フォールン・パイプス
フォールン・パイプス
スティーブ・アラン 探偵
ジム・モートン 記者
デイビッド 大工
リッキー 警備員
ベックス 警部
1.ロンドン市内のバス通り、その脇を通る歩道の頭上には鉄パイプで足場が組まれていた。
ここは新たにビルの改装が行われる場所で周囲を通る人々は頭上をチラリと眺めても気にせず、いそいそと通過するところだった。
そのとき「危ないぞー!!!」という一声がかかると同時に鉄パイプであろう、カンカンカンカン!と言う音が鳴り響き地面に伏せる男の姿があった。警備員だった。ここ周辺を守っていたものだろう。
そこへ通りかかった男が2人。
スティーブ・アランとジム・モートンだった。
2.ロンドンバスやブラックキャブが通りを行き交い、排気ガスも相変わらずの息苦しいストリートの脇に雑居ビルが並び、そこの一角には銀のパイプや足場が組まれ上には大工たちが登っている。彼らはこれから始まる改装工事に向けて今朝から足場を組み始めていた。上の階にパイプを十数本かいっぺんに持ち上げていた。そのときの事故だった。
スティーブはさっとそこへ駆け寄り、「大丈夫か!?」といいながら下敷きになった男の首に手を当て、脈を調べた。
「どうだい?」とジムが青ざめた顔でスティーブにきく。
「駄目だよ。死んでる。」とスティーブ。
上から梯子を降りてきて大工の男がきく。「大丈夫か?」と。スティーブは「即死です。」と返事をした。「あなたの名前は?」とスティーブ。「デイビッドです。」と男。「私は探偵をやっています。現場は私が保存しますんで、警察を呼んでください。」「分かりました。」とデイビッド。ジムに見ていてもらい、スティーブは鉄パイプに着いた血や、辺りの広さや距離感を見ていく。そのとき、スティーブがあることに気づく。「おや?何故ここに血が着いているんだ?血が吹き出したのはこのパイプの下からのはず。念のため少し頂こう。」とピンセットの先に少しだけ採取し、ジップロックにしまうスティーブ。上を見上げ、考えるスティーブにジムが声をかける。「何かあったのかい?」
「いや、上から振ってきて血はパイプの下で吹き出したはずなのに、ここの上に血が乗っていたんだ。」
そのとき、ふっとデイビッドの指先に目が行った。「あ、ほらジム。」と密かに指さしたスティーブの示すデイビッドの指先には血が。「あれ?まさか」とジム。
デイビッドにスティーブが訊いた。「上から、パイプが落ちてきましたね。」「ええ。」「どうしてこんなに降ってきたんです?」「組む前で立てかけておいたパイプが風かなんかで揺れて落ちたんです。」「あなたはこのパイプに触れましたか?」「いいえ」「そうですか?本当に」「ええ。私が見たときもう落下していました。」
そのとき、警察がサイレンとともに現場にやってきた。ベックス警部だ。
「スティーブさん。あなたがいましたか?」と笑いかけるベックス警部。「現場は保存しております。」とスティーブ。そして、ベックスに小さな声で耳打ちするスティーブ。うん、うん。と頷き納得するベックス。「この場はもう1人の警官が保存しますんで、デイビッドさん、あなたには第1発見者として、署まで来ていただきます。いいですね?あとスティーブさんも協力してください。」パトカーに乗り込むベックス、スティーブ、デイビッド、そしてジムだった。
パトカーが署まで行く間にスティーブはベックスにさっきのジップロックをそっと渡した。
3.警察署では詳しい取り調べが始まった。ジップロックは鑑識に回され、DNA鑑定が行われた。
諸所の質問を調書に書き込むベックス。その間にスティーブとジムは後ろで二人を見てヒソヒソと話していた。
DNA鑑定が行われる中。ベックスは「おや?この血はどうしましたか?」とデイビッドの指先を見てきく。「ああ、こんなのはただのかすり傷です。大工にはしょっちゅうあるもんですから。」とデイビッド。ハンカチでさっとふこうとしたデイビッドの手をベックスが握った。「この血採取させて貰いますよ。」「え?でも、なんでまた。」「あなたはスティーブさんに、揺れてパイプが落ちたと言い
ましたね?」「ええ。」「間違いないですね。」「ええ。」「実はさっき落ちたパイプの上側に血液がついているのをスティーブさんが採取しました。もし、DNA鑑定であの血があなたの指先のこの血と一致したら、あなたはさっき、スティーブさんに嘘をついていたことを認めますか?」
4.「まさか。そんな。」愕然とするデイビッドだった。数分後、DNA鑑定の結果が届いた。
「あなたの血でしたよ。デイビッドさん。」
「あなたの所持品も調べさせていただきます。」
とリュックを取り上げるベックス。
ゆっくりと中にあるものをデスク上に出していく。
ノート、筆箱、薬類、ティッシュ、タンブラー、サンドイッチが2パック。
そんなものだった。
「このノート拝見します。」
とノートの中身をあらためていくベックス。「これは、殺してやる!これあなたの日記ですね?殺してやるとは今朝亡くなった警備員のリッキーさんのことですね?あなた自らの手からパイプを落としましたね。下にリッキーさんが立っているのを知っておきながら。」
「もっと、後ろも読んでください。」とスティーブ。
「そうだ。」とジム。
目を通していくベックス。
「ああ、あなた達最近、喧嘩していましたね。数日前、口論になって、つかみ合いの喧嘩になったとある。あなたは怨恨の筋を認めますか?あなた彼を意図的に殺しましたね。」
そこへスティーブが耳打ちをする。
また、うんうんと頷き。喋りだすベックス。
「周囲の人間にも訊かなきゃいけませんね。」
そこへ続いて、警察署に現場にいた大工たちが到着した。
5. 別の部屋で彼らへの質疑が行われた。
彼らの話ではここに大工たちが集結したその日からいがみ合いが始まり、数日の打ち合わせのうちに喧嘩は勃発していたと証言した。
もし、スティーブがあの血を発見していなければ、彼の嘘が暴けなかったし、自白も引き出せなかっただろう。
デイビッドはリッキーの上からパイプをいっぺんに落とし、彼を殺害したことを認めた。彼はその後あたかも驚いたように大丈夫かと言いながら降りてきたのだ。
デイビッドは手錠をかけられ退出した。スティーブにベックスがかたい握手をし礼を言った。「見事でしたね。スティーブさん。即日の解決とは。早かったですね。」ー
ジムは「今回はまた僕たちがあそこを通りかかったから、解決できたんだね。」と言う。「僕は事件を引き寄せるマグネットのようだね。申し訳ないよ。」とスティーブ。
「君が動機を与えたわけじゃないだろ?」とジム。
「それ以上考えたことはないんだ。僕でもね。」とスティーブは微笑んだ。
fin




