地にいる笠谷2佐が神谷陸将と協議の結果。貴方がたの上陸と観戦を許可するそうです」

「それはまことですか」

 アーノルが言った。

「しかし、全員というわけにはいきません。陸戦の観戦は2名だけだそうです」

 板垣の言葉に、騎士たちは顔を見合わせた。

 騎士たちは数分間の相談の後、2人の騎士が手を挙げた。クラッススとマキアだ。

「わかりました。では、明日ヘリでお送りします」



 翌日。

 第1任務団宿営地の幹部食堂で朝食をとっていた笠谷と北井は海自の食事とまったく違う事から、顔をしかめた。

 空母航空団に配属されてからは海自の食事を口にする2人にとって陸自の食事が口に合わないのも当然なのかもしれない。

 お世辞にも陸自の食事はおいしいとは言えない。もともと人件費に予算がとられ、陸海空の中では1番装備が多い事もあり、海自のように食事に力を入れる事が難しいのだ。

(しかし、ここまで差があるのはどうかと思うぞ)

 笠谷は幹部食堂にいる陸自の幹部たちを見回した。

 迷彩服の男女は、何も言わずにがつがつと口の中にほうり込んでいる。とてもとは言えないが、味わって食べているようには見えない。

「我々の飯は口に合わんか?」

 背後からの声に2人の部外者は振り返る。

 松来が朝食を持ってそこにいた。

「松来1佐」

 笠谷が松来の顔を見る。

 昨日は眠っていないのか、目が赤い。

 松来は笠谷の右側に腰を下ろすと、すぐにご飯を口の中に入れた。

「答えを聞いていないが、陸自の飯は口に合わんか?」

「そ、そんな事はないです」

 北井が苦笑しながら答えた。

「隠さなくていい。我々の飯が陸海空の中で1番まずいのは認める」

 松来はおかずを飲み込む。

「笠谷2佐。団長から聞いていると思うが、我々は大規模な侵攻を予定している。貴方がたは司令部または前線で観戦するだろうが、これだけは言っとく、我々で立てる作戦に口出しは無用に願う。航空支援も護衛艦の支援も無用だ」

「・・・・・・」

「敵の殲滅は我々、陸上自衛隊が行う」

「1佐」

 反論したのは北井だった。

「どんな作戦も陸海空3自衛隊の共同があって、はじめて成功します。独自作戦ではたとえ成功しても無駄な犠牲者をだします」

「それは空自の言い分だ。我々は陸上自衛隊だ」

 北井はさらに反論しようとしたが、笠谷が止めた。

 彼には何を言っても無駄である事を悟った。

「そうだ、背中とお付きの隊員には気をつける事だ・・・」

 松来はそう言い放つとトレイを持って立ち上がり、踵を返した。

「それはどういう意味ですか?」

 笠谷の問いに、松来はさっていった。

 笠谷と北井は顔を見合わせた。

 その後、食欲も失せたため、残った飯は味あわず早食いし、完食した。



「きゃっ!」

 松野は悲鳴を上げながら地面に尻餅をついた。

「あら、この程度の力で倒れるなんて、それでも自衛官?」

 女性陸士長が不敵な笑みを浮かべながら吐き捨てた。

「しかたないですよ、士長。こいつ、腰抜け集団が集まる海自ですから」

 女性陸士長の右側にいる女性2等陸士が松野を見下ろしながら言った。

 その表情はあからさまな侮蔑と敵意がべったりと付いていた。

 松野はまったく理解できなかった。陸自と海自とは言え、同じ自衛官である彼女たちが、なぜ自分にそのような感情を向け、このような事をするのか。

 松野が立ち上がろうとした時、右足首に激痛が走る。

「っ!」

 松野は顔をしかめる。

「あら、どうしたの?もしかして、さっき倒れた時に足を痛めた?」

 陸士長が笑いながら言った。

「それはこの足かな?」

 2士がそう言いながら松野の左足首を半長靴で踏みつけた。

「ああぁっ!」

 松野は悲鳴を上げる。

「違うようね、きっとこの足よ」

 陸士長の左側にいる女性1士が松野の右足首をおもきり踏みつけた。

「きゃああ・・・」

 松野が悲鳴を上げようとした時、2士が松野の後ろに回り込み、口を塞いだ。

「大声を出さない」

 松野の後ろに回り込んだ2士は彼女の耳元で囁いた。

 松野は何かを言おうとしたが、口を塞がれているから何も言えない。

「何か、言いたそうね、いいわ、手を放して」

 陸士長がそう言うと、口を塞いだ2士が手を放した。

 口を解放された松野は口で呼吸しながら、陸士長に言い放った。

「ど、どうしてこんな事するんですか?私たちは同じ自衛官、仲間じゃないですか?」

 松野の主張に3人の女性自衛官は一斉に失笑した。

「仲間ぁ?」

 笑っていた陸士長の表情が一転、憎悪にも似た怒りを露わにする。

「調子に乗ってるんじゃない。海自のメス犬が!!」

 その怒声が引き金となり、2人の女性自衛官が続き、罵声を浴びせる。

「自分たちだけ安全な場所にいるくせに、何が仲間だぁ!!」

「海自空自の力を駆使すれば簡単に終わらせる戦いを、私たち陸自に押し付けて、私たちは便利屋じゃない」

 松野はどいう事か理解できなかった。

「ま、待ってください。この作戦は陸自の志願じゃあ・・・」

「違う!お前たち海自が勝手に決めた事だ!!」

 陸士長は奥歯を噛みしめた顔を近づけてくる。

「お前たちが我々の事を非難している事は知っている」

「・・・・・・」

「その様子だと、お前も私たちを非難していたな」

「そんなこと!?」

「嘘をつけ!」

 女性自衛官が松野の右足首を力強く踏み付けた。

 松野が悲鳴を上げようとしたが、再び口を塞がれた。

「現場を知らない者が、どの面さげて我々を非難する!」

 陸士長の怒りこもった目が松野を刺すように睨む。

「お前もその1人だな?」

 陸士長の問いに松野は必死に首を左右に振った。

「嘘をつくな!海自のメス犬が!」

 女性自衛官が松野の右足首を踏み付けようとした時・・・

「私の大切な部下に何をしている」

 冷たい口調が彼女たちの耳に入る。

 陸士長たちが振り返った。

 松野は顔を上げた。

 そこには、笠谷と北井がいた。



 朝食を終えた笠谷と北井は、なかなか来ない松野を不思議に思い。2人は探しに向かうと、微かに松野の悲鳴を聞き、駆けつけたのだ。

 笠谷は迷彩服を着た3人の女性自衛官を睨みながら冷たい口調で吐き捨てたのだった。

 北井はホルスターに収められている拳銃に手をかけている。

 笠谷が命令すればすぐに拳銃を抜き、3人の隊員を射殺するだろう。

 双方は何も語らずただ睨み合っているだけである。

「「「・・・・・・・」」」

 長い沈黙がその場を支配する。

「貴様等、何をやっている」

 突如、その場に響き渡る声。3人の女性自衛官は一斉に直立不動の姿勢をとる。

 笠谷と北井も振り返る。

 そこには笠谷より2、3歳年上の長身の女性が立っていた。

 迷彩服に国連軍のブルーベレー帽を被った。細見の女性自衛官は怒鳴りもせず、静かに言った。

「・・・何をやってるかと聞いている?」

「・・・・・・」

 上官を前に先程までの、剣呑な空気は一瞬で霧消した。

 サングラスでどんな目をしているのかわからないが、その威圧感は半端な言い訳を許さない凄みがあった。

 笠谷は彼女と面識がある。

 作戦会議等で、必ず顔を合わせる。女性自衛官。

 彼女は、第1任務団第3部長(運用担当)の岩谷(いわや)明穂(あきほ)2等陸佐である。

「ここにいるのが[あさひ]の砲雷長でなくて良かったな、奴なら貴様ら全員即座に撃ち殺したろうよ」

 ここで来島3佐の名をだす事に何の意味があるのかと思ったが、松野は海自の

隊員、たしかにこんな陰湿な衝動の現場を見れば十分に彼女ならあり得る。

「・・・・・・」

「こんな所で遊んでいないで、貴様等はただちに持ち場へ戻り、攻勢に備えた準備をしろ!」

「りょ、了解!!」

 3人の女性自衛官は挙手の敬礼をして、駆け出した。岩谷は答礼すると、サングラスを取り、笠谷に視線を向けると、頭を下げた。

「うちの隊の者が失礼した、すまない。この件、私に任せてもらえないだろうか?」

「わかりました。この1件はお任せします」

 笠谷がそう言うと、岩谷は何も告げず、頭を上げた。そしてそのまま立ち去ろうとした。

 少し進んだところで、岩谷は立ち止まり、振り返らず吐き捨てた。

「・・・貴様等、ここは我々の縄張りだ、自重する事だな」

「は?」

 笠谷は一瞬、彼女が何を言っているのか理解できない。

「いいな」

 岩谷はそう言うと、再び歩き出した。

 2人は呆然と眺めていたが、すぐにはっとなり、松野のもとへ駆け寄った。

 笠谷は片膝をつくと、松野の足首にそっと触れた。松野は笠谷の行為に、いきなり触れられた事に、そして多少の痛みに動揺し、身体を強ばらせた。

「腫れているな、医官に見てもらうか」

 そう言って、笠谷は立ち上がった。

「おとなしくしてろよ」

「え?」

 笠谷が松野に覆い被さる事に理解できない彼女は首を傾げた。

「えっ、えっ!」

「なっ!」

 松野の身体がふわりと浮き上がる。世に言う、お姫様だっこ、の完成だ。

「こっちの方が早いからな」

 笠谷の言葉は2人の女性自衛官の耳に入らなかった。

 松野は顔を真っ赤に染めて、呆然としている。北井はぷいっと顔をそらし、腕を組み、目を伏せた。

 その表情はいささか不機嫌だった。


 ラペルリ奪還の第3章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回もよろしくお願いします。

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