表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

恋人たちはすれ違う

作者: イタ

 剣と魔法の世界、エッダ。魔王を頂点とする魔族と、人間の勇者とそれに味方する種族―――エルフ、ドワーフ、精霊達が協力する連合軍が日々戦いを繰り広げる世界。互いの勢力は未だ拮抗し、今日もどこかで小競り合いが繰り広げられる。

 

 そんな世界の片隅に、幸せを謳歌する恋人同士がいた―――。

 

 

 

「や…だめ、…だめだってファール…っ!」

「むり、我慢できない」

「ファール…!」

 

 エルフの国アルフの城下町。いくつかの大通りと、その間を埋める店や家、細い道。夜の帳がおりた今、大通りに面した店は賑わいを見せ、裏通りにはほとんど人の姿は見えない。若い恋人同士が盛り上がっているのも、そんな人目のない裏道だった。

 

「こんな…外でっ」

「誘ってきたのはルトだろ?」

「あんなの冗談、で…あぁっ」

「知らね。大丈夫、だれか来たら分かるし」

「…っふぁ、あ、っそうゆう問題じゃなく、てぇっ」

 

 男と女が問答を続ける間にも、男の手は女の上着の中に忍び込み、柔らかい素肌をなでつけている。男の手が豊満な胸の一部に触れる度、女の声が高く跳ね上がる。

 

「ルトは、俺のこと嫌い?俺とこうするの、嫌?」


 手は止めず、女、ルトの目を覗き込む男、ファール。ルトは快感から生理的にあふれてくる涙で潤った目を、辛うじて睨んでいるとわかる険しさでファールに向ける。

 

「嫌いじゃないけどっ、ここじゃ、い…やぁっ」


 拒絶の言葉を遮るように、乳首をつまみ上げる。ルトの気持ちもわからないでもないが、ファールとしても散々じらされ我慢したのだ。今までで最も好きになった女の痴態を前にして、どうしてここで止めることができようか、いやできない。ルトの反応は悪くない、むしろ好感触。自分の手によって次々に反応を返す彼女に、自分も興奮しているのがわかる。

 

(今日こそ、今日こそは…!)


 普段は彼女のからかいまじりの誘惑に踊らされることの多い自分だが、その度に返り討ちしせんとキスしたり触ったり押し倒したり…、とにかく行くところまで行かんとせん気持ちでいっぱいで、彼女も恥ずかしがりながらそれを受け止めてくれる。そう、恋人同士、互いに気持ちは同じなのだ。

 すなわち、ヤりたい。

 いい年した男女が好きあっていれば当然の帰結である。断っておけば、この二人だって手を握るのも躊躇し、初めての口付をしたときはお互い顔を真っ赤にするような時代があったのだ。順調に気持ちを育て、二人の心の距離も十分近くなった。その上で、身体の関係を結ぼうとしているのだ。

 しかしながら、現時点において二人はまだ清い(?)関係にあった。

 

「ルト、お願い、下触らせて?」


 いける。ファールから見たルトは、すでに快楽に酔って抵抗がすくなくなっている。現に先ほどまで服の下を這い回る男のを手を止めるように動いていたルトの手は、崩れ落ちそうになる身体を支えるため背後の壁に添えられている。大通りの明かりが辛うじて照らすその顔は刻一刻と上気し、さらにファールを煽る。

 過去の経験から、すでにルトの下肢は濡れてきているだろうと予想する。そう、なんなら解す必要がないほどに濡れそぼり、自分を受け入れてくれるはずだ。ルトは感じやすいし快感に弱い。初めて指を入れた時は、指でイかせることができた程だ。残念ながら、その時は諸々の事情で最後まで致すことはできなかったのだが。

 

 今はまだ少し、外ということで決断しかねているルト。そんな可愛らしい彼女を慮りたい気持ちも勿論あるのだが、今ここで、つながってしまいたいとやや暴走気味に思う自分も消せはしない。

 そんなわけでルトの躊躇を振り切らせるように、両乳首を同時につまむ。

 

「やぁぁぁっ!」

「な、お願い」


 あと一押し。息も絶え絶え、といった様子のルトに、もう一度嘆願したその時。




―――リンリンリンリン!

―――ジリリリリリリリ!




 ファールとルト、それぞれの頭のなかに大音量で響く音。次いで、決してこのタイミングでは聞きたくなかった、しかし聞きなれたセリフが響く。


『勇者ファヴニルよ、人界アルフ国において魔物の存在を感知しました。ただちに出動し、魔物を殲滅してください』

『魔王様ぁ!またロキ様が人界に魔物を送り込まれました!!今回もアルフ国だそうです!魔物は現在アルフ国東部において農村の畑を喰い荒し、満腹になり次第村の貯蓄に向かうと予想されますぅ!』




「…」

「…」


「…ごめん、ルト。ちょっっっっっと、野暮用思い出して」

「あ…、うん、私もちょっっっっっと、気分が悪くなってきたみたいだから、今日は帰る」

『勇者よ、何をもたもたしているのです。さっさと城まで戻りなさい。なんなら強制転送させましょうか?』

『スルトヘル様!ロキ様が魔王城の城門を『娘を出せぇ!』とすごい勢いで叩いてお出でですぅ!このままでは城門がこっぱみじんに!』


「ほんとごめん!この埋め合わせは必ず絶対すぐにするから、いやさせてくれ!」

「気にしないで私もまた会いに行くから!まだしばらくこの国にいるんでしょ?暇になったら探知魔力出しといて!」

「もーほんと絶対すぐだすから!絶対!(うるせぇすぐ行くから待ってろ!)」

「うんまってるね!(今行くから父さん止めといて!)」


「「じゃ!」」




 恋人たちの逢瀬は、こうして慌ただしい終わりを告げた。そう、いつものように。

 男、ファール。本名ファヴニル。種族、人間。職業、勇者。ただしルトの前では流しの傭兵ファール。

 女、ルト。本名スルトヘル。種族、魔族。職業、魔王。ただしファールの前では人間の魔術師ルト。

 

 剣と魔法の世界、エッダ。魔王を頂点とする魔族と、人間の勇者とそれに味方する種族―――エルフ、ドワーフ、精霊達が協力する連合軍が日々戦いを繰り広げる世界。互いの勢力は未だ拮抗し、今日もどこかで小競り合いが繰り広げられる。

 

 それはどこかおかしな戦い。

 

 人界の者は誰も知らない。人界に攻めいる魔族はロキという元魔王の一派という事を。ロキが暇を持て余し、現魔王で娘であるスルトヘルにかまって欲しくて人界にちょっかいをかけている事を。勇者たちの本当の敵は、魔王ではなく元魔王であることを。元魔王が人界に放つ魔物は人間の食糧だけを狙っている事を。

 

 勇者は知らない。自分の最愛の恋人が、倒すべき存在と勘違いしている魔王であるという事を。

 

 魔王は知らない。自分の最愛の恋人が、元魔王で父親の退屈を埋める勇者であるという事を。

 

 

 

「おぉぉぉぉるぁぁぁぁぁぁっ!!!!このクソ魔物どもがぁぁぁぁぁぁっ!許さん、今日は絶対に許さんっっっっ!!!!!」


「父ぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁんっ!!!なぁにやってくれてんのよバカァァァァァ!!!!」


 人界と魔界、それぞれで今日も響く爆音、剣戟、叫び声。


 恋人たちのおかしなすれ違いはまだまだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ