第9話 初勝利
詳細は分からないが、単純な肉体のスペックを上げる。シンプルだが頼りになる。
本当にそうなのかは知らないが、それに近いものではあるはず。
(だが、もしそうだとしても化け猪に圧されているのはまだ目覚めたばかりだから。せめてまともな武器があれば……)
見た感じあの化け猪は化け熊より強い。
それを本能で察知していたからこそ、棚見は時間稼ぎと口にしたんだ。
こんな剣じゃ相手にならないって。
せめて武器……まともな武器がありさえすれば――。
そう思った瞬間だった、俺の手に握れているボロボロの剣が淡い光を放ち始めたのは。
(な、なんだいきなり!? ……いや、これは!)
さっきまでボロボロだったはずの剣、それが光が収まると、まるで新品かのような刃こぼれの無い鈍い輝きを放っていた。
これが、俺の……? いや、そんなことを考えてる時間はないッ!
「使えぇええッ!!」
「ッ!?」
ありったけの声で叫んだ俺は、手に持っていた剣を力一杯に見を振り回して投げた。
俺の力だから大した飛距離は出なかったが……。
「っ! サンキュー香月くん!」
棚見は化け猪の牙を両手で掴むと、その頭に蹴りを入れる。
――ブォオオオオオ!!?
ひるむイノシシを余所に、反動で後方へ下がる。
そのまま背後に落ちた剣を両手でガッチリと握りしめると、腰を落としたまま足に力を入れ――勢いよく飛びかかった。
「おらぁあああああッ!!」
気合の入った雄叫びと共に横薙ぎの一閃。
化け猪の牙ごと脳天から股間までを綺麗に切り裂いた。まさしく真っ二つに。
血をまき散らしながら二つに切り裂かれた肉体は、想像以上に静かに大地へと倒れていった。
「大丈夫かな?」
剣先でツンツンと化け猪の体を突くも、やはりその見た目通り何の反応も見せない。
「やった……、やったぜ~い! イエイイエイ!! オレ達のカッコイイデビュー戦がカッコよくコンプリートじゃん! ほら香月くんイエーイ!」
剣を放り投げて両手にピースの形を作りながらこっちに突きつけてくる。
制服に化け物の血が、べっとりとは言わないものの付着してるのに、それでいてやたら笑顔が眩しいのが不思議と爽やかに見えた。
(そんなに嬉しいことか? ……いや、そんなに嬉しいことなんだろうな)
ごくわずかな付き合いであるが、打算の見える性格とは思えない。やはり単純に感情を表に出すタイプなのかもしれない。
もしそうでなかったら俺が間抜けなだけだ。
(そうだな、しばらくはこのままでいいかもしれない。どのみちあんな化け物がいる世の中だってわかったんだ、戦力として必要なのかも)
少なくとも、俺の能力を完全に把握するまでは……。
先の事を考えていた時、不意に体に衝撃が走った。
「うお!?」
「へへ。やっぱさ、オレたちってマジイケてるコンビになりそうじゃない? コンビ芸だよ! コンビ芸……ってそれはなんか違うかな?」
何でこいつは急に抱き着いてきて頭の痛くなる事をほざいてるんだ?
ていうか暑苦しい!
「ちょ、ちょっとはな」
「離れろなんて寂しいじゃ~ん。今くらい一緒に喜ぶべ? ハッピーだよハッピー!」
「は、ハッピー?」
「そうそ、ハッピーだって! キャハハ!」
目を細めながら喜びを表すのは結構。で、それで抱きつくのは意味不明!
離れろ鬱陶しい!!
「離れろってんだ!!!」
「つれないにゃあ。……でもさ、香月くん? やっと普通に話してくれるようになったじゃん」
「………………ッ!?」
「しししっ。さっきはカッコよかったぜ? あんがと!」