始まり
はい、終君の視点の話です。
「――なあ……って、おい、おい? 由楽?」
「……へ?」
ハッと顔を上げる親友の顔を覗き込む。ちょい茶色っぽい黒髪に漆黒の目、162㎝を超える身長を持つ――この中では一番高い――彼、 柚崎由楽は、俺と咲――由楽とは 幼馴染で同じ中学3年4組の、茶髪蒼目で身長140㎝弱の女子で、本名坂城咲―― が顔を至近距離から覗き込んできている事に気がつくと、思わず(なんだろうが)上体を引いた。黙りこんでたのは由楽の方なのに、その反応は何だよ、全く。
今は学校が終わって帰宅途中。その途中で、由楽が話を振っても返事しなかったのだ。
4月に転校してきて以来、すぐ仲良くなったのだが、由楽はほっとくと思考の泥沼にはまりこんで戻ってこない事が多いと言う事を、知り合ってすぐに理解していた気がする。今のもそれだろう。
「由楽、またぼーっとしてたな?」
「あ、ああごめん。ちょっと考え事を……」
「よくゆー君は考え事しながら歩けるなぁ。ボクがそんな事したら3歩でこけるのに」
咲がすぐに乗ってきた。一応もう一回言うが。ボク、と言う一人称を使ってはいるものの、咲は女の子である。男勝りで暴走する事が多々あるらしく、由楽は幼馴染としてよく振り回されているらしい。早く女子力に目覚めて欲しい、ついでにその『ゆー君』も止めて欲しい、と言うのは本人の弁。
ちなみに俺、 神浄終 の容姿はと言うと、とても濃い群青の髪に黒目で身長160㎝位、といった感じだ。男子2人が咲より高いが、何で女子は身長が低いのだろうか。……まあそれはとにかく、いまだに思案顔の由楽。
……ちょっとボケてみるか。
「……しかし、本当に考え事多いな最近。何か心配事でもあるのか? 俺はこの世界が早くゲームみたいにならないかと日々神様に祈る事しか考えてないぞ」
「早く中2病から足を払え、そして現実に目を向けろよお前この前の中間テスト史上最悪だったんだろ?」
……、結果、メッチャ痛い所を突っ込まれた。しかも何かいい笑顔で。あれは絶対弄ってくる時にする顔――って、
「ぐおぉ、そ、ソレを持ち出すな傷が増える! い、一応300点はいったんだからな!?」
一応名誉の為に言い返すと、すぐさま咲が続けた。……違う方向で。
「良いじゃん300いってて! ボク100もいかなかったんだよ?」
・・・、えーと、とりあえず咲には言うべきだろう、と思って俺は、
「「お前はそもそも勉強して無いじゃないか!」」
と声を荒らげて言い返した。すると、丁度由楽と2人揃って言い返す形になる。それに咲が笑いだして、何がおかしいのか、と俺も苦笑いをしていると、つられたのか由楽も笑い出した。2人の笑っている顔を見ている内に、何だか馬鹿らしくなってきて俺も笑い出す。笑い声が周囲に響く中、ふとこんな風に3人で笑ったのは何時だったかと思った。俺は剣道部が引退に向けて激しくなってきたし、由楽はパソコン部が忙しいらしい。唯一帰宅部である咲は咲で(由楽は知らないが)曲作りをやっている為、一緒に帰れない事が多い。3人で帰るのは本当に久しぶりだな。
日常の、他愛ない会話。
「……」
ふと目を向けると、由楽が笑っている様でいて、悲しんでいる様な顔で黙り込んでいた。
また泥沼にはまってる――と言おうとして、その表情がどこか思い詰めたかの様に見えて、言葉が霧散する。
たまに、こういう表情をするのだ、由楽は。
こういう表情をされると、なにも言い出せなくなって困る。誰だって触れて欲しくない事だってあるだろうし、言いたくない事だってあるだろうが――せめて、下校中くらいは止めて欲しいな、とも思う。言った事ないけど。
由楽に話しかけるのを止めた俺は、由楽が物思いから覚めるまで、咲と会話に興じることにした。
✟✞✟✞
「んで、咲は『歌ってみた』の方どうなんだ?」
「へ? ……ああ、まあまあ、って所だよ」
不意を突かれたからか、咲は一瞬ポカンとした後、納得した様に頷いた。前に制作過程を見せて貰ったがある。あの時作っていた曲はそういえばアップされてなかったが。いつ出すんだろう? と言うのも聞こうと思ったからだ。
「また曲歌ったら教えろよ? 最近アップしてないだろ?」
「……まさか、毎日見てるの?」
「おう」
「……マメだね~……えーと、次は――何をアップしようとしてたんだったかな……確か、夏がイメージの曲と、普通の休暇、って言うのがイメージの曲のが途中だったかな」
へえ、結構進んでるみたいだ。俺が前に製作過程を見せて貰った時は、咲もまだ慣れていなくて、曲も同時進行で出来たのは2曲が限界だったのに。
「……あ」
「ん?」
「……そうだそうだ――そういえばさ」
急に咲が話題を変えて、由楽の体が一瞬跳ねる。びびったみたいだ。ふと見回せば、帰路の半分は会話と共に消えていったらしい。大通り前の信号が赤になったので、自然と3人とも止まる。
「ゴールデンウィーク、部活休み?」
咲の話題は、たまにこういう突拍子も無い飛び方をするから、時々内容が頭に届くまで時間がかかる時がある。
今が良い例で、ゴールデンウィーク、と言われて3秒後、やっと俺の頭は脳内の剣道部の練習スケジュールをめくっていた。
「……俺んトコは丁度休みだぜ。由楽は?」
「無いよ。パソコン部は基本的に休日には無いしね」
男2人組がそう答えると、咲は途端に目を輝かせて勢い込んでこう言った。
「んじゃさ、3人で、どっかに遊びに行こうよ!」
ポン、と手を打つ。それ、
「いいな! 何処に行く?」
そう言いつつ由楽に話を振る。去年のゴールデンウィークは転校する前の学校でも剣道をやっていた事もあり、剣道に潰されていた記憶しかない。今年は由楽と咲と言う親友も出来た事だし、楽しみたいものだ。
数秒考えていた由楽は、思案顔のまま口を開いた。
「んー、海はまだ早いだろ、どっかのテーマパーク……とか?」
「ディズ〇ーランド? それともユニバー〇ル・スタジオ?」
これは咲だ。俺は前者は行った事はないが、後者は行った事がある。
「僕、どっちも言った事無いな……」
「んじゃそのどっちかって事で良いんじゃね?」
へえ、由楽は両方共に行った事がないのか、と思いつつ俺が締め括った所で、信号が青になった。3人で渡り切り、俺と由楽達の家(俺の家が西側に最近出来たマンションなのに対し、由楽と咲は両方共に家は南側に密集している一軒家だ)との分かれ道前で止まる。まだ暗くはないが、日は西に傾きつつある。
「じゃま、また明日だな」
そう言って足を右に向けた所で、由楽がふと意地悪な顔をして俺と咲に言った。
「そうだな。さっきの傷を蒸し返してやるが、明日理科の小テスト。勉強しとけよ」
――…………。今言うなよ、せっかく忘れてたのに……。
「「ううう~……」」
俺と咲が苦悶の声を上げる中、由楽がヒラヒラ手を振り踵を返して左へと足を踏み出した。
――1秒後、俺は由楽に突き飛ばされていた。
「――!?」
突然の事で咄嗟に受け身をとるのが精一杯だった。慌てて振り返り、更に目を見開く事になった。
由楽の足元に、青い円が出現していたのだ。
中央は真っ暗闇で、青い縁取りに金色の文字が書かれているそれから、どうやら由楽は距離を取らせる為に俺等を突き飛ばしたらしい。視界端で咲が尻餅をついているが、俺はものすごい悪寒を覚えて由楽に手を伸ばした。がそこでひときわ強く円が発光し――ふと。
「――う、そ、だろ……」
と絶望した表情でそう喘ぐ由楽が目に入った。
「「由楽(ゆー君)!」」
伸ばした俺と咲の手が届くより早く。
視界から、由楽の姿がかき消える。
「由楽ぁっ!!」
伸ばした手は空を切り、直前まで由楽がいた場所で立ち尽くす。
更に追い討ちをかけるかの様に、
「しゅ、シュー君……!」
「咲?」
振り返った先で、咲の姿も消えていた。
「さ、咲? 由楽? ど、どこに行ったんだよ!?」
1人、その場に立ち尽くす俺。2人がいなくなった事に頭がパニックを起こすよりも先に――
一瞬、足元から青い光が見えた気が、した。
直後、体が分離する様な、引き裂かれる様な感覚、
暗転――。
あうう……めんどくさいのが始まっちゃったよう……(←by蒼乃風
はい、絡繰り武者と名乗っている蒼乃風です。
……いやまあ、本当ならちゃんと絡繰り武者さんが絡繰り武者さんのページで投稿してくれる筈だったんですけど……。どうしてこうなった。
詳しい事は活動報告で書いてるので、そっちを見て下さい……。