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砂漠のアーリー  作者: 辻村深月
3/6

人と巫女

夜、眼が覚めるとポープが幸せそうに竪琴を抱いて寝息を立てていた。

焚き木の火がバチバチと揺れる。

アーリーの姿が無いのに気がつき起き上がるとダスクが俺の頭に顔を寄せた。


「起こしちまったか?」


鼻の上を撫でてやると目を細める。


「アーリーを知らないか?」


撫でながら尋ねると、ダスクは顔を左側の向こうへ振る。

ダスクを残して、風に削られた岩を登った。



「夜は寝た方がいいぞアーリー」


一人空を見上げていたアーリーが振り向く。

そして少し俺を見た後、すぐにまた空を見上げる。


「そうだな、その気になったら眠るとしよう」


俺はアーリーに軽くチョップをくらわせるとハッキリと言う。


「バカか!?夜は冷えるし起きてたら喉乾くだろ、砂漠なめんじゃねーぞ!」

「サソリさん、暴力は如何なものかと思うぞ」


しかしアーリーは微かに嬉しそうに笑うと、どこか遠い目をして言った。


「アルバ、君はいい奴だな。私の力に頼ろうとも恐れを抱こうともしない」

「当然だろーが、そんなの毎回使われたら目立って仕方がないし大惨事だ」


俺の言葉にアーリーが可笑しそうに笑う。

その横顔を見ながらポリポリと頭を掻く。


「お前はメチャクチャ変な奴だよ、頭にくるくらいな」

「そうか、それはすまないな。生まれつきなんだ諦めてくれ」


後ろに仰け反りながら俺を見上げてそう言うアーリー。

悔しいがちょっと可愛いと思い、俺は口をへの字に曲げた。


「アルバ…」


急に名前を呼ばれそのままアーリーの隣に座ると答える。


「なんだよアーリー、改まって」

「僕の旅は終わりが見えない程に果てしなく長い。それこそ生涯で成し遂げられるかも怪しい。君達は言ってしまえば何の関係もないはずだ。今からでも引き返し、静かに暮らしてもいいのだぞ」


俺はアーリーの肩を軽く小突く。


「またそれか、お前こそいい加減諦めろ。俺はちゃんと恩を返すまで帰らねーぞ」


そもそも、元々帰る家なんてとうの昔に失くしたんだからな。


「そうか…」


アーリーはそう呟くと、静かに目を閉じた。




日が昇り、また再び見渡す限りの広大な波打つ砂を踏みしめて歩く。


「我らは〜砂漠を行くトラベラ〜…」

「気だるい唄歌うんなら埋めるぞポープ…」


覇気なくポープにそう言いながら汗を拭う。


「辛いのか?」


振り返ってそう言うアーリーに、すかさずポープが挙手をする。


「辛いですとっても辛いですぞ!水を下さ…ぐぬぬ…!?」

「あー…大丈夫だ、俺らの事は気にすんな」


ポープの口を塞ぎ、すかさず代わりにそう答える。

だがアーリーはダスクの手綱を引きこちらの方へ向き直ると、小走りに近ずいてきた。


「無理はするな、ダスクにも水をやらなければならない。少し休め」

「何と慈悲深い!この天才詩人、感激しましたぞ!」


歓喜の声を上げるポープと気にした素振りを見せないアーリーを見て、面白くない顔をしながら俺は日照りを避ける場所へと移動する二人の後に続いた。




惜しげもなく水を出すアーリーを見ながら、俺は目を細める。

最初は何故見ず知らずの君にとか何とか言っていたくせに全く…。

俺の予想通りちょっと調子に乗っている様子のポープ。

本当に面白くない。


「アルバ、君も喉が渇いたろう。飲むがいい」

「…いらねーよそんなの!」


俺はそれだけ言うと、アーリー達に背を向けて岩場の向こうへ回り少し頭を冷やすべく風に当たった。

当たると言っても熱風に近く、イライラが募るが文句は言っていられない。


「ふざけんじゃねーよたく!」


遂にはターバンを砂場に叩きつけた。

そこでやっと平常心を取り戻しながら、腰掛ける。

俺は何をしてるんだ、あの自称天才詩人の物乞いとアーリーを二人だけにしていいわけないだろ。

砂埃を払いながら再びターバンを巻き、戻ろうとする。

そんな時だった。

空に…見た事の無い赤い蝶の模様が浮かび上がる。

それはアーリーの描き出した青の静けさを感じるものと違い、猛々しくどこか血なまぐささも感じる嫌な印象を受けた。

何かあったと感じ、急ぎ元いた場所へと駆ける。


「アーリー!」


駆けつけて見たのは既に倒れているポープと、膝をつきダスクを逃すアーリー、そして空に浮かんだ模様と同じ目をした初めて見る女だった。


「なんだお前!アーリー達によるんじゃねー!」

「やめろアルバ!逆らうんじゃない!」


黒い髪に、腕に赤い蝶の刻印を持つ女。

もしかしなくてもアーリーと訳ありらしい。

女は細長い三日月の先のついたロッドを振ると、アーリーに言った。


「情けない子。また人間と馴れ合っているの?しかもまだ救おうとさえしているなんて信じられない。そんなんだから、何時までも力や感情の制御も仕切れない落ちこぼれなのよ」


暫く俺は黙って女の話を聞いていた。

だが、聞けば聞くほど腹が立つ!

針を出し臨戦態勢に入った俺をアーリーが再度制止する。


「アルバやめるんだ!トワイライトの怒りを買うんじゃない!」


…トワイライト?

少し間を空け、ジワジワくるものを抑え切れず、盛大に笑い上げた。


「トッ…トワイライトッて…ちょっと待ってくれよ…!」


そんな俺を見てロッドをザックリ斜面に刺すトワイライト。


「己れ人間…どこまでも私達を虚仮にしてくれる!」


再び今度は地面に模様が浮かび上がる。

流石にヤバイ!


「させない!」


すかさずアーリーも左頬を光らせながら地面に模様を描き出す。

水流と水流がぶつかり合った。

しかし圧倒的な勢いの赤い水流に容赦なくアーリーと俺は呑み込まれた。


「アーリー…」


倒れ込んだアーリーにトワイライトは近づくとその髪を掴み顔を上げさせる。


「アーリー、バカな妹。一緒に来なさい、下らない旅などする必要はない」

「トワイライト…僕は…」


トワイライトは俺の首元にロッドを当てがうと、鋭い三日月型が鉤爪のように俺の皮膚を破る。


「来なさいアーリー、言うことを聞かないとどうなるかわかっているわね」


アーリーは顔を僅かに歪めながら頷いた。

二人が去った後、俺は砂の地面を叩く。

そしてこれ以上ない程叫ぶが、誰も聞くものは居なかった。


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