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第7話 空飛ぶお偉いさん


 今日は変なお客さんを乗せた。


 なんとか雨も降らずに崩れ落ちるのを持ちこたえているような空模様。風が空を巻いていそうなそんな天気の時に、偉そうなおっさんとその秘書さん。


 きっちりとしわ一つないスーツのボタンをしめ、ネクタイはタイピンに至るまで一分の隙もない。髪の毛はかっちりと、叩けば金属音がしそうな程にオールバックに固めている。ヒゲがさらに偉そうな威厳を見せつける。胸を張り、顎を上げ、決して自分では荷物を持たないタイプ。僕の苦手なタイプだ。秘書が可愛らしい人でちょっとうらやましいと思ったけれど、秘書付きって時点で、ちょっとでも不快なフライトをしてしまえば後で絶対文句を言うタイプ。苦手だ。

 実際、予想外の事を言われたし。


 なんでも緊急の移動に、自社飛行機が故障してしまいどうにも困ってうちの会社に依頼してきたそうだ。

 うちの会社は人も荷物も割合は半々くらいで運んでいる。観光客を乗せて、観光ガイドの真似事をしなければならない場合もあるけれども、秘書付きお偉いさんなんて初めてのケースだった。


 簡単な依頼の時は飛行運搬補助業務と言う名のサボりをするコーターさんすら乗りたがらないケースだ。実際、栗色のロングヘアが可愛らしい秘書の人を見てガイド役を買って出たコーターさんがこの偉そうな人を見て二秒で前言撤回したくらいだ。

 僕がついこないだ墜落したばかりだと告げたらどんな顔をしていただろうか。


 自分よりも全然背が低く腕も細い、大きな瞳が可愛らしい女性秘書に荷物を持たせ、自分はペン一本持たないがそれがどうしたって態度の緊急の用事の偉そうなおっさんを乗せ、荒れた空模様の中を飛ぶ。せっかく週末だってのに。これでえくぼが可愛らしい秘書の人がいなかったら、僕はすねていたぞ。


 しかし、飛んでみて驚いた。

 その偉そうなおっさんは飛び始めてすぐに、白いシャツがよく似合う可愛らしい秘書がとめるのも聞かずにコクピットの副座に座ってしまったのだ。うちの会社の飛行機はタンデム服座式で、コクピットは縦にシートが並んでいる。前側が操縦席、後部がサブになり、視界確保のため一段高い位置になる。偉そうなおっさんがますます偉そうに見える。


 一応僕も、当社の規定でなんたらかんたらと言ってはみたものの、「かまわん。そのまま飛び続けたまえ」の一言で黙って飛ぶしかなかった。偉そうな、ではない。実際偉いおっさんっぽい。


 そして怒っているような偉そうな口調で僕の飛び方を質問してきた。

「何故こんなひどい天候でこれほど安定した飛行をできるのだね?」

 こんなひどい天候の時に依頼してきて何を言いだすんだ、と言いたいのを堪えて丁寧に答える僕。苦手だ、こう言う人のこういう口調。


 確かに今日は特にひどい雲と風だった。しかしそのぶん、雲の流れで風が読める。風の強い日に傘をさせば、その傘がぶんぶんと風に振り回されるだろうけど、あらかじめ風がどこからどれだけの強さで吹いてくるか予測できれば傘をうまく動かして風をそらせる事もできる。それと同じ理屈だ。

 風が翼を抑える。煽る。ねじ曲げる。それらは操縦桿に敏感に伝わってくる。風を読み、うまく力に逆らわずに風に乗る。風と同じベクトルを持てば当然力の方向が定まり空力は安定する。

 けど、それをうまく言葉で説明できなかった。感覚をどうやって言語化すればいいんだろうか。結局、僕は擬音をフル活用して説明した。


「普段はグイグイ動くスティックがプルプルするじゃないですか? そのプルプル具合で左右の翼を判断し、翼のバタバタ揺れるのを見て、バタバタ度でどっちからビュウビュウ吹いているか判断してます。雲がゴーゴー巻いているのを見て風のゴーゴー感覚を予測して機体がグラグラと揺れだす前に、スティックをコンコンと刻むように、時にはゴリゴリと押すように」

「解りやすく説明できないものか?」

「……経験とセンスです」


 あっと言う間に止められた。

 僕は6歳の時から父と一緒に飛んでいた。キャリアは20年だ。死んだ父もよく擬音を使って説明してくれた。自分の指先と身体にかかる重力、浮力のそのわずかな感覚を擬音を使わずに説明できる方法があるなら教えて欲しい。


 無事、予定時刻よりも20分も早く到着し、その偉いおっさんは意外な事に握手を求めてきた。そして、僕の心に深くくさびを打ち込むような事を言った。


「君のそのセンスは素晴らしい。君が必要な時は声をかける。いつでも私の元へ来れるよう心構えと覚悟をして、これからも飛び続けてくれたまえ。私達と誰よりも遠くへ飛ぶその時まで」


 タイトスカートが可愛らしい秘書の人が名刺をくれた。

 驚いた。

 噂に聞く、液体燃料エンジンの最高峰、ジェット機関の開発部の相当偉い人らしい。現在試作中のジェット機関なら、高度2万メートルまで楽に飛べるって噂は飛行士仲間の間では有名な話だ。

 実はすごい偉い人に、僕はとんでもなく解りにくい説明をしてしまったらしい。


 別れ際に、こっちから連絡をしたい場合は? と、もっともらしい嘘をついてふくらはぎの可愛らしい秘書の人にも名刺をもらった。

 全体的に可愛らしい秘書さんの名前はナナさん。この名刺をコーターさんに高く売り付けてやろうと、現在交渉中。


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