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とりあえず斬っておこう  作者: 九
グランフェルド王国
18/25

⑱ソニアと書いてモルモットと読む  ~アルからは逃げられない~

 「というわけじゃ。だからフローバニアへの道すがらで立ち寄れそうじゃの。」

「そりゃ助かるな。よろしく頼むよ。」

 アルはエリザベートとレヴォーナと共に黄金の夜明け亭で談笑していた。時刻は朝、すでに宿には客がおらず、ラウンジはアル達のみである。エリザベートが昨日の会議の内容を報告する為にアルを訪れたところ、ちょうどタイミング良くレヴォーナも同じ理由で訪れていたのだ。一通り会議での打ち合わせ内容を説明し、エリザベートがアルの依頼を引き受けることを快諾した。

 話が判らないレヴォーナは首を傾げた。

「何の話?」

「いや、大したことじゃないさ。」

「主殿にお金を届けるよう頼まれたのじゃ。妹君の子孫が住む家にの。」

レヴォーナの質問にアルははぐらかそうとしたが、エリザベートが苦笑しながら説明した。

「子孫?アルバトロス様のご兄弟の家系は続いていたのですか?」

「さあな。続いているかは知らないけど、大陸を渡る時に妹のレーシャだけには伝えておいたんだ。物凄く反対されたけど、最後は折れたのさ。条件付きでね。」

「その条件がお金というわけなのかのぅ?」

「いや、お金は妹への迷惑料だ。その時の条件は中々笑えないぞ?」

「・・・何でしたの?」

「『必ず帰ってきて私を生き返らせなさい』って言われたよ。俺はイカれてると思ったね。」

 無言になるレヴォーナ。エリザベートは口を開けて大笑いした。

「それは・・・さすがアルバトロス様の妹、ですわね。」

「かっかっか!中々恐ろしい子じゃったぞ!頭のネジが数本ぶっ飛んでるブラコンでのぅ!一般人の癖に妾達ロイヤルクラウンを壊滅させようと画策しとったわ!主様が危険な冒険者をやっている原因が妾達にあると思い込んでいたんじゃよ。グロリアとグラディウスなど、一度本気で殺されかけたこともあったわ。」

「殺されかけたって、一体どうやって?」

「ああ、二人が依頼で山脈地帯に行った時に、災害級のドルヴォロスを誘導したんじゃ。一体どうやったか今でも判らんのぅ。ドルヴォロスが現れる寸前に、妹君が通信プレートで『バイバイ』と連絡してきたことから、おそらく妹君の仕業だと思われるんじゃが・・・。命からがら生き残った二人は、しばらく妹君からの『バイバイ』が頭から離れんと震えておったわ。」

 当時のことを思い出しているのか、エリザベートは可笑しそうに言った。が、レヴォーナからしてみれば全く笑えない話だった。

「・・・え、そんな人間を生き返らせるんですの?」

「一応小大陸で死者蘇生の魔法は教えてもらったが、かなり難しいな。媒介となる人体が必要だし、俺が魔法を使えないから誰かに頼まなくちゃならない。発動させる時間や、ホシの配置?なんかも関係するそうだ。とりあえず約束だから諦めはしないけどな。」

「・・・生き返らせることができたら、残りの人生は妹さんに捧げてください。でないと国の一つ二つ滅びそうなので。」

「かっかっか!最強の一般人レーシャの復活か!それはまた、刺激が増えて楽しみじゃ!」

 そんなラズロの事件とは全く関係ない話で盛り上がっていると、ラウンジに一人の人間が現れた。皆も知っている、冒険者協会受付のコリスである。コリスはラウンジに入るやいなやレヴォーナを睨みつけ、足を踏み鳴らしながらアル達へと迫った。

 レヴォーナは「げっ」と顔を顰めた。

「本部長っ!!明日からエルフの里に出発するっていうのに何をしているんですかっ!!今日中にやっつけていただかないといけない案件が山のように溜まっているんですから早く戻ってくださいっ!!」

「え~~~、あれを一人で処理なんて時間がいくらあっても無理よ~。」

「だ・か・らっ!!私も手伝うっつってんでしょうがっ!!むしろ気づいたら一人ぼっちで処理してて、あなたが上司でなければぶん殴ってますよっ!!」

「ま、まぁまぁ。落ち着きなさいコリス。協会職員たるもの常に平常心を失ってはダメよ。」

「うっせーゴラァーーッッ!!!つべこべ言わずにさっさと戻って仕事してくださいっ!!」

 コリスは血管が切れるかと心配する程の大声で吠えると、レヴォーナの手を掴み容赦なく宿から出て行った。レヴォーナは達観した表情で、抵抗することなく素直に引きづられて行った。

 嵐のようなコリスの行動に、アルとエリザベートは呆けて見ているのみだった。

「こ、恐い娘じゃのぉ」

「・・・同感。」

 若干顔を引きつらせつつ、二人はレヴォーナに同情した。

「話は変わるけど、エリザはいつ出発するんだ?」

「妾達も明日出発じゃ。おそらく『闘技場コロシアム』と『迷宮(ラビリンス』も明日じゃろ。主様はどうするんじゃ?」

 エリザベートの質問に、アルは少々悩んだ素振りを見せた後口を開いた。

「適当に魔物狩りと依頼を受けつつ、見所がありそうな冒険者を鍛えようと思う。今回の事件で戦力になるかは判らないけど、良い暇つぶしになるだろう。」

「・・・鍛えるって、昔の『王国キングダム』みたいにかのぅ?」

「ん?時間がないからあんな遊びじゃなくて本格的にやるさ。安心しろ。」

 アルの言葉に、エリザベートの顔色が悪くなった。昔、『王国キングダム』のギルド員に訓練と称して行なった地獄の鍛錬を思い出したのだ。今回の犠牲者に頭の中で合唱する。

「・・・程々にのぅ。今の子達は昔と違って軟弱じゃから・・・」

「安心しろ、死にたいと思わせてからが勝負だ。なんだったらお前のギルド員で有望な奴がいたら預かるぞ?」

「遠慮しとこう。これでもギルド員は大切にしとるんじゃ。」

 なにやら話が噛み合わないとアルは思った。大切にしているからこそだろうにと、内心首を傾げたが、深く掘り下げずにただ頷くに留めた。

 この時、ソニアという冒険者の運命がアルの手に渡ったが、当然本人はまだ気がついていなかった。




 アルはエリザベートと別れると、自室で待っていたフアナを連れて早速協会に向かった。時刻はまだ早い時間なので、運が良ければ見知った冒険者が居るかもしれないと考えたからだ。

「これからの方針は?」

 フアナが隣をついて来ながら尋ねた。

「近いうちにA級の魔物以上を相手にすることになりそうだ。だから見知った冒険者を鍛えようと思ってな。魔物も狩れるし金も入るし、一石三鳥だな。」

 アルの説明にフアナは小首を傾げた。アルは不気味に笑いながらフアナの頭をポンと叩いた。

 協会に入ると、いつになく混雑している受付ホールを見渡した。しばらく眺めると、依頼掲示板の前にいるソニアの姿を見つけ、幸運に感謝しながらそちらに足を進めた。

 ソニアは手頃な依頼がないか掲示板を睨んでいた。うーむ、どれも報酬がイマイチだと溜息を吐いたが、これしか無いのであればこの中から選ばなければならない。諦めて護衛依頼に手を伸ばした時、その依頼用紙を後ろから伸びた手に取られた。ソニアが振り向くと、紙をヒラヒラさせながら微笑むアルの姿があった。その笑顔は見たこともない爽やかなものだったが、なぜかソニアの背を悪寒が走り抜けた。

 ソニアは訝しげに口を開いた。

「・・・やぁアル。何か用か?」

「心配するな。死にはしないから。」

「・・・ごめんなさい。」

 ソニアは本能のままに思わず謝った。自分が悪いことをしたとは思わない。迷惑をかけてもいない。でも謝った。人間、命のためならどこまでも卑屈になれるものである。

 突然謝られたアルは困惑したが、気を取り直してソニアの肩に手を置いた。

「そこはありがとう、だな。」

「なぜっ!?」

 状況と言葉の意味が判らずも、ソニアはアルの脇から逃走を試みた。が、フアナに回り込まれて失敗。そこをアルに捕まり肩に担ぎ上げられた。

「は、離せーーーーーーーっっ!!!嫌な予感しかしないっ!!命の危険しか感じないっっ!!だから離せーーーーーーーっっ!!!」

「ははは、元気だな。」

 さて行くかとアルが踵を返すと、その前を三人の冒険者が立ちはだかった。一人は筋骨隆々なモンク、一人はローブ姿の女魔法使い、一人はプラチナメイルに身を包んだ二枚目な剣士。三人は穏やかとは言えない様子でアルを睨みつけている。

「おいお前。その子を離しな。」

 モンクが脅すように言った。

「なんだお前ら?」

「私たちはこの辺りを活動拠点としている冒険者よ。」

「その子が嫌がっているじゃないか。そういうの良くないと思うよ?」

 女魔法使いと剣士はそう言うと早くソニアを離すように促した。その態度は余裕に溢れ、自らの力に自信を持っているようだった。

 突然の闖入者にアルが困惑していると、隣で成り行きを見ていたフアナが説明した。

「無所属の冒険者。モンクがC級のメイス、魔法使いがC級のリン、剣士がB級のライズバルト。アルがフアナを拉致していると勘違いして助けに来たみたい。」

 勘違いじゃなく、拉致そのものなんですけどっ!と、ソニアは叫びたかったが、空気を呼んで黙っていることにした。それよりもこの善意の冒険者三人を救うことが先決だと、強い使命感に襲われた。

「三人とも!私のことはいいから逃げろっ!!この男に関わるなっ!碌な目に合わないぞっ!!」

「安心しろ。今助けてやる。」

「冒険者協会本部で悪行を許す程、私たちは寛容ではないわよ。」

「この男がいくら強くても、・・・僕の方が強い!」

「み、みんな・・・・・・」

 ソニアは逃げるように言ったが、そのことで一層三人に力が篭った。そして三人の強い意志にソニアは心打たれた。

「・・・なんだこの茶番は。」

 そんなやり取りをアルは脱力しながら眺めていた。

「ちょっと皆さん、本部内での揉め事は困ります。」

 そこで本部職員から待ったが掛かった。見ると狐の受付嬢アリーである。清楚な雰囲気を醸し出していたが、騒動の原因がアルだとわかるとその綺麗な顔が引きつった。

「大丈夫だアリーさん。すぐに終わる。」

 剣士の言葉に、アリーは悲しそうな顔をした。

「ええ、すぐには終わるでしょう・・・やめておくことをお薦めしますが。」

「止めないでアリー。冒険者が困っていたら助けるのは当たり前でしょ。」

「・・・まぁ、私は止めましたので。・・・・・・知らないって恐いだわさ」

 アリーはチラリとアルに視線を向けると、首を横に振って項垂れた。意味がイマイチ判らなかったが、アルはさっさと終わらせることにした。

 一瞬、殺気をぶつけた。ただそれだけ。それだけで三人の冒険者は口から泡を吹いて気絶した。野次馬と化していた職員や冒険者達には何が起こったのか判らず、ただ目の前の結果を凝視するのみである。ソニア、アリー、またフアナでさえも眼を見開いて呆然と目の前の光景を見つめた。アルは「う~む、見込み無し。」とだけ言うと、すでに三人に興味は無く、ソニアを肩に担いだまま出口に向かった。

「おいフアナ、何してるんだ。置いてくぞ。」

「・・・・・・判りました。」

 アルとフアナは三人の冒険者に目もくれず協会を後にした。

 残された野次馬とアリーは半ば達観した表情で三人の冒険者を介抱するのだった。






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