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とりあえず斬っておこう  作者: 九
グランフェルド王国
17/25

⑰大会議室  ~暗躍する冒険者達~

 協会本部大会議室。その室内に大陸を代表する冒険者が集まっていた。

 魔物退治を生業とするギルドの中でも最高の依頼達成率を誇る『闘技場コロシアム』のギルド長。拳一つでのし上がった「鉄拳」ロベルト・カイザー。

 190cm程の体格は細身だが、鋼のような光沢がある筋肉がみてとれる。旅人が好む動きやすい軽装の服で、眠そうな眼は半分瞼が垂れ下がり、赤茶色の髪は無造作に跳ねている。一見怠惰でだらしがない印象を受けるが、実力者が見れば瞬時にあらゆる動きが取りやすい自然体であると見抜くだろう。

 最も多く語られる逸話として、野宿中の睡眠時に魔物に襲われた際、睡眠からの覚醒と同時に魔物を粉々に殴り飛ばしたことが上げられる。寝起きのため手加減を忘れ、地面に直径100m以上の大穴を開けてしまったことは有名な話だ。

 宝探しに人生を賭ける者が集まった『迷宮ラビリンス』のギルド長。およそ全ての人間が出会っただけで逃げ出す通称「魔眼」、ウォルド・ギース。

 170cmをやや越える程度の身長は男にしては小柄で、物静かな性格も考えると冒険者として迫力に欠ける。しかし、その眼がそれらの印象を裏切り彼を危険な実力者へと変貌させてしまう。 「魔眼」。そう呼ばれて忌み嫌われる眼はあらゆるものを石化させる。生物、物質、魔力さえも石化でき、練度に応じて効果範囲も大きくなる。

 今は目元まで隠れるほどに伸ばされた灰色の髪越しに両目が包帯に覆われている。これは単に魔眼の効力をくわしく知らない人間に安心させる為だけのカモフラージュで、実際は包帯で覆われていようが魔眼は発動できるのだ。なぜなら魔眼とは、視線に意味はなく、古の人体改造実験の末に生み出された究極の魔術のひとつなのだから。

 失われた禁術を使いこなす謎多き人物である。

 そして多くの歴史に残る冒険者を輩出した最古にして最大最強の『王国キングダム』のギルド長。全ての冒険者が畏怖と敬意を持って呼ぶ「女王」エリザベート・ヴェールディッヒ。

 すでに潰されてしまった魔法使い至上主義の『時計塔タワー』と合わせて四大ギルドと呼ばれ、それぞれのギルド長は皆最高ランクのS級冒険者である。ただ居るだけで絶対の安心感を感じさせ、また敵対する者にとっては逆に絶望的な死を覚悟させる実力者達。人類の希望と言われるが、一国を滅ぼせるほどの個人でもある為、称賛と同時に最大限の警戒もされている。

 そんな人外の極致ともいえるS級冒険者だが、その実力に並ぶ者達も存在する。それが今この大会議室にいる冒険者協会会長『流れ星』のプララとグランフェルド王国騎士団長『白騎士』グロリアである。

 片や女神の微笑みと称される美しく愛らしい表情で集まった面々を見渡しているエルフ。伝説の元ロイヤルクラウンとは到底信じられない小柄な体格をして、並ぶもののない弓使い。

 片や全身無機質な鎧に覆われている女騎士。身長は驚異の2mオーバーだが、伝説によるとその素顔は絶世の美女だと評されている。匠に操るランスは全てを貫く槍と言われ、それ以上に「最強の盾」の伝説が有名だ。

 円卓に座る5人の人間とは別に、会議の進行役としてレヴォーナも会議室に呼ばれていた。世間の評価では初代「王国キングダム」からの最古参の実力者とされているが、どちらかというと本人の美貌のほうが有名となっている。もっとも、本人は世間の評価など気にしておらず、内心では新台頭のS級冒険者であれば恐るるに足らないと思っていた。古くからプララのサポート的な立場もあり、レヴォーナの本当の実力を知る者は少ない。

 「それでは、始めたいと思います。」

 そんな一癖も二癖もある人間が集まった中、プララの一言で会議が始まった。



 「すでにお聞きかもしれませんが、『時計塔タワー』のギルド長である『暗黒』ラズロ・ネクロフォビアがギルド員を皆殺しにして行方不明となっております。」

 プララの言葉に、皆は無反応だった。当然知っているのだろうと、プララは気にせずに続けた。

「現在情報を集めておりますが、いつ判明するかも判らないまま手をこまねいているわけにはいきませんので、ラズロが現れた際にすぐ対応できるよう皆さんには各地に散っていただきたいと考えています。」

 プララは言い終えると円卓を見渡した。ロベルトとウォルドは無反応のままだったが、エリザベートは面白そうに微笑み、その手を静かに挙げた。

「どうぞ自由に発言してくださいエリザ。」

「ラズロとかいう小僧が行方を表す可能性として、どこが最も高いかの?」

 エリザベートは言いながらグロリアにちらりと視線を向けた。

「ここグランフェルド王国でしょう。」

 プララは考える素振りも見せずに言った。

「それはグロリアが居るからかのぅ?確かグロリアは以前にラズロを半殺しにしたのだったか・・・その復讐と読んでいるとみて良いのかの?」

 エリザベートの言葉に、プララは静かに頷いた。すると、ロベルトが口を開いた。

「その可能性が高いのは認めるけど、ギルド員を皆殺しにする理由はなぜなのかなぁ?」

「それは私たちにもわかりません。考えられる理由として、グロリアを倒す術でも編み出したか・・・その代償としての生贄かもしれません。もしくは単純に狂ったか。彼の召喚術という能力を考えると、前者の理由はありそうですが。」

 プララの考えに、ロベルトは「なるほど」と頷いた。そして今度はウォルドが静かに右手を挙げた。

「理由は奴に直接聞くしかあるまい。それよりも対策についてだが、グロリア狙いということなら逆にグロリアでおびき出すこともできると思う。王都では他の実力者も多いので迂闊に手を出してこないかもしれないが、辺境の街に遠征にでも行けばラズロが食いつくんじゃないか?そこを踏まえて戦力を分散させないほうがいいと思うが」

「その作戦も考えたわ。しかしラズロがその作戦を呼んでいることを想定すると、各地に魔物を召喚してグロリア様の周りの戦力を分散させる可能性がある。その場合、対応が遅れて被害は甚大なものとなるわね。ならば元から各地に戦力を振り分けておけば、それがラズロを誘き寄せる餌になるはず。」

ウォルドの提案に、レヴォーナが話に割って入った。プララが説明を引き継ぎ続ける。

「当初はゼブルモスカ帝国のグラディウスもここに呼ぶつもりでしたが、その作戦を考えてやめました。ゼブルモスカはグラディウスに対応してもらい、ミルドラン王国はミルドランに任せます。オルフェン聖国には『闘技場コロシアム』が、フローバニア皇国には『王国キングダム』が対応し、エルフの里にレヴォーナ、獣人の里には協会副会長ドニーが信頼できる冒険者と共に対応してもらいます。『迷宮ラビリンス』はドワーフの里をお願いします。あなたの魔眼もドワーフなら気に止めないでしょう。竜人の里は・・・竜人に任せます。ラズロが仕掛けるとは思いませんが。この配置に異議があれば遠慮なくおっしゃってください。」

 プララの言葉は静かだったが、その目は「協力できないなんて駄々をこねる方はいませんよねぇ」と物語っていた。

 再びウォルドが手を挙げた。

「異議というか、それでは先ほどの通りグロリアが危険ではないのか?」

 ウォルドは心配して質問したが、その言葉にグロリアが反応した。

「ほう、私ではラズロに勝てないという意味かな?」

 その瞬間グロリアの殺気がウォルドに向けられた。それはS級冒険者でさえ最大級の警戒に値するほどのもので、ウォルドは殺気が槍の形に具現化する錯覚を覚えた。レヴォーナは硬直し、ロベルトは思わず立ち上がりかけた。

 慌ててウォルドが訂正する。

「あんたが勝てないなんて思っていない!・・・しかしラズロもグロリアの実力を身にしみて判っているはずだ。その上で狙ってくるとすれば、何らかの勝算があることになる。その点が心配だったんだ。」

「・・・ふむ。」

 ウォルドの指摘に、グロリアは殺気を解いて顎に手を添えた。至極もっともな意見だと思ったようだ。その様子を見てウォルドは安堵の息を吐き、プララへと視線を向けた。

 視線を向けられたプララはにっこりと微笑んだ。

「もし対グロリア用の作戦で来ても、私が跡形もなく穿ちますのでご安心を。ラズロが迂闊にも、気配を消さずに20km以内に侵入した時点で彼の命は消えます。そんな馬鹿ではないと思いますが。」

 非常に美しい笑顔だったが、ウォルドには死神の微笑みとしか映らず、グロリアとプララに狙われるラズロに同情した。ロベルトは最初の発言以降聞き役に徹しており、今も眠そうに瞼を垂れ下げ、あくびを噛み殺すような表情である。

 レヴォーナは会議を進行させる為、ウォルドの心配事から片付けることにした。

「ウォルド、グロリア様のことなら心配いらないわ。円卓の騎士団が常に補佐をするし、プララ様や他の冒険者も付いているのだから。それにちょっとした秘密兵器も用意したわ。はっきり言って、今世界で一番安全な場所かもしれないわよ?」

「または、世界一危険な場所かものぉ。その秘密兵器は予測不可能な爆弾に等しいかもしれんし。」

 レヴォーナの言葉を、エリザベートが挑発的に否定した。普段のレヴォーナであれば噛み付くところだが、エリザベートの言葉は暗に秘密兵器の正体に気がついていると言っていた。

「あら?エリザはレヴォーナの秘密兵器に心当たりがあるのですか?」

 プララが可愛らしく小首を傾げながら尋ねた。それを見てエリザベートは苦笑した。

「ああ、知っておるの。プララとグロリアは聞かされておらんのか?」

「身の危険を感じる馬鹿。とだけ聞いている。レヴォーナに聞いてもはぐらかすだけで教えてくれないんだ。」

 グロリアはレヴォーナを睨みながら言った。睨まれたレヴォーナは冷や汗をかいて慌てている。

「かっかっかっ!身の危険を感じる馬鹿か!面白い例えじゃの!しかも的を得ているわ!妾はそんな者に頼るのは御免被りたいのぅ!」

 エリザベートは身をよじりながら大笑いした。

「エリザ様!そ、それくらいで―――」

「判っておるわ。・・・プララとグロリアも気になるじゃろうが、色々と訳ありなようじゃからほっといてあげたほうがよかろうのう。」

 エリザベートの言葉に若干の戸惑いを見せつつ、プララとグロリアはそれ以上追求しなかった。

 エリザベートは二人の様子に頷くと、一転して真剣な表情で言葉を続ける。

「『王国キングダム』はフローバニア皇国にということじゃったが、ギルド員を先に行かせて妾はちょっと別行動をするからの。なに、そう時間はかけずにフローバニアへと向かうから心配無用じゃ。それに、副ギルド長オズワルドがおればS級の魔物でも相手にできるじゃろ。実力だけはAA級に収まらん奴じゃ。」

 エリザベートの発言に、プララは眉を顰めた。

「何か緊急の用事でも?」

「フローバニアまでの通り道に、ちょっとのぅ。先日古い知人に頼まれごとをされてどうしようかと思ってたところじゃが、丁度良く同じ方向なんで引き受けても良いと思ってのう。」 

 いつもの人を小馬鹿にしたような態度ではなく、有無を言わせぬ物言いだった為、プララは何も言わずに頷いた。



その後、各地に散った際の細かい打ち合わせが続き、日が沈む頃に会議は終了した。取り急ぎラズロの居場所を見つけるのが先決だが、これで少なくともあらゆる事態に対応はできると、プララは心をなで下ろした。

 各々が部屋から出ると、集まった中の内一人がポツリと呟いた。

「秘密兵器・・・か。」

 その言葉は誰にも聞かれなかったが、呟いた人物は周囲に人がいないのを確認し、通信プレートを取り出した。そして通信プレートに魔力を通すと口を近づけた。

「ラズロ、終わったぞ。」

 ラズロ・ネクロフォビアを引き金に始まったこの事件は、後に冒険者戦争と呼ばれることになる。


















 

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