鎧に愛を叫ぶ放蕩王子が「お前に告白するためのトレーニングだ」と仰るのですが、寝言でしょうか。
王宮の庭園で、第一王子であられるレオン様が、昼寝をしていた。授業の時間を抜け出してくるのは、もはや彼の日課だった。
「……レオン様、また勉学をさぼっていらっしゃるのですね。陛下が嘆きますよ」
「さぼってるんじゃない、休憩だ」
この薔薇園はあまり人が来ないから昼寝に最適らしい。呆れつつ、私は掃除を続けた。
夕方になり洗濯を終えたリネンを運んでいると、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「お前の笑顔に、フォーリンラブ!」
その声は、レオン様のものだった。
声のする部屋をそっと覗くと、飾りのフルプレート鎧に話しかけているのが見えた。
「これじゃ弱いな……もっと情熱的に両手を広げながら。愛してるぜべいべ!」
アホっぽいですが、まさかプロポーズ?
しかも、相手が鎧だなんて……!
寝言ならまだ良かった。鎧を愛しているなんて特殊性癖がすぎる。
後ずさるとき音を立ててしまった。
「……誰だ!」
鋭い声に身を固め、私はそっと顔を出した。
「申し訳ありません。レオン様がその鎧に恋をしていたなんてこと私誰にも言いませんから」
「ち、違う違う! 誤解だ! これは告白のトレーニングだ!」
レオン様の顔がみるみる赤くなり、目が泳いでいる。
「気になるご令嬢がいるなら、ご本人にお伝えしたほうがよろしいかと存じます」
「……お前に告白する練習だよ!」
「えっ?」
やはり寝言でしょうか。
「俺は本気だ、ベル。お前のことが好きだ! 身分なんてどうでもいい、后になってくれ!」
真剣な瞳で告げられたけれど、同時に浮かんだのはレオン様の普段の怠けた姿だった。
「お受けできません」
「な、なんで!」
「将来国のために必要な勉学をサボる方を尊敬できませんし、支えたいと思えません」
レオン様は一瞬口を開いたまま固まった。
「……つまり、今の俺じゃダメってことか?」
「はい。それでは仕事がありますのでご機嫌よう」
レオン様はぐっと拳を握る。
「わかった。……俺は明日から本気を出す!」
サボるフラグですか?
翌日から、王宮内でレオン様が勉学に励む姿が噂になり始めた。庭で寝ていたはずの時間を学問に費やしているらしい。公務もきちんとこなす。そして、一年後。
「ベル! 俺は真面目にやっている。だめなところを指摘してくれる君が必要だ。だから支えてくれ!」
私は微笑みながら頷いた。
「はい」
レオン様の顔に満面の笑みが広がる。
まわりを説得して結婚したのが二年後。放蕩王子様がサボることは1日もありませんでした。