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とりあえず斬っておこう  作者: 九
グランフェルド王国
8/25

⑧国王との謁見、樹海での暴挙  ~ダメ、絶対~

 ソニア達は雰囲気に促されるように歩を進め、そして片膝をついた。武器は城に入る前に全て取り上げられているため、その動きを阻害するものはないが、緊張のためかぎこちない。

 「面を上げよ」

威圧感溢れる厳かな声が響き、四人は顔を上げた。

 玉座に座るはグランフェルド王国国王、アラン・スカール・グランフェルド。齢四十とまだまだ生気溢れる眼差しは四人を射るように鋭く見つめている。その右手に国王の妻ヴィクトリアが座っている。美しく束ねられたブロンドの髪は添えられているティアラと共にその美貌を引き立てている。表情は優しく、慈しむように微笑んでおり、見るものを和ます母性に溢れていた。さらにその隣に佇むのは王女メリル。王家の末子ということで控えめに微笑んではいるが、母譲りの美貌は少女から大人に変わる者特有の美しさがあり、思わず目を奪われてしまう。目立たずにいることはまず不可能と思われた。そして、王の左手に佇む青年こそ今回の成人の儀に出立する王子、カイル・リーベルト・グランフェルドである。背はアルより僅かに低い程度か、眼差しはアラン王に劣らず鋭く、細身ながら鍛えられているとわかる身体はすでに成人の儀を受けるに相応しい力強さが見て取れた。

 ソニアは敬意を込めて王家の人間を眺めた。実際見るのは初めてで、まさか自分がこのような形でお会いすることになるとはと、内心感動していた。

「この度の成人の儀における助力、感謝する」

簡単だが、熱の籠った王の言葉に、四人は頭を下げた。

「カイル王子が無事成人の儀を果たせるよう、全力で護衛を務めさせていただきます」

レヴォーナの言葉に満足げに頷くアラン王。そしてカイル王子に視線を向けた。

「カイル、何かあるか?」

アラン王の言葉にカイル王子が一歩足を踏み出す。

「レヴォーナ殿、良ければ同行する勇気ある冒険者の名を聞かせてもらえないだろうか」

「これは失礼致しました。私の右手にいるのが魔法使いカーム・ロイス。さらにその右が双剣使いのシド・スプライト。そして左手にいる女冒険者が風魔法を使う剣士ソニアでございます。皆E級冒険者の中でも飛び抜けた実力を持つことを冒険者協会の名に懸けて保障致します」

レヴォーナに紹介されてソニア、カーム、シドは再度頭を下げた。カイル王子は厳めしく頷いた。

「カーム、シド、ソニア。こちらから依頼したこととはいえ、この度の助力に感謝する。貴君らの助力に応える為にも私は必ずワイルドベアを討つとここに誓おう」

王家に恥じぬ凛とした声は自身に満ち溢れ、また、ソニア達ただの冒険者に対してとは思えない程感謝の意が込められていた。

 アラン王は再び満足そうに頷くと、傍らの王妃と娘であるメリルに目くばせする。二人は優しく微笑み頷き返した。

「では出立は明日!出立式はせぬ!見事ワイルドベアを果たして帰還することを信じ、帰還時の祝勝式の準備を進める!カイルよ、王家の男児として必ずや成し遂げよ!!」

アラン王の胆力溢れる声に、カイル王子も力強く頷き返した。

 こうして、無事に謁見を済ませたソニアは、明日の準備のため城を後にした。


 「暴食魔剣グルメソード

薄暗い樹海にアルの声が響き渡った。暴食魔剣グルメソードが赤く発光して収納したのは真っ二つに両断されたワイルドベアだった。ちなみにすでに五匹目である。他の魔物も含めるとすでに二十匹は両断していた。同じ時刻に城ではそのワイルドベア討伐に向けて厳かな謁見が行われていたのだが、まるで発奮するカイル王子をあざ笑うかのように狩りまくっていた。こんなに狩って、王子の分のワイルドベアが残っているのか不安になってしまう。そうでなくても、しばらく人間の前に姿を現さないのではないかと危惧するほどの虐殺っぷりだった。

 そんな全く考えなしなアルはというと、道に迷っていた。レヴォーナからは街道側から森に入って南東に真っ直ぐ行ったところにある洞穴がミレニアムウルフの住処だと言われていたが、木々が入り組んでいるせいで真っ直ぐ南東に向かえているかかなり疑問だった。そうこうするうちに新しい魔物、というよりも生贄がアルの前に現れた。悲しいことにワイルドベアである。

「うーん、強力匂い袋でも使わないともっと強い魔物は現れないかなぁ」

と言いながら雑魚を蹴散らすかのように剣を横に一閃させて両断。もちろん死体はきっちり暴食魔剣グルメソードに収納する。ちなみに六匹目である。少しは遠慮しろと言いたい。

 アルは少々頭を使うことにした。

(うーむ、木に生えてるコケが多い方角が北だとか聞いたことがあるな。しかし、どうせまた迷いそうだからいっそのこと・・・)

いっそのこと何なのだろうか。正直嫌な予感しかしない男である。アルは木のコケの生え方から南東方向の検討をつけると、おもむろに剣を構えた。

「魔法剣」

アルが呟くと同時に剣が白く発光する。その輝きは徐々に大きくなり、薄暗い森を明るく照らす。もしここに魔法使いがいたらその行使されている魔力の大きさに絶句していたことだろう。アルは十分に魔力を注ぎ込むと、剣を薙ぎ払った。

 次の瞬間、白く輝く巨大な斬撃が放たれた。森を蹂躙するかのごとく真っ直ぐに南東へ突き進み、次々と木々が両断され倒れていく。遥か樹海の奥の奥まで見渡せるほど斬撃は進み続け、やがて木々の倒れる音が止まった。そして、

暴食魔剣グルメソード

剣が倒れた木々を収納すると、南東方向には扇状に開けた空間が出来上がっていた。先ほどまでは歩くことも困難な樹海だったが、突如そこには遠くまで見渡せる道が作られた。

 「うむ」とアルは一つ頷き、歩きやすくなったその道へと歩みを進めた。ちなみに、この斬撃で十六匹の魔物が気付かぬまま絶命しており、木々といっしょに剣に収納されていた。その中にはワイルドベアも2匹混じっているのであった。


 フアナは樹海の入口で警戒していた。ようやく樹海に辿り着き、まだ日も高いのでこのまま探索を開始しようとした矢先、森の奥から轟音が聞こえてきたのだ。すでに静まり返った森を、フアナは注意深く観察する。

(今のは・・・?まるで木々がたくさん倒れたような音だった。何かあるのは間違いないけど、ミレニアムウルフに関係があるのか、それとも別の魔物か、もしくは人為的なものか)

森の観察を続けつつ思案するが、当然答えはでない。

(まあ、気にしてもしょうがない。ひとまず警戒を怠らず、ミレニアムウルフの住処である洞穴を探そう)

フアナは乗ってきた馬を近くの木に繋ぎ、必要最低限の荷物を背負うと、妖しく薄暗い樹海の中に足を踏みいれた。

 その数時間後、樹海の中に突如出現した道に再び警戒しつつ無駄な思案をするのであった。


 次の日、いよいよカイル王子とソニア達は東門から出発することとなった。出立式はしないとはいっても、噂を聞きつけた王都の民がパレードさながらに王子達に手を振って激励してくる。その人気ぶりから、ソニアは王子がどれ程民に慕われているかを知り、ますます死なせるわけにはいかないと、馬の手綱を持つ手に力がこもった。

 道中は順調だった。噂を聞いて準備万端に襲ってきた野盗はE級冒険者の敵ではなく、仲良く地獄へと落ちていき、ときおり現れる魔物も、街道を往く行商人でも武器次第で対処できるH級のコボルトなどなので、静かに息を引き取ってもらった。

 ソニアはカイル王子の実力も見ておきたいなと思ったが、さすがに王子に対して代わりにお願いしますとも言えず、王子は馬車の中で寛いでもらった。それと、同行する二人の仲間には出発して数時間で会話を諦めた。カームは口を開けば嫌味たらたらの不快感しか生まれない言葉しか吐かず、シドはしゃべらなかった。何度かシドに会話を試みたが、頷くか首を振るかしかせず、ごく稀に口を開いたかと思えば「ああ」しか言わない。この二人といるとあのアルとの殺意を覚える会話でさえ恋しくなるのだから恐ろしい。と、ソニアは嘆いた。

 そんなソニアの唯一の味方がカイル王子だった。時折馬車の小窓から手でソニアを招き寄せると、他愛もない話でソニアを笑わせた。おそらくこの空気を感じ取って気を使ってくれているのだろうと、ソニアは王子に心の中で感謝した。

 日が暮れると進行を止め、街道沿いに野営した。ソニアは王子とカームとシドにワイルドベアの戦闘時における特徴を教え、いかに倒すかを話し合った。

 カームはソニアやシドには傲慢な態度だが、王子を相手にする時は驚くほど洗練された言葉使いで別人のようだった。さらにワイルドベア討伐の話し合いでは、若干の上から目線ではあるものの、自分の意見や助言を率直に発し、いざ戦闘で傷付いた場合における自身の回復魔法についても細かく説明した。また、シドも口数は少ないが要所ではちゃんと発言し、自らの経験に基づいた作戦を立案した。ソニアは二人の印象を修正することにした。

 見張りの順番を決めるとすぐに就寝し、体を休めて明日に備えた。翌日、特に夜分に何も起こらずぐっすりと眠った一行は、軽く朝食を食べてすぐに出発した。

 そんな至って平和な道中も、樹海が進むにつれて重い空気に包まれていった。ソニアは王子が乗る馬車に馬を近づけると、小窓をノックした。すぐに王子が顔を出した。

「ソニアか、どうかしたのか?」

「樹海に着く前に、昨夜お話ししたワイルドベアの特徴をおさらいしておこうと思いまして。というよりも、退屈なのでまた話相手になって頂ければと」

王子はソニアの言葉に面白そうに微笑んだ。

「二人とも、最初の印象とは違い、話す内容によっては会話になることが昨夜わかったのではないか?今後の冒険者人生においても良い勉強になるはずだ。冒険者は個性が強いらしいからな、そういった人間とも上手くやれるようになっておいて損はないと思うぞ?」

王子の言葉にソニアはバツが悪そうに苦笑いした。

「カイル王子のご慧眼と、他者を思いやるお心には敬服致します。全てを見通されているかのようで、少々お恥ずかしいですな」

「そこまでとは言わないが、人間話せば判るものさ。ソニアのことも、カームのことも、シドのこともな。」

「はぁ、お話は大変ためになりますが、私の知り合いに話が通じない人間がいまして、その場合はどうすれば良いと思われますか?」

ソニアはそれとなくアルへの対処法を王子に尋ねた。王子は僅かに考える素振りを見せたが、すぐに回答を見つけたようだ。

「二つ方法があるな。一つは根気よく話すことだ。いずれ理解してくれるかもしれない。もう一つは話が通じなければ話さないほうが良い時もある。お互いにそのほうが時間の節約になるだろう。もっとも、どうしても話さなければいけない時は諦めるしかないが」

ソニアは王子の言葉にあの男相手の解決策としては弱い方法だなと気落ちしたが、王子には感謝の意を示した。

 そのまま数時間かけて進むと、やがて前方に大樹海が見えてきた。そこはワイルドベアのみでなく多種多様な魔物が蠢く魔境であり、それらをも凌駕する伝説の魔獣ミレニアムウルフの住処がある場所。しかし、この時ソニア以外の三人は知らなかった。そこにはミレニアムウルフすらただの獲物でしかない伝説の魔法剣がいることを。そしてソニアも知らなかった。王国キングダムのB級冒険者である幻影のフアナ・ハトシェプストがいることを。

 様々なタイミングが重なり、この時東の大樹海はグランフェルド王国で最も危険な場所になりつつあった。






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