第61話 夕陽は眩しく
「はぁ~……あ、疲れたぁ。……もう夕方じゃん、早~い」
洞窟から出てきた俺達を出迎えてくれたのは、傾いた夕陽だった。
棚見が蹴伸びをしながら、大きく欠伸をする気持ちもわかる。それくらい俺達は疲弊していたからだ。
今俺の手の中にはボロボロになった短剣が握られている。
当然、あのドラゴンが封印されている。……そういや名前何だったんだ?
「にしてもビックリ。食べられたかと思ったら急にピカって光っちゃってさ、であとは香月くんだけ残っちゃって。でもま! ウマい事やってやったって感じ。やっぱスゲーや」
バシバシ俺の背中を叩いてくる棚見をジト目で睨みつけて牽制しようとしても気づかれない。
内心ため息をついて諦めることにした。まあ、今日くらいはいいだろう。
食われそうになった時、俺は手に持っていた短剣をあいつの口の中めがけて突っ込んで、それで戦いは終わった。
正直死んだかと思ったが、生き残れるもんだな。
「だがなんで、またこんなにボロボロになったんだ?」
「それはアレの魔力を短剣が吸収した結果ね。どんなに綺麗な雑巾でも、床にこぼした牛乳を拭いたら汚くなるのと同じだと考えれば分かりやすいんじゃないかしら」
「ぞ、雑巾って……」
あれだけ苦労して掴んだ勝利の形が、使い古されたボロ雑巾と同格扱いされるってのも……。
「別にいいじゃない。本来の十分の一以下の力でもあれだけ私達の事を弄んだのだから、その程度くらい言ったって。……ああ、その剣は私が預かるわ。もともとそれが目的だったしね」
「まさかと思うが……」
「安心なさいな。流石にもうこれを利用しようとは考えないわよ。故郷のみんなには箱の中には何も無かったとでも言って適当に海にでも捨てるわ。これは誰にも扱えないようにした方がいいでしょ」
適当に海に、ね。どこかに封印するより、誰にも見つからないような海底が、確かにこいつにはお似合いかもしれない。
もうこんなことは、少なくとも生きているうちには勘弁してもらいたいもんだ。
(それにしても驚いたのは短剣を複製した事。それも私の込めた魔力までなんてね。状態の完全な再現。……もしや坊やの力は物質そのものを――)
「そういやさ、結局ルシ姉さん達ってばなんでこれ探してたん?」
「……言っても、あなた達には気分のいい話ではないでしょうね。他人の命すら顧みないような事よ。だからあなた達だって危ない目に合ったってこと」
「危ない目に合わせてきた張本人が何を……。いや、いい。俺もこれ以上こいつに関わりたくない」
散々うんざりした気持ちにさせられた短剣だ、手放せるならとっとと手放したいと考え、素直にルシオロに渡す事にした。
「悪いわね。重ねて言うけど、これは処分するから安心しないさい」
(今回の事で私もこの件からは手を引かせて貰おうかしら? うるさい連中がさらにうるさくなるでしょうけど。その時は……気ままに旅するのも悪くないわね)