平行世界 第9章 戦闘
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
1部加筆修正しました。
もう終わりだ。
もうじき自分も倒れて絶命している少年少女たちと同じ道をたどる。
クリスカは、この数瞬で、そのことを思い知らされた。仲のいい友達が次々と目の前にいる漆黒の鎧を身にまとった兵士(侵略者)たちに殺され、彼女に絶望を植えつけるのに十分だった。
彼らが一歩一歩前進すると彼女はあとずさる。
自分があんな事を言ってしまったから、こんな事になってしまった、クリスカは大きく後悔した。
ミレニアム帝国軍がラペルリ連合王国に侵攻してきた時、国民は団結し、侵略軍に立ち向かった。しかし、団結した時には既に遅く、圧倒的な軍事力の前にことごとく殲滅された。
ミレニアム帝国軍は竜騎士団を投入し、空から攻めた。
ラペルリ連合王国軍に竜に対抗する術はない。そもそも竜はこの世界において最強無敵の存在だ。竜には竜しか対抗できない。それがこの世界の常識だ。
稀に竜を打ち倒すことはあるが、10の戦いの中で1匹か2匹というレベルだ。それも、数え切れない兵たちの命を削ってだ。
竜騎士団が一個あれば数10万の兵に匹敵する。
ミレニアム帝国軍の圧倒的過ぎる武力の前にラペルリ連合王国軍は敗退し、北へと押しやられていた。
歴戦の兵は緒戦で多くが戦死し、今では経験の浅い兵たちが抵抗しているに過ぎない。
戦術も正面決戦から夜襲に切り替え、必死の抵抗を繰り広げていた。
そんな中、戦いに参加できない15歳以下の少年少女たちの中に逃げるのに嫌気がさし、ミレニアム帝国軍に奇襲攻撃する一味が出た。
だが、その戦果は犠牲のわりにはあまり出ていない。
原因として考えられるのは、無計画で襲撃するからだ。
今回のクリスカたちと同じように。
10数人程度の兵にクリスカたちは襲撃したが、4、5人程度の兵を倒しただけで、その後は一方的な虐殺だ。
クリスカは目を閉じ、死を覚悟した。
すると、彼女の頭の中に母と親切にしてくれた大人たちの顔を過ぎった。楽しかった思い出が過ぎる。
エルフであり、この国の王女である彼女。だが、誰も身分を気にせず対等な友達として接してくれた。
(皆、ごめん!そして、もうじき行くからね!)
クリスカは心中で叫んだ。
長剣を持った一人の男が不敵な笑い声を上げながら剣を振り上げ、振り下ろそうとした・・・その時・・・
漆黒の鎧を着た男の額に、何かが、貫き、穴をあけた。その男は額から血を吹き出しながら後ろへ吹っ飛んだ。
「え?」
クリスカは目を丸くした。
遅れて聞いた事もない音が響いた。
タァーン!
大男の後ろにいた兵士たちは何が起きたかわからず、倒れた同僚を呆然と見ていた。
「ミレニアム帝国兵士に告ぐ!これ以上の虐殺行為をするのであれば、国連軍として対処する!ただちに、撤退せよ!」
突然の声に、兵士たちは正気を取り戻し、声のした方に向いた。
そこには斑模様の服を着た者たちが30人、黒い杖のような物をこちらに向けている。
「貴様等か!?」
「許さん!」
兵士たちは長剣や槍を持って、一斉に突進した。
こちらに向かって一斉に突進して来るのを確認した久松は冷静に命じた。
「敵対行為を確認。正当防衛射撃!」
久松の命令に弾かれるように隊員たちが89式5.56ミリ小銃の引き金を縛った。
発射炎が瞬く。
NATO2代目共通弾5.56ミリ高速ライフル弾が兵士たちを襲う。
10数人の兵士たちはあっという間に呆気なく倒れていく。
防弾チョッキすら貫通する高速ライフル弾に時代錯誤もいいところの鎧が防げるはずもない。
「撃ち方やめ、撃ち方やめ!!」
久松は叫び、発砲が止んだ。
「あ・・・あ、あ」
アンネリは耳を塞ぎ、その光景に唖然としていた。
久松は部下たちを見た。
部下たちは目の前で起きた事を信じられないという表情で、自分の手で殺害したであろう兵士たちを見た。
呼吸は短く、荒い。
自衛官ならば、人の命を奪わなくてはならない。この任務に参加した時からわかっていたはずだ。だが、いくら、頭で理解しても、心はそうはいかない。
戦後から半世紀以上、日本は戦争をしていない不戦の軍隊だ。
だから、こうなるのも仕方ない。
久松ははっとした。自分はこんな事をしている場合ではない。
「1班、2班は周囲の警戒。3班は生存者の確認と救護」
久松は部下たちに命じると、呆然と立ち尽くしていたアンネリが駆け出した。
「クリスカ!」
アンネリが声を上げて金髪のエルフの少女へ駆け寄り、強く抱きしめた。
「か、母様・・・」
エルフの少女はそうつぶやき、力が抜けたように気を失った。
久松は最初に射殺された大男を見下ろした。
彼の額には、NATO共通弾7.62ミリライフル弾が貫通している。
(いい腕だよ)
彼を射殺したのは高井だ。
茶色い髪に気怠げな青い目を持つ少年、ティーロ・バールはいつものように目を覚ました。
(この島に来てどのくらいの月日が経ったのだろう)
ティーロはそんな事を考えながら軽装の鎧を着用し、身だしなみを整えた。
コルセイユ隊に入隊して、すでに半年。ミレニアム帝国軍では珍しくない少年兵少女兵で編成された部隊だ。
ここは前線からはるか後方に離れた地点。東を向けば広大な海、西を向けば平原である。
ティーロは、まだ眠っている同僚を起こした。
「・・・まだ眠いよ。もう少し寝かせてよ、母さん」
同僚はまだ寝たそうな口調で言った。
「ティル。眠いのはわかるけど、早く起きないと隊長にどやされるよ」
「た、隊長!?」
ティルと呼ばれた少年兵は跳び起き、すばやく着替えて、身だしなみを整える。
「さて、今日は何をするのかな?」
「さあ。たぶん、いつもの補給物資の確認と担当区の警備じゃない」
「ええ~また、つまねぇ雑用かよ」
同僚たちの会話を苦笑しながら聞いていたティーロは背伸びした。
彼ら少年少女たちで編成された部隊の役目は少年兵が言ったように後方支援である。
物資の輸送、確認、輸送部隊の護衛、担当区域の警備、伝令、哨戒である。任務の性質上から指揮官のほとんどは平民出身の叩き上げの仕官か、退役まじかの仕官、稀に仕官学校のエリート学生が実地訓練という名目で着任することがある。
ティーロが所属するコルセイユ隊の隊長は平民出身の叩き上げの仕官である。
愛国心や軍人としての誇りが欠けている癖に部下たちには厳しく、特に自分の評価が下がることにはさらにうるさい。
そんな上官であるから同僚の評価はよい訳がない。ティーロ自身も隊長に対していい評価はしていない。
(そういえば、そろそろ収穫の時期かなぁ・・・)
故郷では父母と一番上の兄夫婦が収穫している頃だろう。
もう一人の兄も運送屋だから、収穫された穀物や野菜などを市場に運んだり、年貢を納めに行ったりと忙しい日々をおくっているだろう。
そんな事を考えると、故郷の事を意識する。
農家の三男坊として生まれたティーロは家でも居場所がなく孤立した感覚を覚えていた。
将来を約束した幼馴染がいる事だし、早く蛮族との戦争を終わらせて帰りたい。もちろん報酬を貰ってからだ。
「?」
その時だった。外から鐘を鳴らす音が響いた気がした。
カン!カン!カン!今度は確かに敵襲を知らせる鐘の音が響いた。
ティーロたちは慌てて天幕を出た。
「海から敵襲だ、そうよ!」
「3隻で攻めて来ているらしいぞ!」
ティーロが天幕から出た途端、同僚たちの声が耳に入った。
彼は海上を見る。
すると遠くの海に灰色の何かが浮いている事を確認する。
それは、まるで島のように大きい。
だが、動いているという事は、船である事には間違いない。
「なっ!なんだ、あれは!?」
横から男の絶叫が響いた。
ティーロが振り向くと、そこには望遠鏡を覗きながら絶叫したまま動かない隊長の姿があった。
「た、隊長!」
ティーロは隊長に声をかけた。
「隊長!指示を!」
ティーロの呼びかけに我に返った隊長は怒鳴るように指示をだした。
「な、なにをしている!すぐに竜騎士団駐屯地に伝令を出せ!巨大な艦隊が攻めて来たと」
「は、はい!」
ティーロは胸に拳をあて、駆け出した。
幸いにも、竜騎士団駐屯地は近くだ。そんなに時間はかからない。
ティーロは全力疾走で駐屯地に向かった。
駐屯地に着くと門番の兵士に報告し、中へ入れてもらい。担当の仕官に再び報告した。たまたま、竜騎士団長がいたから、ティーロの報告を直接聞いた。
「よし、わかった」
団長は副官に振り返った。
「全員を起こせ!これより謎の艦隊を沈めるため、全騎出陣だ!」
「待ってください!まずは斥候を出して報告内容が本当かどうか確認すべきでは?」
副官は疑うような口調で言った。
「そんなものは必要ない。この少年兵の目を見ろ、とても嘘を言っているようには見えない。ただちに出陣だ!」
「はっ!」
駆け出した副官の背中を見送った団長はティーロの頭に手を置いた。
「少年。名前は?」
「ティーロです!」
「ではティーロ、特等席で我々の勝利を見ているがよい」
団長はそう言い残すと副官が駆け出した方へと歩みだした。
団長が歩き出したと同時に、竜騎士たちに出陣を知らせる角笛が吹き鳴らされた。
急造隊舎で休んでいた竜騎士たちが一斉に姿を現し、それぞれの愛騎に飛び乗った。
「出陣!」
「団旗を掲げよ!」
角笛の音色は、翼を休ませていた45騎の竜を興奮させた。竜が咆哮を上げる。
竜騎士たちは手綱を操り、空へと羽ばたいていった。
ヘリ搭載護衛艦[ふそう]のCICでは薄暗い室内でレーダー員がレーダースクリーンを睨み、どんな小さな異変も見逃さないようにしていた。
本来、現代艦が敵のいる陸地に近づく事はない。現代艦は敵の探知圏外からミサイルを撃ち込む、これが原則なのだ。敵地が目視できる程接近する事は不必要なのだ。
だが、板垣は敢えてそれを行うよう指示した。この世界の海軍は、船を見せる事で敵国に対し抑止力とするのだ。むろん、現代でも同じである。要するに海軍の伝統なのだ。
だが、それは、敵に狙われる危険性を高めるが、それこそが板垣以下幕僚たちの狙いでもあった。
レーダースクリーン上に、多数の光点が現れた。その数30機以上で増加中。
それは、敵が飛翔した事を示していた。
「目標探知!大編隊です。敵味方識別(IFF)信号に反応なし!数、対空目標45機!」
「・・・これが、本当の戦闘か・・・」
演習で何度も経験しているはずなのだが、緊張で身体がこわばる。
この時、高上をよく知る船務長は心中でこう述べた。
(緊張している。どんな厳しい訓練でも、汗を掻くどころか、震える事がなかったあいつが)
「釣りは成功か?」
秋笠がレーダースクリーンを眺めながら言った。
「対空目標、他に反応は?」
高上はレーダー員に聞く。
「いいえ」
「半分だけ成功です」
高上は秋笠に言った。
情報によれば竜騎士団は2個で85騎だと言うことだが、今、捕捉できているのは45騎である。
「目標群、真っ直ぐ本艦に向かって接近中!最短目標との距離7マイル!」
イージス艦やミサイル護衛艦等の戦闘距離としては、あまりにも近い。
「司令」
「艦長。対空戦闘を許可する。1機たりとも近付けさせるな!通信士各艦に通達」
通信士が各艦に通達した。
秋笠の指示に高上はうなずき、[ふそう]が建造されて以来、初となる。号令を出した
「対空戦闘用意」
高上の号令に砲雷長の飯崎夏美3等海佐は艦内通信で号令を出した。
「対空ぅ戦闘よーい!これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない!」
同時に対空戦闘を知らせる警報ブザーが鳴り響く。
艦内各所にある隔壁ハッチがすべて閉鎖され、乗員全員が鉄帽と救命胴衣を身につけて配置につく。
「異世界ではあるが、我が海上自衛隊が世界一である事を世に知らしめる時がついに来た」
秋笠は一呼吸おいてから、続けた。
「神仏照覧」
時代錯誤な司令の言葉に乗組員たちがざわめいた。
だが、それも一瞬の事だ。飯崎は冷静に部下たちに命じた。
「シースパロー(ESSM)及びCIWS、スタンバイ!」
[ふそう]はイージス艦には及ばないがミニ・イージスシステムを装備している。コンピューターが向かってくる敵の距離・速度などから脅威度判定を行い、優先攻撃目標の算定を開始する。
一方の竜騎士団は45騎の精鋭が隊伍を組んでいた。
45騎の竜が空を舞う姿は、壮観の一言だった。普通ならこの威容を見るだけで、降伏するだろう。
普通なら。
竜騎士であるエルヴィーネは、改めて正体不明の灰色の船を観察した。
「あんな巨大な船が存在するの・・・?」
彼女の常識からすると、その物体は船と言うより島のような印象だった。巨大な軍船を目にした事はあるが、それの4倍以上はある。
「エルヴィーネ。船なんてどれも一緒だ、私たちにかなうわけがない」
戦友のアルビーネが、艦隊を観察しながら言った。
嫁入り前だと言うのに、髪を短く切り揃えて、一見すると男かと思う。
「そうね、でも見た事がない形ね」
「ああ、そうだな。それに灰色なんて、聞いた事もない」
しかし、自分たちが最強の存在であることには変わりない。
「たった3隻で私たちにかなうと思ってるのかしら?」
「だったら、現実を教えてやろうじゃないか」
エルヴィーネの言葉にアルビーネが不敵な笑みを浮かべて、断言した。
不敵な笑みを浮かべているのは彼女たちだけではなかった。
[あさひ]のCICでもレーダースクリーンを眺めながら冷笑を浮かべる砲雷長が、光点が4つの塊に分散したのを確認した。
「波状攻撃か、考えは悪くない・・・」
「目標群、4隊に別れました。以降、ターゲットをアルファ、ブラボー、チャーリ、デルタと呼称」
「目標群アルファ、本艦に最接近!迎撃優先を具申します!」
この報告に稲垣は深呼吸した。
最新鋭のイージスシステムの前に、これから起きる事はまさに惨劇であろう。
「了解。迎撃目標はアルファとする」
稲垣は意を決した。
「左・対空戦闘、CIC指示の目標、主砲、撃ちぃ方始めぇ」
稲垣の指示に砲雷長は復唱した。
「目標群アルファ、主砲、撃ちぃ方始めぇ」
「撃ちぃー方始めぇ!」
射撃員がピストル型の発射装置を握り、そのトリガーを引く。
艦首に搭載された5インチ砲が旋回し、吼える。
船の船首からの砲炎をエルヴィーネは確認した。
この世界でもあちらの世界でいうところの大砲は存在する。
唯、火薬を使って砲弾を発射する自衛隊員たちの世界と異なり、この世界の大砲は魔法の力で砲弾を打ち出すのだ。
「この距離なら、射程外ね」
見たところ砲は一門。
以前、10隻を超える海軍船から砲撃を受けたが、命中したのは一発だけだ。
竜騎士全員がそう思っているだろう。
だが、それは大きな間違いだった。
砲弾は最先頭を飛翔する竜の目の前まで届き、接触寸前に爆発した。
竜は原形をとどめずにずたずたに引き裂かれ、黒煙を上げながら海面に激突した。
「え・・・え・・・!?」
エルヴィーネは、自分の目で見たものが信じられなかった。
そして、砲弾が爆発した近くにいる竜が次々と爆発している。
「ど、どうして!?」
「馬鹿な!空中にいる我々にここまで正確に砲撃するなんて!?」
アルビーネが絶叫する。
「目標群アルファ、全機撃墜」
「[はつかぜ]もターゲット・チャーリを撃墜しました」
次々と報告が入る。
そもそも[あさひ]と[はつかぜ]は音速の目標を迎撃するために建造された艦隊防空艦である。最新のイージスシステムを装備した[あさひ]、ミニ・イージスシステムを装備した[はつかぜ]に死角はない。
さらに、すべてがコンピューター制御されている。
「目標群ブラボー、デルタ最接近!」
「シースパロー撃ち方始め!」
砲雷長の指示で射撃管制員がデータを入力する。
「後部垂直式ミサイル発射装置開放(VLS).シースパロー発射!」
ミサイル発射パネルが操作され、後部VLSセルのハッチが開放された。そして、セル内に格納されている艦対空ミサイル発展型シースパロー(ESSM)がロケット・モーターを作動させる。
「えっ!?」 こちら側は何もしていないのに、突然軍艦が爆発したかのように見えた。
VLSでのミサイル発射の光景は、艦が炎に包まれているかのように見えるため、何も知らない人が見れば、彼女のように爆発したと勘違いするのも仕方ないだろう。だが、それは、ミサイルがロケット・モーターを作動し噴き上げる炎を外に逃がしているだけだ。
死の矢が天空高く飛翔した。
(光・・・矢?)
彼女はそう思うしかなかった。
それは何本も空高く飛び上がると、白い煙の尾を引きながら、一直線にこちらに向かって飛んでくる。
それも、信じられない速さで・・・
「ひっ!?」
咄嗟にエルヴィーネは手綱を引いて、竜を静止させる。
その光矢は先導にいた隊長騎に命中する。
すさまじい爆発により、隊長騎は木の葉のように散り散りに散った。
「隊長!?」
アルビーネが悲鳴を上げる。
エルヴィーネも悲鳴を上げようとしたが、何かが横切る。
「うああああああ!!?」
アルビーネが再び悲鳴を上げた直後、エルヴィーネのすぐそばで爆発が起きた。
これまで共に競い合い、共に笑い合った親友が犠牲になった瞬間だった。
「あ・・・あ・・・あ」
彼女の視界には、光矢に追い回され、次々と絶命していく竜たちの姿があった。まるで虫のように・・・
竜の断末魔の叫びと竜騎士たちの悲鳴が広い空に響く。
「こんな事・・・ある訳ない・・・」
彼女は今起きている事が信じられなかった。
竜騎士は、この世界で比類なき絶対の強者のはず、だが今起きていることは竜騎士が絶対の強者という言葉を疑わせるものだった。
これは悪夢だ、彼女は祈るように願った。
「!」
何かの気配を感じ、気配がする方向に振り向く。
「お母様、お父様。ごめんなさい」
光矢が悪夢を終わらせに来た。
[ふそう]のCICでは、各担当から次々と報告が上がった。
「[あさひ]目標群18機撃墜確認。[はつかぜ]目標群11機撃墜確認」
「本艦、目標群9機撃墜確認」
「敵残存機、本隊から距離を取り始めました」
レーダー員からの報告に、秋笠と高上は戦闘終結を悟った。
シースパローによる攻撃で竜騎士団は壊滅どころか全滅に近い損失を出した。
数騎が[ふそう]の近接距離に近づいたが、近接防御火器であるCIWSの餌食になった。
この戦果は、遠く離れた旗艦[やまと]のモニターにも映し出されているだろう。
「作戦成功、と言ってよいのでしょうか?」
飯崎はレーダースクリーンを眺めながら、つぶやいた。
「いや、半分だけ成功だ。当初は2個竜騎士団をおびき出すことだった。しかし、釣れたのは1個だけ、制空権はまだ敵の手にある」
秋笠は眼鏡を上げながら、答えた。
「砲雷長。その言葉はまだ早い」
高上が言った。
「対空警戒を怠るな。付近を探索。竜騎士団の生存者を発見しだい救助せよ」
「了解」
高上の指示を浅生が復唱する。
秋笠と高上はレーダースクリーンに向いて、挙手の敬礼をした。
この戦闘で散った勇敢な将兵たちに対し、敬意をはらって。
「甘い・・・」
誰にも聞き取れない声でつぶやいたのは、「あさひ」砲雷長の来島周3等海佐だった。
「はい?」
近くにいた砲術士が振り返った。
「何でもない、まだ戦闘は続行中だ、気を抜くな」
唇の端を吊り上げて彼女は笑い続けている。
砲術士はゾクリと背中に悪寒が走った。
(終わりじゃないって事ォ!?)
魔女の微笑を浮かべて来島3佐はスクリーンを凝視していた。
「さて、海自2番目の策士の坊やの戦術、これで打ち止めってわけじゃないだろう。まだ半分しか成功してないからな」
自分より1つ年下の首席幕僚を坊や呼ばわりしつつ変人の異名を持つ砲雷長は、救助要員に武装を指示した。
「・・・念のためとだけ言っとくさ」
部下の疑問に対し、彼女はそれだけを口にした。
第9章を読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回もよろしくお願いします。