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モノクローム

あれから時は流れ、秋も深まってきた頃だった。

大学校内の正門へと向かって植わった樹々はオレンジ色と黄色が渦巻く世界へと変化していた。

この見事としか言いようのない銀杏並木は、この大学のちょっとした自慢らしい。


私はと言うと、友哉と冬樹二人と出会ったあの日からすっかり一緒に過ごす日々が増えていた。

……要は手懐けられたのだろう。

その後も二人は余りにしつこく誘ってくるものだから、抵抗するのも疲れたのだ。


こうして三人で過ごしているうちに、もはや三人で過ごしているのが当たり前になっていた。

このままこうして毎日が過ぎていくのも悪くはないな…、そう思った矢先の出来事だった。



その日は秋の割には気温も高く、正に天気予報で言うところの過ごしやすい一日と表現できるような日だった。

友哉には内緒で相談したいことがある、と冬樹に言われていたので約束していたカフェへと向かった。


「わりぃな、急に呼び出したりして。」


「ううん。何?話って。」


同じものでよいか尋ねられたので、冬樹が飲んでいるのと同じ珈琲を頂くことにした。


「ああ…、今日めちゃくちゃ天気いいな。」


「そうだねえ。」


「海とか行ったら気持ちいんだろうな…季節外れか。」


「……あのさあ冬樹、相談って……。」


「よし!行くか海!」


「はあーーー???」



こうして私は冬樹に連れられるがまま何故か海へと向かうことになった。

冬樹の相談事が何なのか気になったが、冬樹の気まぐれに振り回されるのはいつものことで。


本当はこの時、冬樹が私に何を伝えたかったのかなんてまるで考えてもなかった。


久しぶりに訪れた海は、予想以上に空が青く水面の蒼とのグラデーションが見事で。

冬樹と二人してはしゃぎまくったのを、今でも憶えている。


結局これが冬樹との最後の想い出になった。


だからだろうか、今でもこの日のことは胸の奥にそっとしまっていて。


ふとしたひょうしに引き出しが開いてしまいそうになると、何だか無性に泣きたくなるんだ。


「あーやばい、海!楽しい。」


「水着があればよかったな。そしたら秋奈のビキニ姿おがめたのに…。」


「……っばっっかじゃないの!」


久しぶりの海に興奮した私達は、加減も知らずにはしゃぎまくり。

その内に心地よい疲れが身体中に広がってきたので、砂浜に腰を下ろした。


服にまとわりつく、砂汚れも気にならず、むしろ今は私達を支配する全てが愛おしかった。



「毎日でも来たくなっちゃうね、海。」


「そおかあー?冬の海なんかマジ寒いぞ、極寒地獄だと思うけど。」


「夢がないなー。」


「悪かったね。…じゃあ、次は水族館な。」


「水族館?」


「うん、イルカのショーとかさ本当嫌なことなんか全部忘れられるくらい無心になれるよ。」


「私、水族館って行ったことないんだ。」


「じゃあ、夏になったら一緒に行こうか、秋奈。」


「…約束ね。」



こうして二人で話しているうちにいつの間にやら日は傾きはじめてて。


水色から橙色に移り変わる空と共に、海の藍色がより深くなっていく様をただ綺麗だな何て思いながら眺めてた。


「今日、友哉も誘えばよかったね。絶対後でむくれるよー。」


クスクスと笑う私とは対照的に、冬樹はどこかうわの空だった。

無駄に空き缶のプルタブを弄ったりしてるものだから、その普段とは違う様子に違和感を感じた。



「……冬樹?」


「お前さあ、……今日誕生日だろ。」


「あ……、」


自慢じゃないが誕生日にこれといって特別な思い出などない私にとって、いつもと変わらない有り触れた一日でしかなく。


冬樹に言われるまで自分でも気がつかなかった。


「寒くないか?」


真夏とは異なり、この頃は日が沈むと少々肌寒さを感じる季節だった。

日中の暑さとはうってかわり、潮風のせいもあってか半袖一枚では少々物足りなかった。


「うーん、ちょっと肌寒い…かも。」


私の曖昧な返事に冬樹は苦笑いを浮かべると、自分が来ていたパーカーを脱ぎすて私の肩にふっかけた。


と、


その瞬間私の肩を抱きよせると、そっと唇を重ね合わせた。


強引な冬樹には似合わない、優しい優しいキスだった。


ほんの数秒のキスの後、目が合えば二人どこか恥ずかしくて。

それでもお互い夢中に何度も何度も唇を重ねた。



それはたぶん、今まで生きてきて一番幸せな誕生日だった。何とも言い表せない幸福感に包みこまれた。


「……友哉に殺されるかも、俺。」


悪戯に光る冬樹の瞳の中に吸い込まれてしまいそうだった。

この時私は既にどうしようもないくらいに冬樹に溺れていたのだろう。








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