強さ
回想が入ります。
「嫌だ…聞きたくないよ。」
緋梨が何を言おうとしてるのかなんてわからない。
でも、なぜか私は緋梨の言葉に耳を塞いだ。
「藍依、逃げないで!!」
嫌だ、嫌だよ、聞きたくない。
みんな変わってく、そんなのわかってる。
わかってるよ、でも…。
「藍依だって本当はわかってる。そうだよね、そうでしょ?」
わからない、わかりたくない。
私は、ショッピングモールを駆けた。
家に帰って一人になった。
少し時間をおいてからまた裕磨の家に行く約束をした。
制服を脱いでTシャツを手に取る。
ふと、目の前に写る自分の姿に目をやった。
お腹の下に傷がある。
まだ消えていなかった。
確かこれは、大人に絡まれていた藍依を助けたときにできた傷だ。
ナイフで切られた傷。
相当深かったらしく、医者には一生残るかもしれないと言われた。
この傷を見るたび、あの日の事を思い出す。
確か、格闘技をやり始めたのもあの頃だ。
ただ我武者羅に、強さだけを求めて―――。
それは今も変わらない。
変わることはない。
ただただ、強さが…力が。
誰かを助けてやれるだけの力が欲しい。
そのかいあって、今では大人が10人襲いかかってきても平気なくらいの力は持っている。
俺は強くなった。
でも、いくら強くなっても、どのくらいの数を相手にしたって、俺の溝は埋まらない。
もしかしたら、一生埋まることはないのかもしれない。
…それでもいい。
「裕磨、待ってるよな。」
自分に言い聞かせるように呟くと、近くにあったジャンパーと鞄を掴んで階段をかけ降りた。
今はそんなこと考えている場合じゃない…。
ぼーっとしていると藍依の事ばかり気にかかる。
ぶっきらぼうな俺は、裕磨みたいに優しくなんて出来なかった。
からかうと子供みたいに食いついてくる藍依との関係を保ってきた。
ただ、俺の方だけを向いて欲しくて…。
夏の向日葵が太陽に向かって咲くように。
俺は、何で裕磨のように振る舞えないんだろう。
何度もそう思った。
最近は嫉妬してばかりだ。
結局、これっぽっちの事で腹を立てるほど、俺が弱かったと言うだけの結果にすぎないのだが。
帝兎とまた会う約束をした。
俺の部屋に来るなんて久々だ。
インテリア用の机には、小さい頃花火大会で撮った写真が飾ってある。
帝兎は嫌がるかもしれない。
あの日、写真を撮った後に屋台を回った俺達は藍依を一人にして射的に夢中になったんだ。
そうして事件は起こった。
「帝兎、そういえば藍依は?」
射的の弾を使いきった俺は、ようやく藍依がいないことに気づいた。
「さあ、食べ物でも買いに行ったんじゃねーの?」
帝兎はまだ射的をやっている最中で、大好きだったグンダムのおもちゃをとるのに必死だった。
「さ、探しにいこうよ。」
「えー…あと3発だから…。」
「僕先行ってるね。」
俺はだんだん不安になってきて、帝兎を置いて一人で探しに行ったんだ。
「藍依!!」
俺が藍依を見つけたときには、藍依は沢山の男の人に囲まれていた。
「ね、飴あげるからお兄ちゃん達と遊ばない?」
臆病だった俺は何もすることが出来なかった。
「ごめんなさい…私友達と来てて…。」
「藍依!」
「ゆーちゃん!」
必死に藍依を助けようとして声を上げたものの、全く効果はなかった。
「お、友達?
君も結構可愛いね、俺たちと遊ばない?」
そこに現れたのが帝兎だった。
「藍依、裕磨。
大丈夫か!?」
そこで初めて俺が男だとわかった大人たちは、藍依だけを連れていこうとした。
「待てっ!!」
「そこまでするかよお前…。」
「やべぇ、本当にかかってきやがった…。」
「逃げんぞ!」
一人がナイフを取り出したとき、帝兎がそれを押さえようとして倒れた。
ナイフで怪我をしたんだ。
「みーくん!!」
藍依が帝兎に駆け寄る。
「僕、お母さん達を呼んでくる!」
そのまま帝兎は救急車で病院に運ばれた。
命に別状はなかったけど、帝兎は腹を縫う手術をした。
それから帝兎は武道を習い始めた。
俺も少しはやってみたけど長くは続かなかった。
裕磨はよく女の子に間違われます。
美人は辛いですね。