第7話 守り立つ者
しかし剣なんていうものは初めて持ったが、思ったより重いな。
鉄パイプより取り回しは良くなさそうだ。キッチリと筋トレした人間なら初めてでもまっすぐ振り下ろしたりは出来るんだろうが、俺には精々勢いつけて横薙ぎするか、下段突きくらいが関の山だろう。
少なくともさっきの化け物みたいなのを相手出来たりは……ん?
そういや何で棚見はこいつを勢いよくぶん投げられたんだ? それもあんなガタイのある熊の化け物の脳天に突き刺さるくらいに。刃こぼれだってしてるのに……。
「おーい遅れてるぞ~。一人じゃ危ないからさ、はぐれないようについてきて~」
前方から聞こえてくる引率気分の声に考えを中断し、俺も再び歩き始めた。
◇◇◇
何が楽しいのか周りを見ながらはしゃいでる棚見の声を無視しながら、歩き続けること約三十分。
スマホでどれだけ時間が経ったかを確認した後は、その電源を落とす。
こっちじゃ何の役にも立たない電子の板だ。
充電も出来ない以上、こいつの出番はもう無さそうだ。
懐に収める。名残惜しいが、仕方ない。
ずっと遊んでいたソシャゲも出来ないのは辛いが、生きる方が何倍も価値のある行為なのは考えるまでも無い。
「はぁ……」
それでもまだこぼれるため息。現代人の生活の一部、いや、最早肉体の一部だと言っても過言ではない代物を自分から切り離さなきゃならないのは……。
「う~ん、ちょっとまずいかなこれ」
不意に棚見が静かな声でつぶやいた。
さっきまでのテンションが鳴りを潜め、足まで止めていた。
今度は何だ?
「なんだかな~。やっぱり簡単には抜けさせて貰えそうにない感じ」
「ど、どういう……?」
「来たぜ……!」
来たとは何か?
その疑問を深く考える間もなく、突如として森の奥の茂みから何かが飛び出してきた。
「っ!?」
思わず身が竦み上がった。
茂みから飛び出した何かは、猪のような生き物だった。ただしそのサイズが桁違いだ。
体高が俺の身長くらいはあるんじゃないだろうか? 全長は……考えたくもない。
そんな化け物がいきなり現れたのだ。驚かない方がおかしいだろう。
「うげぇ、でっかぁ……何なんこいつ?」
対して棚見はそんなリアクションをしつつ心底嫌そうな声を出していた。
溢れ出す殺気とでも言うんだろうか? 熊の化け物とは比べ物にならないほどの迫力を感じる。ゲームに例えるならダンジョンのボスのような風格と言えるかもしれない。
(これはまずい……! どう考えても今の俺達の手に負えるもんじゃないぞ!)
頬を冷汗が伝って落ちる。
あの化け物熊の比じゃない! ただの学生だったのに、こんなのとまともにやりあえる訳無い。
獲物の品定めでもしてるのか、睨んでくるだけでまだ襲っては来ていない。が、それも時間の問題だろう。
「香月くん――時間稼ぎくらいはしとくから」
「え?」
俺が返事をする間も無く、棚見は化け猪に向かって走り出していた。