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第1話 【陽菜視点】雪の朝から異世界の森へ ─ 女子高生の転移

 私の名前は天音陽菜。福島県会津若松市に住む高校2年生。


 あの雪の朝、全てが変わってしまった。


 「え、マジやばいじゃん…」


 玄関を開けた瞬間、目の前に私の身長よりも高く積み上がった雪の壁。


夜間に除雪車が通ったおかげで道は通れるけど、押しのけられた雪が家の玄関先に豪快に積みあがっていた。


 ため息をついて除雪道具を引っ張り出す。


雪かきを始めて10分もしないうちに、腕がプルプルしてきた。


「あ~、この雪ホントかったるい! 水分多すぎて鉛みたいに重いんだけど~。こんなの女子高生の仕事じゃない!」


 会津に住んでれば雪かきは宿命…。


それでも数十分後、ようやく道ができた時はさすがに汗ばんで、コートを雪の山に脱ぎ捨ててしまった。


 ふと見ると、横断歩道で一人のおじいさんがフラフラと歩いている。ツルツルの雪道で転んだら大変。その瞬間、おじいさんが足を滑らせて転倒!


「じっちゃん、大丈夫!?」



 痛そうに顔をゆがめているおじいさんに駆け寄って手を差し伸べた、そのとき。



 遠くからじゃりじゃりとチェーンの音と重たいエンジン音が近づいてくる。


 見れば除雪車が異常なスピードで向かってくる! 運転席の作業員が慌ててハンドルを切っている。ブレーキが効いていない…!


 下り坂のアイスバーン。除雪車はますます加速して、黄色い車体が太陽を反射して眩しい。


「ま、まずい!」


 私は咄嗟におじいさんを道路の端へ突き飛ばした。でも、その拍子で私も足を滑らせた。視界の端に巨大な車体が迫り—


 ドンッという衝撃。視界が真っ暗になり、意識が闇へ落ちていった。



 ―そして。



「……いったぁ〜。え、なにコレ……?」


 背中に伝わる岩肌のゴツゴツした感触。目を開けると、どこかひんやりとした洞窟の中だった。



鼻をつく湿った土と苔の匂い。完全に、あの雪国の朝とは違う場所にいる。


 「夢じゃないよね? 雪かきしてたはずなのに…」


 制服のポケットからスマホを取り出し、画面の光で周囲を照らす。


青白い光に浮かび上がったのは、天井まで続く青みがかった岩壁。どこからかポタポタと水滴が落ちる音が響いている。


 (除雪車に轢かれたんだっけ……?)




 混乱する頭で自分の体をチェックするけど、服にも肌にも傷一つない。スマホは「圏外」表示で、バッテリーは87%。




 「やだやだ、こんなとこで遭難するとか映画みたいに洞窟モンスターに食べられるんじゃ……」




 心臓がドキドキして、喉がカラカラになる。でも怖がってても始まらない。耳を澄ますと、暗闇の奥から何かの物音が…。




 スマホの光を頼りに、おそるおそる洞窟の奥へと進む。足元の岩は冷たく湿っていて、滑りそうになる。


 遠くに見える微かな光を目指して一歩一歩進むと、徐々に強い日差しが目に入ってきた。


 出口だ! 期待を胸に抱えながら進むと—


「は……?」


 出口を抜けた先に広がっていたのは、会津とは似ても似つかない広大な原生林。




 鮮やかすぎる緑の木々が風になびき、露の粒が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。深呼吸すると、澄みわたった空気が肺いっぱいに広がる。


「これ、どう考えても日本じゃないよね…」


 シダを触ると露の水滴が手のひらを濡らした。


どこを見ても異質な自然が広がっている。まるでファンタジー映画のロケ地みたい。


 「まさか本当に異世界転生? 最近読んだラノベみたいな展開?」


 呟きながらも、家族や友達のことを思うと胸が痛む。スマホのギャラリーの家族写真を見て、涙をこらえる。


 ほんの数分間、ぼんやりとそこに立ち尽くしていた時—




 「ガサッ」




 近くの草むらから物音がした。振り返ると、鋭い牙をむき出した赤い目の狼が立っていた。


 体格は普通の狼よりずっと大きく(日本で狼なんて見たことないけれど)、そのむき出しの牙から垂れる唾液が地面に滴り落ちる。その目には明らかな殺気が宿っていた。


「これ、ヤバいんじゃね…?」


 後ずさりしながら見つめていると、狼は低くうなりながら少しずつ距離を詰めてくる。心臓が早鐘を打ち始め、全身から冷や汗が噴き出す。


 さらに後ろへ下がろうとした瞬間、別の場所からも「ガサガサ」と音がして、二頭目の狼が現れた。月光を浴びた漆黒の毛並み、最初の狼よりさらに大きな体躯。


「え、そっちにもいるの!?」


 逃げようと方向転換した矢先、草むらから次々と同じ姿の狼たちが姿を現す。群れになって、私を完全に包囲している。


「うわああああああ、助けて~~~!!!」

挿絵(By みてみん)

 叫びながら逃げ出すけど、四足の獣の前に私の足は遅すぎる。一瞬で追いつかれ、リーダー格の狼が私の足にガブリと噛みついた。


「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」


 激痛に地面に転がり、足をばたつかせても無駄。別の狼が私の上にのしかかり、冷たい牙が喉元に迫る。生臭い息が鼻を突き、頭が真っ白になる。


 (もうだめだ…こんなとこで…)


 目を閉じた瞬間—




 ——ガキンッ!




 鋭い金属音と共に、私の上の重みが消えた。


 恐る恐る目を開けると、そこに立っていたのは威厳ある姿の男性。


 月明かりに照らされた短い黒髪、きちんと角度をつけて被った白い軍帽、そして冷たくも凛とした瞳。彼は長刀を手に、まるで時代劇の武士のように刃先から血を振り払っていた。


 完璧な立ち姿と無駄のない動き—その姿はまさに物語から抜け出したヒーローのよう。


 「貴殿は、日本人か?」


 低く響く声に、私の心臓が高鳴った。この異世界で日本語が聞こえるなんて。


 助かった安堵と、この先の恐怖で頭がぐるぐるして、言葉が出ず、ただ呆然と彼を見上げるしかなかった。

お読みいただき、誠にありがとうございます!


皆さんの応援が私の創作の原動力となっています。


少しでも楽しんでいただけたなら、ブックマークや感想、評価ポイントなどをいただけると大変嬉しいです。


「良かった」「このキャラクターの言動が印象的だった」など、ほんの一言でも構いません。


読者の皆さんの声を聞くことで、より良い物語を紡いでいけると思っています。

よろしくお願いいたします。

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