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とりあえず斬っておこう  作者: 九
グランフェルド王国
9/25

⑨それぞれの樹海模様  ~両断狂に踊らされて~

 アルが切り開いた森をひたすら歩いていると、ついに目的の洞穴らしき場所を探し当てた。洞穴というより、それは大きな洞窟だった。アルのいる場所からは中が見えないが、なるほど、伝説の魔物が住処にしていると言われて納得してしまう雰囲気を醸し出していた。

 早速、アルは洞窟の中に入ってみることにした。

 洞窟の中は薄暗く、ヒンヤリとして湿った空気が漂っており、むき出しの岩肌は濡れていた。先が見えないことからかなり深い可能性もあるなと、アルが歩きながら思案していると、突然背後から唸り声が聞こえ、同時に地を駆けるような音とともに背筋をピリピリとした感覚が襲った。アルはとっさに前転、そして今までアルの首筋があった空間を何かが通り過ぎた。アルはすぐに体勢を整えると、その犯人の姿を発見した。

 それは体長2mの灰色の狼だった。目は憤怒のごとく吊り上がり、またその口も牙をむき出しにしてアルを威嚇している。アルは目を細めた。

「さっそくお出ましか。思ったより小さいが、逆に厄介だな」

アルの言葉にミレニアムウルフは獰猛な唸り声を上げた。さてどう料理してくれようかとアルが考えていると、さらにアルの背後から唸り声が重なった。アルを襲ったミレニアムウルフとは別に、二匹の狼がゆっくりとにじり寄って来ていた。

「おいおい、三匹かよ」

ため息交じりのその声をよそに、前方の一匹と背後の洞窟入口側二匹のミレニアムウルフは同時にアルに飛び掛かった。

 アルは体を回転するように剣を一閃。これであっけなく両断・・・かに思われたが、突如、洞窟の奥から巨大な空気の塊が襲い掛かった。攻撃のため体重を浮かしていたアルは斬撃の軌道を逸らされただけでなく、自身もその影響で吹き飛ばされた。そのまま襲い掛かる背面二匹のミレニアムウルフを飛び越え、一気に洞窟入口まで後退。一体何がと洞窟の奥を警戒すると、三匹のミレニアムウルフが問答無用とばかりに追撃してきた。アルは三匹のミレニアムウルフの牙を剣でいなすと、カウンターで攻撃した。しかしまたしても謎の突風が襲い地面を滑りながら後退してしまった。

「ったく、何だってんだ!」

 アルは悪態をつくが、三匹のミレニアムウルフは2mの巨体にも関わらず、目にも止まらぬ速さで三度襲い掛かった。

「ああっ!!ウザったいなっ!!暴食魔剣グルメソードリバースッ!!」

 アルは暴食魔剣グルメソードの収納物を解放した。次の瞬間、大小様々な魔物の死骸が周囲に出現した。その結果、アルに襲い掛かってきた三匹の魔物は突然の障害物に驚き立ち止まってしまう。その隙が命取りとなった。

 そのまま獰猛な笑みを浮かべると、剣を一閃した。高速の斬撃が魔物の死骸ごと三匹をまとめて両断し、その勢いは背後の岸壁すら切り刻んだ。

 アルは死体を剣に収納すると洞窟の奥へと目を向けた。そこにはうっすらと何かが存在していた。 


 フアナは森にできた道を進んでいた。なぜか樹海の中に突如として出現した木々の無い道に、最初は警戒していたが、延々と続く道は歩きやすいので結局このまま進むことにした。もちろんこの道が続く方角はミレニアムウルフの住処がある方向でもあるので、怪しさ抜群なのは否めないのだが。

 もう一つ腑に落ちないのはここまでほぼ魔物との遭遇が無いということだった。東の大樹海は強力な魔物が蠢く魔境だと聞かされていただけに、この状況は元々警戒心が強いフアナを困惑させた。

 フアナは念の為、魔法を展開させてもしもの時に備えることにした。

「幽かな光」

フアナの言葉と共に周囲を淡い光の膜が包み込む。これは認識阻害の効果があり、よほど警戒されない限りその存在を認識することは不可能となる高等魔法である。

 フアナはそのまま数時間歩き続けた。その間常に魔法は展開しており、その持続力に伴う魔力の消費を考えるとさすがはB級冒険者というところだろう。

 やがて、終着点であるミレニアムウルフの住処に近づくにつれ、フアナの耳に戦闘音と思わしき音が聞こえてきた。

(これは?)

急ぎその音の正体を突き止めるべくフアナは駆けだした。そして、そこには一人の冒険者と一匹の魔物が死闘を繰り広げていた。


 フアナが到着する少々前、アルは洞窟からこちらを見る存在に気が付いた。時間が止まったような静寂が続き、やがてそれはゆっくりと洞窟からその姿を晒した。

 先ほど倒した三匹のミレニアムウルフに比べて倍以上の大きさを誇る銀毛の狼。その体には至る所に傷跡があり、歴戦の猛者を彷彿とさせた。しかし獰猛な雰囲気ということはなく、むしろ凍てつく程冷静な二つの眼がアルを見据えていた。

「お前は・・・」

アルの言葉が宙に消える。そんなアルに銀毛の狼の瞳が妖しく輝いた。

「母と呼ばれていた」

狼は人間の言葉で語った。通常の人間であれば驚愕しただろうが、アルはただ目を細めた。

「しゃべれるのか。お前、神獣か?」

「ふん、狼も千年以上生きれば人間の言葉くらい覚えるさ」

「いや、色々無理あるだろう。声帯とか」

アルのからかいに母狼は付き合わず、その視線をアルの剣に向けた。

「先ほどお前が殺した三匹の狼は我の子狼たちだ。不躾なお願いだが、我が弔いたい。返してもらうわけにはいかないだろうか」

母狼の言葉にアルは無言で見つめた。そして、

暴食魔剣グルメソードリバース」

三匹の狼の死骸がアルの足元に出現した。

「三匹は返すが・・・お前の子ならもっと怒り狂わないのか?」

母狼は静かな眼差しで自らの子の死骸を見つめた。

「弱肉強食の世界ゆえにここがこの子たちの寿命だったのさ。悲しくは思うが、怒りはない。また、弱肉強食ゆえに権利があるお前に返してくれるようお願いしたのだ」

母狼の言葉に、アルは自然と敬意が籠った眼差しで目礼した。母狼はアルのそばまでゆっくりと近づくと、三匹の子狼を咥えて洞窟の傍の木立まで移した。

 アルはその光景をただただ見つめていた。母狼が子狼に土をひとかけすると、アルは気になっていたことを聞いてみた。

「A級の魔物、ミレニアムウルフがいると聞いてここまで来たんだが、お前がそうか?」

「我はこの数百年間人間を生きて返したことはない。お前が言っているのは未熟なわが子狼たちが逃がしてしまった人間が撒いた噂のことだろう」

母狼の言葉にアルは内心で歓喜の声をあげた。

(つまり、あの子狼がA級の魔物ミレニアムウルフと言われていたってことだ。つまりこの母狼は・・・)

アルは再度目の前の母狼を見つめた。母狼の澄んだ瞳には、確かに恨みや怒りというものはなく、ただ好奇心に満ちた目でアルを見返した。

「お前、名前ないのか?」

「名前など、狼になんの意味があるというのか」

「そっか、そうだな。じゃあ、そろそろ弱肉強食の掟通り、殺しあうとするか」

アルは剣を抜き放つ。狼は無言で姿勢を低くした。

 一人と一匹の戦いは、こうして唐突に始まった。


 ソニア達一行はすでに樹海に入って数時間、魔物の一匹も遭遇していなかった。

(嫌な予感がする)

ソニアはこの状況に胸騒ぎを覚えた。魔境と言われるこの樹海で魔物がいないということは、明らかに異常だった。シドとカームも同様に落ち着きなく周囲を見渡している。

「シド、カーム、何かおかしい。最大限の警戒を」

シドは頷いた。

「そんなことは判っている。いいか、優先すべきはカイル王子だということを忘れるなよ?」

カームの言葉にソニアは一瞬頭に血が上ったが、カームの表情に嘲りなどはなく、真剣に周囲を警戒していた。ソニアは反論することなく歩を進めた。

 しばらく歩いていると、王子が歩を止めた。

「カイル王子?」

ソニアは王子に目を向けた。

「これは・・・}

カイルはしゃがみこみ、一つの袋を手に取った。それは黄色い噴煙を撒く、匂い袋と呼ばれるものだということが、ソニアにはすぐに分かった。同時に、この場には居ない冒険者の顔が浮かんだ。ソニアは引きつった顔をシドとカームに向けた。

「・・・みんな・・・ゴメン」

そしてあのクソヤロー死ね!!と、本心から憤怒した。

 ソニアにはなぜか本能でアルが落としたであろうことが判ってしまった。まさにそんなソニアをあざ笑うかのように魔物がわさわさと現れた。

 ソニアはとりあえずこの怒りを奇跡的に生還できたときにアルを殺すことで晴らそうと、今は目の前の危機を乗り越えるべく剣を抜いた。ただ、己を奮い立たせるため、また、運よく聞こえてくれとあらん限りの声で叫んだ。

「アルゥゥゥゥゥッッ!!!ぜっっったい!!お前を殺してやるっっ!!!」

 ソニアの声に触発されたのか、同時に魔物たちが襲い掛かった。



 



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