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ミステリ―ローズ
フクヤマアニメ。土曜日の昼下がり。
宮通りは、いつもとまるで違う世界になっていた。
カラフルなウィッグ、きらきら光る衣装、笑い声。
まひるは、人ごみの中で立ち止まる。
──まるで、アニメの中みたい。
その瞬間、風が吹いた。
視線の先、黒いドレスの女の子がスカートを揺らして振り向いた。
陽ざしを反射するような漆黒の髪。
その表情を見たとき、胸の奥で何かが弾けた。
「……きれい」
それが、引野まひるが初めて「あの人」を見た瞬間だった。
名前も知らない。
でも、あの人だけが、現実の中で光っていた。
──私も、あんなふうに輝けたら。
まひるの心に、まだ知らない物語が、静かに灯りはじめた。




