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 川縁に寄り沿うように、幾本も枯れ木が生えている。


 厳しい冬も終わり、柔らかい春風が吹く頃だというのに、その木には花どころか新芽一つも見受けられなかった。そういえば、以前違う季節にここを通った時も、葉すら生えていなかったように記憶している。不思議な木だった。もう何年も花や葉を茂らせることなく腐らずそこにあるのだ。幼い在太(あるた)には、その枯れ木は老いたお化けのように見えた。がさついた木肌には、生命力というものが全く感じられず、死を撒き散らしているように見えた。


 在太は思わず、隣を歩いていた釈天(しゃくてん)の袖を掴んだ。釈天はそれに気づくと立ち止まり、振り返って在太を見た。


「在太、ただの木が怖いのかい?」


「……怖くない」


「へえ〜! 在太は嘘つきだなあ〜!」


「うるさい!」


 助けを求めたところで散々おちょくられるだけだということは在太にもわかっていた。釈天は在太の育て親ではあるが、十になるかならないかの在太から見ても大人気のない性格をしているため、尊敬からは程遠かった。


 老木を見上げて釈天は言う。


「これは、桜という木だ。早春に薄紅色の花を咲かせる」


 しかし何度目を擦っても、在太に花は見えなかった。ただヒョロリとした枝が、太陽に向かって伸びているだけ。


「嘘つきなのは釈天じゃないか。花なんてどこにも見えないよ」


「……うん、そうだよ。俺は嘘つきだからね」


 在太は仮面でくぐもる釈天の声に、少しだけ哀愁が混じったのを感じた。


「少なくとも、俺がこの世界に生まれてから一度も咲いているところを見たことはない。桜の花はね、人を狂気と死に誘うと言われているんだ。そんなもの、王が存在を許さないだろう」


「俺たちと同じってこと?」


「そういうことです。よくわかりました!」


 釈天はここぞとばかりに在太の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。その手つきがあまりにも雑で痛いので、在太は顔をしかめる。


「もし、この花が咲くことがあるとしたら、それは世界が終わるときだろうね」


 いつもちゃらんぽらんなはずの釈天が、柄になく感傷的だった。在太はどうにもそれが嫌で、わざと話題を逸らした。


「……釈天、次のリンガは花街があるんだって」


「本当かい!? 北の女は美人だって言うからな〜楽しみだなあ!」


「薄紅色なのは釈天の頭の方だ……」


「それは紛うことなき事実だね!」 


 釈天は大の大人だというのに、土手の野原を飛び跳ねている。いつもの釈天に戻ってひと安心した在太は、仮面の下でバレないように微笑んだ。


 背負う棺に結んだ鈴の音が、青空に響いていた。

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