完結篇 後篇 第10.5章 海に還る
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
フリーダム諸島から離れた海域で、日米の艦隊は停船していた。
群島諸国聯合艦隊から派遣された数10隻の艦隊に第1統合任務艦隊、第2統合任務隊、米艦隊、海保の巡視船の乗組員が移動していた。
陸海空自衛官、米軍将兵、海上保安官たちは軍船の甲板上で整列していた。
[やまと]以下の艦船の最後の光景を目に焼きつけるために。
「司令官。総員離艦は完了しました」
白い制服を着た島村が艦橋に上がり、報告した。
「そうか」
板垣は高級ブランデーと全員分のグラスを持って、うなずいた。
「司令官。爆破まで後10分です」
陸自の神谷が報告した。
艦と運命を共にするのは、板垣、神谷、島村、岩澤、稲垣たちである。
どうしても、板垣と共に行きたいという彼らに、板垣も折れ結局、許可を出したのだった。
全員、旗艦[やまと]の艦橋に詰めていた。
「では、みんなで、一杯飲もう」
板垣はそう言いながら、全員分のグラスにブランデーを注いだ。
「爆破まで、後5分」
神谷が腕時計を見ながら、カウントする。
板垣たちはブランデーの入ったグラスを受け取る。
「全員に渡ったか?」
板垣の問いに艦と運命を共にするグループたちはうなずく。
「そうか。では私から一言言わせてくれ」
板垣は彼らを見回した。
「戦友諸君。君たちと共に戦えたことを私は誇りに思う。我々が生きている時間はほんのわずかだ。しかし、これは終わりではない。また、来世で会おう」
「「「はい!」」」
これから死ぬものたちの顔に何の迷いも後悔も感じられない。
板垣の脳裏に横須賀を出港したあの日が甦る。
1年もたっていないというのに、まるで何10年もたったように思える。
せめて心だけでも横須賀に、日本に還ろう。
日本人として死にたいという自分に、水島は「たとえ異世界であっても、日本人としての心を失わなければいい」と言った。
これからの重責を1人で背負わなくてはならない最年少海将補に申し訳なく思うが、彼女なら必ずやってくれる・・・そう信じられる。
最後の別れを交わした時、握手した水島の手の温もりはまだ手に残っている。
彼女なら、きっと都子を守ってくれるだろう。
「では、乾杯!」
板垣はグラスを高く掲げた。
「「「乾杯!!」」」
彼らもグラスを高く掲げる。
そして、板垣たちがブランデーを口に入れた瞬間、すさまじい衝撃と爆音が襲い、彼らの身体をまばゆい炎が包み込んだ。
「敬礼!」
号令官の合図で、整列した自衛官、米軍将兵、海上保安官たちは挙手の敬礼をした。
それと同時に[やまと]以下の艦船は大爆発し、跡形もなく吹き飛んだ。
機関室の燃料タンクを爆破し、弾薬庫も爆破する。
その爆発はとんでもないものであった。
「これで、終わりましたね」
挙手の敬礼をしながら、佐藤がつぶやいた。
「いえ、まだ、終わりじゃありません」
「?」
笠谷の言葉に佐藤は視線を彼に向けた。
「新しい時代が始まります」
笠谷の言葉に佐藤はうなずいた。
[ながと]は真っ二つになり、海に沈んでいった。
背後から、すすり泣く声が聞こえてくる。
「[大和]も[長門]も不遇の戦艦だったわ。[やまと]と[ながと]を私たち日本人の手で海に還すことができたのは、幸せなのかしら・・・」
「・・・どうだろうな・・・」
[ながと]が消えた海を見つめながら、水島はつぶやいた。
そして、傍らに立つ、ノインバス王国海軍の士官に振り返る。
「すまないが、足の速い船を用意してもらえないだろうか」
「はっ、何か急用でしょうか?」
「ああ、リオ陛下に謁見を申し込みたい」
士官は、敬礼すると船の手配をするために、駆け出した。
「司令?」
「リオ陛下の力添え無くして、今の我々は無い。私では板垣司令官の代理にもならないが、帰還報告と謝意を申し上げるのが筋だろう。それと、佐藤2佐と笠谷2佐に同行を頼みたい」
「了解しました。フリードマン少将に、全自衛官、将兵、保安官の指揮を要請しておきます」
三枝は、にっこりと笑った。
「我々の未来は我々が造る。そうだな」
望まない形とはいえ、日米合同軍の先任将官となった水島は、生き残った者の代表として、自分たちの進む道を先頭に立って切り開かねばならない。
それでも、水島は悲観していなかった。
板垣の残してくれた2人の自衛官、佐藤と笠谷。
次代を担うであろう2人のために、道を造るのが板垣から託された自分の仕事だ。
「あの2人に託せるだけの軍を再編せねばならんしな・・・後ろを振り返る暇は無い。私が海に還るまで、板垣司令官に胸を張って再会できるようになるまではな・・・」
海を見つめながら、水島はつぶやいた。
完結篇後篇第10.5章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は28日までを予定しています。