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とりあえず斬っておこう  作者: 九
グランフェルド王国
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⑥作戦会議  ~狙われたミレニアムウルフ~

 朝から不機嫌そうなソニアは、黄金の夜明け亭で朝食を食べていた。その目は階段を睨み付け、全ての鬱憤をこのパンにぶつけるかのごとく必要以上に咀嚼している。何か頭にくることでもあったのだろう。たとえば訳もわからず王子の護衛を依頼され、さらにはどこぞの両断狂に協力するよう強制権を発動されたとか、あったのかもしれない。もしかすると、さらに存在を忘れられて当事者の両断狂に置いてかれたりしたのかもしれない。

 ソニアが思いのありったけを込めてパンを頬張っていると、アルが欠伸をしながら下りてきた。そしてソニアの姿を認めると、「おはよー」と府抜けた声で挨拶する。ソニアはテーブルの上にあったナイフを投擲した。

「うおっ!?」

アルは上体をのけ反らせてナイフを避けた。それを見てソニアは舌打ちする。

「いきなり何だよ!」

アルの怒声にソニアの髪が逆立つ。

「いきなり何だと、よくぞ言った。昨日、私に何をしたのか忘れたとは言わさんぞ」

腹の底から轟くその声には、恨みどころか殺意さえ混じっている。そのソニアに対して、アルはどこ吹く風とソニアの対面に座った。

「ああ、引き受けたんだろ?ま、いっしょに頑張ろうぜ」

「軽いわっ!もっと、こう、言うことがあるだろうっ!!」

うがぁぁっ!と勢いよく立ち上がり抗議するソニアをよそに、「あ、自称看板娘さん、お茶は料理といっしょで構わないから」「自称って言わないでください!」「・・・じゃあ通称?」「ただのっ!看板娘で結構です!!」「・・・看板娘は認めるんだね。まぁ、一人しかいないしね?女の子は」などと宿屋の1人娘をからかうアル。ソニアの殺意が膨れ上がった。

「・・・本気の本気で殺意を覚えるな、お前には」

「何をそんな怒ってるんだ?王子の護衛なんて名誉なことじゃないか」

「お前のやり方に怒っているんだっ!!ただ理由を説明してレヴォーナさんのところに連れて行けば良かっただろっ!!」

「何言ってるんだ。お前が逃げたから仕方なくああしたんだろうが。確かに、本部長とのやり取りはちょっとふざけ過ぎたかもしれないが、それはそれ、そこまで怒られることじゃないだろ」

呆れた声でアルは正論をぶつけた。正論だが、あれはないだろうと思わないでもない。しかし根が真面目なソニアはグッと声を詰まらせる。

「し、しかしだな、小脇に抱える必要はなかっただろう!私のイメージが、周囲の目が・・・冒険者として舐められたらどうしてくれるんだ!」

これだけは言わないと気が済まないと、ソニアは落ちかけていた勢いを僅かに取り戻して抗議した。

「そっか、それは悪かったな。次からは動けなくして裏口とかから連れて行くわ」

深く考えると怖いことをさらっと口にするアル。ソニアの勢いが再び鎮火した。

「・・・できれば、しっかり説明してもらって私を納得させてからいっしょに歩いて行こう。お願いします」

一気に低姿勢に。アルとはまだ出会って2日だが、早くもその危険性は本能で感じ取っていた。

「ま、冗談はこのくらいにしておいて、受けたんだろ?依頼」

冗談じゃないのだけど、むしろ私の怒りもお願いも全て全力なのだけど。ソニアは溜息をついた。ここ2日間、溜息が多いのは気のせいだろうかと、少し落ち込んだ。

「受けざるおえなかったといった方が良いが。しかし、普通に依頼されてもおそらく受けただろう。内容が内容だし、良い経験にもなるからな。なにより報酬が金貨3枚だ。受けない手はない」

「へぇ~、お前もしっかり冒険者やってるな。そう、報酬は大事だぞ」

あれ、そういえば俺の報酬ってどうなってるんだっけ?アルは嫌な予感がしたが、一先ず後でレヴォーナに聞くことにして話を進める。

「それで本題だけど、俺は今から先に東の大樹海に向かうことにした。だから当日の護衛はソニアと他の冒険者にかかってる。何が起こるか判らないからくれぐれも慎重にな」

「それは当然だが、いざワイルドベアと遭遇したらどうすればいいんだ?王子の実力は知らないが、聞くところによると勝てそうにないって話ではないか」

ソニアの不安そうな声に、アルは唸る。

「ん~~~、一つは罠を仕掛ける手があるな。ただ、今回の成人の儀という名目上、王子が良しとするかは判らんなぁ。もう一つは国には内密にソニア達も一緒に戦うってこともできるけど、これも同じ理由でダメかもな。となると、正攻法でいくか」

「正攻法?」

「ああ。魔物対人間ってのは、地力のみで勝敗が着くわけじゃない。ワイルドベアの攻撃パターン、防御方法、癖、そういうのを熟知して臨めば実力差を跳ね除けて王子が勝つことも不可能ではないはずさ」

アルは運ばれてきたパンを掴むと大きく噛り付いた。そしてお茶を一口含みそのまま飲み込む。同じ動作3回で大きなパンは全てアルの胃に納まってしまった。

「もう少しゆっくり食べないと体に悪いぞ」

ソニアは呆れた声を出した。

「うるさいなぁ、お前は俺のお袋かよ」

「まったく。それで、正攻法でいくのは賛成だが、ワイルドベアの特徴は知ってるのか?」

「いや知らん。だから知ってる人間に聞きに行こう」

「知ってる人間?誰だ?」

「本部長辺りが知ってるだろ。そういうわけで、飯を食べ終わったら協会に行こう」

「ああ、わかった」

そこからはお互い特に会話もなく、アルはパンを3つとサラダを平らげた。ふと、ソニアは気になっていたことを訊ねた。

「そういえばアルはワイルドベアとの戦闘中どうしているんだ、それとなくフォローをしてくれるという話だが」

「俺が今から出発するのはミレニアムウルフを探すためだ、その時になっても俺が姿を現さなかったらおそらく森の奥にいると思う。何かあったらこれで連絡してくれ」

アルはそう言って通信プレートをソニアへ手渡した。ソニアは渡されたそれを見て目を見開く。

「こんな高価なアイテム、よく持っているな。・・・・・・って、ミレニアムウルフだと!?A級の、ここらの主じゃないか!伝説級の魔物だぞっ!?」

ソニアは渡された通信プレートを落としそうになるほど驚愕するが、アルは不敵に微笑んだ。

「らしーな。そりゃあ俺が見逃すわけないだろ。そんな上等な獲物、両断し甲斐があるってもんさ。あっさり片付くようならそっちのフォローもするよ」

獰猛な肉食獣を思わせるその表情、ソニアは伝説の賢狼ミレニアムウルフに同情した。


 「ワイルドベアの特徴?ええ、だいたい知ってるわ。後でレポートにまとめるから、夕方くらいに取りに来てもらえるかしら」

アルとソニアが協会でレヴォーナに取り次いでもらうと、お馴染の3階執務室に通された。レヴォーナは話を聞くと納得し、すぐに対応してくれるという。ソニアはほっと息をはいた。

「そういえば、俺の報酬ってどうなるんだ?」

アルは気になっていた報酬についてレヴォーナに尋ねた。レヴォーナは首を傾げながらハーブティを一口啜った。

「ミレニアムウルフの居場所を教えてあげるのが報酬よ?それと、あなたについてのあれやこれやを秘密にしておくこともね」

「・・・それは、あんまりじゃないでしょうか」

レヴォーナの言葉にアルの表情が引きつる。事情があまり判ってないソニアは黙ってハーブティを啜っている。

「そーねぇ、今回のサポートに実際に役立つ行動をとってくれたら考えてもいいわ。もちろんミレニアムウルフと偶々遭遇したらアルの腕にかかっているから、その時は色をつけても良いし。た・だ・し、わざわざミレニアムウルフにちょっかいを出して王子の成人の儀に影響を与えでもしたら、判るわよね?」

お前の考えは全てお見通しだぁ!と、レヴォーナは迫力ある笑みを浮かべた。アルの顔は引きつったまま、冷や汗が頬を流れる。

「安心しろ。大船に乗ったつもりでいてくれ」

アルは挙動不審にそわそわしながら言い切った。その船の名前はタイタニック号かもな。ソニアは突然浮かんだ謎の船の名前に首をかしげつつ、しかし確かな確信をもって思った。

「そういえば、あとの2人の冒険者はどんな奴らなんだ?信用できるのか?」

アルの当然の疑問に、ソニアもレヴォーナへ視線を向ける。レヴォーナは指をパチンと鳴らし魔法を発動、飲み終えたハーブティを注ぎなおした。

「残りはE級冒険者シド・スプライトとカーム・ロイスよ。二人とも実力は問題ないし、カームは貴族の出身だから王子に対しても失礼のないように気配りはできるでしょう」

レヴォーナが告げた名に、ソニアは眉間に皺を寄せた。

「カームか、あまり評判は良くない男だな」

「こらこら。確かにカームは貴族出身だからか少々言い方に難があるみたいだけど、今回は仲間からの印象より、王子からの印象の方が大事なんだから割り切りなさい」

「しかし、戦闘時の連携が心配なのですが・・・」

「これからの長い冒険者人生で常に恵まれた仲間と共に戦えるわけではないわ。これも経験よ。勉強だと思って頑張りなさい」

レヴォーナの言葉にソニアは恥ずかしそうに頷いた。自分の発言が以下に低レベルかを理解したのだろう。そんな2人をアルはニヤニヤしながら眺めていた。

「ははは、借りてきた猫みたいだなソニア。いつもそんな風に素直なら俺も楽なんだが」

アルの発言にレヴォーナとソニアは顔を見合わせる。

「ね、ソニア。こんなのとも組まなければいけないのが冒険者よ」

「はい。勉強になります」

二人は姉妹のように同時に溜息をついた。その顔は「不本意なり」とはっきり書いてある。散々なアルは、これ以上しゃべるべからず、だな。と、静かに冷めたハーブティを啜るのだった。


 フアナは王都の貧民街にある一件の家から出た。その顔は相変わらず無表情だ。情報屋からミレニアムウルフの住処を聞くのと同時に、今回の依頼に影響が出そうな有益な情報も聞け、歩きながら思案する。

(カイル王子の成人の儀・・・か)

ミレニアムウルフが住む東の大樹海に、ワイルドベアを狩るために王子が向かう。E級冒険者3名が護衛をし、明日が王との謁見、明後日が出発。情報屋から買った内容である。このことを踏まえて自身の行動予定を組み立てる。

(予想外な事態に遭遇するのは避けたい。とすると王子達より一日早く明日出発するか、もしくは王子達が帰って来てから出発するか・・・)

そこであと2日以内にミレニアムウルフの血を入手すると、自ら豪語したことに思い出した。本人としては珍しく、顔をしかめて舌打ちする。

(余計な啖呵を切ってしまった。ベストな選択は王子達が戻ってから入れ違いで出発すること。だけど・・・)

フアナは意地を通すか、確実性を優先するか、自身のプロとしての在り方を問う。そして、悩んだ末に結論を出した。

(私は冒険者。不安要素がある度に避けていたら冒険者は務まらない。ここは、行く)

指針が固まり、フアナは東の門に向かって歩きだした。決意が揺らがない内にという思いからなのか、明日といわず今すぐ出発することにしたようだ。その顔は変わらず無表情だったが、青い瞳だけは断固たる決意に溢れた輝きを放っていた。


 こうして魔法剣のアルバトロスと、最大最強の冒険者ギルド・王国キングダム軍団レギオン隊長、幻影のフアナ・ハトシェプストの運命が接近する。伝説の男と伝説を継ぐギルドの冒険者の邂逅は、中大陸にどのような影響を及ぼすのか、この時点では誰にも判らない。












 

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