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第60話 突き出た怒り

 空中に投げ出された俺の手からは短剣が離れ、それがよりにもよって奴の足元へと吸い込まれるように落ちていく。

 そして……最悪の事態が起こった。



「噓、でしょ……?」


「……ぁ、ああ……!」



 奴は一歩前へと力強く踏み出すことで、短剣を粉々に踏み潰してしまったのだ。

 希望が終わり、絶望に苛まれてまともに言葉を発することも出来ない。


 地面へと叩きつけられた俺は全身に渡るダメージにより、起き上がれない。


 眼前にはドラゴン、このままで数秒とせずに餌食になる。


「ッ……! このォ!!」


「やめなさいヤコー!」


「止めたって!」


 遠くで言い争いの声が聞こえる。


 そうだ、俺がやられたら次はあの二人。そして傷が癒えたら他の人間まで。


(終わり……? ここで終わるのか、俺は? だってよやっと……やっと……)



『私達の関係ってさ、恋人で無くてもいいと思うんだよね? 好きって事には変わりないんだから』


 やっと……。


『以心伝心の仲って言うか。お互い別の相手と付き合っても分かり合える二人って、ものすごく素敵じゃない?』


 やっと人を……。


『その制服何? だって、約束したじゃん! 一緒の学校に行くって。……噓つき』


 っ……!


『噓つき!!』



 体から力が抜けていく。

 結局つまらない陰キャの末路なんていうのは、粋がったってつまらないままって事か……。


 一人で、一人で生きていかなきゃって……?

 出来なかったな、俺。


『……きくーん! 香月くーん!』


 頭の中で声が聞こえた気がした、それも……俺の名前を呼びながら。


 やっと――そうだ人を……!



「香月くん!!」



 背後から声が聞こえて来た、それも――俺の名前を呼びながら……!



「っ……!」


 頭が冴えていくような、そんな不思議な感覚に気持ちよく心が澄んでいく。


 視線が晴れて、その先にはあの見ているだけで腹が立ってくるようなドラゴン。


 奴が近づいてくる。耳障りな足音を立てながら。


 体の奥からふつふつと湧き上がってくるものがあった。それは――。


(なんでここ終わりなんだよ……。っざけんな……!)


 悔しさと苛立ち。今という現実にひたすらムカついてくる。


 舐めやがってッ!!


 倒れ伏す右手に力が入る。気づけば何かを握り込んできた。

 それは……石。よく見ると蛇の像の砕けた破片だった。手頃な大きさのそれが俺の手の中で光だし、その姿を変えていく。



「あれは――短剣!?」



 体が頭で考えるよりも先に足に力を入れていた。

 肉体のダメージを超えて苛立ちが俺を怒らせる。


 背中が震え、足が振るえ……。

 それでも力を入れた眼球が奴を視界に入れて睨みつける。


 奴はもう目と鼻の先。その口を広げ、俺という獲物に向かって牙を剥く。


「ガァア!!」


「逃げて香月くん!!」



 何様のつもりだ? たかがトカゲの畜生風情がッ!!



「グガァアアアア!!!」


「ほざくんじゃねぇ……、――このクソったれがアアアッ!!!」



 奴が突き出し広げる、その忌々しくも鼻につんざく汚らしい口内に向かって――俺は右手を思い切っきり突き入れた。

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