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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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完結篇 後篇 第7章 生きる意味3 勇気の在処

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 亡命ミレニアム軍の作戦会議には、群島諸国連合軍司令官ガルド・ド・アリング将軍と参謀数名、自衛隊からオブザーバーとして2名の幹部が参加していた。

 岩谷(いわや)明穂(あきほ)2等陸佐と久松(くまつ)(しょう)()2等陸尉だった。



 この、作戦会議の光景を見た者は変な違和感を覚えるだろう。

 甲冑姿の騎士、ドイツ第3帝国の軍服、迷彩服と統一制が全くない。一体何の冗談だと言われそうだ。

「無人偵察機からの映像で、こちらに進軍してくる部隊の規模は1個戦車大隊と歩兵部隊が約5000。歩兵部隊はミレニアム帝国軍の部隊です」

 陸自の幹部が映像を見ながら説明をすると、低いうめき声が起こった。

「・・・こちらの、倍・・・という事か」

 ウーリ・デラー少将(ゲネラール・マヨーア)が、つぶやく。

「双方の進軍速度を考えれば、決戦場はミカ平原という事か」

 ガルドが広げられた地図を見ながらつぶやいた。

「いいえ、仕掛けるのはここ、ヴリトア渓谷です」

 亡命ミレニアム軍の作戦参謀が指揮棒で地図の一点を指す。

「敵・・・は、ミカ平原に抜けるためには、この渓谷を通過する事になります。現在、自衛隊の施設中隊と群島諸国連合軍の工兵隊に協力してもらい、仕掛けを施しています」

 作戦参謀が敵という言葉に、ほんの一瞬だが詰まった事に久松は気が付いた。

「・・・・・・」

 作戦の概要が説明される中、久松はさり気なく亡命ミレニアム軍の将校たちの表情を伺ってみる。

 自らが選択したとはいえ、かつての味方に砲弾を撃ち込むのだ。

 しかし、彼らに迷いのようなものは感じられなかった。

 もし、自分が彼らと同じ立場だったら・・・こんな、表情でいられるのだろうか?

「・・・い、久松2尉」

「は・・・はい」

 岩谷に声をかけられて、我に返った。

「・・・小休止だ。少し外の空気を吸ってくるといい」

 岩谷にそう言われて、久松は素直に立ち上がった。

「・・・お気遣い、ありがとうございます。そうさせて、頂きます」

「久松2尉、この戦いで何も失っていない者は誰もいない。忘れるな」

 岩谷の言葉に久松はうなずき、司令部テントを出た。

 空は澄みわたり、これ以上ないほどきれいな青だった。

「直哉・・・」

 クーリッタン島攻略で、戦死した友人の名を呼んだ。

 


 直哉の遺体と共に[しれとこ]に帰還した来島(くるしま)多聞(たもん)3等陸曹は、医務室に会いに来た久松、南場(なんば)紫苑(しおん)1等陸尉、カーラを前に土下座をした。

 涙を流しながら、報告をした後、来島は謝罪をした。

「謝るな!現実から目を逸らすな!前を見ろ!!誰もそんな事を望んでおらぬわ、戯けが!!」

 言葉を掛ける事も出来無かった久松と南場に代わり、カーラが厳しい叱責を浴びせ、3人共、担当の医官に医務室から叩き出された。

 カーラの言う事は正しい・・・しかし。

「俺たち人間は、貴女のように強くないんです・・・カーラさん・・・」

 あの時を思い出し、久松はそうつぶやいた。

「ショウゴ・・・」

 少し躊躇いがちに声をかけられた。

「・・・ラルフ」

「・・・その・・・ロイトナント・タカイの事は、ヨシヒコから聞いた。残念だったな・・・」

「・・・・・・」

 少し、辛そうにラルフは言った。

「・・・本当は、こんなザマじゃダメなんだってのは、わかってるんだが・・・直哉に散々言われたな・・・結局、俺は公務員意識が抜けないままの、軍人もどきだったんだな・・・」

 クーリッタン島攻略で、第2統合任務隊は20名を超す戦死者を出し、[きくづき]を失った。

 それでも、水島は最後まで自らの責任を貫き通した。

 将補と2尉とでは、その責任の重さはまるで違う。本来比べるものではないのだが、多聞の姉は、決して逃げなかった。

 自分は、親友を失った事で恐れている。部下を、大切な人たちを失う事を・・・自分が死ぬかもしれないという事を、恐れている。ここから、逃げ出したいくらいに・・・

 これは戦争だ、敵を殺せば自分も殺される。わかっているはずなのに怖いのだ。

 目を伏せた久松の肩を、ラルフは軽く叩いた。

「・・・死ぬのが怖い人間は、貴官だけじゃない・・・俺も怖い、自分が死ぬのも、友人や部下が死ぬのも・・・だが、何もしないで失うほうがもっと怖い・・・だから、ここにいる」

「・・・・・・」

「まあ、頭でわかっててもな・・・気持ちは中々変えられない。だが、貴官がここにいるって事は、自分を何とかしたいって気があるからだろ」

 そう言って、ラルフは悪戯っぽい微笑を浮かべ、視線をある方向に向けた。

 つられて、そちらを見た久松は、そこにクリスカの姿を見た。

「邪魔者は退散するか・・・」

「いや・・・そんなんじゃ・・・」 

 ラルフは聞いてない、といった素振りでその場を離れた。

「・・・クマツ様・・・」

 心配そうに、自分を見つめる少女に、久松は頭を掻いた。

「ええと・・・何かな?」

「・・・私、ずっと考えていたのです。いつも守ってもらってばかりで、自分では何もできない・・・クマツ様が苦しんでいるのに何もして差し上げられない・・・」

「クリスカ、これは俺が自分で乗り越えなきゃいけない事なんだ・・・でも、ありがとう。少し元気が出た」

 気休めではなく、本心から久松は礼を言った。単純だが、クリスカに少し勇気をもらった気になった。

 笠谷が、ハーレム幕僚等と散々言われながら、自分の周囲の女性たちを大切にしているのもわかる気がする。

 

 

 ヴリトア渓谷。

 切り立った崖の狭間の細い道を、ナチス・ドイツ軍の戦車大隊を先導にミレニアム帝国軍は、縦列を作って進軍していた。

 先頭を進むティーガーⅠを戦闘指揮車のハッチから身を出して眺めながら、ドイツ第3帝国武装親衛隊(SS)エーレンベルグ大佐(スタンダルテンフェーラー)は、皮肉な笑いを浮かべていた。

「海軍も陸軍も不甲斐ないの一言ですね・・・日米軍にここまで翻弄されるとは。それに、日和見の下等臣民どもの反乱一つ鎮圧できないとは・・・この戦争が終わったら、本格的に大掃除が必要でしょう」

 それを聞いていた、国防陸軍の中佐(オーバースト・ロイトナント)の大隊指揮官は、心の中で罵った。

(・・・今の状況の原因は、貴方がたのやりようが引き起こしたものでしょう)

 軍人としての責務は理解している。しかし、人間としての感情は失っていないつもりだ。

 だが、SSの暴走を止める事のできる人間は、もはやいない。

 彼らの行動を、ある程度抑えていた、ヴェールター・フォン・カナリス中将(ゲネーラル・ロイトナント)が戦死して、SSの行いはますます酷くなった。

 カリューサ軍と自称するテロ組織に、兵站拠点と補給基地を次々と叩かれ、補給に事欠くようになり、各地で強制的な物資の摘発を行うようになってから、隷従していた都市でさえ、反発から離反する気配を見せ始めた。

 これに対しSSは、帝国臣民はおろか、国防軍の軍人でさえ、少しでも不審な行動を見せれば有無を言わさず連行している。彼らがどうなったかは考えたくもない。

 中佐(オーバースト・ロイトナント)は、絶望的な未来しか予測できなかった。

「・・・情報では、この先のミカ平原で待ち受けているのは、亡命ミレニアム軍だとか・・・元帥閣下から受けた恩を忘れ、敵の走狗に成り下がるとは、嘆かわしい限りですね」

 エーレンベルグの吐く毒に、いい加減腹が立ってきた。

 こんな男の許で戦わねばならない自分の部下たちは不幸だ。しかし、帝都にいる家族の事を思えば、喉元まで出かかる言葉を飲み込まざるえなかった。



「オーバー・ロイトナント、間もなく敵はB(ベー)地点に差しかかりますぜ」

「こちらに気付いている様子はないな」

 双眼鏡を手に、久松は匍匐して、渓谷を見下ろした。

「そのようです」

 ラルフの元部下の厳つい顔の曹長(フェルトヴェーベル)も、双眼鏡を覗きながら、答えた。

「よし、予定通り戦車隊がC地点を通過した時点で仕掛けを使う。司令部に連絡をしてくれ」

「了解!」

 そばかすに幼さの残る顔立ちの2等兵(シュッツ)が、背負っていた通信機を下ろして、連絡を入れている。

 それを、見ながら久松は妙な事になった、と思った。

 あの後、ウーリから要請されて、偵察隊の指揮を任された。

 あくまでも、オブザーバーのつもりであったから、意外であったが岩谷が許可を出したため、現在にいたる。

 しかし、久松率いる偵察小隊のメンバーは、文句を言われれば、言い訳できない程ごちゃごちゃだった。

 自衛官、ドイツ軍、群島諸国連合軍と反ミレニアム帝国の組織がら選抜された兵士たち、である。

「オーバー・ロイトナント、司令部より作戦開始を許可するとの返信です」

 2等兵(シュッツ)の報告に、久松は施設科の小中(こなか)3等陸尉に振り返った。

「状況開始!!点火用意!!」

「点火用意、よし!!」

「戦車隊、C(ツェー)地点を通過!!」

 双眼鏡を、覗いていた曹長が報告する。

「点火!!」

 久松の指示に、小中ら施設科の隊員たちが、点火装置のボタンを押す。

 その瞬間、ヴリトア渓谷の地盤の弱い部分にセットされていたC-4爆薬が一斉に起爆した。

 ズズゥゥゥゥゥン!!

 爆発音とともに、破壊された地盤は、衝撃で周辺に激しい土砂崩れをおこした。

「ここは、昔からしょっちゅう土砂崩れを起こしていましてな。私は主君から土砂崩れ防止の堰を設けるよう指示されて、堰を設置したのです・・・今は亡き主君と、そのご家族の無念を晴らすのにこれが役に立つとは・・・」

 この地方の出身だという老兵がつぶやいた。

 C-4は、この老兵の指示によって、土砂防止堰にも仕掛けられている。

 それを破壊する事によって、膨大な量の土砂が兵器となって、進軍する敵に襲い掛かった。

 これが、亡命ミレニアム軍の立案した作戦だった。

 行動の制限される渓谷で、土砂崩れを起こし戦車隊と歩兵部隊を分断する。

 これにより、戦車大隊には亡命ミレニアム軍、歩兵部隊にはガルド率いる群島諸国連合軍が当たる事になる。

 ただし、これはあくまでも最後の手段だ。本来の目的は別にある。

 この作戦は、神谷がウーリに全権を委任し、陸自部隊から可能な限り人員を割いてサポートしている。



「土砂崩れにより、最後尾のV号戦車3輌が巻き込まれ、後続の歩兵部隊と分断されました!!」

「してやられた!!やむおえん、各車最大速度でこの渓谷を抜けよ。ここでは戦えん!!」

 大隊長の指令は、すぐに各隊の指揮官に伝えられたが、エーレンベルグが待ったをかけた。

「何を言っている、崖上の敵を砲撃しなさい!!」

「そんな事をすれば、砲撃の衝撃でさらに土砂崩れを誘発します!今は一刻も早くこの場から離れるべきです」

「黙りなさい!!」

 エーレンベルグは、ヒステリックに叫ぶ。

「黙りません!!こんな状態で、砲撃すればどんな事を引き起こすかわからないのですか?敵は、それを見越してここで仕掛けてきたのです。歩兵部隊と分断され、単縦列で行動の自由を制限された状態では、我々は十分な力を発揮できません。とにかく、数の有利を生かすためにミカ平原に抜けるべきです!」

 中佐(オーバースト・ロイトナント)の、具申はエーレンベルグには許し難いものだった。

「私の命令に従わないのですね。この男を反抗罪で、拘束しなさい」

 彼の命令に、黒い軍服のSS兵士が、ワルサーP38を中佐オーバースト・ロイトナントに突き付ける。

 そのまま、戦闘指揮車から、引きずり出された。

「貴官は、自分の立場をわかってないようですね・・・私は元帥閣下より全指揮権を委任されているのですよ。この私に逆らうという事は、元帥閣下に逆らうのと同義なのですよ」

「それがどうした!?」

 両腕を、拘束されたまま中佐(オーバースト・ロイトナント)は叫んだ。黙々と命令に従うのには限界だった。

「貴方こそ、我々を何だと思っている!?私は、今の状況で最善と思われる具申をしたまでだ!貴方のように兵や民衆を使い捨ての道具としか見ないような輩がいるから、民衆の支持を失い、我々はここまで追い詰められたのだ。それすら理解できないのか!?」

 中佐(オーバースト・ロイトナント)の目には怒りが浮かんでいた。戦場の辛苦も知らず、安全な帝都で弱者をいたぶっていた様な輩に、大事な部下の命を良い様にされては堪らない。

「・・・!!反逆するか!!」

 怒りに顔を歪めて、エーレンベルグはホルスターからワルサーP38を抜いた。



「ヤバい!!」

 一部始終を、89式照準補助具で確認した久松は、伏せ撃ちの姿勢を取った。

 SSの軍服の士官が、陸軍士官に拳銃を突き付けている。

 詳しい成り行きはわからないが、久松は咄嗟に彼を助けなくては、と思ったのだった。

「あの野郎は、SSの中でも一番いけ好かない奴ですぜ。オーバーロイトナント、やるんですか?・・・距離300、風は無風・・・」

 久松の意図を察した曹長(フェルトヴェーベル)が、臨時で観測手を務める。

(・・・直哉がいてくれたら・・・)

 そんな考えが久松の脳裏をよぎる。照準補助具を付けているとはいえ、狙撃手ではない久松にとって、この距離の狙撃はかなり厳しい。

緊張から手が震えて照準が定まらない。

その時・・・

「久松!俺にまかせろ!!」

 いるはずのない声が、通信機から聞こえた。

「!!?」

 タァァァン!・・・タァァァァン!

 2発の銃声がヴリトア渓谷に響いた。

(直哉!?)

「オーバー・ロイトナント、向こうの崖の上!」

 曹長(フェルトヴェーベル)の声に、照準補助具越しに視線を走らせた。

「来島3曹!?」

 狙撃小隊第1班は、直哉の戦死後、副班長の陸曹長の指揮の元、群島諸国連合軍の援護に回っているはずだった。それがなぜ?

 ギリースーツに身を包んだ来島が、伏せ撃ちの姿勢で姉譲りの魔女の冷笑を、その端正な顔に薄く貼り付けて、M21狙撃銃を構えていた。

 さらに1発の銃声が響く。



 突然、エーレンベルグは、額と心臓から血を噴き出して倒れた。遅れて、銃声が響く。

「日本軍の狙撃兵か!?」

 中佐(オーバースト・ロイトナント)が、叫んだ。自分を押さえていたSSの兵士が、額を撃ち抜かれて倒れる。

 恐ろしい程の正確な狙撃だ。

「ひいっ!!」

 もう1人の兵士は、悲鳴を上げて逃げ出した。

 そこへ、巨大な影が舞い降りて来た。

 ウルオォォォォン・・・!!

 竜騎士が騎乗する竜より、2回りは巨大な白銀の鱗のドラゴンが、兵士を踏み潰し、歌うような、美しい咆哮を上げる。

「「「・・・・・・!!」」」

 想像もつかない出来事に、戦車兵たちは呆然となった。

「イングリット、ご苦労であったの」

 ドラゴンから飛び降りた白い少女が、ドラゴンに声をかけた。

「ここは、妾が引き受けた。お主は向こうのサポートに回ってくれ」

 少女の言葉に、ドラゴンは風を巻き起こして飛び立って行った。

「さてと・・・お主が指揮官か?」

「そうだ」

「ウーリがお主と話をしたいそうだ。聞く気はあるか?」

「ゲネーラルが・・・?」

 少女は、通信機を背負ったまま後ろを向いた。

「大体、乙女にパシリをさせるとは・・・岩谷も、人使いが荒いのう」

 ブツブツと独り言をいう少女をしり目に、中佐(オーバースト・ロイトナント)は受話器を取った。

「・・・デラーだ」

 無線機から、ウーリの声が流れる。

「ゲネーラル、私に何の話があると言うのです?」

「貴官らに降伏を勧告したい」

「なっ!?」

 まだ、戦闘さえしていない状態でのあり得ない勧告に、唖然となった。

「貴官に聞きたい。このまま日米軍と戦い続けたとして、どんな未来がある?本来我々と関係のないこの世界を荒廃させるだけだと思わないか」

「・・・・・・」

「ミレニアム政策はすでに破綻している。我々は元の世界の続きを繰り返してしまった。だが、まだやり直すチャンスはある。SSやナチス上層部の主戦派を抑え、国防軍としての本分を取り戻す。自衛隊やアメリカ軍も協力を約束してくれた。この大陸により良い未来を築くことが、これからこの世界で生きていく我々がすべきことであり、罪滅ぼしではないのか?」

「・・・・・・」

取り合えず、時間をくれるように要請し、一旦、通信を切った。

「悩む事でもあるまいに・・・お主の顔にはウーリの考えに賛同すると書いておるぞ」

「我々は軍人としての誇りがある。そう簡単に変節などできない」

 通信機ごしに自分を、見上げる少女に中佐(オーバースト・ロイトナント)は、苦悩する表情を浮かべた。

「まったく、直哉といい・・・男とは難儀な生き物よのう・・・もう少し、簡単に考えればよかろう。お主らの信念を否定はせぬが、お主らも人の親であり子であろう。1人の人として、自分の親や子に恥じぬ生き方を選択するのは悪い事ではないと思うがの・・・」

「・・・・・・」

 中佐(オーバースト・ロイトナント)は大隊を振り返った。

 各車輛のハッチからは、車長がこちらを見ていた。

 全員が沈黙したままで・・・

 彼らの表情は、全員が自分の意思に従うと物語っていた。

「・・・降伏したとして、我々は亡命ミレニアム軍に組み込まれるのか?」

「望むならそうすればよかろう。望まぬなら、おとなしくしておれば誰も文句は言わぬ」

「分断された歩兵部隊はどうなっている?」

「心配ない、向こうも亡命してきた竜騎士のサブリナが説得にあたっておるはずじゃ・・・それと、これは要という女が言っていたのじゃが、生き恥なぞ生きておればいつでも挽回できる。大切な者を待つ家族にとって、名誉の戦死なぞより生きて帰ってくれる事の方が何万倍も大切なのじゃと・・・」

チラリとカーラは倒れたエーレンベルグに視線を送る。

「こやつのような、阿呆にはわからぬだろうがの・・・」



 30分後、亡命ミレニアム軍の司令部に、戦車大隊と歩兵部隊からの降伏勧告受諾が報告された。

 軍使として、派遣されてきたラルフと久松の小隊は合流した。

「何をやってるんだ、カーラさんは?」

「ああ、今ならまだ助かるからって、土砂に埋まったⅤ号戦車の乗員の救助活動をしている」

「・・・・・・」

 先ほどまで敵同士だったはずの自衛隊員とナチス・ドイツ軍の戦車兵がスコップを持って、土砂の撤去をしている。

「何をしておるか、久松。ラルフ、お主も手伝わぬか!!72時間以内に助けださねばいかぬのだからの」

「そんなに時間をかけてどうするんです・・・」

 何気に、救助活動を仕切っているカーラに久松は突っ込んだ。

「そうだ、来島3曹。さっきは助かった、俺じゃ上手く狙撃できたかわからなかった」

「どうも・・・味方に当てるようなヘマはしない」

 M21を肩にかけて、来島は言葉少なく笑った。

 その来島のレッグホルスターには、直哉の形見であるM1911A1MEUがあった。

(多聞、お前は直哉の死を乗り越える事ができたのか・・・)

 久松は心中でつぶやいた。

 そういえば、生前直哉が言っていた。

「多聞は、姉バカ2人に散々甘やかされていたから、あの通りの甘ちゃん野郎だが、吹っ切れれば俺を超える冷徹な狙撃手になるかもな・・・」



 騒ぎ声が聞こえる。久松とラルフ、来島は声の方に振り向いた。

「5人とも無事だ!!」

 誰かの叫び声と共に、歓声が上がる。

 掘り出された、戦車の中から兵士が引っ張り出されていた。

「よし、他の連中も助け出すぞ!」

「「「おおっ!!」」」



 後にミレニアム戦役と呼ばれる戦いにおいて、唯一戦闘による死者が出なかった戦いとして、ヴリトア渓谷戦は記録されている。

 完結篇後篇第7章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は4月8日までを予定しています。

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