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第5話 霧茶の季節

 またうっとうしい雨期がやってくる。

 じとじとと毎日毎日粒の小さな雨が降り、だんだんと蒸し暑くなってくる。雨の季節が終われば一気にからっとした夏がやって来るんだけど、雨のせいで空を飛ぶのも細心の注意が必要なこの時期はどうも苦手だ。


 それにこの頃一年が早過ぎる。もう、早過ぎる。子供の頃もっと一年って長かったような気がするが、特に社会に出てからと言うもの、早過ぎ速過ぎ。

 月曜日、休み明けのけだるさとともに出勤。

 火曜日、次の休みが待ち遠しくなる。

 水曜日、限界。もう限界。

 木曜日、仕事の少ない金曜日が見えてきて希望を感じる。

 金曜日、午前中の仕事のみ。一番仕事がはかどる日。

 土曜日、休日。幸せ。

 そしてまた月曜日がやってくる。


 冬、長い冬。でも寒いのはそんなに嫌いじゃないから許す。

 乾期、雪が溶け、草木が芽吹く季節。新茶がおいしい季節で許す。

 雨期、許せない。何が許せないって、カビ。とにかく許せない。

 夏! 最高! 短いのがおしい。南の国に行きたい。

 収穫期、食べ物すべてがおいしいので許す。

 そしてまた冬がやってくる。


 子供の頃って、何かしら学校行事イベントがあったからその季節を思いきり身体で感じていたけれども、大人になると、すでに季節なんて食べ物ぐらいでしか感じる事ができなくなっている。悲しい生き物だ、オトナって。


 でも、雨期には雨期のおいしいものがあり、辛い試練の中にもきらりと光る一粒の希望を与えてくれるなんて神様もなかなか粋な計らいをしてくれるものだ。今日、去年から予約していたアレがついに到着!

 「一番霧茶」! 待ってました!

 乾期に芽吹いたまだ若く柔らかいお茶っ葉。それだけでも十分においしいってのに、雨期の前の霧がよく発生するこの時期の、朝霧をいっぱいに吸収した、もう、みずみずしいなんて言葉で語り尽くせない最高のお茶。それが、ついに僕の手に。

 お茶の煎れ方は人それぞれだけど、僕の好みとしては一杯分のお湯に一杯分の茶葉を十分に浸し、茶こしでお茶っ葉を取り除いたりせず、その上澄みからずずずってすする飲み方。そして、そのお茶っ葉も残さずいただく。ほんのりと甘味があり、エグミの感じないそのミドリ色した霧の味。

 雨期も悪くないな。そう思ってしまう至福の時間。


 だけど、問題がある。

 霧茶は非常にカビやすい。茶葉を発酵させて乾燥させる従来の製法と違い、半分発酵した状態のしっとりとした濡れた茶葉が送られてくるのだ。霧茶が取れるのは雨期の始めだけ。そして、雨期は食べ物が最も痛みやすい季節。保存方法がとてもとても難しい。

 霧茶に関して何も知らなかった去年は、乾燥剤を入れると言う暴挙に出てしまい、せっかくの霧茶の濡れたミドリ色の風味を完全乾燥させてしまいただのお茶にしてしまった。だが、今年の僕はひと味違う。

 冷凍保存だ。そう、凍らせてしまえばいい。乾燥茶葉と違い、霧茶は水分を多く含んでいる。凍らせるには十分な水分がある。これはかなり有効な方法に違いない。冷凍庫の中はカビの侵入も防げ、好きな時に好きな量だけ解凍すればいい。まあ、カビる前に飲んでしまうのが一番の方法ではあるけれど。


 今年は一番霧茶を長く楽しめそうだ。

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