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とりあえず斬っておこう  作者: 九
グランフェルド王国
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㉕アルの失望  ~不満ともいう~

 アル達三人は周囲を包囲する騎士を眺めてため息を吐いた。

「で、どうする?」

アルが尋ねると、「非常に不本意だが、逃げるに一票」とソニアがアルを睨みながら答えた。

「私は全力で逃げるに一票」

そのとなりでは、特に焦った様子もなくいつもどおり無愛想な顔のフアナも逃げるに賛成した。もっとも、ソニアは「なぜわざわざ私と同じ案なのに違う案のような言い方をするかなぁ」と肩を落としたが。

 そんな二人の案に肩を竦めたアルは、「殲滅に一ぴょ」「却下だ馬鹿者!」と、不穏な案を言う前にソニアに頭を殴られていた。

 現状を理解していないかのような三人のやり取りに、周囲を包囲していた騎士達は自らを馬鹿にされていると写り、その目に怒りが浮かぶ。先頭で油断なく警戒しているマースが一歩前に出た。

「大人しく拘束させてもらおう」

暴食魔剣グルメソード

マースが一歩踏み出した瞬間、アルは紫黒竜シコクリュウヴァロッサメイブを剣に収納した。10mを越える巨体が一瞬で消え去ったことに騎士達は動揺し、その隙を逃さずアル達はそれぞれ散開した。

「各自の判断で逃げ切れ!」

アルの言葉に頷きつつ、ソニアは街中へ向かい、フアナは魔法で姿をかき消した。アルは西門から外に出ようと駆け出したが、その前を他の騎士たちより早く我に帰ったマースと4人の騎士団長が立ちふさがった。すでに抜刀し、もはや拘束という温い考えでは目の前の男は相手にできないと、5人は最大限の警戒をしていた。

 そんな5人を見て、アルは不敵に笑った。瞬時に自らも抜刀すると、そのまま剣を振るう。マース達にはアルが何をしたのかすら分からなかったが、一呼吸後、それぞれの武器がバラバラと崩れ落ちると、その圧倒的な実力の違いに驚愕した。

「じゃあなー」

呆然としている5人を尻目に、アルは西門へと向かう。西門はアルのせいで原型を留めておらず、ただの瓦礫の山と化していたが、アルはその山を飛び越えて街道へと飛び出した。ちらりと後ろを振り返るとしっかり自分を追ってくるマース達5人、それに続いて多数の騎士達。よしよしと内心頷き、アルは足を止めて振り返った。

「よーし、ここなら周りの被害とか考えずに戦える。お前らの鍛錬の成果を俺が確認してやろう」

ソニアとフアナを逃げやすくする為、囮になった。というのは結果論で、アルは単純に現在の王国騎士団の実力者と剣を交えたかっただけである。もっともアルは気がついていないが、先ほど一瞬で武器を破壊した5人が王国最強クラスの騎士だったのだが。

 アルの偉そうな言葉に大部分の騎士は憤慨したが、先ほどのマース達との一戦を見ていた者は内心で冷や汗を流しながら武器を構えた。当然マース達も同様で、4隊長の一人であるエンデローズはマースにそっと近づいた。

「副団長、どうしますか?正直、私たちが束になってかかろうともどうにもならないかと」

「むぅ・・・グロリア様とプララ様は発見できたのか?」

マースの言葉に、エンデローズは首を振った。それを確認したマースは唸りながら目の前に立つ剣士を睨みつけた。

「あんな実力がありながら、情報がないとはどういうことだ?あの男は何者だ!」

「E級冒険者、アルと言っていました」

以前協会で会ったことを思い出したテラが進言すると、皆が振り向いた。

「E級冒険者?」

エンデローズの言葉に、テラは頷く。マース、フルゴ、クラクは顔を見合わせた。

「・・・E級っていうのは先ほどの剣捌きをみれば意味を成さんな。言うまでもないが、奴は恐ろしく強いぞ。肩書きに惑わされて油断は絶対にするなよ!」

マースが活を入れると4隊長は頷いた。そして周囲を囲む騎士たちに代わりの武器を持ってこさせ、手出しはせずに逃がさないことだけに全力を注げと指示を出した。

「そろそろいいか?」

そんな騎士達を黙って見ていたアルが声を掛ける。マースは返事の代わりに右手を掲げた。

「灼熱の暴風ッ!!」

火と風の合成魔法、超高温の暴風がアル目掛けて放たれた。それを合図に、エンデローズとテラも魔法を組み上げる。

「狂乱の風牙ッ!!」

「十点加重ッ!!」

エンデローズから放たれた風の魔法は、全方位から無差別に標的を切り刻む風の剣。そしてテラは直径数mmの超精密加重をアルの頭上に展開。約1トンにまでなる針のごとき超加重が10本、アルに降り注ぐ。

「悪手だろ!」

 どのような実力者だろうが、良くて重症、最悪瞬殺されてしまうであろう多重攻撃を、アルはひとつ地を蹴るだけで対応した。その結果として、瞬時に背後に回り込まれたテラとエンデローズは背中を強打されて昏倒した。そして、その光景に動揺した残りの2隊長の隙を見逃すアルではなく、剣を一閃。

「「ぐおッッ!!?」」

フルゴとクラクは武器ごと切り裂かれ、口から血を吐きながら地に倒れた。

 一度の攻防で4隊長をまとめて失ったマースは声を失った。わずか数秒の出来事である。

 アルはマースに向かって首を傾げた。

「おいおい、これがグロリア率いる騎士団か?弱すぎて話にならないぞ・・・」

あからさまに落胆の表情をみせるアルに、マースは何も言い返せず呆然とする。周囲を囲む騎士団員達も全員が棒立ちで眺めており、中には戦意を喪失した為か武器を落とす者もいた。

 こりゃダメだなと、アルは剣を納める。状況的には4人を倒しただけなのだが、すでに戦いが続けられるような戦意を残す人間はいないと判断した。

 アルはその場でしばし黙考すると、マースに顔を向けた。ビクッと体が震えるマース。

「つまらん」

「はっ?」

 突然のアルの言葉に、我を失っていたマースは素っ頓狂な声を上げた。そんなマースのことなどお構いなしに、アルは自らのポーチから煙玉を取り出すと、さも当然のように地面へと叩きつけた。

 周囲を一瞬のうちに白煙が包みこんだ。視界が真っ白に染まりあわてて警戒体勢をとる騎士団員達だが、普通に考えればそんなものを使わなくても圧倒的な戦力差があるのだから逃走を考えるのが普通だろう。しかし、この時平常心を辛うじて保っていたのはマースのみだった。

「くそっ!おい!逃がすな!気配を追えっ!!」

ハッとする騎士団員達だったが、時すでに遅し、煙が晴れるとすでにアルの姿は消えていた。

 マースは慌てて騎士団を散開させて周囲を当たらせたが成果は無く、しばらく散策した後にあきらめてフアナとソニアの追跡に切り替えた。

 そして、その後アルの姿が王都で見つかることはなかった。




















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