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第54話 作戦開始

「それじゃあ、私と坊やは先に洞窟に行っているわ。合図の方は、分かっているわね?」


「これが光ったらだっけ? 大丈夫、ほら覚えてた」


 そう言って、棚見は首にかかったペンダントを手に持って見せた。

 今回の作戦において合図を出す上で、ルシオロが棚見に授けたものだ。


 一見するとただのペンダントに見えるが、ルシオロが遠くから特定の魔力の波長を発すると、それ感知して光る仕掛けらしい。


 俺とルシオロは先に岩山の穴の中へ隠れて、決戦の準備をする必要がある。それが終わり次第、第一の作戦を開始する事になる。

 これはその作戦開始を、ドラゴンの傍で待機する棚見へと告げる為のものだ。


「くれぐれも大きな音は立てないこと。こちらが移動中、または準備中に目が覚めたら迷わず洞窟へ走りなさい。場所はそのペンダントが教えてくれるから」


「ほいほ~い。ま、オレに任せちゃってよ。そういうんで負けた事は無いからさ」


「……どういうんだよ?」


 相も変わらず訳の分からない事を言うが、この場はもうこいつ一人に任せるしかない。

 威勢は良いが、こればっかりはどうなるか。


「香月くんも心配性だねえ。大丈夫だってば」


 見透かしたかのような事を言って。


「時間よ。それじゃあ行きましょう、坊や。……また後で」


「またね~」


 遠ざかる俺たちに向かって、ルシオロの魔力が込もった短剣を持つ手を振る様がチラリと見える。

 本当に大丈夫だろうか?


「あとはあなたが覚悟を決める番ね」


「そんなもの……」


「その言葉、一応期待して受け取ってあげる」


 俺達の会話をそれきりで、黙々と岩山へと歩いて行った。


 ◇◇◇


 森の最奥へたどり着くと、大きな岩肌が見えた。そして大きく開いた穴も。

 そこを潜り抜けるとまず大きな道が続いており、その先に開けた空間が存在した。


 だがこの洞窟の巨大さも、あくまでも人間基準。

 だからこそ、ドラゴンの巨体を封じるには適した場所とも言える。


 当然、俺達にも逃げ場はないが。


「これを四隅に設置するわ。向こうに置いてきて」


 ルシオロが懐の袋から取り出したのは、四つの小さい像だ。

 蛇を模ったそれを、一体何に使うというのか?


「これは竜種特有の魔力に反応して抑え込んでくれるもの。私の故郷では蛇は竜と相対するものとされていて……まあ形は気にしないで」


 確かに今は気にしている場合ではないか。

 二つ受け取り、それをルシオロが向かった所とは反対の隅に置く。


 準備とはこれでいいのか? 互いに中央に戻った時、俺は訪ねた。


「四隅に置くことで陣を形成するのよ。その中でのみ効果を発揮するけれど……でも気休め程度に考えておきなさい。これから対峙するのは伝承の中に存在したドラゴンだもの。祖先が封印という手段を取るしかなかった程のね」


 無いよりはマシ、か……。

 相手が伝説上の化け物ならばそう考えてしまうのだろう。期待のし過ぎで絶望したくないからこその気休め。

 だが今はその気休めに頼る時だ。


「そして最後にこれ」


 再び袋から取り出したのは小さな瓶だった。

 その蓋を開けると、中に入っていたピンク色の液体を喉へと流し込んでいった。


「相変わらずの酷い味だこと」


 一瞬嫌な顔を見せるルシオロ。


「それは?」


「一時的に魔法の力を高めるもの、とでも言えば分かりやすいでしょう。味は酷いし、切れた後は一日程体調を崩すから普段はあまり使わないけれど」


「これも気休めなのか?」


「ええ、無いよりマシだもの。でも奴が来たらあなたを守ってあげる程の余裕は無いから、分かってるわね?」


「ああ。俺も、自分にやれる事をする」


 指輪の中の武器を確認する。これらはいざという時に棚見に渡そう。

 ボロボロになった武器は俺がまた使える状態にして、その繰り返しの果てに相手を疲れさせれば……。

 巻き込まれないような立ち位置を考えて行動しないと。


「さて、そろそろ――合図を出すわ」


「ああ、頼む……!」


 ルシオロが手のひらに力を込める。一瞬光ったのはペンダントに魔力が届いた証だろう。

 初手で決められれば御の字だが……。


 途端、大きな振動が起きた。

 この洞窟まで届くような揺らぎを、肌が痛い程に伝わってくる。



 第一の作戦は――恐らく失敗だ。

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