第62話 再び、歩き始める俺達
受け取った短剣をローブの下に仕舞う。
これで短剣との因縁も終わりだ。そう思いたい。
(災竜ヴェレルド・ユウェル。あなたの出番はこの世が滅びるまで存在しないわ。恨むなら己の傲慢さを恨みなさいな。自惚れと力だけを肥大化させた生物の末路としては上等でしょう?)
さてこの後どうするか?
次に町を目指すのもいいが、今の俺は結構体が重い。吹き飛ばされた後体を地面に叩きつけられたんだ。正直、こうして立っているのが自分でも不思議なくらいだな。
それは棚見も同じだろうし、比較的軽傷なルシオロにしたって疲れがかなり溜まってるはずだ。
となればまたテントで一晩明かすか? でも今度は食料の確保もしないと。
「でさあ覚えてるルシ姉さん? 全部終わったら俺達に魔法教えてくれるって」
「さて、そうだったかしら?」
「えぇ~。オレ楽しみにしてたんだぜ? いいじゃんいいじゃん」
「冗談よ。約束は約束だもの、面倒見て上げるわ。……それと二人とも、この際だから言っておくけど」
そこで一旦言葉を区切ったルシオロ。一体何を言おうとしてるんだ?
話の内容を想像する間もなく、再び口を開いた。
「もし、この先他のエルフ――正確に言えば私のようなライトエルフだけど――に出会ったとしても信用しない事ね。笑顔で近づいて親切にしてくるタイプは特に」
「そりゃまたなんで?」
「確実にろくなものじゃないわ。人間にとっては……って言いたいところだけど、他の種族にとってもね。基本的に自分達程優れた生物はいないと考えてる連中だから。かく言う私だって別に人間が好きでもないから」
「え、そうなん? じゃあオレ達の事も油断させてズドン! みたいな?」
「お望みならそうしてもいいわよ。……なんて冗談よ。面倒でしょそういうの」
面倒だからやらないのかよ。やっぱり危険人物なのは変わりないじゃないか。
「とにかく気をつけなさいな。特に――カツキのような子は」
「お、俺が? そういうのは棚見の方に言ってくれよ」
自分で言うことじゃないが、俺は警戒心の強いタイプだ。なんせ陰キャだからな、基本的に人を信用していない。
むしろ人懐っこい棚見が気をつけるべきじゃないか?
なんでわざわざ俺に言ってくるんだ。
「人の忠告は素直に受け止めなさい。ああ、エルフの忠告だから話半分って訳ね」
「別にそういうわけじゃ」
「もちろん冗談。でも、とりあえず頭の片隅でも置いときなさい。……さて、じゃあ早速」
「お、今からコーチしてくれるの? それとも食材探しとか」
「何言ってるの? こんな忌々しい森をとっとと抜け出すわよ。いつまでもこんなところにいるのは気分が悪いもの」
なるほど確かにそれは同意だ。
それにこの森の動物とかはあのドラゴンにほとんど食われたしな。食料を探すには向いていない。
そうと決まればとっとと離れよう。
「ああそうそう香月くんさ!」
「な、なんだよ?」
今まさに一歩踏み出そうとしてその時、急に棚見から声をかけられ出鼻をくじかれた。
「ほらやっぱなんとかなったじゃん? だからさ――」
奴のその言葉を聞いて、不意に小さく笑ってしまったのは安心したからだろうか。
だがまあいい、これで約束は果たせる。
さあ明日からまた――旅の再開だ……!