読書感想#7「1Q84 BOOK1 前編 」(村上春樹)
書籍名:「1Q84 BOOK1 前編」
著者:村上春樹
出版社:新潮文庫
ジャンル:小説
※すでに4回くらい読んでいる小説なので、感想短めです。
<あらすじ>
首都高でタクシーに乗っていた主人公の女性、青豆はひょんなことから自分の知っている現実世界とどこかズレた世界に迷い込む。そこを1Q84年と青豆は呼び、いっぽう、小説家志望者の男性、天吾は編集者からとある少女の作品を書き直せと言われ――。
<特に印象的だった場面>
最後に青豆と天吾がどう結びつくのか、ふたりの主人公が関わっていたことがあるのか、その真相が明かされたシーンのお祈りの文句がとても印象的だった。
また、冗談を言うシーン(ほうれん草好きの犬の”危険思想”とか、バーで社会常識について語るシーンなど)が面白かった。
<会ってみたいキャラ>
ほうれん草好きのシェパード。作中で直接登場するシーンはないけど、ほうれん草が好きな犬という時点で気になった。
また、天吾と関わる編集者の小松とも会ってみたいなと思った。でも会っても(私が緊張して)喋ることが無さそう。
<この本を読み終えて自分のなかで変化したこと>
よく村上春樹さんの文体は気取っていると言う人がネットにはたくさん居る印象があるけど、読みやすくてまどろっこしさがなく、とてもきちっとしていて洗練された文体だと思った。
<この作品の好きなところ>
たまにある不思議な言葉選びがとても斬新だけど説得力があってしっくりくる表現だった。そして文章が面白いしストーリーも面白くて、キャラが個性的で好き。ただ、面白いといってもげらげら笑うような小説ではなくて、もう少し静かで落ち着いた雰囲気がある。でもほうれん草好きの危険思想をもった犬のブン(だったっけ、名前)についての記述とかすごく面白かった。
また、ふかえり、天吾、青豆、小松の四人がとても魅力的だと思う。
<この本のテーマは何か憶測で考えてみた>
人間の不条理と人間の善性についての希望かなと思った。
第一に、いじめについての言及や、戦争についての言及、そして登場人物たちの(NHK集金人のとあるおじさんのキャラクターなども含め)過去が重いことから、そこが人間社会の不条理を表している気がした。
第二に、ふかえりの先生がふかえりを大切にしていたり、天吾がいじめを許さなかったし見過ごさなかったことが、人間の持ち得る善性や希望を表しているような気がした。
あくまで個人的な解釈だけれども、人間の醜さ・不条理さと、美しさ・希望の両方を描いているような気がした。
また、挿入されているエロティックなシーンは、娯楽本として読者の興味を引くためのサービスシーンに見せかけつつ、実のところ、人間社会がいかに混沌としているかを生々しくみせて、「人間は複雑で単純という矛盾した生き物だ」ということを強調するために挿入されている気がした。
生物的な本能について(性・加虐欲求)と、崇高な何か(愛・庇護欲・最高の小説を完成させて世間に差し出したいという職業意識)が何回か出てきたのは、人間の生々しさと高尚さの両方を描いているような気がなんとなくした。
どういう意図でそうなっているのか、それは作為的にそうされているのかまでは私は村上春樹さんではないので分からないけれど、希望と絶望、混沌と秩序、人間の醜さと美しさ、みたいな対比関係(?)が、物語に奥行きと深みを作っているのかもしれないなと個人的には思った。
<一言で言うと>
いつの日か村上春樹さんぐらい上手に、深みのある魅力的な(ふかえりとか小松とか先生とか、天吾の父とか天吾みたいな)登場人物が書けるようになれたら良いなと思った。
そして演出がとても上手で言葉が端的なのにイメージが浮かぶのも、いつの日か似た技術を身につけられたら良いなと思った。
何回読んでも面白くて好きな本だった。