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とりあえず斬っておこう  作者: 九
グランフェルド王国
1/25

①静かなる帰還 ~とりあえず南の森斬っておこう~

プロローグ~魔法剣のアルバトロスと冒険者ギルド「王国」の伝説~


 魔法剣のアルバトロスと呼ばれた冒険者がいた。

全てを切り裂く「魔法剣」は恐れられ、あらゆる魔物や犯罪者がその刃に倒れた。斬ることへの執着はすさまじく、少々異常じみていたが、不思議と彼の周りには人が集まり、やがて冒険者ギルド「王国キングダム」が造られた。彼は多くの世界の危機を救い、いつしか「王国キングダム」は最大最強のギルドと呼ばれ、その創成期を担った初期メンバー6人は畏怖と敬意をもって「ロイヤルクラウン」と名付けられた。

 アルバトロスと「ロイヤルクラウン」は冒険の中で誤って飲んでしまった神酒の影響で不本意にも不老となってしまい、それを機にギルドを次の世代に譲り渡した。そして、各々が自由気ままに散っていき、アルバトロスは遥か東の大陸へと旅立つ姿が最後の姿となった。

 やがて時は流れ、アルバトロスの偉業は伝説となり、脚色、美化された物語や、実在を疑う議論が飛び交い、そして緩やかに人々の記憶から消えていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 中大陸の西に位置する大国、グランフェルド王国。首都グランフェルドは人々で賑わい、活気ある喧騒が人の生命力の素晴らしさを魅せつける。またその一方で、それらの輝きから隠れるようにひっそりと、しかし確実に蠢く日陰者たちも日々欲望に身を委ねて暗躍している。栄枯渦巻くグランフェルド王国は今日も新たな一日が始まる。


 ギィィと、軋む音を響かせて扉が開かれた。

そこは冒険者たちの協会。力と名声を備えた冒険者が造る冒険者ギルドを管理しつつ、直接協会に寄せられる依頼をこなし、また手に余る依頼をギルドへと割り振る組織である。

ひよっこからベテラン、冒険者ギルドのギルド長も足を運ぶこの組織は全ての冒険者が登録をし、始まりの一歩を踏み出した冒険者たちの大元締め。

 受付がある一階ロビーには、すでに日中ということもあり冒険者や職員で混み合っている。入口の扉が開き人が入ってきたからといっていちいち注意を向けたりはしない。絶世の美女でもない限り。

 目立たずに入ってきたのは一人の青年だった。簡易的なレザータイプの鎧と一振りの剣を腰にさしており、長旅から今日到着したばかりなのか、その姿は少々汚れていて大きな革袋を左手に提げている。

 青年は軽く周りを見渡し、正面にある受付へと歩を進めた。

「こんにちは」

「いらっしゃいませ!ようこそ冒険者協会グランフェルド本部へ!・・・見かけないお顔ですが、本日はどのようなご用件でしょうか?」

青年の声に受付嬢は笑顔で応えた。

「冒険者の登録をしたいんだ」

「はい!それではこちらの用紙にご記入してください!」

受付から渡された紙に記入をする青年。その顔はなぜか少々綻び、まるでいたずらの成否を待ちわびる子供のようだった。

さして時間を掛けずに書き終え、受付へと手渡した。

「ありがとうございます!・・・アル様ですね、はい、内容に問題ありません。冒険者となるにあたり、規則と注意事項をご説明致します」

「変なことを聞くようだけど、その規則と注意事項って協会が創立されてから度々変更とかしてるかな?」

「はい?・・・いえ、創立当初から基本大きな変更はないと聞いていますが」

アルの言葉に受付嬢はわずかに眉を寄せると、すぐに笑顔に戻って答えた。

それを聞いてアルも安堵したように息をはいた。

「そっか、なら大丈夫かな。エルフの友人に聞いてるから大丈夫」

「そうですか、一応言っておきますが、後ほど問題が起こった時に知らなかったでは済まされませんのでご注意ください」

受付嬢は心配そうに注意をうながした。

「ああ、心得ているよ」

受付嬢はしばらくじっとアルを見つめ、やがてひとつ溜息をはいた。まるでこういう新人がトラブルを起こすのよねぇとでもいうかのように。

「ほかに何かあるかい?」

アルはそんな受付嬢に苦笑いすると、話を先に進めた。

受付嬢はアルを軽くひと睨み。最初の愛想の良さが、問題児候補と認識した為かいつのまにか淡々とした態度に変わっていた。

「ご存じかもしれませんが、冒険者は細かくランク分けされており、新人のアル様はH級からとなります。基本的に依頼以外の魔物討伐や採取は依頼掲示板に貼り出されませんが、魔物や採取物に応じて素材の買取り額は定められていますので、自由に狩って構いません。ただし、難易度を間違えて死なないようにご注意ください。また、昇級に足る活動が認められればランクアップします。掲示板に張られた依頼については冒険者ランクによって受注可否が定められていますので、高額の依頼を受注するためにも昇級を目指すのをお奨めします」

「はは、頑張るよ」

「ええ、頑張ってください」

飄々としたアルの態度に、お前のことを心配して必要ないと言われたのにわざわざ説明してやってんだぞゴラァァ!と内心憤りつつ、やはり淡々と進める受付嬢。

出会って一瞬で目を付けられるアルであったが、そんなことには全く気づかずに「ありがとう」と言って掲示板へと向かった。

 掲示板を見ると、当然だがH級のアルに受けられる依頼はほとんど無い。アルは肩を竦めてとりあえず宿を決めたらひと狩りすることにして踵を返そうとしたが、

「君、新人だろ?」

唐突に声を掛けられて足を止めた。声のしたほうをみると、所々キズ付いた鎧を着た女が仏頂面で腕を組みながらアルを睨んでいた。金色というよりも淡い砂色じみた髪を背中まで一本の三つ編みにしており、180cmあるアルと比べて顔半分ほど身長が低い。女性にしては高身長だ。スラリとした身体と勝ち気な瞳がネコ科の獣を彷彿とさせる。

「なにか用?」

アルは多少警戒しつつ質問した。

「私はE級冒険者のソニアだ。そう警戒するな。新人にはすぐに死なれないように先輩冒険者がそれとなく気にかけるよう協会から言われてるんだ」

ソニアと名乗った女冒険者はアルをじっと見つめながら説明した。

「ふーん、それで?」

「そっけないな君は。普通の新人は先輩冒険者にもっと礼儀正しくするものだぞ?・・・いや、しないか。むしろ噛みつく馬鹿のほうが多いかも」

ソニアは軽く憤ったあと、なにやら自己完結した。アルは出口に向かって歩き出した。

「ちょっと待て!話はこれからだぞ!」

追いかけられて肩をつかまれたアルは面倒な素振りを隠さずに溜息をはいて振り返った。

「じゃあ手短に頼むよ。今日中にひと狩り行きたいんだ。あんたに合わせて一日を潰したくない」

「ずいぶんな言いぐさだな。たったあれだけのやりとりでそこまで言わなくてもいいだろうに。ああ待て待て!去ろうとするな!話すから!すぐに!」

「・・・で?」

「むぅ。君は新人にしては態度や仕草がベテランみたいだな。まぁ要するにだ、君のような腕に覚えがありそうな新人に限って無茶な依頼や討伐をしがちで死亡率が高い。だから最初だけいっしょについて行こうと思ったのさ。もちろんそれで心配ないと判断すればそれ以上付き纏わないよ。」

「ふーん。まあ構わないよ。ついてくるのは勝手だからな」

「以外だな。断ると思ったが。もっともたいていは断られるからそのあとに勝手について行ってる。秘密でな」

ソニアはキョトンとして、そして笑った。

 いつの間にかロビーにいる冒険者や職員が2人のやりとりを注目しており、普段仏頂面のソニアが笑ったことに軽いどよめきが起こった。そんな周りの反応に気付き、ソニアはひとつ咳払いをすると頭を掻いた。

「君は不思議な男だな。素っ気ない態度なのに、不思議な安心感がある。本当にベテラン冒険者のようだ。そういえば、名前は?」

「アルだ。先に言っておくけど、お互い余計な詮索は無しにしよう。これが今回付いてくる条件だ」

「わかった。そんなことでいいなら」

ソニアは右手を差し出して頷いた。

アルはその手を見てぼそりと「律義な奴」と苦笑すると、軽く握手した。

「短い付き合いだとは思うが、俺が死なないようにしっかりと注意してくれよ?死んだら怒るからな?」

アルの今までの態度と違った冗談じみた軽い言葉に、不覚にもソニアは噴きだした。


「ところで、お奨めの宿屋とかあるかな?」

冒険者協会を出ると、アルは周囲を見渡してからソニアへ訪ねた。ソニアは顎に手を当てて考えると、「新人の懐具合だと、幸運の長靴亭かな。お金に余裕があれば黄金の夜明け亭も良いが。」と答えた。

「ふーん。ちなみにどっちのご飯が美味い?」

「それは黄金の夜明け亭だな。食材が違うし、コックの腕も確かだ。私も泊まっているから信用していいぞ」

「じゃあ黄金の夜明け亭だな」

アルの即決にソニアは胡乱な目を向けた。

「お金は大丈夫なのか?最低の部屋でも一泊飯付き銀貨3枚が必要だぞ?」

「大丈夫だ。あてはある」

「・・・言っておくが、私は貸さないぞ?」

ソニアの言葉にアルは驚愕した。それを見たソニアは憤慨する。

「ちょっと待て!おかしいだろ!なぜそんなに驚く!というか人をろくでなしみたいな目で見るのをやめろ!どうして会って間もない私が貸すと思ったのだ!」

「冷たい・・・まさか心無き女だとは・・・。なるほど、軽く笑っただけで周りのあのどよめきは疑問だったが、そりゃ笑顔を捨てた冷酷非情女が笑えばあんな反応にもなるか」

「おっかしいだろ!むしろ君の頭がおかしいだろ!銅貨3枚じゃないぞ!?銀貨3枚だぞ!?知人とすらいえないような君に貸すわけないだろ!それにだーれが心無き女だ!?誰が笑顔を捨てた冷酷非情女だ!?撤回を要求する!っておい!行くな!待て!」

なにやらうるさいソニアから離れるようにアルは早歩きで歩き出した。自業自得なのだが、あんなに良い反応されるとは思わず、少々周りの目が気になり離脱を試みたようだ。もちろんソニアは追いかけてくる。

「アル!君に謝罪を要求する!私は優しい優しい女冒険者ソニアだ!輝く笑顔と情に厚い心を持って・・・だから行くなとゆーに!」

追いかけてくるソニアにアルは無意味なやり取りだなと歩をゆるめた。

「はぁはぁ、君がそういう性格だとは思わなかったよ。以外に冗談がうまいじゃないか」

アルに追いつくと、若干顔を引きつらせながらソニアは呟いた。 

「あんたこそ、意外に反応豊かだな。もっとクールなイメージだったけど」

アルの言葉にソニアはまた声を荒げそうになり、ぐっと我慢する。

「本当に君には調子が狂う。確かに私はクールなイメージだが、女冒険者ということもあってポーズな部分も多々あるさ。むしろこんなに早く地を出させる君がおかしい」

「知らないよ。これが俺なだけだ。勝手におかしいと思えばいいさ」

その後、二人は微妙な距離感のまま無事黄金の夜明け亭へとたどり着いた。

 黄金の夜明け亭では普通にお金を持っていたアルが10日分である銀貨30枚を払い問題なく宿泊することになった。それを見ていたソニアは大きなため息をついたが、特になにも言わず、冒険前の荷物の整理をするために自室へと向かった。なにやらブツブツ呟いていたが、アルは気にしないことにした。

 自室に荷物を置き、早速狩りに行こうとアルは宿を出た。ソニアはまだのようで、置いてさっさと行ってしまおうかとも思ったが、またうるさく騒がれても困るので、渋々待つことにした。

 ソニアと合流し、王都の南門から森に向かうことになった。南の森は深部に行くほど強い魔物が現れ、比較的レベルにあった狩りがしやすいということをソニアが教えてくれた。アルはその情報を聞き、森へ着くとグイグイ奥へと進むことにした。

 途中ソニアが慌てて待ったを掛けようとしたが、現れたGクラスとFクラスの魔物を剣の一振りで真っ二つにしたのを見て、しばらく様子を見ようと黙って付いていくことにした。そして、森へ入って2時間程経過したところで新たな魔物が現れた。

「まずい、ゴブリンの集団だ。7匹だが、まだ隠れているかもしれない。私が倒すから君は周囲の警戒を・・・」

ソニアが言い終える前に、アルは剣を横に一振り。7匹のゴブリンは仲良く胴体が真っ二つになって崩れ落ちた。そのまま周囲を静寂が包む。

「ほかに隠れているゴブリンはいないみたいだな」

「え、あ、うん。そうですね」

警戒を解くアルと、理解が追いつかないソニア。ゴブリンは1匹でH級1人、集団でG級1人、巣の殲滅でF級1人の冒険者の強さに比肩する。今の戦闘はE級であるソニア1人でも問題なく殲滅できる。しかしソニアは先ほどの光景を思い出し、思わず背筋が寒くなった。剣の一振りで7匹のゴブリンを両断。魔法無しでできる冒険者はどんなランクだ?少なくても私にはできない。

 ソニアが熟考していると、すぐに次の魔物が現れた。

「なに!?」

ソニアは自らの目を疑った。それは、南の森の最長老といわれている生きた伝説のアダマンタートルだった。体長5m、牙と爪が生えた巨大亀でめったに姿を現さない。亀のくせに動きは素早く、甲羅はもちろん露出している皮膚も硬質化しており生半可な攻撃では傷一つ付けられないと言われている。C級冒険者が数名がかりで討伐するレベルの魔物だが、攻撃的な性格ではないので見つけた場合は静かにやり過ごすことがほとんどだ。当然ソニアは退避する為にじりじりと後退したが、

「なんだコイツ?・・・まぁいいか、とりあえず斬っておこう」

となりの馬鹿新人が剣を振りかぶった。

「ちょっ!?」

ちょっと待てこの腐れ馬鹿新人お前何する気だコンニャロー!!?と、ソニアが声を掛ける間もなくアルは剣を振り下ろした。

次の瞬間、アダマンタートルは斜めに両断され、そのまま切断面がずれる様に崩れた。

「あれ、雑魚いな。・・・まあ、こんなもんか」

アルは肩を竦め、何事も無かったかのようにスタスタと歩き出した。その背後では、アルに待ったを掛けようと右手を突き出した体制のまま硬直しているソニアが、ようやく事態を理解して慌てる。

「アル、ちょっと待とうか」

行き場を失っていた右手が歩き出したアルを追いかけて力強く肩を掴む。その右手は少々震えており、あまりの力の強さにアルの歩みは嫌がおうにも止められた。

「ソニア、だったか?ちょっと痛いのだけど離しイデデデデ!」

アルが抗議の声を上げる前にソニアの右手により一層力が込められた。

「君は何者なんだい?アダマンタートルをそこらのG級の魔物を片付けるように一刀のもと切り捨てるとか、あんなの、B級とかA級の超有名冒険者並だぞ?」

「詮索しない約束だよな?それに、話してる暇もないぞ?」

「なに?どういう意味だ?・・・ちょっと待て、その腰に提げてる袋から漏れてる煙は―」

アルの腰の袋から黄色い粉末が空気中へと溶け出ていた。アルはニヤリと笑うと、

「ついさっきからな、あんまり退屈だから撒いてたんだ、強力匂い袋。おかげで変な亀が出てきたし、これから期待できるな」

匂い袋。それは魔物をおびき寄せるトラップ用のアイテム。その強力版をアルは撒いてると言った。つまり、南の森の2時間以上深部でこれを使うと・・・

ガサガサと周囲の木々が揺れる。そして、一斉に姿を現す魔物たち。E級のトロルキング、D級のジャイアントレッドベア、D級のポイズンヘルトード、C級のブラッディウルフ、C級のアイアンスパイダー。それはもう、ソニアが目を覆うか現実逃避したくなるくらいわんさか現れた。

「おお!大量だ!」

「お、お、お前!死ねぇぇぇぇぇぇーーーーー!!!」

嬉々としたアルの声に、ソニアの我慢が破裂した。


 

 こうして、新人冒険者アルの新たな冒険の日々が始まった。グランフェルド王国がある中大陸を旅立ち、東の大大陸で200年、その北にある魔大陸で100年、さらにその西にある小大陸で100年、実に400年振りの中大陸への帰還が、「魔法剣のアルバトロス」新たな伝説の始まりであった。

 ちなみに、アルの首根っこを摑まえながら逃げるソニアに迷惑しつつ、アルは剣をブンブン振り回し、襲い掛かる魔物を全て一刀両断で殲滅して王都へと帰還した。その後、半泣きのソニアから不意打ちの右ストレートが顔面へと打ち込まれた。








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