婚約者(仮)に別れを切り出したら執事にボッコボコにされている。
「見捨てないでください!」
私は今、元恋人の執事たちにすがられている。この場から逃げだしたい。
奥には執事たちに慰められ、叱咤されている元恋人。そう、元である。
つい先ほど彼に別れを告げたのだ。
学生時代に出会った彼と恋に落ちた。卒業間際に将来を誓い合った。
貴族社会には珍しい恋愛婚になる。
両家に挨拶を終えて、あとは若い人のタイミングに任せるわね、なんて言われて、彼からのプロポーズを待つだけだった。両家公認の婚約(仮)状態である。
しかし、そんなタイミングなのにいつまでたってもプロポーズしてこない。
私の誕生日も記念日もなんなら彼の誕生日も過ぎた。
最近は急に口数が少なった上に口を開けば執事に重箱の隅をつつくような指摘しかしない。一緒にいても無表情なことが増えた。
何があったのか、彼の心変わりが不安になった。
こんな気持ちになるなら普通に政略結婚をした方がいいかもしれない、そう考える自分も嫌だった。
「……あなたたちもこの人の横暴ぶりにはうんざりじゃないの?」
いつもきつく当たられているのに、いま私に彼を捨てるなとすがっている執事たちに問えば彼らは一斉に首を横に振る。
「この人は本当にバカなんです!」
「急にフられるのが怖くなって口下手になったり! 本当は話したいのに!」
「寡黙な方がかっこいいとか思い込んで笑いそうになると奥歯かみしめたり! デートののろけしてるとすぐ口もと緩みまくるのに!」
「指摘することがかっこいいと思って、あえてミスするよう指示してたり! そのあと罪悪感で死にそうな顔するのに!」
「プロポーズ断られるんじゃないかって勝手に不安になってる! 指輪用意してるのに!」
執事たちが怒涛の勢いで恋人の裏事情を暴露していく。その激流で私の不安が押し流されていく。
――あぁ、そうだ。こいつは本当に優柔不断でおバカだった。
執事たちの奥で顔を真っ赤にしてうつむいている恋人が、一番距離の近い執事に背中を蹴り飛ばされて私の前に現れた。手には指輪のケースが握られている。
「……ごめんなさい」
「謝罪よりも、私にふさわしい言葉があると思うの」
なんだと思う? そう言うと恋人の瞳がぱっと輝くように……というか顔がキラキラと輝き始めたといった方が的確な笑顔になった。目にたまっていた涙ですら、輝きを足しているように見える。
本当にどうしようもない男である。そして、こいつがこんな男であることを忘れていた私もどうしようもない女かもしれない。
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連載【王太子が曇っていますが、婚約者ができることって筋トレであってますか?】もよろしくおねがいします。




