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第4話 【陽菜視点】時を超えた会話 ─ すれ違う価値観

 まだ夜明け前の森。


 昨夜の不思議な光の窓は消えたまま――だけど胸はまだドキドキしている。



「世界を救う」なんて、アニメの主人公かよって感じなのに、これがマジで私たちの使命だなんて。




 朝靄の中、さだっちと並んで歩きながら、チラチラと彼の横顔を盗み見る。



ヒーローみたいな戦い方をした人が、こんなに普通に隣にいるなんて不思議。



 どんよりとした気持ちを紛らわせるため、思い切って話しかけてみた。


「さだっち……さんは、海軍の軍人さんって言ってたけど、やっぱり戦艦に乗っていたんですか?」


 彼が振り向いた瞬間、真剣な瞳と目が合って思わずドキッとする。


「あー、戦艦ではなく、駆逐艦だ」


「くちくかん……? ってなんですか?」


 首を傾げながら聞くと、彼の口元がゆるんだ。なんか笑われてる?


「一般的に戦艦は大きく重武装の船だが、駆逐艦は小さくて軽武装で速い。小回りが利いて素早く動き回れるんだ」


 彼は腰の軍刀を撫でながら誇らしげに説明してくれた。熱心に語る姿に、思わず見とれてしまう。


「へぇ~、海軍とか自衛隊の船って、全部戦艦だと思っていたけど、違うんですね。ちなみに速いって何キロくらい出るんですか?」


 私の質問に、さだっちの顔がパッと明るくなった。


「私が指揮していた駆逐艦白雪は、最高速力約70キロ。当時としては最速クラスだった」


 目が輝いて誇らしげに語る彼を見て、なんだか嬉しくなった。自分の大好きなことを話す人って、輝いて見えるよね。


「そうなんだ。船だとそのくらいが速いって言えるんですね」


 私は両腕を振って元気よく歩きながら答えた。足取りが軽くなる感じ。


「ひ……、お、お嬢さんの世界の乗り物で一番早いのはどれくらいの速度が出るんだ?」


 なんか今、私の名前を呼びかけようとして止まった? 緊張してる? ちょっと可愛い…。


「あ~、私は乗り物に詳しくないけれど、マッハという単位があって、戦闘機だと、マッハ2とか3とかだったような? で、マッハって確か音速を超えていたと思うから、そのくらいかな?」


 さだっちが突然立ち止まった。視線が真剣で、私の言葉に驚いている様子。


「音より早いだと?」


 彼の驚きようが面白くて、思わず笑みがこぼれる。


私にとっては知識だけど、彼にとっては想像を超える未来の話なんだよね。


 森の中の小道が、小川へと続いていた。せせらぎの音が近づくにつれ、小さな丸太橋が見えてきた。


「あっ、渡らないといけないんだ」


 細い丸太が二本並べられただけの簡素な橋。下は浅い流れだけど、滑ったら冷たそう…。


「私が先に渡るから、後についてくるといい」


 さだっちは軽やかに橋を渡り始めた。さすが軍人、バランス感覚がすごい。


「わかりました…」


 恐る恐る足を踏み出す。でも木が濡れていて思ったより滑る…!


「きゃっ!」


 バランスを崩した瞬間、さだっちが素早く振り返り、手を伸ばした。


「気をつけて!」


 彼の大きな手が私の手首をしっかりと掴み、引き寄せる。


力強いけど、優しい手の感触。一瞬、顔が近づいて、心臓が飛び跳ねた。


「あ、ありがとうございます…」


 なんだか顔が熱くなる。橋を渡り終え、また並んで歩き始めた。



「ところで、普通の飛行機だと、東京から札幌まで1時間半で着くよ」


「東京札幌で1時間半…だと?」


 彼の目が丸くなって、私は思わず笑いたくなった。でもぐっとこらえる。だって失礼だもん。


「東京札幌間を90分で? 800キロもあるのに?」


 感心した様子だけど、なんだか寂しそうな表情も見えた。


ああ、さだっちは自分の時代の未来を見ずに、この世界に来てしまったんだよね。


「ちなみに、電車だと時速300kmを出す新幹線というのもありますね。東京大阪間だと2時間半くらいかな?」


 道端の青い花が可愛くて指さしながら言った。


「300キロって、それはもうわが軍の輸送機と同じくらいの速度じゃないか。それが陸上を疾走するとは、まるで弾丸のごとくだな」


 彼が両手を広げて大きさを表現する仕草が面白くて、思わず笑顔になる。弾丸って・・・(笑)


「俺の知っている特急燕だと、東京大阪間8時間20分なのに、たったの2時間半とは…。なんというか、とてつもないな」


「8時間って、もうそれで1日終わっちゃいますね! めっちゃやばいです!」


 思わず両手を広げて大リアクション。今から考えると8時間って長すぎー!


「でも、これも、さだっちたちの世代が戦後頑張って日本を復興したおかげなんですよ。特に新幹線は、零戦(帝国海軍の戦闘機)で培った技術を用いて作られたって聞きました!ありがたいことです」


 彼がちょっと上の空で頷いた。


「ありがたいといわれても、実感がないから、なんともいえないけどな。でも、零戦の技術が使われたということは、やっぱり戦争に負けても技術は生き続けたわけだな。日本民族が滅びることなく続いて本当に良かった」



 彼の言葉に、私は考え込んだ。



「確かに、そうですね。日本民族、とかそんなことってあんまり考えたことなかったけど、そういわれてみると本当に良かったです」


 さだっちと話していると、私が当たり前に思っていることが実は当たり前じゃないことに気づかされる。ちょっと視野が広がる感じ。


 しばらく歩いていると、今度はさだっちから質問が。


「ひ、お嬢さんは、高校生って言っていたが、高等女学校のことか?」


 また私の名前を呼びかけようとして止まった気がする。


なんでそんな緊張してるのかな?あともうちょっとだよ~!がんばれ~!


「あ、そうか、学制改革が戦後あったから今とは呼び方が違うんだっけ」


 ちょっと考えてから答えた。


「ええっと、たぶんそうです。年は17才です。大学受験まであと1年ちょっと…だったんだけどね」


ふと家族のことを思い出して胸が痛む。もう戻れないかもしれないのに。


 さだっちは私の表情の変化に気づいたようだ。少し考えてから、優しい声で言った。


「俺も海軍兵学校にいた頃は、将来どうなるか不安だった。でも今はこうして新しい道を歩いている。君も道は開けるさ」


 その一言に、なぜか勇気をもらえた気がする。


彼がそっと名前で呼んでくれたら…なんて考えて、思わず顔が熱くなる。


「そ、そうですね。元の世界に戻れたらだけど…」


「何とかなる方法を見つけよう。俺にとって頼れるのはひ、陽菜だけだ、一緒に頑張ろう」


 やっと初めて名前で呼んでくれた! しかも「一緒に」って。なんだか嬉しくて、顔がほころぶ。


「そうだね、私にできることあるかわからないけど、頑張るね!」



 朝日が木々の間から差し込んで、私たちを優しく照らす。タジマティアまであと少し。


 異世界での生活は始まったばかり。こんな世界でさだっちと過ごすことになるなんて、不思議な運命だな。


 でも、なんだか楽しみな気持ちもある。彼の隣を歩いていると、不思議と安心するから。

お読みいただき、誠にありがとうございます!


皆さんの応援が私の創作の原動力となっています。


少しでも楽しんでいただけたなら、ブックマークや感想、評価ポイントなどをいただけると大変嬉しいです。


「良かった」「このキャラクターの言動が印象的だった」など、ほんの一言でも構いません。


読者の皆さんの声を聞くことで、より良い物語を紡いでいけると思っています。

よろしくお願いいたします。

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