第3話 【陽菜視点】神様からの使命 ─ 私たちの旅路の始まり
空に虹色の輪が開き、その中から星形の顔が浮かび上がった。
まるでステッカーが現実に貼り付けられたような不思議な存在。
その周りにはキラキラとした光の粒子が舞い、まるで魔法のような光景だった。
「はいっ、いい雰囲気のところすみません~こんにちはどうも初めまして!」
声は陽気で、どこか現代的なノリ。この異世界の森に全く似つかわない違和感。
さだっちが私を守るように前に立つ。彼の背中越しに見える光の窓には、ゆるキャラのような生き物が映っていた。
「神様をやっております、ネ申です~よろしくお願いしますぅ~!」
私は言葉を失った。神様? この異世界の支配者? でもなんでこんなにユルい?
「ここがちょうど章の区切りで出てきちゃいました、仲良くしてるとこブチ壊しちゃってゴメンね~」
なに言ってるの? 章って何? 頭がグルグルする。
「転移したとき説明するつもりが寝坊しちゃって、二人一緒なら説明も一回で済むし…」
さだっちが声を荒げた。
「ちょっと待て」
威厳のある声に、私も我に返った。
「まずこの窓のようなものはなんだ、貴様は誰だ?」
ネ申は呆れたように手を振った。
「初めての人はそうなりますよね、説明しようとしてるのに静かにしてくださいよ…」
その態度にカチンときたのか、さだっちが突然刀を抜いて、モニターに向けて突き出した!
その鋭い動きに私はドキッとした。さっきの狼を倒したときと同じ冷静さと覚悟が見える。
ネ申はパニックで画面から転げ落ちた。
「ひぃぃいいいい、お助けを~!」と叫ぶ。
思わず吹き出しそうになる。これが神様⁉︎ こんなヘタレでいいの?
「もう少しゆっくり話せ」とさだっちが冷静に言うと、ネ申はようやく説明を始めた。
「貴方様たちは、異世界で第二の人生を歩むことになりました!」
キラキラした目で喜ぶネ申。まるでテレビショッピングの司会者みたい。
「この世界を救ってほしいので、よろしくね♪」
「は?」
さだっちと思わず顔を見合わせる。世界を救う? まるでゲームの主人公みたいな設定に戸惑う。
「異世界に転移? 元の世界には帰れないのか?」とさだっちが尋ねると、ネ申は残念そうに首を振った。
「残念ながらお二人とも死んでますからねぇ」
その言葉が胸に突き刺さる。死んでる? 本当に除雪車にやられたの? 家族や友達には二度と会えない?
「でも世界を救えば、褒美として願いを一つ叶えます。元の世界に戻りたいなら検討の余地アリですよ♪」
一筋の希望に、少し心が軽くなる。でも…。
「何をすれば世界を救ったことになるんだ?」とさだっちが尋ねると、
「この世界の色々な種族を一つにまとめて平和にするだけ!」
ネ申は「簡単でしょ?」と言い放った。
その無神経さに、頭に血が上った。
「いや、世界統一がどんだけ大変か分かってんの?」
言葉が勢いよく溢れる。
「日本だって南北朝時代や戦国時代、何年かかったと思ってるの!?」
歴史の授業を思い出しながら、必死に反論した。
「21世紀の今だって世界統一なんて夢のまた夢なのに!」
ネ申の「簡単でしょ?」は本当に腹立つ!
「そごのさだっちには力があんかもしんねげど、うちはただの女子高生だがら!」
思わず会津弁が出た。怒りと不安で胸がいっぱい。
そういえば、さだっちのことをさだっちって呼んでた。いいや、こっちのほうが呼びやすいし。
「特別な力もねぇし、世界救うなんてぜったい無理だぁ!!」
ネ申は「女子こえぇぇ」と震えながら、「ちょっとだけでも、試してみない?」と言ってきた。
こんな無茶振り、無理に決まってる!
悲しさがこみ上げて、今度は涙作戦に切り替えた。
「うち、なんでこんなどごさ来ちまったんだべ…」
演技っぽいけど、本当に帰りたい気持ちはある。
「お家さ帰りてぇよぉ…」
ネ申は完全に焦っていた。
「元の世界には戻れないんです…僕が選んだ人材なので…」
さだっちが激怒した。
「貴様が呼んだのか!?」
ネ申は土下座。
「お許しを! 一度来たら戻れないんです! 僕もクビになるので!」
さだっちはため息をつき、「しょうがない、帰れないなら従うしかないな」と言った。
私もすでに諦めムード。「できること見つけて付き合います」
ネ申は大喜び。「助かります! これまでの人はみんな死んじゃったので…」
「死んじゃった」という言葉に、背筋が凍る。私たちも同じ運命になるの?
それからネ申は真面目な顔で地図を見せ、「この世界は日本の東北地方とそっくり」と説明した。
「会津若松は?」と尋ねると、映し出された地図に見慣れた風景。「わぁ、本当に若松だ…」
会津の姿に、家族や友達の笑顔が蘇って胸が締め付けられる。
「タジマティアという街を目指してください。会津田島町相当です」
納得いかない私は言い返した。
「そんな使命なら王族とかに転生させてよ。普通、異世界転生ものはそうでしょ?」
読んだラノベと違いすぎる展開に不満を感じる。
「権限がなくて…」というネ申の言い訳に、さだっちは「必要な能力は?」と質問。
ネ申は彼の刀を指差し、刀が紫色に光った。「魔法が宿ります」
次に私を指差すと、突然手のひらが温かく光りだした。
春の桜餅のような甘い香りが漂い、緑色の光が肌から染み込んでいく感覚。まるで透明な手袋をはめたように、光が手全体を包み込む。
「あなたは対象の能力を引き上げる魔法を授かりました。仲間を強化できますよ」
なるほど、サポート役か。さだっちが戦って、私が後ろから援護する組み合わせ。
「地図や情報は視界に表示され、収納魔法で持ち物も管理できます」
ネ申は最後に「この世界は危険」と警告して、「自力で何とかして。またね☆彡」と言って消えた。
私たちは呆然と暗闇に取り残された。
「北ってどっちですか?」と小さく尋ねた私に、さだっちは「海軍士官だ、方角くらいわかる」と太陽を指し示した。
「海軍少佐と女子高生のコンビで世界を救う…」と呟くと、彼はほんの少し口元を緩めた。
「非現実的だが、やるしかない。互いに助け合って生き残ろう」
北を指す彼の横顔に、朝日が差し込んでいた。
凛とした横顔と、少し疲れた目元。でも、どこか頼りがいを感じる。
――この人となら、もしかして。
私は深く息を吸い、新しい旅路へと一歩踏み出した。
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