表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【舞台・声劇】1時27分【台本】

作者: 烏丸 諷路

パッと時計を見て、秒針が1秒以上動かないように見えませんか?

私はあの瞬間、仄かに不安になります。皆様はどうでしょうか。

そんな気分で、ご自由にお使いください。

登場人物:男3人 女1人


男1…メイン。物事に頓着しない性格

女…待ち合わせに遅れてやってくる。男1と逆に、物事に頓着する性格

男2…焦って時間を聞く人。会議に遅れそう

男3…色々知ってる人。自分ワールドに一度入ると抜け出てこない


※男1以外は女性でも構いません




・公園のベンチに男。雑誌を読んでいる。ふと時計を見やる。時間を確認。


男1「1時27分…(周りを見る)…それにしてもあいつ遅ぇな。化粧に何分かかってるんだよ…」


・深く溜息。続いて上手から男2が早歩きで入ってくる。オロオロと挙動不審。

・男は気付かず雑誌を読んでいる。


男2「あの、すいません」

男1「…はい?」

男2「今…何時ですか?」

男1「え…あ、1時27分です」


・不思議そうな顔を浮かべて挙動不審の人を見やる


男2「そうですか、すいません。(携帯を取り出す)…あぁもしもし!課長ですか!

  すいません、もう後10分で着きますから!」下手にハケ

男1「…携帯あるなら時間ぐらい分かるだろ…」


・雑誌に目を向けようとすると、下手からドタバタと彼女登場


女 「(息を切らし)ハァ…ハァ…遅れてごめん!」

男1「おぉ。どうした?」

女 「電車止まっちゃったの!」

男1「なら電話ぐらい入れてくれたって良いだろ?」

女 「それが昨日充電器付け忘れて、電池1個しかないの。…ほら」

男1「あ、ホントだ。で、何処行く?」

女 「あの…(息切れ切れに)その前に休ませて貰って良い?」

男1「あぁ、ほら」


・男、少し腰を浮かせ隣を譲る。


女 「(息を整え)あの…ほんとに…ごめんね?」

男1「あぁ、うん。別に良いよ」

女 「…怒ってない?」

男1「ん?うん、怒ってないよ?」

女 「ほんとに?」

男1「うん」

女 「…ごめん、嘘」


・男、不思議そうな顔をする 一瞬静寂


男1「…え?何が?」

女 「ほんとは、考え事してた」

男1「あぁ。うん、慣れてるよそれは」

女 「慣れてるって…まぁ、そうだよね。…ねぇ、聞いても良い?」


・男、雑誌を横に置く


男1「何?」

女 「…あたしって…あたしだよね?」

男1「…あぁ?何だよ藪から棒に。当たり前じゃん。俺は俺、お前はお前」

女 「何が当たり前なの?」

男1「え?…何って…」

女 「だってあなた本当は、ただのだんご虫かも知れないのよ?」

男1「…だんご虫?え、俺が!?」

女 「もしかしたらあたしはミジンコかも知れないし、んー、象かも」

男1「…はぁ?」

女 「だけどあたしから見たあなたはアナタで、あなたから見たあたしは、あたし。

  でも他の人から見たら、あなたはアナタじゃないかも知れない」

男1「何いきなり訳分からない事言ってるんだ。既にゴチャゴチャだよ…。

  俺は誰から見たって俺、お前は…」

女 「何処にその根拠があるの?」

男1「…何処ってお前…」

女 「そうでしょ?あのね、ずっと不思議なの。あたし、ホントは此処にいないのかもよ?」

男1「…今度は何だ?」

女 「えっと、もしあたしの見ているあなたが幻だったら、あたしも幻なのかな、って」

男1「おいおい、お前寝てないんじゃないのか?大丈夫かよ」

女 「ちゃんと寝たよ?あたしはここに意識を持っている人間としてベンチに座ってる。

  でも、もしかしたらあなたとは向かい合って話しているのかも、って」

男1「はぁ…」

女 「(怖々と)ねぇ、もしあなたから見たあたしが幻だったら、どうする?」

男1「…俺は俺だよ。人間の男。幻想なんかじゃない。触れば分かるだろ?」

女 「そうじゃないの…。えーっと…そう!やけに現実味を帯びた夢、あるでしょ?」

男1「あぁ、昨日見たよそういうの。俺が、それこそこの公園なんだけど、お前を待ってるんだよ。

  でな?鳩見てたら、知らない人に時間聞かれてさ。そうそう、1時27分って答えたんだよ。

  そしたら、その人は携帯で電話かけてどっか行っちゃって。

  …あ、今思ったら携帯あるならそれで時間分かるのにな」

女 「その人は、そこにいるって感覚があった?」

男1「そこまでは分かんねぇよ。夢だもん」

女 「それ!!もしかしたら今ここで話してる事、全部夢かも知れないって事!」

男1「まっさかぁ?夢だったら叩いたってつねったって痛くねぇもん。

  (腕をつねる)…俺はいてぇぞ。だからここは夢じゃない」

女 「そういう夢もある、って言ったらどうする?」

男1「お前流石に理屈っぽいぞ?その話、根底からおかしくないか?」

女 「じゃあおかしい所言ってみて。

  あたし、あなたを怒らせたくて話してるんじゃないの。それは分かって」

男1「…分かっちゃいるけど…。…まず現実その物を疑うこと自体間違ってるよ。

  今俺は、お前の隣で話してる。今のこの記憶はずっと俺の頭の中にある。勿論今までのもだ」

女 「今までの記憶?」

男1「今日は暑い。肌で感じてる。昨日蚊に刺されて足がかゆい。足が赤くなってる。

  昨日のバイトで腕が痛い。昨日から持ち越した記憶だ。全部夢じゃない。現実だ」

女 「根拠は?」

男1「全部根拠あるだろ?暑い、かゆい、そんで記憶。全部証拠だよ」

女 「それはあなたの事。他に持ち越したあなた以外の事、ある?」

男1「…俺以外の事…?」

女 「友達は昨日と変わらない人。でもそれはあなたの頭の中で作った物でしょ?

  あなたの見ているあたしも、あなたの頭の中で作られたものでしかないの。

  昨日と変わらない日常。それは何を基準に昨日と変わらないの?」

男1「それは俺の記憶だからだ。…って言ったら、お前の思うツボだな…ん?どういう事だ…?」

女 「暑いも、痛いも、あなたの思う幻想が作り出した思い込みでしょ? あたしだって同じ。

  今あなたに話しているこの必死な気持ちも、ほんとは無い物かも知れない」

男1「無くは無いだろう。今こうやって話して…いる…のか?俺は…」

女 「そもそも、あたし達の存在って、何なんだろうね?

  …あ、昨日読んだ本に、「いつでも君は君だよ」って台詞があったの」

男1「面白いのか?あれ」

女 「うん、面白い事は面白いの。でも、どうしてそう言い切れるのかが分からなくって。

  あなたの見ているあたしはあなただけの中のあたし。

  あたしが見る鏡の中のあたしと、どうして同じだって言えるの?ううん、鏡だって疑わしいわ」

男1「…あ、あのさ、そんなに考え込んで、結局何が言いたいの?」

女 「え?…うーんと…やっぱり、あたしってあたしなのかな?って事」


・男、ベンチから立ち上がる 一つ溜息


男1「あのな?俺から見たお前は正真正銘お前だよ。んでもって、今日は此処にお前は遅れて来た。

  別にそれだけで良いだろ。俺は俺、お前はお前。今ここにいるんだ。

  それ以外に、今何が必要なんだよ」

女 「…それだけで…良いのかな。…良いんだろうね。ごめんね…」

男1「そんなゴチャゴチャ考えて疲れねぇのか?」

女 「(笑って)まぁ、少しは」

男1「もっと楽に構えたって人生は責めてこねぇよ。(だらけて)あちぃなぁ…」


・女、腕時計を見る


男1「今何時だろ」

女 「(時計を見て)1時27分。…あ、向こうでアイスクリーム売ってたの。買ってくるね」

男1「あぁ、チョコあったら買ってきて。はい」


・男、千円札を差し出す


男1「お釣りはあげるよ」

女 「え…(嬉しそうに)ありがと。(一転申し訳なく)…ごめんね、変な事聞いて」

男1「気にするなよ。嫌いじゃないから、そういう話」

女 「(笑顔)…ありがと。いってくる」


・女、下手へハケ 下手から男2


男2「すいません、今、何時ですか?」

男1「あ、えっと…1時27分です」


・不思議そうな顔を浮かべて挙動不審の人を見やる


男2「そうですか、すいません。(携帯を取り出す)…あぁもしもし!課長ですか!

  すいません、もう後10分で着きますから!」上手にハケ

男1「…携帯あるなら時間ぐらい分かるだろ…」


・下手から男3登場


男3「…あの」

男1「…はい?」

男3「今何時ですか?」

男1「あ、えっと…」

男3「(食い)って、此処で何度、聴かれましたか?」

男1「え?」

男3「…先程、聞かれていたでしょう?」

男1「えぇ。…1度、ですけど」

男3「…そうですか。じゃあ私は2度目、という事になりますね」

男1「…はぁ?」

男3「いえ、回りくどくてすいませんね。…今、何時ですか?」

男1「え…1時27分です」

男3「そうですか。…確かに、1時27分、ですね」

男1「…時計持ってるじゃないですか」

男3「いえ、確認、ですよ」

男1「あ、なるほど…んん?(疑問の残る間)」


・男3、上手にハケずに立ち止まる

・男1の元に鳩が寄ってくる


男1「餌なんか持ってねぇよ。向こう行け」

男3「鳩ですか」

男1「…何ですか?(訝しげに男を見やる)」

男3「平和ですね。鳩がいるなんて」

男1「はい?」

男3「(鳩を見て)鳩は平和の象徴、なんて言われています」

男1「…はぁ、そうですね」

男3「(鳩から男1へ視線を移す)…何故でしょうか」

男1「え?…さ、さぁ?そこまでは流石に…」

男3「(食い)元はギリシャに起源があるそうなんですよ」

男1「ん!?え!?何すか!?」

男3「(食い)ノアの箱舟を作ったノアは、最初はカラスを放った。

  しかし、カラスは乾く前であったが為に、餌を見つけられず戻ってきたそうです」

男1「何だこいつ…」

男3「なので今度は鳩を放ったんですよ。すると鳩はオリーブの実を咥えて戻ってきた。

  そこでノアはやっと「水が引いた」と確信したそうです。

  …混乱から脱する為の希望が、鳩だったというわけですね」

男1「…なら別にカラスが平和の象徴でも良いようなもんじゃないですか」

男3「そこは運命や巡り合せといったものでしょうか。

  それ以来カラスは「魔女の手先」と言われ、忌み嫌われた存在に成り下がった。

  とするならば、鳩はカラスを差し置いて平和を運命からもぎ取った、

  罪悪の鳥なのかも知れません」

男1「鳩が罪悪…突拍子も無い事を言いますねぇ」

男3「鳩の鳴き声、お聞きになった事があるでしょう?」

男1「えぇまぁ。ずっと聴いてると、クラクラします」

男3「そう。カラスは潔く鳴きますが、鳩は不気味な、単調な声で鳴きます」

男1「カラスの鳴き声が潔いかは分かりませんけど…」

男3「しかし、この史実を知らない人からすれば、鳩が平和の象徴と言われる所以など気にせずに、

  ただ『嗚呼、そういうものなのだ』と受け入れてしまう」

男1「…何だっけそれ…内面化、でしたっけ」

男3「生まれつき鎖で繋がれた虎が檻から出ようとしないように、

  私達人間は現在に何の疑問も抱かない」

男1「…えーと…つまり…あなたは何が言いたいんですか?」

男3「事実ですよ。あなたも私も、現在の流れに逆らってはいないという事です」

男1「逆らう?現実に?」

男3「えぇ。逆らう気が無ければ、枝は折れ、川に流され、海に辿り着きます。

  海は何処までも果てしなく続きますから、海流がまた元の場所に枝を運ぶ事だってある。

  勿論、水底に沈んだまま、永遠に昼も夜も無く過ごす人だっていますがね」

男1「随分と広い話…ってか後半怖いですよ」

男3「それを誰かが認めれば、疑問を抱くはずです。…知らぬが仏、とは、残酷な言葉ですね」

男1「すいません、俺にはさっぱり…」

男3「私こそすいません、長々とお時間を取らせてしまって。

  私は、今が1時27分だという事だけ、確認する事が出来れば良かったんですから。

  …それでは」


・男3、上手にハケ


男1「…本を読み過ぎると行く末はあんな風になるのか…。

  (皮肉っぽく)文学が人に与える影響ってのは、随分と偉大なもんだね。

  人間は考えるアシである、だっけっかな?」


・以後、男はしばらく一人で時間を潰す 一頻り時間が経った後、男2が上手から登場


男2「すいません、今、1時27分で合ってますか?」

男1「え…。…はい、1時27分です」


・不思議そうな顔を浮かべて挙動不審の人を見やる


男2「そうですか、すいません。(携帯を取り出す。)…あぁもしもし!課長ですか!

  すいません、 もう後10分で着きますから!」下手にハケ

男1「…公園の時計あるのに何だよいきなり…。…それにしてもあいつ遅ぇな。

  買うのに何分かかってるんだよ。…(時計を見る)…え?」


女 「お待たせ。何か凄い人気だったよ。あ、見たい映画あるんだ。今何時?」

男1「…1時、27分」

どうやら前書きで書いた現象は「クロノスタシス」というそうです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ