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第7話 【ミア視点】不審者をマークする猫耳メイド

 朝日が昇り始めた頃、にゃーはいつものように診療所へと急いでいた。


スイリア様の朝の診療の手伝いをするためにゃ。


空気が澄んでいて、朝露の香りが鼻をくすぐる。


獣人族のにゃーにとっては、人間よりも香りが敏感に感じられるのにゃ。


 でも今朝は、なぜか胸がざわざわする。スイリア様に何か起きるんじゃないかって、そんな予感がするのにゃ。


「おはようございます! スイリア様!」


 診療所に着くなり、いつものように元気よく挨拶したにゃ。


 でもその瞬間、見知らぬ男の姿が目に入って、体が勝手に反応したのにゃ。


「ぴっ!」


 思わず鋭い声が出て、本能的に後退。


ドアの影に隠れながら、「フーッ!!」と威嚇する。


危険な雰囲気を感じる男――どこか血なまぐさい匂いがするにゃ!


 スイリア様は、にゃーのこの反応をいつもの事とばかりに、微笑みながら説明してくれたにゃ。


「ミア、こちらは旅のお方で芦名殿という方よ。連れの方が病気になられたので、うちに泊まってもらっているの。不審者じゃないから大丈夫よ」


 にゃーは半信半疑だったけど、スイリア様の言葉なら信じるしかないにゃ。


ゆっくりと部屋に戻りながら、まだ警戒心は解けないにゃ。


「そ、そうなのですか。これは失礼いたしました」


 表面上は礼儀正しく頭を下げたけど、耳はまだピクピクと動いていて、この「芦名」という男を観察し続けているにゃ。


「こちらでメイド兼医者見習いをさせていただいておりますミアと申します」


「芦名定道だ。よろしく頼む」


 強張った声で挨拶を交わした後、スイリア様がこの男と出かけるという衝撃的な言葉を聞いて、耳が思わず立ち上がったにゃ!


「えっ、その輩…ゴホンゴホン、芦名様とお出かけになるのですか? 一体どういう用事で…? 危険です!!」


 思わず「輩」と言いそうになって慌てて言い直したにゃ。でも本当は「輩」でも「野郎」でも足りないくらい警戒すべき男に見えるのにゃ!


 スイリア様は昨晩のことを説明してくれたにゃ。若い娘さんがアカブトマガスの毒にやられて、その治療のために特別な水が必要で、それを取りに行くのだと。そして、この芦名という男は護衛として同行するのだと。


 にゃーの尻尾が不安で左右にゆらゆら揺れ始めたにゃ。


「そ、それならば、私に命じてくだされば、わざわざスイリア様が御自ら行くことはないのではないでしょうか」


 声が震えてしまうにゃ。


王女様であるスイリア様が、たった今出会ったばかりの怪しい男と出かけるなんて、考えられないにゃ!


「スイリア様にもしものことがあったら私は…」


 言葉を詰まらせたにゃ。スイリア様は私の全てなのに、その全てが危険にさらされるかもしれないなんて……。


 スイリア様は、にゃーの頭を優しく撫でながら言ったにゃ。


「いいえ、今回の件は私が自らあたります。なぜなら、私にはこの地域一帯を安全に守る義務があるからです」


 スイリア様の王女としての使命感を、にゃーは知っているにゃ。


でも、だからこそ守らなきゃいけないのに……。


「それに、精霊魔法も定期的に使っていないとだんだん精霊たちが離れていってしまってよくないですしね。大丈夫、私の強さは貴女もよくしっているでしょう?」



 スイリア様の言葉に、渋々頷くしかなかったにゃ。確かにスイリア様は強い。


エルフの血を引いた魔法の使い手として、並の冒険者なら敵わないほどの力を持っている。でも、それでも心配なのにゃ……。


「わかりました。では、患者様とこの診療所の留守はお任せください」


 一旦は引き下がり、スイリア様の耳元で小声で囁いたにゃ。


「スイリア様、くれぐれもご油断なきよう。どうしてもだめな場合は、お父上にご報告の上、王都から軍勢も呼びますからね」


 スイリア様は困ったような笑みを浮かべて答えたにゃ。


「もう、ミアは心配性なんだから。大丈夫、そんなに大事にはならないわ。この芦名殿も結構強いみたいだから、心配ないわ」


 その言葉に、にゃーは芦名という男を疑わしげに見つめたにゃ。どうして強いと分かるのにゃ?


「どうしてこの男が強いとわかるのですか? 確かに顔はいかついので、強そうには見えますが…、スイリア様を守れるくらいの能力を持っているのですか?」


「大丈夫、その辺は昨日の夜に精霊を通して色々と調べたから抜かりないわ」


 スイリア様の言葉を信じるしかないにゃ。でも、まだ完全には安心できないにゃ。


「スイリア様がそこまでいうなら、まぁよしとしましょう」


 そう言って、今度は芦名の前に立ち、威厳を持って伝えたにゃ。


「芦名様、スイリア様をくれぐれもよろしくお願いいたします。こんな上品に見えて、意外と無茶したりもするので、どうか守ってあげてくださいませ」


 言葉には「もし何かあったら許さないわよ」という無言の圧力を込めたにゃ。スイリア様は大切な方なのだから!


 芦名は深々と頭を下げて、予想外の礼儀正しさで答えたにゃ。


「わかった。こちらも連れが厄介になるが、我々が帰るまで看護をよろしく頼む」




 その後、スイリア様は旅の準備について「町で装備を集めましょう」と言ったにゃ。にゃーはすかさず申し出たにゃ。


「いえ、でしたら私が行きましょう」


 スイリア様は驚いた表情で言ったにゃ。


「でも、あなたも忙しいでしょう?」


「いえ、このくらいは私の仕事ですにゃ。それに、芦名様にはお聞きしたいこともありますしね」


 にゃーはこれ幸いとばかりに、スイリア様と芦名を引き離せるチャンスだと思ったにゃ! この機会に芦名の正体を暴いてやるのにゃ!


 スイリア様はにゃーと芦名を交互に見て、最終的に同意してくれたにゃ。


「わかりました。では、この件はミアに任せましょう。私はその間に眠り姫の番でもしていましょうか」


 そうして、にゃーと芦名は二人で買い物に出かけることになったにゃ!


 タジマティアの街は朝市で賑わっているけど、にゃーの頭の中はそれどころじゃないにゃ。芦名とは一定の距離を保ちながら歩き、時々チラチラと様子を窺うにゃ。



 ついに覚悟を決めて、立ち止まって尋ねたにゃ!


「芦名様」


「は、はい」


 軍人のような男が、にゃーの前で緊張して背筋を伸ばす姿が少し可笑しかったにゃ。


「あの女性の方とはどのようなご関係ですか?」


 まるで取り調べのように鋭い目で見つめたにゃ。スイリア様との関係をはっきりさせなければにゃ!


「いや、ただの偶然、成り行きで一緒になっただけだ」


「本当かにゃー?」


 耳を左右に動かして、彼の表情や匂いから嘘を見抜こうとしたにゃ。心拍数の変化も、微妙な表情の動きも、獣人族のにゃーには敏感に分かるのにゃ。


「嘘を言っても仕方ないだろう、娘にしては大きすぎるしな」


 その言葉に、にゃーの瞳がさらに細くなったにゃ。獲物を狙う時のように。


「ふーん、みだらな関係ではないのかにゃ?」


 芦名が咳き込むのを見て、少し意地悪な気持ちになったにゃ。


「ふん、流石に年齢が離れすぎだ」


「本当かにゃー?」


「本当だ。嘘を言っても、ってこのやり取り、さっきもしたよな。疑いすぎだ」


 彼の真剣な顔を見て、少し納得したにゃ。嘘をついているようには見えないにゃ。


「まぁいいですにゃ。とにかく!」


 にゃーは芦名をにらみつけて、指をビシッと突き立てたにゃ!



「スイリア様には手を出さないでほしいにゃ!」




「人を指さすなと学校の先生から習わなかったか」


 突然の冷静な返しに、怒りがこみ上げてきたにゃ!


「話を逸らすにゃ!」


「わかったわかった、生憎つい昨日あった人に惚れるほど惚れっぽくはない」


 その言葉に、にゃーの血が逆流するような感覚が! 耳が思わずピンと立ち、尻尾も逆立ったにゃ!



「にゃ、にゃにぃ!? スイリア様に惚れないとはどういうことにゃ!!」


 なんで怒っているのか自分でも分からないけど、猛烈に腹が立ったにゃ!


「え? だって、さっきはスイリアに手を出すなって——」


「スイリア様は誰もが憧れる存在ですにゃ! 美しくて優しくて、そして強くて……スイリア様のどこが気に入らないというんですか!?」


 胸の中で複雑な感情が渦巻いて、言葉が溢れ出てくるにゃ。スイリア様は特別な方なのに、この男は何も分かっていないのにゃ!


「いや、気に入らないわけじゃないが……」


「気に入ってるんですか!? やっぱりスイリア様を狙ってるんですにゃ!?」


 芦名の困惑した表情を見て、にゃーは混乱する自分の気持ちにも当惑したにゃ。



「もういい、どっちなんだよ……」



 その言葉に、にゃーは恥ずかしさで耳が震えたにゃ。


確かに自分の言っていることは矛盾しているにゃ。


「だ、だって……スイリア様は特別な方なんです。誰も傷つけてほしくないし、誰にも特別に思ってほしくないけど、かといって誰も惚れないなんて許せないし……あぁもう! 複雑なんですにゃ!」



 心の奥底にある本当の気持ちは、自分でも上手く説明できないにゃ。スイリア様への深い忠誠と恩義、そして、それを超えた感情。でも、それは口にしてはいけないことなのにゃ……。


「わかったよ。つまり、お前はスイリアのことが大切なんだな」


 芦名の言葉に、にゃーは赤くなった顔を俯けて小さく頷いたにゃ。


「はい……スイリア様は私の全てです……」


 その瞬間、心の奥底にある本当の気持ちが一瞬だけ言葉になったような気がしたにゃ。


「安心しろ。俺はスイリアを大切にするし、傷つけたりもしない。約束する」


 芦名の言葉に、少し肩の力が抜けたにゃ。彼の目を見ると、嘘をついているようには見えないにゃ。


「ほ、本当ですか……?」


「ああ、軍人の誓いだ」


 「軍人」という言葉が気になったけど、とりあえず今は信じることにしたにゃ。耳が自然とリラックスして下がり、尻尾も落ち着いたリズムで揺れ始めたにゃ。


「その……ありがとうございます、にゃ」


 素直な気持ちを伝えると、なぜか芦名も少し照れたような表情になったにゃ。


「良いんだ。それより、買い物を済ませよう」


 そうして二人で買い物を始めたにゃ。


山登りに必要な寝袋や携帯食料、丈夫な靴などを選びながら、にゃーは的確に値切り交渉をしたにゃ。


さすがスイリア様のメイド、こういうことは手慣れたものなのにゃ!


 買い物をしながら、芦名の観察を続けていたけど、最初に思っていたほど悪い人ではないのかもしれないにゃ。


少なくとも、スイリア様に危害を加えるつもりはなさそうにゃ。



 買い物を終えて診療所に戻る頃には、にゃーの警戒心は少し和らいでいたにゃ。


でも、まだ完全には信用していないにゃ! スイリア様が無事に帰ってくるまでは、油断できないのにゃ。



 それに、あの連れの女の子のことも気になるにゃ。彼女と芦名の関係は何なのか、どこから来たのか……。謎は深まるばかりにゃ。



 にゃーは買い物袋を抱えながら、こっそりと誓ったにゃ。


スイリア様と芦名が出発する前に、患者の少女からも何か情報を引き出してみようにゃ!

お読みいただき、誠にありがとうございます!


皆さんの応援が私の創作の原動力となっています。


少しでも楽しんでいただけたなら、ブックマークや感想、評価ポイントなどをいただけると大変嬉しいです。


「良かった」「このキャラクターの言動が印象的だった」など、ほんの一言でも構いません。


読者の皆さんの声を聞くことで、より良い物語を紡いでいけると思っています。

よろしくお願いいたします。

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