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とりあえず斬っておこう  作者: 九
グランフェルド王国
20/25

⑳王国(キングダム)とレヴォーナ  ~見えてくる敵の影~

 王国キングダムの一行はフローバニア皇国に向けて旅を続けていた。全員ではなかったが、総勢2000名にもなる大軍の為、街道には長い長い隊列ができており、すれ違う旅人や行商人が何事かと興味の篭った視線を向けてくる。厳選された冒険者達はそのほとんどがC級で構成されており、それらを束ねる軍団レギオン隊長のB級冒険者が50名、また10個の軍団レギオンを従えるA級冒険者、即ちロイヤルクラウンと呼ばれる5人の超人達。その筆頭であるAA級の『黄金』アン・ベアトリクスに匹敵する怪物、AA級のオズワルド・ニーズヘッグ副ギルド長と、そうそうたる布陣である。2000名にも関わらず、一国すら落としかねない軍勢は、王都で起こっている危機など露知らずどこか浮ついた雰囲気であった。

 先頭を行くオズワルドがひとつあくびをすると、その横を歩くアンが厳しい目を向けた。自分より頭一つ背が高いため少々見上げる形になり、その視線は自然と無精ひげの顎になってしまう。ダークブラウンの髪はボサボサで、あくびをしたからか目を潤ませて眠そうに擦っていた。旅用のローブも所々ほつれており、先ほどの昼休憩時に食べたシチューの染みが付いていた。

「オズ、下の者に示しが付かないからもっとシャキっとしてよ。」

「んあ?あ~悪い・・・余りにも平和なんでな。お前はいつも真面目で偉いよなぁ・・・疲れないか?」

「私は至って普通よ。あなたが不真面目すぎるんでしょ。エリザ様がいない今はあなたがトップなんだから、もっとしっかりしてくれなくては困るわ。」

「どーも俺は戦闘以外向いてないんだよなぁ。お前の方が余程副ギルド長に向いていると思うんだが・・・」

「私もそれは思うけど、癖のあるロイヤルクラウンを常にまとめているのと、エリザ様がいない時だけ代行するのでは、後者の方があなたには良いということなんじゃないかしら?」

「私も思うって・・・少しは言い方考えてくれよ。まぁ、間違っちゃいないが・・・」

 アンとオズワルドは歩きながら軽口を言い合っていた。全くこの男はと、アンは首を振った。しかしこのだらしがない男が戦闘面においては誰よりも頼りになるのはアンも認めるところである。その証拠にほつれてシミがついたローブの隙間から覗くシルバーメイルは見事に磨かれており、背中に背負われた大剣も毎夜几帳面に手入れをしているのだ。だらしがない性格だが、命を預ける装備品を大切に扱う姿はさすが歴戦の冒険者と言わざるおえない。

 ふと、背後の隊列が乱れていることにアンが気が付き、その様子から何かトラブルかと訝しんだ。

「ちょっと後ろの方が騒がしいわね。」

「ん?・・・何だ?何かあったのか?」

 アンの言葉にオズワルドも異変に気が付き、進行を止めて確認することにした。すぐに隊列が乱れた原因を報告しに一人の冒険者が現れた。

「副ギルド長っ!!襲撃ですっ!!」

「どこの馬鹿だよ・・・俺たちに襲撃とか・・・」

オズワルドは肩を落としてため息混じりに尋ねた。

「そ、それが―――」

 冒険者が報告をしようと口を開いた瞬間、突如頭から石化していく。同時にアンとオズワルドはすぐさまその場から飛び退き警戒体勢をとった。

 そして、石化の原因である男がゆっくりと姿を現した。

「避けられたか。さすがだ。」

「お前は、『魔眼』ウォルド・ギース・・・!!」

 冒険者ギルド『迷宮ラビリンス』のギルド長であるS級冒険者ウォルドが、そこに立っていた。その眼に包帯は巻かれておらず、不吉な真紅の魔眼がアンとオズワルドを見据えていた。

「あなた、ドワーフの里であるノースラームに向かったはずじゃ・・・」

と、アンが困惑した声で尋ねたその時、アンの死角を突くように必殺の拳が放たれた。オズワルドからはその姿が見え、咄嗟にアンを突き飛ばそうと右手を払った。しかし、その右手は虚しく空を切り、同じくアンの死角から放たれた拳も空振りに終わった。オズワルドが左に目を向けると、超高速移動によってウォルドの背後をとったアンがまさに剣を振り上げて斬りかかるところだった。が、流石と言うべきか、ウォルドはその剣を軽く躱して距離をとった。

「『鉄拳』!。あなた達『闘技場コロシアム』もオルファン聖国に向かったはずでしょうが!!」

 アンはウォルドから目を離さず、自らに拳を放った人物に怒りの声を挙げた。『闘技場コロシアム』のギルド長、S級冒険者『鉄拳』ロベルト・カイザーに。ロベルトは眠そうでやる気がみられない目をアンに向けると、「今のを躱すのかぁ」と言って頭を掻いた。

 それを隙と見たのか、オズワルドが背中の大剣を抜き放ちロベルトに斬りかかった。ロベルトは避けないで両手の手甲で斬撃を受け止めた。

「アンッ!お前は『魔眼』で俺は『鉄拳』だっ!!ロイヤルクラウンっっ!!!テメー等は『闘技場コロシアム』と『迷宮ラビリンス』を返り討ちにしろっっ!!!」

 とてつもない大声でいつの間にか乱戦になっているロイヤルクラウン達に指示をとばすオズワルド。状況から襲撃犯が二つの冒険者ギルドだと判断し、その筆頭であるウォルドとロベルトを自分達が相手をすると同時に残りのギルド員をロイヤルクラウンと『王国キングダム』のギルド員に任せる。その声が聞こえたのか、今まであまり目立たなかった戦闘音が大きくなった。

「お前に僕の相手が務まればいいけど。『重剣』オズワルド・ニーズヘッグ。」

「うるせーな。お前こそガッカリさせるなよ?S級冒険者。」

オズワルドは『鉄拳』に対して、相手にとって不足なしと剣を構えた。また、少し離れた場所では、

「ちょうど良いわね。エリザ様と同じS級という位置づけに納得していなかったのよ。この機会に身の程を思い知らせてあげるわ。」

「AA級冒険者、『黄金』アン・ベアトリクスか。今までどんな雑魚を相手にしてきたのか知らないが、AA級とS級には天と地ほどの開きがあると知れ。」

 アンとオズワルドは、この二つのギルドの襲撃がどのような意味を持つのか、薄らとは判っていたが深く考えないようにした。今は、ただ目の前の敵を殺す。冒険者人生で自然に培われたその本能に従い、絶対的な自信と共に地を蹴った。




 「あ~~~、愛しき森の空気が美味しいわ~~。」

レヴォーナは、協会の元冒険者職員500人とエルフの里を目指して『精霊の箱庭』と呼ばれる森に入っていた。久しぶりの森の雰囲気に、森人とも呼ばれるハイエルフの心が癒されるのを感じて大きく息を吸い込んだ。澄み切った清浄な空気は日々の多忙で疲労した体には良薬とさえ言える程美味いと思えた。

「ねぇ、あなたもそう思わない?」

 優雅な動作で振り返ったレヴォーナは、目の前に佇む数十の竜人に問いかけた。全身黒い鱗に覆われた2メートルの身長は、人のそれとは明らかに違う威圧感を放っており、灰色の髪の隙間からトサカと角が生えた頭と、背後には太く力強い尾を垂らしている。装備品は下半身のみ鋼の防具を付けているだけだが、有名な硬い皮膚をもってすれば例え素肌だろうと十分な驚異といえる。

 そんなレヴォーナと竜人達の周囲には、レヴォーナと同行していた協会職員500人が無残な姿で骸を晒していた。歴戦の元冒険者だったにも関わらず、竜人達の突然の襲撃に応戦できた者はいなかったのだ。

 竜人達は問いを無視し、無傷で生き残ったレヴォーナを警戒していた。

「必殺のタイミングで不意打ちを仕掛けたが、なぜ生きている。」

 質問に質問で返されたレヴォーナは、ただ微笑んだ。その笑みは決して温かみがあるものではなく、同胞を殺された怒りを全力で押さえ込み、その恨みを凝縮したような極寒の笑みだった。

「あなた、竜人筆頭の冒険者であるジルニクスね・・・。」

「そうだ。悪いがお前にはここで死んでもらう。」

「・・・・・・なるほど、ということは王都や各地に向かった冒険者にも何か仕掛けているのかしら?」

「知ったところで無意味だろう。」

 竜人ジルニクスは素っ気なく答え、これ以上語る気はないとばかりに重心を落として戦闘体勢に入った。当然他の竜人達もジルニクスに追随する。レヴォーナは、その瞬間微笑みを一変させ人形のように無表情になった。

「じゃあ死ね」

 レヴォーナは何の感情も込められていない無慈悲な言葉を発すると同時に、右手の指を鳴らした。次の瞬間、竜人達は氷漬けになり、いざ襲いかかろうとした体勢のまま絶命した。ただ一人レヴォーナの攻撃に反応したジルニクスは瞬時に離脱し、一瞬で氷付けにされた仲間の姿に驚愕した。

「な、何をしたっ!!?」

 混乱するジルニクスだったが、レヴォーナはお構いなしに追撃する。

 さらに指を2回、鳴らした。

 ジルニクスの足元の地面が深く陥没した。同時に頭上から巨大な炎の柱がその穴目掛けて降り注いだ。炎は穴に降り注ぐが、なぜか穴の円柱上以外には全く熱が感じられない不思議な炎だった。しかし、当然穴に落ちているジルニクスにとっては身を焼き尽くすほどの灼熱の業火である。

 レヴォーナはさらに指を2回鳴らす。

 今だ炎が降り注がれている穴が突如爆発し、そして穴の壁が中身を押しつぶすかのように閉じられた。炎は消え、穴は痕跡ひとつなく綺麗に元通りになった。

 森に小鳥たちの囀りが聞こえる静けさが戻り、レヴォーナは大きく深呼吸する。

「ああ、森の空気って本当に心が癒されるわ~。」

 レヴォーナは数回深呼吸した後、何事もなかったかのように歩き出した。

 冒険者の中でもトップレベルに値する竜人ジルニクスではあったが、およそ戦闘とさえ呼べない程一瞬の攻防によってその命が潰えた。元「王国キングダム」の無慈悲な精霊使い、『人形』レヴォーナの実力を知る者は少ない。なぜなら本当の意味で、戦って生き残った者は皆無なのだから。



 そんな、王国キングダムとレヴォーナの状況を尻目に、王都では今まさにスカルキング1万の大軍とプララ、グロリアがぶつかろうとしていた。


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