そんな事は知りたくなかったよ!?
しいなここみさま主催『朝起きたら企画』参加作品です。
朝 ――だと思う。
薄暗い、雑多なモノが転がる倉庫の様な場所で、ボクは目を覚ました。
――ここは、何処だろう?
見覚えは、ない。
ただ落ちている物、置いてある物からして若干広めの車庫の様な、そんな場所に思えた。
あれ? ボクは寝ていない ――横たわってはいない、のか?
視界は上でなく横を向いている。
周囲を確認するのに首を動かそうとしたが動かない。 身体もビクともしない。
何だ? ボクはどうしたんだ!?
――ガラガラガラッ
混乱するボクの前で、シャッターが大きな音を立てながら開いていく。
見えてくる人影。
よく見るとそれは会社の先輩だった。
ボクよりふたつ上なだけなのに、バリバリなエリート達に囲まれながらもその上を行く、スーパーウーマン ――車谷 夜露。
彼女は颯爽と足を進め、ボクの側にやって来ると、そのままボクの中に入り込んだのだ!
――ええええええええええええええええええええええええええええっ!!??
今のボクは何故か如何してか彼女の愛車だった。
訳が解らない!
だが、車の中というのはプライベートな空間だ。
誰にも知られていない様な、知られざる彼女の顔を見る事が出来るのかも知れない!?
そして、ちょっと感じる先輩の体温とお尻の感触が嬉しかったり。
(^o^) (>_<) (-_-)
会社に着いたボクは駐車場で待つ事しか出来ない。
それも当然。
何せ今のボクは話す事も自立歩行すら出来ないただの車である。
お仕事なんて出来ないのだ。
だからボクは先輩を待つしかないのだ。 そう、忠犬の様に、はたまた恋人の様に。
そう、思っていた時もありました。 はい。
普通よりも遅く戻って来た先輩は不機嫌そうな態度を隠そうともせず、ドカッとシートに腰掛けた。
いつもは機嫌が悪くなりそうな時でも、それを表に出す事のない彼女だけど、ひとりだとその必要もないのだろう。 そんな隠された一面は家族くらいしか見る事はないに違いない。 そう考えるとこれって役得!?
「ちっ!」
内心喜んでいたボクの耳 ――どこにあるんだろう?―― に聞こえてきた舌打ち。
「あんのチン○ス野郎がっ! クライアントとの約束を放り出しやがって!!」
普段聞く事のない酷く荒れた、チンピラ?スケバン?の様な口調で言われて思い出す、商談。
こんな突飛な事が起こってすっかり忘れていたけど……今日、だっけ?
やっばー……。
「何処に行きやがった!!?」
こっこでーす……何て言えないなあ。 物理的にも不可能だし。
エンジンが掛けられ、アクセル踏み込み空吹かし。
これは ――激怒してらっしゃる!
自然と身体が震える。
動けない車体だけど、震えているのが解る。
「……なんだぁ? エンジンの調子でも悪いのかよ、ついてねえな」
先輩は変わらずヤンキー口調。 もしかしてコレが素なの!?
ボクの心情を反映しているのか、やたらと車体が震えるのは気のせいではなかった様だ。
ブルブルガタガタと細かく振動しているのだ。
制御の利かない震えに内心はガクプルである。
そのまま発進するも、
「ちっ!」
もう一度舌打ち。
それ止めてぇ! マジ怖いから!
「くそがっ! 割り込んで来てんじゃねーぞ!」
プワァパァーッ!!
クラクション。
機嫌悪い、何てモンじゃない。 走りながら当たり散らしてる!?
そして、その起点は……きっとボクだ。
ヤバい! 逃げたい!!
「アタイと行く商談でサボりやがってくれたんだ。
タマぁ潰すくらいじゃ済まさねーからな、藤井ぃぃぃぃ……!!」
彼女の持つハンドルが軋みを上げる。
ヒィィィィィィィィィィィィィィィィッ!?
サボった訳じゃないんですぅ! 止むに止まれぬ事情というモノがボクにもありましてぇぇぇぇぇ!
ボクは心底震えたまま、彼女の荒い運転で走らされ続ける。
ああ……こんな事、こんな先輩を知りたくなかったなあ…………。
命名理由:夜露死苦




